ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ──   作:Syncable

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気付いたら長くなってました。


Ep.6 偵察戦

<サツキside>

 

第五十一層のボスは岩の巨人だった。

その見た目通り防御力が高く動きが鈍い。一撃一撃の威力は高いが、前衛のタンクたちがしっかり受け止めてくれるので俺たち攻撃役(ダメージディーラー)は動きやすい。攻撃後の硬直時間を逃さずに反撃のソードスキルを叩き込み、ボスのHPはみるみる減少していく。

 

好きに動いて良いと言われたが、下手にダメージを与えてヘイトが移ったりしたら面倒なので俺は戦闘開始してから後方でボスのモーションを確認しているだけだ。

 

だがシュガーにあれほど絶賛されて、ただ見ているだけでは終われない。俺はボスが両腕を振り上げたのを見て勢いよく走り出した。

 

後方付近で待機していたA班、スイッチのタイミングを伺っていたC班を追い抜いてボスへと迫る。C班で指揮を執っていたシュガーと目が合い、俺の意図を察したのか何も言わず頷いた。

 

「ゴオオオオオォォォツツツ!!!」

 

雄叫びを上げてボスが両腕を振り下ろす。タンクたちは姿勢を低くして衝撃に備える。直撃したが、正面からしっかり受け止めたのでタンクたちのHPは一ドットも減っていない。ボスが苛立っているように見えるのは気のせいだろう。

 

「タンク!そのまま動くな!」

 

ボスに反撃しようとしていたタンクたちに、俺は走りながら指示を出した。新入りからの突然の命令に戸惑っている様子だったが、黙ってそのままの体勢を維持する。

 

横一列に並んだ中の丁度真ん中─会議で発言した盾男─の背中に飛び乗り、ジャンプ台として利用して空高く跳躍。ボスの顔付近の高さまで届き、ソードスキルの射程内に入った。そのまま空中で構えを取り、ボスの顔面に叩き込む。

 

片手鎌カテゴリ三連撃技"イーグレット"

片手戦棍カテゴリ三連撃技"リガー"

細剣カテゴリ三連撃技"コンクルージョン"

 

斬・打・突の三属性でどれが弱点かを見極めるため立て続けに三種のソードスキルを放つ。どうやら顔面がウィークポイントらしく、クリティカル補正がかかった九発でHPはガクッと減少する。綺麗に着地してボスが悶えるのを見ながらシュガーに聞いた。

 

「HPの減りが大きかったのは何発目だった?」

 

「どれも同じくらいでした!」

 

ということは、顔面への攻撃は何系のソードスキルでも弱点ということか。分かってしまえばあとは簡単だ。

 

「コイツの弱点は把握した!もう一本削り切っていいか?」

 

「はい!やっちゃいましょう!今のと同じようにカウンター作戦でいくからみんなよろしくね!」

 

「「「了解!!」」」

 

陣形を再編成してタンクがヘイトを集める。腕の振り下ろし攻撃を繰り返すがタンクがしっかりガード。さっきの跳躍を行うには両腕を振り下ろす攻撃の後でないといけないため、俺は中間距離を保ちつつその時を待つ。

 

怒涛の七連打に繋いで、ボスが両腕を大きく振り上げたと同時に俺は走り出す。今度は誰を踏み台にしようかと考えていたら、タンクのすぐ後ろにシュガーが両手剣を構えて待っていた。

 

「サツキさん!飛ばしますよ!!」

 

その構えから、シュガーが放とうとしているソードスキルを俺は瞬時に導き出した。

 

「マジかよ」

 

彼の意図を察して思わず苦笑いする。

 

両手剣カテゴリ二連撃技"リミック・エルプション"

 

下段からの斬り上げモーションに入ったシュガー。その動きに合わせて俺は跳躍し、彼の愛剣を踏み台に。強力なシステムアシストとシュガーの動きがリンクして両手剣は斬り上げられ、俺は先程の二倍近い高さまで飛んだ。ボスの顔面を優に超えている。

 

「うぉ!思ったより飛ぶもんだな」

 

眼下ではシュガーがあちゃーとした顔をしている。

 

ここからでは顔面にソードスキルが届かないので、丁度射程内に収まっていた右腕を狙う。岩石が何重にも重なっていて見るからに硬そうなので打撃系で攻めてみることに。

 

片手戦棍カテゴリ二連撃技"ウェルプ"

両手戦棍カテゴリ三連撃技"ショート・ガバナー"

同じく単発技"ジェット・アンプリファイア"

両手剣カテゴリ単発技"セクター・コラプス"

 

打撃系三連発で表面を覆っていた岩石を粉砕し、トドメの斬り落とし技でボスの右腕は完全に破壊された。派手なエフェクトと破砕音とともにポリゴン片となって散る。

 

まだ終わらない。

 

何が起きたのか理解できないと言った感じのボスのマヌケ顔に、さらに畳み掛ける。

 

曲刀カテゴリ二連撃技"ダブルムーン"

同じく全方位技"カットダウン・シックル"

両手斧カテゴリ二連撃技"テンペスト"

片手直剣カテゴリ三連撃技"シャープネイル"

短剣カテゴリ全方位技"スウィフトストローク"

 

技が決まる度にガクッガクッとHPが大きく減少し、とうとう最後の一撃で一本目のHPが消滅した。ボスは大きく仰け反りそのまま冷たい岩の床に倒れた。

 

落下ダメージを発生させないように着地し俺はボスの様子を窺った。隊員たちも陣形を保ち警戒する。

 

「一本目を削った!パターンが変わるかもしれないから注意して!」

 

「「「了解!!」」」

 

じっとボスが起き上がるのを待つ。

20、30と時間が過ぎてようやく、ボスがゆっくりと起き上がった。今のところ外見に変化はない。

 

「ゴオオオオオォォォッッッッ!!!」

 

咆哮と同時に、ボスの体を覆う岩石にヒビが入りその一部が剥がれ落ちる。それが地面に転がると変形して歪な人型になった。カーソルが敵対モンスターを示す赤に染まる。

 

「取り巻きが湧いた!」

 

「BCD班で引き付けてください!A班とサツキさんでボスのタゲ取りを!」

 

「「「了解!!」」」

 

それぞれが瞬時に状況に対応した。

B班に向かおうとしていたボスをA班のタンクがタゲを取って誘導する。BCD班はそれぞれ距離を取って取り巻きを引き付けることに成功したようだ。最悪な状況である乱戦は避けられた。

 

右腕を欠損した分軽くなったのか、ボスは先程よりも早い動きで左腕を振り回す。早い分威力が増したのか、タンクたちのHPがわずかながらに減少し始めた。

 

「はぁっ!」

 

ボスの背後からシュガーが攻撃を見舞う。

 

両手剣カテゴリ二連撃技"サブサイデンス"

 

岩石を削り赤いダメージエフェクトが飛散する。手応えはあるようだ。二本目のHPバーもわずかに減少を始める。

 

しかし。

 

「えぇ!?また取り巻きが出ました!」

 

シュガーの攻撃により剥がれた岩石が人型へ。どうやら岩石が剥がれる度に取り巻きが湧くらしい。一体一体ではさほど脅威ではないが、数が増えれば厄介だ。

 

「隊長!このままでは囲まれてしまいます!」

 

「退くなら今です!」

 

「どうしますか!隊長!」

 

隊員たちがシュガーに指示を求める。

当初の目標は達成したので撤退でも良い気がするがシュガーは悩む素振りもなく言った。

 

「このまま戦闘を続けます!」

 

その判断に少なからず意見する者もいた。

 

「隊長、取り巻きがこれ以上増えれば厄介だ!まだまだ湧く可能性だってある!一度体勢を整えた方が良いんじゃないのか!?」

 

もっともな意見である。

だがシュガーは冷静に続けた。

 

「取り巻きは、ボスにくっついている岩石が剥がれることで湧くと思われます。なので、岩石を全て剥がしてしまえば取り巻きは湧かないでしょう。一体ずつでは脅威ではありませんので落ち着いて対処してください」

 

「しかし─」

 

「作戦はこうです!」

 

シュガーがまだ納得のいかない隊員の言葉を遮る。

 

「ABCD班で取り巻きの相手をお願いします!ボスの相手は僕と─サツキさん!お願いできますか?」

 

「あいよ!」

 

シュガーの判断は適切だと思う。

数の多い取り巻きは隊員たちに任せて、俺とシュガーでまずは取り巻きを全て吐き出させる。ボスを覆う岩石を全て剥がして取り巻きを殲滅すれば、あとは勝ち確だろう。岩石がなくなったこのボスなんてただのデカい的だ。もはや偵察ではなく本戦になっている気がするが、シュガーの指示なので俺は何も知らない。あとで副団長に何を言われようが俺は知らない。うん、知らない。

 

俺は正面から、シュガーは右側面からボスに迫る。俺にターゲットしたボスは左脚をゆっくりと持ち上げた。俺がソードスキルの射程内に入ると否や、持ち上げた左脚を勢いよく下ろして踏み付け攻撃をしてきた。

 

「はぁっ!」

 

それを左にステップして避け、カウンター。

 

片手直剣カテゴリ三連撃技"サベージ・フルクラム"

細剣カテゴリ二連撃技"パラレル・スティング"

 

岩石を抉り、剥がれ、取り巻きが出現する。C班の隊員が割り込み、タゲを取って引き付ける。

 

「せいっ!」

 

シュガーの攻撃も右脚に命中する。同じ手順でA班が取り巻きをシュガーから遠ざける。急ごしらえの作戦だが、みんな役割を理解して動けているのは流石としか言い様がない。

 

後ろに回り込んで腱に狙いを定める。

 

両手鎌カテゴリ二連撃技"ライテスネス"

片手鎌カテゴリ三連撃技"イーグレット"

 

岩石が全て剥がれたのか、赤い筋肉が露わになる。

 

「見るからに柔らかそうだ、なっ!」

 

カタナカテゴリ単発技"蜻蛉"

片手直剣カテゴリ単発技"プレダトリー・ガウジ"

 

二発の単発重攻撃で剥き出しの筋肉を斬り裂く。鮮血に似た赤いダメージエフェクトが派手に飛散し、ボスのHPが大きく減少する。

 

「流石ですサツキさん!僕もいきますよ!」

 

両手剣カテゴリ二連撃技"デブリス・フロウ"

 

熟練度700で解禁されるソードスキルだ。俺は<剣豪>スキルで既に習得しているが、他のプレイヤーが使うのは初めて見る。

 

「ゴアアアアアッッッッ!!!」

 

両脚に大ダメージを負ったボスは絶叫する。シュガーの攻撃で二本目のHPバーが消滅し、最後の一本となった。取り巻きの相手をしていた隊員たちから驚嘆の声が上がる。

 

「いいですね!このまま倒しちゃいましょう!!」

 

ノリノリなシュガーに釣られて隊員たちの士気が向上する。まぁ楽勝だろうな、と俺も思っていた。

 

 

だがこの世界は、そう簡単にはいかない。

 

 

ビキィッ!と何かが罅割れる音。次いで破裂音。

 

「オオオオオオオォォォォォッッッッ!!!」

 

咆哮と同時に、ボスの体に残っていた岩石が全て(・・)弾け飛んだ。全身の筋肉が露になり、防御力は皆無に等しい。が、逆を言えば──

 

「おいおいマジかよ!どんだけ湧くんだ!」

 

「やべって!この数はさすがに・・・!!」

 

「集まれ!孤立したらリンチだぞ!!」

 

ボス部屋は、新たに現れた取り巻きで埋めつくされていた。その数およそ50。俺たちとの数の差が圧倒的だ。

 

「みんな落ち着いて!陣形を崩さないように!」

 

シュガーが指示を出すが、迫る取り巻きたちの足音と呻き声で掻き消される。岩の巨人からただの巨人になったボスが、形勢逆転と言わんばかりにニヤリと笑った気がした。

 

「・・・本当にクソゲーだな!えぇ!?」

 

ボス部屋の天井を、さらにその上を。

この世界の創造者であり、どこかでこの光景を見ているであろう茅場に向けて俺は叫ぶ。

 

「あんたは間違いなく天才だよ!普通ならこんなこと思いつかないし、やろうと思わん!いっそ清々しいわ!この状況で俺たちが慌てふためく様を見て、あんたは楽しんでるんだろうな!・・・でもな、正直この状況、めっちゃ熱いわ」

 

右手を振って呼び出したメニューウインドウを手早く操作する。装備欄で左手(・・)を指定、アイテムリストからソレ(・・)を選択する。

 

「サツキさん、落ち着いて・・・」

 

「あぁ、すまん。久々に興奮してな」

 

背中に新たな重みが加わるのを感じながら、心配してくれたシュガーに応える。左手(・・)でその感覚を確かめながらシュガーに向き合う。

 

「シュガー。突然で悪いが、俺の言う通りにしてほしい。確実にボスを倒して全員で生還するために」

 

俺のできる限りの誠意を込めて言う。

それが伝わったのか、或いは俺の雰囲気から何かを察したのか、シュガーは頷いた。

 

「分かりました、信じます!」

 

他の隊員たちも異論はないと頷く。

 

「よし、やってほしいことは一つだけ。全員で壁際に固まってひたすら防御して耐えること」

 

「え?それだけですか?」

 

「ああ、みんなには悪いが俺一人の方がやりやすい」

 

「なるほど!そういうことならお任せを!みんな聞いてたね?A班を先頭に前進します!行くぞ!」

 

シュガーは一瞬立ち止まって言った。

 

「・・・無理だけはしないでくださいね」

 

「死なない程度に頑張るさ」

 

グッと親指を立てて彼が走って行くのを見届けて、俺はボスと取り巻きの大群に向き直った。

 

「さて、実戦で使うのは初だけど大丈夫かな?今更ながら不安」

 

「ゴアアアアアァァァッッッッ!!」

 

ボスの咆哮で取り巻きの大群が一斉に迫って来る。

 

俺は右手の愛剣を握り直し、左手で二本目の愛剣を抜き払った。

 

「目に物見せてやるよ、茅場晶彦」

 

<剣豪>スキルOSS(オリジナル・ソードスキル)・"擬似二刀流"




アニメの影響で最近はアリシゼーション編の話ばかり考えてます。

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