荒野を歩く少年の前を砂煙が舞う-
「………」
静かに前を見据えて少年は歩く-
「……」
脳裏に過るは白兎の弟のような少年-
「…」
多くの冒険者が、神が、友が、白兎が見ている。
なによりも自身が敬愛する主神が見てくれている。
「-様…ごめんなさい……」
-様からは決して使うなと言われた。
…だが、勝つために己の全てを懸けなければならない。
此処で死すことになっても…
「…いろいろな事があった」
思い出すのは義弟。
泣き虫の甘ったれだった義弟は少しは強くなった。
力だけじゃなく心も…。
これが最後に自身が教えてやれる事。
何かを成すには〈覚悟〉がいる。
「悲劇のヒロインなんて何処にもいない。誰もを救える英雄になれ」
義弟の願望の為、自身が魅せる闘い。
「………」
荒野を歩く少年の前を砂煙が舞う-
-瞬間
其処には一人の青年が歩いていた-
黒く長い髪。剣を携え、鮮やかな蒼い鎧を纏い青年は歩いている-
「…因果なものだな。お互い」
語りかけるは前方の敵-
朱い短髪に眉目秀麗な容姿。
「こっちもいい加減飽きてきたところだ。今度こそ終わりにしてやる-」
テメェの死でな!
「「っ!」」
禍々しい剣を振りかぶり青年に斬りかかる。
青年も自身が持つ剣で斬りかかり、激しくぶつかり合い、互いの剣が火花を散らす。
そこからは凄まじい剣撃の嵐だった。切り上げ、切り下ろし。
己の技を相手に叩き込む。殺意を以て殺しに掛かる。お互いの存在を認めないと云わんばかりに。
打ち合っては直ぐに打ち合う。その繰返し。数瞬後、互いに距離をとり-
「天光満る処に我は在り-」
「輝く御名の元-」
詠唱を開始した。
剣を打ち合い次は魔法を以て-
「黄泉の門、開く処に汝在り、出でよ御神の雷」
「地を這う穢れし魂に浄化の光を雨と降らせん」
詠唱の終了と共に辺りは魔力の渦が逆巻く。
「インディグネイションッ!」
「ジャッジメントッ!」
神雷と神光が炸裂。
周囲の地形を変えながら拮抗する魔力が相手を蹂躙せんと攻めぎ合う。
「はぁぁぁぁッ!」
青年は神雷に魔力を注ぎ-
「ちぃぃぃぃッ!」
敵も魔力を注ぎ込み、やがて互いの魔法は拮抗を破り大爆発を起こした。
「「ッ!?」」
破裂した魔力は二人を弾き飛ばし、同時に着地し、地面を脚でガリガリ削り-
「っぅぅぅ!-タイダルウェイブッ!」
「チッィィィ!エクスプロードッ!」
すかさず〈無詠唱〉で魔法を放ち、迎撃する。
荒野に突如に顕れる大海。
迎えるは業火の炎。
凄水が、獄炎がぶつかり合い蒸気が空に上がり二人の後方まで拡がり姿が隠れる。
「俺達が幾ら撃ち合ったって今迄と変わらねぇーよ!」
今迄もそうであった。何度も剣を交え、魔法を交え、何度も何度も何度も何度も何度も、だ。
敵は鬱陶しいとばかりに腕を凪ぎ、ムダだとはがりに喚く。
「何処行きやがったぁッ!」
―だが、青年が見当たらない。
次の瞬間、悪寒がし、頭上を視る。
太陽を背に青年は剣を構え魔力、そして〈闘気〉を練り上げ、その練り上げられた力は剣に集中する。
「ああ。その位わかっている。俺がずっと何もせずに遊んでいるだけだとでも思ったのか…」
更に力が剣に集い、敵の眼を剣光が照らす。
「こけおどしだぁぁぁッ!」
敵自身も再び獄炎の魔力を練り上げ-
「八華一閃」
青年の姿が掻き消え、敵前で発動。
「くッ!」
敵も直ぐに練った魔力で迎え撃つ。
一閃で八華裂かせる極技。
獄炎での迎撃。
「はぁぁぁぁッ!」
凄絶なまでの衝突に敵の禍き剣に罅が入る。
「なっ!?」
驚愕に染まる敵の顔-
「終われぇぇぇぇーーーッ!」
青年の極剣が敵に届き、その身を裂いた。
◇
至るところに騒動の跡が残る迷宮都市《オラリオ》
《…《先程》…》まで戦闘があった場所には怪我人の治療する人達がせっせと動きまわっていた。
「…」
「…」
「…」
そんななか神々や冒険者達は急遽展開された《鏡》の前に立ち沈黙していた。
それは一つの光景を映している。
離れた地にも関わらず此所まで届く戦闘音に何事かと最初は騒いでいた神々も次第に声をひそめ、その戦闘を見ていた。
そんな神々から離れた位置で《宿敵》との闘いに敗れてしまった《白兎》は腫らした目許を気にしながら主神と合流した
「……神様」
「…」
呼んでも返事がない敬愛する主神に首を傾げながら-
「神様?……!?」
そこで主神が見ている物を見た。
今迄、共に在った少年が、いや一人の《青年》が闘っていた。
「なんでッ!神様ッッ!!」
なんでッ!どうしてッ!だって、あれはッ!あの《姿》は……ッ!
自分は知っている。あの《スキル》は使っちゃいけないと主神とその主神の神友に言われていたことを知っていたからだ。無論、その内容も。
「-様ッ!」
白兎は青年の主神に向かい声を荒げた。
普段は畏れ多くてしないことをして、同時にわかってしまった。
青年の背中が言っているからだ「これが最後だ。良く見ていろ」となら、自分は最後まで見なければならない。
「この地を守る為、それがあの子の意志なのだ」
自神を救った最後の子どもが己を懸け闘っている。その姿はまさに《英雄》のようだ。
いや自神にとっては《英雄》だ。
だから-
「-。最後まで見届けてくれ。
あの子の闘いを、あの子の想いを…」
そう言うと、月女神は視線を真っ直ぐに鏡を見つめた。
白兎も何も言わなかった。
やがて、青年の剣が敵の身体を裂いた。