ソードアート・オンライン ── 血盟の剣豪 ── 作:Syncable
<アスナside>
敏捷力にものを言わせて走り続け本部に駆け込んだ私は、驚きながらも挨拶をしてくれた団員たちに構うことなく偵察隊の部屋へ向かった。部屋の前で一度止まって息を整え、いつもの落ち着きを取り戻してから扉を開ける。
「そこでサツキさんの超連続攻撃がズババババーン!ってボスの心臓を捉えたんだ!それで終わらずに、サツキさんはさらに空中で身を捻って次の連撃攻撃を──」
「た、頼むシュガー!止めてくれ!!恥ずかしくて死にそうだ!」
部屋の中には、偵察隊の他に大勢の隊員たちがいてシュガーくんの話を夢中になって聞いている。それを止めようと必死になっているサツキくん。状況がよく分からないが、偵察隊の人数が減っていないことに安堵して、私は手を大きく鳴らした。ピタッと喧騒が収まったところで私は続ける。
「はい、偵察隊の人以外は解散してください」
ぞろぞろと退室していく中にこっそり混ざったサツキくんを捕まえて座らせる。自然と全員が姿勢を正したところで本題へ移る。
「では、詳しく聞きましょうか」
「・・・はぁ、シュガー任せた」
「はい!よろこんで!!」
何かを諦めた様子のサツキくんと、いつもよりテンションが高いシュガーくん。興奮冷めやらぬ彼が語ったのは、にわかには信じられないものだった。
「あれはまさに大ピンチの状況でした──」
♦️
<サツキside>
"擬似二刀流"
<剣豪>スキルを応用して二本の剣を同時に使うという、システムに規定されていないスタイルだ。今までに二刀流に挑戦した人は数多くいるが使い物にはならなかったらしい。当然だ。これもまた
両手に剣を装備することはできる。だがソードスキルが発動できないのだ。これでは戦闘で使えない。見せ物程度で振り回すことは出来るだろうが。
だが俺は違う。
飛び掛ってきた一体の取り巻きを右手に握った純白の愛剣─カタルシスで斬り捨てる。二連撃技"ホリゾンタル・アーク"
次いで迫る二体を左手に握った紅の愛剣─ディメンションで迎え撃つ。四連撃技"バーチカル・スクエア"+単発技"リニアー"
爆散したポリゴン片に目もくれず俺は走り出す。
走りながら敵を見据え、最も効率よく屠れるソードスキルを導き出して放つ。
単発突進技"レイジスパイク"で一体を斬り上げ、周囲に群がってくる数体を両手剣カテゴリ全方位技"ガストネード"で吹き飛ばす。リニアーで一体にとどめを刺し、近くにいた二体を曲刀カテゴリ四連撃技"ダルード・ルーネイト"を半分ずつ使って倒す。
背後から襲って来た数体を両手剣カテゴリ単発技"バックラッシュ"でまとめて消し飛ばし、俺は再び走り出す。少しでもソードスキルが途切れたり、その場に留まり続ければ立て続けに攻撃を浴びてしまうので気が抜けない。走る斬る走る斬るを繰り返して取り巻きの数を確実に減らしていく。
だが、俺の動きに付いて来れず倒されていく取り巻きと違って、ボスは反撃を試みたようだ。左腕を一直線に、先程とは比較にならない速度で突き出してくる。
「はっ!」
それをジャンプで躱し、地面に突き刺さった腕を伝ってボスの顔目がけて駆け上がる。しかし咄嗟の反応でボスが腕を振り、俺はその場から壁に向かって大きく跳躍した。でこぼこした岩壁に足がつくと同時に、カタルシスを構えて曲刀カテゴリ単発突進技"ディパルチャー"を発動。力強く壁を蹴って再び跳躍し顔面に一閃。その勢いのまま今度はディメンションで片手直剣カテゴリ"セレーション・ウェーブ"を見舞う。ガクッガクッとHPが削られ残り七割ほどになったそれを横目に、俺は着地と同時に片手鎌カテゴリ単発技"ジャックダウ"を連発し取り巻き五体を消し飛ばす。
「・・・凄い」
シュガーの、隊員たちの驚きの声が聞こえる。彼らの数が減っていないことを確認して、俺は再び眼前の敵に集中する。
片手直剣カテゴリ単発上段突進技"ソニックリープ"
ディメンションを一度鞘に収め、
カタナカテゴリ二連居合技"梁塵"
短剣カテゴリ六連撃技"ファッドエッジ"
両手斧カテゴリ二連撃技"オンスロート"
迅速に的確かつ効率的に。
"リニアー"が最後の取り巻きの胸部を貫き、爆散させ、残すはボスのみとなった。
「あとはお前だけだ、さっさと終わらせるぞ」
愛剣を構えて走り出すと、ボスも俺目がけて向かって来た。もはや俺以外は眼中に無いらしい。その方がやりやすいのだが。
ボスが先に仕掛ける。
単純な腕の振り下ろし攻撃。パターンは出尽くしたようで、新しい攻撃もギミックももうないだろう。一気に畳み掛ける。
ステップで躱しつつ抜き際に一撃、股下を潜り抜けて右脚に"ホリゾンタル・スクエア"と"スネークバイト"。堪らず膝をついた隙にボスの躯を駆け上がる。
肩を蹴って跳躍し、ボスの顔面を射程内に。
カタルシスが真紅のライトエフェクトを、ディメンションが眩い白銀のライトエフェクトをまとう。
"擬似二刀流"十三連撃技"ドゥーム・フェイム"
紅白の軌跡がボス部屋を照らす。
副団長に言い忘れていた<剣豪>スキル最大の特徴がこれだ。
『本来システムアシストなしには会得不可能な速度の連続技を、身体に無理がかからないモーションで、アシストなしに実行しなくてはならない』という矛盾とも言える厳しい条件をクリアすることで、自分だけのソードスキルを作成することができる。
俺が現段階で作成に成功したのは片手直剣カテゴリで二つ、細剣カテゴリで一つ、擬似二刀流で一つの合計四つだけだ。その中で"ドゥーム・フェイム"は威力、手数、速度、使い勝手どれをとっても最高傑作と言える。
「終わりだ・・・!」
八発目が入ったところで、すでにボスのHPが二割ほどになっていたのを見た俺は勝利を確信した。だが手を緩めることなくシステムのアシストに動きを合わせてさらに加速する。そして─
「ゴアアアアアァァァッッッッ!!!」
十三発目がヒットし、ボスのHPは余さず消滅した。長い断末魔を響かせながらその巨躯をポリゴン片へと爆散させ、Congratulation!!の表示とともに勝利を告げるBGMが奏でられる。
俺が愛剣たちを鞘に落とし込むと、途端に隊員たちが歓声を上げた。
「おおぉぉぉぉ!!」
「すげぇぇぇ!!!」
「一人で倒しちまった!」
「かっけえぇぇ!!」
「剣豪!剣豪!剣豪!」
「サツキ!サツキ!サツキ!」
「お、落ち着けお前ら!」
予想外の反応と盛り上がりに俺は驚く。隊員たちと次々ハイタッチを交わし、少々気まずい感じになっていたはずの大盾男も笑顔で握手を求めてくる。
「いやぁ!もう本当に凄かったですサツキさん!!僕なんか見とれてしまいました!」
赤い目をキラキラさせながらシュガーが言う。
「ありがとう・・・てか今更だけど大丈夫なのか?勝手に、倒しちゃって。絶っっっ対、副団長に何か言われるぞ」
規律やら方針に厳しい"攻略の鬼"こと副団長が小言を言うのは想像に難くない。だがシュガーは懐かしむ様に言う。
「大丈夫ですよ、僕が隊長になった時にアスナさんが言ったんです。"あなたの最優先任務は、犠牲者を出さないこと。どんな手段でも良いから必ず全員で帰って来ることだ"って」
冷徹な指揮官として恐れられている副団長だが、そういうところはちゃんと自分の考えを持っているらしい。なんて口が裂けても言えないが。
「隊長!早く上に行こうぜ!」
「早く早く!」
「俺たちが次の層に初めての足跡をつけるんだ!」
先ほどの戦闘の疲れなど感じさせない走りで隊員たちが五十二層へ続く階段へ向かう。
「サツキさん!僕たちも行きましょう!」
「・・・ああ、行こう!」
普段の俺だったら疲れてそれどころじゃないはずが俺は敏捷力の許す限りの速度でみんなを追った。
ボスを倒した達成感と新しい仲間たちとの喜び。
未知のフィールドへの期待と興奮。
考えられるのはこれくらいだが、俺はこの気持ちにどこか懐かしさを感じていた。
♦️
<血盟騎士団・本部・団長室>
「──以上が、第五十一層ボス偵察戦の報告です」
「ありがとう、アスナ君」
「団長、一つよろしいですか」
「なにかな」
「彼が、サツキくんが、キリトくんの代わりになると本当に思いますか?」
「そうだね・・・訂正しよう。私は彼がキリト君を超える存在になると確信している」
「っ・・・そうですか」
「アスナ君はどう思うのかね?」
「・・・彼の実力は認めます。ですが、キリトくんの代わりにも、それ以上の存在にもなるとは思えません」
「そうか。アスナ君にとってキリト君はとても大切な存在だったのだね」
「・・・はい」
「彼を探さないのかね?アルゴ君なら知っているはずだろう」
「いいんです。邪魔はしたくないので・・・これが私にできるせめてもの恩返しですから」
「そうか」
「・・・失礼します」
「・・・・・・使命から逃げ出した勇者と、運命に導かれた剣豪、か。想定外だが、展開としては悪くないな」
次回は原作キャラ回。