第1話 〜再会〜
「暑い‥‥‥」
無理もない。今は8月、夏真っ盛りだ。気温は既に40度近くという猛暑日だ。
「ふざけんなよ地球温暖化‥‥‥」
自分勝手にこの限りある自然に排気ガスや二酸化炭素といった温室効果ガスを撒き散らして、地球の気温を上昇させて人々を暑さで苦しめる人類は
‥‥‥いや、受けてるな。現在進行形で
と、そんな愚痴を溢しながら、俺は〇oogle mapの指示に従い、先に進んだ。
帰りにコンビニでアイスでも買おうと思いながら。
何故俺がこんな暑い思いをしてまで外にいるのかというと、俺は昨日、祖母に薦めによってCIRCLEというライブハウスに――半ば強制で――バイトすることになり、今日はその下見・・・・・・挨拶参りだ。
そのための俺の今日のコスチュームは、白い靴紐の青いスニーカー、半袖の白いワイシャツに、黒いベルトで締めた青いジーパン――ちなみにワイシャツの裾は出している――。そして赤、濃いめと薄めのピンク、黒の色が斜め
開店時間に合わせて自宅から――この辺りの土地に慣れるためにということもあって――徒歩で約30分ぐらいで目的地に到着した。ついでに次からはバイクで通勤する事に決めた。まぁ本気でここで働くことになったらの話しだが。
そして
俺はCIRCLE入り口の前に立ち、その自動ドアに向かって歩み始めた。数歩前で扉は自動で左右に開き、俺を中に誘う。その時、ふと足取りが不思議と重たく感じた。まるで、俺自身がこの中に入ることを拒んでいるかのようだった。しかし、どうしてその思うか解らなかった俺は、その考えを振り払い、思いきって足を動かし、CIRCLEに入店した。
自動ドアを潜り抜けライブハウスの中に入った俺はまず店内を見渡した。
クーラーが効いてるのか結構涼しい。内装も外装と相まってまだ新しい。目の前にはテーブルが2つほど置かれてあり、左側は窓になっていて、色んなバンドの事に関するポスターが貼ってある。右側には地下に通じる階段があり、十中八九ライブステージがあるのだろう。
そして目の前のテーブルの奥にはカウンターがあり‥‥‥
「こんにちは!LIVEHOUSE CIRCLEへようこそ!」
と、言ってくる店員らしき女性がいた。
見たところ歳は多分俺とそう離れていないだろうが背丈は俺より低く、ショートの黒髪で服装は俺と同じ青ジーパンに青と白の横縞のシャツに黒い上着を羽織っている。
俺は奥のカウンターに進み、彼女の前に立った。彼女は自然に出ている物なのか、仕込まれた物なのか分からない営業スマイルで、
「ここは初めての方ですか?でしたらこのライブハウスのご説明を‥‥‥」
と、勝手に話を進めそうな雰囲気になったので、
「あ、いや、俺は今日からここに働くように言われた‥‥‥」
と言って、話を遮った。彼女は「えっ?」と言って一瞬目を見開くも、話しを飲み込んだかのように両手を合わせた。
「あぁ!あなたでしたか!オーナーから聞いています。では自己紹介をさせていただきます。私はこのLIVEHOUSE CIRCLEのスタッフのって‥‥‥あれ?えっ!?」
彼女はいきなり覗きこむように、俺の顔をまじまじと見てきた。なんだこいつ、初対面相手に失礼じゃないか?
俺が不快な表情を浮かべているのを余所に、彼女は尚、俺の顔を見つめてくる。俺もとうとう苛立ちを押さえきれず、
「あの、俺の顔に何かついてますか?」
すると彼女はハッとして俺の顔を覗くのを止めて少し後ずさる。やっと自分の失礼な行為を自覚したかと思ったら‥‥‥
「‥‥‥ねぇ、君もしかして‥‥‥響くん?」
まさかの、3日どころか入って1日もせずに正体がバレてしまった。
「えっと‥‥‥どうして俺の名前が
俺はとりあえず平静を装って質問をする。もしかしたら、この人の言っている響は俺ではない全く別の人かも知れないし、まだ確信が持てていないならワンチャン偽名を名乗って誤魔化せるかも知れない。
‥‥‥あれ?偽名って使ったら捕まるっけ?
まぁ今は俺の質問に彼女がどう答えるかが先決だ。返答とその後の行動次第では俺も然るべき
「えっ、覚えてないの!?私だよ私!大学の時、あなたからギターの手解きを受けた‥‥‥」
なんと彼女は俺同じ大学の人で、しかも俺は彼女にギターを教えていたことがあるときた。
‥‥‥あぁ、そういえばいたな、俺達が大学でバンド活動していた時に、同じく大学でバンドを組んでいた5人組の女子大生がもっと演奏が上手くなりたいから教えて欲しいって迫ってきて、仕方なくそいつらの練習に付き合う事になって、俺は個別にギター担当の人にギターの手解きをしてやったっけ。まぁ筋は悪くなかった記憶はあるが、名前が確か‥‥‥
俺は期待の眼差しをこちら向けている彼女に向かって、
「月島……まりも?」
すると彼女は突如ズルッと転び掛けるも体制を立て直したかと思ったら、両手でカウンターをバンッ!!と叩きつけて、
「そんな緑色の球体をした天然記念物みたいな名前な訳ないでしょう!!どうせなら
と、まさに――さすがにそこまではいかないが――鬼のような形相で怒鳴ってきた。てゆーか名前の呼び間違いを要求してくるかな普通。
「
「なんだよ。一文字違うだけじゃねぇか」
「そういう問題じゃないでしょう!って、君も知り合いって分かった途端、タメ口になってるし‥‥‥」
月島は一息吐くと、俺の顔を再び覗いてきた。
「そういえば君、眼鏡なんて掛けてなかったわよね。視力落ちたの?」
「いや、伊達だよ。‥‥‥あまり悪目立ちしたくないからな」
「あぁ‥‥‥うん、そっか、そうだよね」
月島は寂しげな表情を浮かべる。やっぱりこいつも知っているんだ。俺のバンドが
を‥‥‥
「そういうお前もバンドはどうしたんだ?」
「‥‥‥うん、実はね、私達のバンドも色々あって、ずいぶん前に解散しちゃったんだ‥‥‥」
「‥‥‥そうか‥‥‥」
聞いちゃいけないことを聞いてしまったと、俺は目を伏せる。
「あっでもね!その後も皆とは仲良くやっているよ。私みたいにライブハウスに務めている人もいるし‥‥‥」
「‥‥‥だったらお前らは、俺達よりも十分
俺は視線を窓の方に向ける。月島も俺の言った事を察してか、顔を
―――お互いに沈黙が流れる。が、それを切ってきたのは月島だった。
「ゴメンね、久しぶりの再開なのに変な空気にさせて」
そう言って彼女は苦し紛れの笑みを浮かべる。俺も月島に気を使わせてしまったことを申し訳なく思った。
「いや、いいんだ。今さらどうすることもできないし‥‥‥」
「‥‥‥うん」
そう言うと月島は切り替えたかのように、俯いた顔を上げ、パンッと両手を叩いた。
「さぁ!暗い話しはここまでにして、今からこのライブハウスについて説明するね。改めて、私はこのLIVEHOUSE CIRCLEのスタッフ、月島 まりなです。これからよろしくね!響君!」
「いや、俺はまだ完全にここで働くとは決めてない…」
「よ・ろ・し・く・ね!響君!」
「‥‥‥はい、よろしく‥‥‥」
清々しい笑顔向けてくる月島を見て、俺は、どうやら自分には選択肢がないことを悟った。
「それじゃあまず、このライブハウスについて説明させて貰うね。まず、ここLIVEHOUSE CIRCLEは元々、オーナーがこのあたりで活動しているガールズバンドを応援するために作られたものなんだ」
「…またガールズバンドか…」
「何か言った?」
「いや、別に」
「そう?じゃ話しを戻すね。そして私達の仕事はこのカウンターでお客様への対応、各スタジオの機材の点検、店内の清掃が主な仕事だね」
まあそんなものか、俺もライブハウスには通ったことはあるから大体分かる。
「そしてここからが大事。このライブハウスでは定期的にライブイベントを開催しているの。その時の仕事内容も沢山あるの。まずはそのイベントを記したポスターやチケットの制作、その販売、次にイベントに参加を希望するバンドの受付、そして出演する各バンドのセットリストをまとめて…」
「本番前に照明を合わせるために各バンドと打ち合わせ、当日は入場する客への対応、裏方で出演者達のサポート、ライブ中の照明合わせ、その後場合によっては裏方で打ち上げの用意、最後にライブハウスの清掃。っと言った所か」
月島の説明を遮って俺が後を代弁する。
「おぉ、さすが。経験者は語るね」
「ライブハウスのスタッフなんてしたことないがな」
「それだけ理解しているなら後はその時に説明するだけでよさそうだね。よし!響君。君を今日からCIRCLEのアルバイトとして正式に採用します!」
「…は?もう採用するのか?もっとこう‥‥‥面接とか、履歴書の拝見とかないのか?」
まあ履歴書つっても高卒ぐらいしか書くことないし、持ってきてすらいないがな。
「いや真面目な話し、うちって開店してまだ一年も経ってなくて、従業員も私を含めて片手ぐらいしか人数がいないんだよねぇ。オーナーも経営を私達に任せてここに来ることがほとんどなくってさ、正直猫の手も借りたい状況なんだよ。君はバンドの経験もあるし、音楽や楽器の機材にも詳しいから、正直私にとってはこれ以上ない助っ人だよ」
「…よくストライキとかしなかったな。聞く限りブラックの匂いがするんだが」
「まぁ私も好きでやっているからね。それに仕事も忙しいってだけで別にパワハラとか受けている訳じゃないし」
「ならいいが」
「よし、じゃあ次はこのライブハウスを案内するね。ついて来て」
俺は月島の後に続き数十分ほどでCIRCLEの内部全てを回った。
「まぁ設備的にも構造的にも悪くないライブハウスだな」
「もう、もっと他に言い方はないの?」
店内を回って再びカウンターに戻った俺の率直な感想に月島は顔をしかめる。
「そういえば、まだ客の1人も来てないな」
俺がここに来てそろそろ30分経とうとしている。
「まだ開店したばかりだからね。でもそろそろこの時間に予約していた子達が来るはずなんだけど‥‥‥」
月島がそう言い掛けると、正面の自動ドアが左右に開いて、
「いっちば〜〜〜ん!!!」
なんか騒がしい奴が入って来た。
いかがでしたでしょうか?
何かご意見がありましたら是非コメントしてください。出来る限り修正しようと思います。
次回はいよいよ響が
それではまた。