EVOLの壊す明日   作:野猫先輩

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今回は日常回とも何ともつかない曖昧な回です。
太い文才が欲しい…!(絶望)

お気に入り400件突破しててブルっちゃうよ…(感謝)


Phase 10.天才とバカをジャッジしろ!

︙廃墟都市

 

 

 

「…それで、何を集めるんだったっけ」

 

「忘れるの速ぇぞ万丈。ドラゴン頭から鳥頭に退化して…いや、爬虫類から鳥に移行した場合は進化って言った方が良いのか…?」

 

 

 

あれから1時間後、二人は瓦礫の山と化した街を訪れていた。

 

アネモネから課された資材調達の任務を全うすべく、辺りを捜索していたのだ。

 

現在足りない物資は、鉄。

 

アネモネ曰く、先の降下作戦実行の際に、兵器を製造する為にレジスタンスキャンプの鉄が殆ど接収されて行ったとの事だった。

そこで、機械生命体の残骸などが多く落ちているであろう廃墟都市や遊園地廃墟で、鉄を集めて欲しいとの事だった。

 

自然に在る鉄鉱を集めるもよし、機械生命体の残骸を集めるもよし。手段は問わない、とは伝えられている。また、何故か幾許かの路銀を握らされた。

 

 

「…なぁ、任務って言えば聞こえはいいけどよ。これって結局『おつかい』じゃねぇのか?」

 

「…皆まで言うな、万丈。虚しくなってくる」

 

 

道すがら、万丈がそんなことを言い出した。戦兎は呆れた様子で返答する。

実際、戦兎もその点に関しては同意せざるを得なかった。

 

然し、これは自分達の潔白を示す為のモノでもある。やらざるを得ないのだ。

 

 

「…ま、取り敢えず目先の目標を達成するしかないな」

 

 

ふぅ、と戦兎は溜息をつきながら歩き出す。 まずはこの近くにある廃ビルへ行ってみることにしよう。

 

数十分後。

 

 

「……」

 

「……」

 

項垂れた様子の2人が、廃墟都市に在った。結論から言ってしまえば、2人は目的の物を手に入れることが出来なかった。

そもそも機械生命体の残骸すら見当たらずに彷徨っていたのだが、漸くそれらしいものを発見した矢先に、それは起こった。

何処からともなく現れた機械生命体達に周囲を囲まれてしまい、戦闘に入ってしまったのだ。

その後も、機械生命体の集団と何度か遭遇してしまい、休む間もなく連戦に明け暮れる事となった。その上、倒した機械生命体の骸は不純物が多く、とても資材には使えそうになかった。

 

流石に疲れ果ててしまい、適当な瓦礫の上に腰掛け、休むことにした。

 

ぐったりとする戦兎。

ふと、ポケットの中に違和感を感じた。

 

ゴソゴソと中を弄ると、中からは先程渡された路銀の入った布袋。

そして、黒く大きめのスマートフォンの様なモノが入っていた。

 

其れの名は、ビルドフォン。戦兎が作り上げたデバイス兼「バイク」だ。

 

 

「……あッ!?」

 

 

疲労でぐったりとしていた戦兎が、突然大声を上げた。

隣に座っていた万丈は思わず飛び上がる。

何事かと思って振り向くと、その視線の先には何かを見つけた様子の戦兎の姿があった。

一体どうしたのか。万丈が尋ねるより早く、戦兎は万丈へ興奮した様に話し掛ける。

 

 

「そうだよ…見つからないなら、買えば良いんだ!」

 

 

そう言うと、早速戦兎はビルドフォンを起動し、画面を弄り始めた。

その様子を見て、万丈は嫌な予感がした。

こういう時の桐生戦兎という男は、大抵とんでもない事をしでかす。

過去に何度も経験してきたからこそ分かる。新しく作った武器の試し斬りをされそうになったり、スパークリングボトルを作る時に感電したりダイヤモンドを顔面に浴びたりしたのだから。そんな万丈の様子を知ってか知らずか、戦兎はニヤリとした笑みを浮かべた。そして戦兎は立ち上がり、瓦礫の山を登り始めた。

何をしようとしているのか想像もつかないが、万丈もとりあえず後に続いた。

ある程度登ると、今度は瓦礫の上を走り出した。

そして、瓦礫の頂上に辿り着くと、下に見える街並みを見下ろしつつビルドフォンを掲げた。

 

すると、ビルドフォンの画面右上。電波を示すマークが点灯し始めた。

 

 

「おっ!この世界でも一応電波は拾えるのか!流石は俺の 発・明・品!」

 

 

戦兎は嬉しそうな顔をしながらガッツポーズをする。

一方の万丈は、また始まったぞと言わんばかりにげんなりとしている。

 

戦兎はビルドフォンを素早く操作すると、どこかへ電話を掛け始めた。暫くして、通話が開始される。

 

 

「もしもし?アネモネさん?」

 

『…此方2B』

 

 

ぶちっ。相手がアネモネでないと分かった瞬間に、戦兎は電話を切った。そしてまた電話を掛け始める。

 

 

「もしもし?アネモネ?」

 

『えっ…?あの、僕9Sですけど…。というか貴方誰ですか?何処から回線に割り込んで…』

 

 

ぶちっ。再び電話を切る。また違う番号に掛けてしまったようだ。戦兎は何度目かも分からぬ同じ行動を繰り返す。

 

 

「もしもし?アネモネさん?」

 

『…誰だ、お前は。……そもそも、何で私に通信が出来るんだ?まさかお前、ヨルハの所属か?どの面下げて私にコンタクトなんて…ていうか、何でお前がアネモネの名前を』

 

 

ぶつっ。また電話を切り、再度電話をかけ始めた。

 

万丈は漸く戦兎の意図を察したのか、ジト目で戦兎を見つめる。

 

 

「…お前、まさか……」

 

「そ。近くにある電波の発信源に片っ端から通信掛けて、アネモネを探す」

 

 

戦兎は得意気に笑い、再び通信を掛け始める。

 

通信を片っ端から掛けて特定をすると言えば未だ聞こえは良い。然し、結局やってる事は────

 

 

「ただのイタ電総当りじゃねーか!!!!!!」

 

 

遂に耐え切れなくなった万丈の怒鳴り声が、辺りに木霊した。

その頃森林地帯では旧型のヨルハが謎の通信を受けて首を捻っていた事等、戦兎と万丈は知る由もなかった。

 

 

 

EVOL SIDE

 

 

『…随分と、派手にやッたなァ』

 

 

パラケルスス1493は、部屋に寝転がるマッドローグ────エボルトに対して呆れた様子で呟いた。

 

 

「だが…あのドンパチのお陰で、暫くはアンドロイド共も近付かないだろう。用心棒としては、万々歳の出来だと思うがねェ」

 

 

エボルトはパラケルスス1493の言葉に対し、余裕の表情でそう返す。尤も、その顔は仮面に覆われている故に伺う事は出来ないが。

 

 

「…ま、俺もちと表で働き過ぎたな。暫くは大人しくするかァ」

 

『大人しくテ用心棒が務まるノカ?』

 

「安心してくれ…何も木偶の坊みたいにダラけるって訳じゃない。色々と考える事があるのさ」

 

 

そういうと、エボルトは起き上がり窓の外へと視線を移す。その先に映る景色には、月明かりに照らされた木々が広がっていた。

 

 

『一体何を考エルツモりダ』

 

「とっても面白い事…とだけ言って置こうか。…俺の本分はゲームメイカーだ。あらゆる状況を鑑みて、最上の戦術を作り上げるのが得意でねェ」

 

 

ケラケラと笑うエボルトを、パラケルスス1493は「やれやれ」といった風に肩を竦めた。尤も、小型機械生命体は肩に相当するパーツが小さいので妙なポーズになったが。

 

 

『ソレデ?オ前ガ考えル"面白イ事"とヤラハ、ドコカラ始めルンダイ?』

 

 

「……そうだな。まずは、味方を増やす事を考えようかァ。…おい、この手紙を近くの村へ持って行ってくれ」

 

『村…?アア、あの村カ。あンな村ノ奴ラ、戦力になルのカ?』

 

「いいや…戦力云々じゃァない。まずはこの王国の心象を良くしてやらねェと…あ、名義はウチの大将にしておいたからな。俺の名前は絶対に出すんじゃねェぞ?」

 

 

エボルトはニヤリと笑いながら、小型の機械生命体へ手渡された数通の手紙を渡す。受け取った小型の機械生命体は、そのまま部屋から出て行った。

残されたエボルトは、パラケルスス1493に向き直る。

 

 

「さて…後はあっちがどう返して来るかが問題だが…ま、大丈夫だろ」

 

『…本当に大丈夫なノカ?』

 

「少なくとも、小野妹子の二の舞にならないって事だけは保証しといてやるさ…」

 

 

エボルトは、部屋の片隅を一瞥する。

そこには、複数枚のパネルで構成された「箱」が在った。

 

 

「折角見つけた箱庭だ…ワンサイドゲームで終わらせるのは名残惜しい」

 

『……??何の話ヲシテいるンダ?お前』

 

「ん?……ああ、お前は気にしなくて良い。それより、王様の世話でもしてやンな…あの時期のガキは、ちゃんと親が付いてやってねェと後々不味いからねェ」

 

『…随分と子供の世話に詳しいんダナぁ……オイ、何処ニ行ク気ダ?』

 

 

パラケルスス1493は、立ち上がって扉に向かうエボルトを呼び止める。するとエボルトは クルリと振り返り、戯けた様なジェスチャーを見せつつ答えた。仮面の奥の瞳が怪しく光っているのを見て、パラケルスス1493は小さく溜息を吐いた。

まるで、面倒事の予感しかしないと言わんばかりに。

そんな彼に対して、エボルトは一言こう返した。

 

 

「企業秘密って奴だ」

 

 

 

YoRha SIDE

 

 

 

「…何だったんでしょうか、さっきの通信って」

 

 

9Sと2Bは、先程受けた通信に対して首を捻っていた。

 

彼らは、アネモネから砂漠で起こっている異変の原因追求を依頼されている真っ最中だった。その異変とは、凶悪な機械生命体の多数出現。砂塵が吹き荒れ、元から決して安全とは言い難い地域であった砂漠。だが、ここ最近は敵の出現によって危険度は増し、調査も物資捜索もままならないという。

 

そんな時に司令官からの命を受けて地上へ来ていた9Sと2Bが、問題解決を依頼されたのだ。

 

 

「…何処かのオペレーターが、間違って通信したんじゃない?」

 

「男性型のオペレーターなんて居ない筈ですけど…あ、そういえば。アネモネさんの名前を出してました。アネモネさんに聞けば、分かるかも…」

 

 

アネモネ、というのはこのレジスタンスキャンプの責任者である女性型アンドロイドの事だろう。

2Bと9Sは一度顔を見合わせると、彼女の元へ足を向けた。

その最中、2Bがポツリと言う。

そういえば、と。

彼女は以前、こんな事を言っていなかっただろうか。

 

 

「…CTスキャン検査装置や生化学自動分析装置を作るって、アネモネが言ってた」

 

「えっ…それって、人間専用の医療機器ですよね?人類会議は月面だし、地上で使う相手なんて居ない筈…」

 

 

9Sは、砂漠の上で うーんと唸りながら思案した。

然し、決定的に情報が不足している中で結論など出せる筈も無い。

 

 

「…とりあえず、アネモネさんに通信してみましょうか…」

 

 

早る好奇心を抑えられず、9Sは通信を開始した。

 

 

「もしもーし、聞こえてますかー?9Sです」

 

『ああ、9Sか。どうかしたのか?』

 

「実は、1つ聞きたい事があって…。さっきアネモネさん、レジスタンスキャンプで人間用の医療機器を使う、みたいな事を話してましたよね?何でそんな物を使うのか気になって…」

 

 

9Sから発せられた質問。それを聞くと、アネモネの顔面が さーっと青くなった。

 

 

『あっ…あー……それは、だね…その……』

 

 

そんな時、アネモネに2つ目の通信回線が開いた。

 

 

『ち、ちょっと待ってくれ…。所属不明のUNKNOWN……誰からの通信だ?此方アネモネ、其方は?』

 

『あっ、繋がった!このIDだったのか…! アネモネさん、ちょっと聞きたい事が有るんだけどさ。この近くで何かモノを買える場所ってないかな?』

 

『えッ!? よりにもよってこの状況で君達からか…すまない9S、後で掛け直すよ 』

 

 

何処か慌てた様子のアネモネ。9Sとの通信を、一方的に切ってしまった。

 

 

「……切られちゃったんですけど」

 

「……どうするの?」

 

「……さっき割り込み通信して来た声、僕が受けた通信と同じ声をしてました。…取り敢えず……行ってみるしか無さそうですね。砂漠の調査の方も行き詰まりましたから…戻りましょう」

 

 

通信が途切れた後、暫しの間二人は黙っていたが、やがて9Sの方からキャンプへの一時帰還を提案した。

 

 

 

BUILD SIDE

 

 

『さて…色々立て込んで悪かったね。物資を買える場所を知りたいんだったかな?』

 

 

場所は変わって廃墟都市。

戦兎はアネモネと連絡を取り合い、彼女の持つ端末を介して会話をしていた。

 

 

『その様子だと、鉄鉱集めは上手くいっていないみたいだね…』

 

「機械生命体の残骸は少ししか落ちてなかったからなぁ…ボウズほど悪くはないけど、収穫は貧相だよ」

 

『ふむ…ショップとなると、パスカルの村が適所かな…後で座標を送るから、そこへ行ってみてくれ』

 

「りょーかいっ。んじゃ、戦利品の方は期待しておいてくれ」

 

 

戦兎は通信を切ろうとするが、アネモネが引き止める。

 

 

『ああ、ちょっと待ってくれ。一言伝え忘れていたよ…その村は平和主義者の機械生命体が集って、1つのコミュニティを形成してるんだ。だから…』

 

 

「穏便に事を進めて欲しい、って所かな…?大丈夫だって、安心しなよ。俺達、ラブ&ピースの為に戦ってる訳だし。それじゃ、また後で」

 

 

戦兎はアネモネとの通信を切ると、ビルドフォンにフルボトルを差し込んだ。

すると、ビルドフォンはその大きさを増しながら、バイクへと形を変えて行く。

 

戦兎の愛車「マシンビルダー」の完成だ。

 

久々に日の目を見た愛車に跨り、戦兎はヘルメットを被る。

 

 

「さて、と…行くぞ万丈!」

 

「わーったよ…」

 

 

はぁ…と溜息を吐きながらも、万丈も戦兎に続いてバイクに跨った。

 

 

 

︙パスカルの村

 

 

 

森林地帯にある小集落。

そこには、争いではなく平和の道を選んだ機械生命体達が群れを成して暮らしていた。

 

村の面々は多様であり、子供や大人、はぐれ者、引きこもり。様々な機械生命体が集まっている。

 

その村を治める長の名は、パスカル。

 

他の機械生命体とは異なる風貌をしており、より人型に近い形となっている。

 

そのパスカルは、自宅で哲学書を読んでいた。

 

 

「ふーむ…『人間の美徳はすべてその実践と経験によっておのずと増え、強まるのである。』か……このソクラテスという人物の言葉は中々面白いですね。人間の美徳が実践と経験ならば、私達の美徳は何でしょうか…うーん……」

 

 

その時、自宅の戸をノックする音と、子供達が自分を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「ネェネェ、パスカルおじチャン!」

 

「はいはい、どうかしましたか?」

 

 

ドアを開けると、其処には小型の機械生命体が数体立っていた。

彼等は村の子供であり、パスカルが勉強を教えたり、遊び相手になっているのだ。

 

 

「あのネ、村にお客サンが来テるヨ!」

 

「お客さんですか…?はて、アネモネさんやジャッカスさんが訪れる予定は無かった筈ですが…」

 

 

パスカルは自宅から出て、その「客」の姿を確認しに向かった。

子供に「ハヤク、ハヤク」と急かされながら向かうと、村の広場に「客」は居た。

 

彼等はアンドロイドによく似た姿をしていた。風貌は人間の雄に酷似しているが、最新型の幼い風貌ではなく、レジスタンスキャンプに居る様な成熟した男性の姿であった。

 

1人は、黒髪にベージュのコートを。もう1人は、エビフライのように結った茶髪に青いスカジャンを纏っていた。

 

 

「ようこそいらっしゃいました。私はパスカル。この村の長を務めています」

 

「あぁ、君がパスカルか…初めまして。アネモネさんから、話は聞いてるよ」

 

 

黒い方が握手を求めてきたので、パスカルはそれを握り返した。

 

 

「俺は桐生戦兎。物理学者だ。そしてこいつが万丈龍我。ま、こっちの方はバカとかエビフライとか何とでも呼んでやってよ」

 

「誰がバカだ!せめて筋肉付けろって言ってんだろ!あとエビフライって言うんじゃねぇ!」

 

「ふふ、お2人は元気ですねぇ。では立ち話もなんですし……さ、そこの椅子へどうぞ」

 

「ああ、邪魔させて貰うよ」

 

 

パスカルの後に続き、戦兎達は村の広場に設置されている椅子へ腰掛けた。

遠くからは、興味津々といった様子で機械生命体の子供等がこちらを伺っていた。

 

 

「しかし、私を初めて見たのに驚かないのですか…?アンドロイドの皆様方は、私や村の様子を見ると大変驚いた顔をなさいますが…」

 

「アネモネから多少話は聞きかじってるし…それに、色々俺達も修羅場を潜り抜けて来たからね。慣れたよ」

 

 

飄々とした様子で話す戦兎に、パスカルはカメラアイを細めて微笑む。尤も、微笑んでも顔のパーツに変化は現れないが。

 

 

「成程、強い御方なのですねぇ。…ところで、本日はどういった要件で?」

 

 

パスカルが、戦兎に本題を尋ねた。それを受けると、戦兎はゲンナリとした様子で返答する。

 

 

「…実は今、キャンプで鉄が不足しててさ。ここでなら鉄鉱が買えるって聞いたから、取引に来たんだ」

 

「成程、そういう事でしたか…それでしたら、村で商いをしてる方が居ますから。その人にお尋ね下さい。…ほら、あそこで浮いてる方です」

 

 

パスカルは村の一角にてフワフワと浮遊している、玉のような機械生命体を指して言った。

 

 

「分かった…何から何まで助かるよ、有難う」

 

「いえいえ。折角の客人ですし、ゆったりと過ごして頂けると幸いです。子供達も喜びますから」

 

そうして、パスカルは子供達の下へ向かった。その後姿を見届けると、戦兎と万丈は道具屋ロボの下へ向かう。

 

 

「おーい、今って営業中?」

 

 

丸い玉に腕が一対付いている機械生命体に尋ねると、くるりと一回転してから返答が来た。

 

 

「イラッシャイ。パスカルさんとの話は聞こエてたよ。鉄が欲しいんだネ?」

 

「話が早くて助かるよ。それじゃ、この金で買えるだけの鉄を、ありったけ買わせて貰おうかな」

 

 

アネモネから渡された銭を、袋ごと道具屋ロボに渡した。すると、機械生命体は器用に両腕を使ってそれを受け取り、中身を確認する。

暫く確認したのち、道具屋ロボは戦兎に伝えた。

 

「実は今日、閉店セールなんだヨネ。明日から完全な道具屋になルから、鉱石の取扱いは今日限りなんだヨネ」

 

そう言うと、道具屋ロボは大きな箱を3つ持ってきた。

それを地面に置くと、蓋を開ける。

中には、大量の鉄鉱石が詰められていた。

 

あまりの量に、万丈は思わず目を見開いた。

戦兎に至っては、「ヒャッホホホヒャッホイ!」と奇声を挙げながら狂喜している。それからしばらく、彼等は夢中で鉄をバイクへ積み込んでいた。

 

やがて鉄の在庫が無くなると、戦兎と万丈は礼を言い、店を後にしようとする。

 

すると、後ろから子供達の声が響いて来た。

 

 

「また来てネー、戦兎オジチャン!」

 

「おじ…ッ……」

 

 

戦兎は子供等に対し振り返り笑顔で手を振ったが、内心では傷ついていた。

一方万丈は得意げに手を振る。

 

 

「バカおじチャンも、また来てネー!」

 

「ばッ………」

 

 

万丈もまた、同様に傷ついた。

だが、二人は一応手を振り返す。

その様を見て、機械生命体の子供等はキャッキャとはしゃぎ出した。

こうして、彼等は村を後にした。

 

 

⋮レジスタンスキャンプ

 

 

「…パスカルの村へ行かせたが、大丈夫だろうか」

 

アネモネは独りごちた。

憂鬱の種は、戦兎と万丈である。

 

彼らを信用したいと言い出したのはアネモネだ。しかし、どうやらパスカルの村へ行かせて問題がなかったかどうかを憂いていた。

 

もし、彼等が敵だったら?

パスカル達へ危害を加えていたら?

 

そんなことが脳裏に過ぎる。

その矢先、何処かからかエンジンの音が聞こえ始めた。何事だとテントを飛び出してみると、そこにはオフロードタイプの大型二輪マシンがあった。

戦兎と万丈が乗る、マシンビルダーである。

更に、バイクには大きな箱が3つ括り付けられている。

 

 

「鉄、調達出来たぞーッ!」

 

 

手を振りながら、万丈がアネモネへ叫んだ。

マシンビルダーはレジスタンスキャンプ前で停車し、戦兎と万丈は箱を持ってアネモネへと歩み寄った。

 

 

「はい、約束のモノ。これで、俺達の潔白は証明出来るかい?」

 

 

箱の中を見たアネモネは、驚愕で目を丸くした。

そこにあったのは、紛れもない鉄であった。

疑っていた訳ではなかったが、実際に目にすると驚きを禁じ得なかった。

この二人ならば、パスカルに何かしらの被害を与えることなど不可能だろう。そう確信できるほどの量と質であった。

 

 

数時間後。

 

 

レジスタンスキャンプの一角には、ちょっとした病院の様な設備が造られていた。

 

戦兎の万丈の2人で集めて来た鉄を用いて作られた、装置の数々である。

 

戦兎と万丈は、その近くで採血を受けたり、体をスキャンされたりと、正に俎板の上の鯉と呼ぶに相応しい状態にあった。

 

30分後。

 

アネモネは、検査結果を目の当たりにして目を見開いた。

 

構成物質

炭素 50%

酸素 20%

水素 10%

窒素 8.5%

カルシウム 4%

リン 2.5%

カリウム 1%

 

体組成

水分 62.6%

タンパク質 16.4%

脂質 15.3%

ミネラル 5.7%

糖質 0.6%

 

 

「間違い、ない…」

 

 

アネモネは検査結果から、戦兎へと視線を移す。

 

 

「彼等は、紛れも無く『人間』だ…!」

 

「うおおぉぉ!よっしゃあああぁッ!!」

 

「あー…やっと…終わった……」

 

 

アネモネの言葉を聞き、万丈は歓喜に沸き、戦兎は安堵した。

 

しかし、アネモネは歓喜だけでなく焦りも滲ませた。

 

まさか創造主たる人類を、この目で見るだけでなく言葉を交わしてしまうとは。何と畏れ多い事か。

 

 

「こうしちゃ居られない…!」

 

 

アネモネは通信を掛け始める。通信先は────バンカー。

 

 

『此方6O…って、その服装ってレジスタンスの…』

 

「オペレーター!早急に司令官へ通信を繋いでくれ!早く!」

 

『えッ、いきなりなんですか!?』

 

「良いから!」

 

『は、はい…ッ!』

 

 

数秒の間があって、モニターの向こう側に女性が映し出された。ホワイト司令官だ。

 

 

『此方司令部。…レジスタンスキャンプか。どうした?』

 

「緊急事態だ…。地上に、まだ人類が生きてたんだ…!」

 

『……なに?』

 

「それも1人じゃない、2人もいるんだよッ!こっちで検査したら、紛れも無く人間だった…!」

 

『何だとッ!!』

 

 

司令官の顔色が一変する。

それはそうだ。月面に移住したはずの人類が、地球で2人も生きているというのだから。

 

 

「しかも、彼等はエイリアンに対抗する為の力を持ってるんだッ!」

 

『……本当、なのか…!?』

 

 

訝しむ様子の司令官。その様子を見た戦兎が、アネモネとの通信に割り込んだ。

 

 

「はい、ちょいと失礼しますよー…ッと。一旦退いてくれ、アネモネさん」

 

『あ、おいッ…!?』

 

 

アネモネを押し退けると、戦兎が前に出て話し始めた。

 

 

「どーも初めまして。俺は桐生戦兎。物理学者だ。そして、コイツが格闘家の万丈龍我。ま、見ての通り、俺達は何処にでも居る普通の人間だよ」

 

『…………』

 

 

司令官は、戦兎の姿を見ると 口をポカンと開けたまま放心していた。普段の凛々しい姿からは想像も出来ない様な間の抜けた姿だったが、事が事なので仕方あるまい。

 

 

「さて、と。挨拶も済んだし…住処探すか、万丈」

 

「は!? アレで終わらせて良いのかよ!…って、また俺の事をバカって言ってんじゃねぇか!しかも初対面の相手に!」

 

「いや、だって実際バカだろ?」

 

 

自己紹介をするや否や、戦兎と万丈はどこかへ去ろうとする。呆気に取られていた司令官は、慌てて引き留めようとした。

 

 

『ちょ、ちょっと待ってくれ…いや、待って下さい!』

 

「ん?何か?」

 

 

司令官は数回深呼吸して、髪を掻き上げると 戦兎と万丈へ伝えた。

 

 

『…貴方達には、一度私達の拠点…バンカーへ来て頂きたい』

 

「……そりゃどういう意味だ?」

 

『…私達は、衛星軌道上の基地「バンカー」を活動拠点としています。そこで、貴方達の力について詳しくお聞かせ願いたいのです』

 

「……なるほどね。分かった、行こう」

 

 

二つ返事で承諾した戦兎を、万丈はジト目で見つめながら小突いた。

 

 

「お前、安請け合いしてるけど…衛星なんたらって、宇宙にあんだろ?どうやって行くんだよ…」

 

「そりゃあ、飛んで行くに決まってるじゃん。ロケットで」

 

 

しれっと返事をした戦兎に、万丈はしかめっ面で更に返す。

 

 

「ロケットなんて何処にあんだよ?」

 

 

万丈の疑問も尤もだ。鉄が不足している以上、ロケットなど易々と打ち上げられるはずがない。

 

よしんば物資補給用のロケットを打ち上げるにしても、ある程度の期間が必要だろう。

 

しかし、戦兎はニヤリと笑って懐からフルボトルを取り出した。

 

 

「ロケットならここにある。ロケットパンダでひとっ飛びだ」

 

 

戦兎はそのままビルドドライバーを装着し、ツインフルボトルスロットへボトルを装填する。

 

 

『パンダ!ロケット!ベストマッチ!』

 

 

最良の組み合わせ「ベストマッチ」である事を報告する音声が鳴った後、戦兎はボルテックレバーを回転させ始める。

 

すると、ビルドドライバーから「ファクトリアパイプライン」というプラモデルのランナーにも似た装置が展開された。

そこへフルボトルの成分から2つの装甲が生成される。

 

 

『Are you Ready?』

 

「変身ッ!」

 

 

形成されたアーマーパーツは戦兎の前後に移動・合体し、彼の全身を覆う強化外装を形成した。

 

 

『ぶっ飛びモノトーン!ロケットパンダ!イェーイ!』

 

「……これが、データにも有った『変身』か…」

 

 

おお、と軽く驚くアネモネに対して 司令官は状況が理解出来ないのか放心状態になっていた。

 

 

『私は…一体、何を見ているんだ…!?』

 

 

戦兎は「まぁ落ち着けって」と画面の向こうへ声を掛ける。そのまま左腕を掲げると、肩の「BLDロケットショルダー」を作動させた。

 

 

「よッし…万丈、飛ぶぞ!」

 

 

「えッ!?おい、ちょっと待てよ!俺まだ変身してねぇから!」

 

 

慌てて万丈もクローズへ変身。戦兎の背中へしがみつく。

 

 

「おい、マジかこれ……1人なら兎も角、2人で本当に飛べんのかよ……ッ!!」

 

「大丈夫だって。天才の発明品を信じろッ!」

 

 

戦兎はそう言うと、一気にロケットを噴射させて天高く舞い上がった。

2人の体はみるみると空へと昇り、雲を突き抜ける。

 

 

「ははッ…何だこれ?」

 

 

アネモネは乾いた笑いを漏らしながら上空を見上げ。

 

 

『……』

 

 

司令官は画面からフェードアウトした。画面の向こうから喧騒が聞こえる。どうやら、彼女は倒れてしまったようだ。

 

その間間にも、ロケットはグングン上昇。遂に成層圏を突破して宇宙空間へ到達した。

 

 

「えーっと、多分バンカーってのは…アレの事だよな。うん」

 

 

明らかに他のデブリとは違う存在感を放つ建造物。それを見た戦兎は、ロケットボトルの能力で姿勢制御を行う。

 

 

「よし、見つけた!行くぞ万丈!」

 

「お、おうッ!」

 

 

目標を定めた再び戦兎はロケットを噴射させ、高速で飛行を開始。あっという間にバンカーの側まで到着した。

 

さながら土星の環の様にソーラーパネルを展開しながら、衛星軌道上に浮かぶバンカー。その近くまで接近した戦兎は、再び司令官へと通信を行った。

 

 

「もしもし?聞こえてる?」

 

『……あ、嗚呼…一先ずは…。飛行ユニットを格納している倉庫が有ります。そのハッチを開けるので、そこからお入り下さい』

 

 

若干意識を取り戻した司令官は、咳払いをして居住まいを正す。

 

10秒程経った後、バンカーの一部が開放された。格納庫のハッチだろうと確信した戦兎は、姿勢制御のノズルを吹かしながらハッチへと辿り着き、中へ入る。

 

 

⋮バンカー

 

 

 

「うわッ……なんだこりゃ……」

 

「すげぇ……!」

 

万丈と戦兎は感嘆の声を漏らしつつ、内部を観察する。

 

そこには、アニメに出てくる様な風体をした大型ロボット─────飛行ユニットが存在していた。

戦兎は思わず「最っ高だ!」と呟きながら、ビルドフォンで数枚の写真を撮るに至っている。

 

その後、格納庫のドアを開けてバンカーの中へ入り、しがみついていた万丈を床へ降ろして変身を解いた。

 

 

「…それで、次は何処へ向かえばいい?」

 

『あッ…少々お持ち下さい。只今、案内役を向かわせておりますので……』

 

 

普段は凛々しい司令官も、緊張が隠せないのか何処か辿々しい口調で戦兎へ言葉を返す。

 

 

「りょーかい。それじゃ、案内役を待つよ」

 

 

ふぅ、と溜息を吐きながら 戦兎は壁へ凭れ掛かった。

 

 

「それにしても、此処…なんかめっちゃ白くね?」

 

「確かにそうだな。真っ白だし」

 

 

万丈の言葉に同意しつつも、戦兎は落ち着かない様子で辺りを見回した。

ふと万丈が見れば、戦兎の頭に有る「アホ毛」がピョコンと跳ねている。物理学者としての性が暴走しかかっている証拠だ。

 

 

暫く待っていると、二人の前に黒い扉が現れた。

 

 

「……やっと来たみたいだ」

 

「……だな」

 

 

パタパタ、と此方へ駆けて来る足音の方へ向き直る。そこに現れた「案内役」は、6Oだった。

 

 

「ご、ごめんなさいッ…!大変遅くなりました…!」

 

 

普段の明るさは鳴を潜め、焦燥と緊張に満ちた面持ちの6Oは、ぺこぺこと何度も頭を下げる。

 

 

「あー…大丈夫だから、な?気にしてないから」

 

 

戦兎にそう言われても尚、6Oは申し訳無さそうな表情を浮かべていた。そんな彼女を見て、戦兎は僅かに憂う。

 

 

(…本当に、人間と会ったことが無いんだな)

 

 

センチメンタルな気分に沈みかけた戦兎の隣で、万丈が何か言い始める。

 

 

「良い事教えてやるよ。緊張した時にはな、掌に『米』って書いて…」

 

「それを書くなら『人』だぞ」

 

 

間髪入れずツッコんだ戦兎は、改めて6Oへ視線を向けた。すると彼女は、少しだけ緊張がほぐれた様に戦兎達へ告げた。

 

 

「それでは、お2人を司令官の下へご案内しますね」

 

「ああ、頼むよ」

 

 

6Oの先導に従って、戦兎と万丈は歩き始めた。

 

 

 

数分後。

 

 

 

「ここが、私達ヨルハの中枢…司令部です」

 

 

6Oの案内によって連れて来られた場所。そこには、大きなスクリーンと ホログラムの様なモニターがいくつも並んでいた。

 

流石に戦兎達も場違い感を感じたのか、何処か後ろめたそうに司令室の中へと入っていく。そんな二人を出迎えたのは、先程まで通信越しで話していた女性型アンドロイド─────ヨルハ部隊総司令官・ホワイトであった。

 

ホワイトは、戦兎達の方を向くと丁寧に一礼する。

 

 

「…お待ちしておりました」

 

「嗚呼…アンタが、司令官って奴?」

 

 

やや困惑気味に訊ねる戦兎へ、ホワイトはこくりと首肯した。

 

そして、戦兎達が案内されたのは司令官専用の個室。どうやら、6O以外のオペレーター達は同席しないらしい。

 

椅子に座っているのは、司令官であるホワイトと戦兎、そして万丈のみ。

戦兎と万丈は促されるまま席に着くと、早速この世界について質問を投げかけた。

 

しかし、返ってきた答えは決して芳しいものではなかった。

 

曰く、人類は現在ごく少数が月へ移住したという事。

 

エイリアンとの戦いはどっち着かずの儘であること。

 

その他にも細々とした事を伝えられたが、大きく分けると上記の2つであった。

 

 

「……前途多難、だな」

 

 

戦兎は渋面を浮かべながら呟いた。

万丈は黙りこくったまま、差し出されたコーヒーを飲んでいる。

 

 

…薄くね、コレ

 

 

聞こえるか聞こえないかの声で呟いた万丈を横目に、ホワイトは戦兎へ視線を向けた。

 

 

「…お2人は、私達アンドロイドが守るべき存在。バンカーの中で保護を…」

 

「生憎、それは出来ない相談だ」

 

 

ホワイトの言葉を遮る様に、戦兎がキッパリと告げた。予想していなかった返答に、ホワイトだけでなく6Oまでもが目を丸くしている。

 

 

「何故ですか…!? 貴方達は、月面で戦場から離れて安全に過ごすことが出来るのに…」

 

「俺達には、エイリアンと戦う事の出来る力が有る。それを安穏として過ごす事なんて…到底出来やしない」

 

 

予想だにしない返答。暫くの沈黙の後、ホワイトは口を開いた。

 

 

「…何故、そこまで自らを犠牲にするのですか?」

 

 

心底不思議そうな表情で、彼女は戦兎へ問う。

戦兎はその問いに対し、一瞬考え込む様な素振りを見せた後、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「犠牲にしているってつもりは無いんだけど……誰かの力になりたいから、かな」

 

 

はっきりと、真っ直ぐとした目線で、戦兎はホワイトを見つめ 答えた。

 

 

「誰かの力になれたら、心の底から嬉しくなって…くしゃっとなるんだよ。俺の顔。…ま、その時はマスクの下で見えないけどさ」

 

 

戦兎は軽く頭を掻いて、そう付け足す。その様子を見て、6Oは何とも言えない表情になった。

 

 

一方、ホワイトはと言うと。

暫しの間戦兎の瞳の奥を探る様に見据えた後、小さく息をつく。そして、徐に立ち上がった。

戦兎と万丈が首を傾げていると、ホワイトは静かに話し始めた。

 

 

「…分かりました。それでは、私達と共に戦って頂きます。人類と共に戦っているという実感が有れば、隊の士気も上がるでしょうし……尤も、私達は感情を禁止していますが」

 

「…はァ!? 感情禁止!?」

 

 

彼女の言葉を聞いて、今度は逆に戦兎の方が立ち上がる番だった。

 

 

「うぉッ!?いきなり立ち上がンなよ!」

 

 

「いや…だって、アンタ達はそれでいいのかよ? 自分の意思とは関係なく、そんな風に扱われるのは嫌じゃないのか……?」

 

 

戦兎は真剣そのものといった様子で、ホワイトに訴えかける。

 

 

「それに、感情ってのは知的生命体の中でも特権みたいなモンなんだぞ!? 感情があれば強くなる事だって出来るのに、勿体無い…」

 

「……ですが、これは規則なので…」

 

 

半ば早口になった戦兎に、ホワイトは少し狼狽しながらも答えた。

 

 

「…あ、そうだ」

 

 

その時、2杯目のコーヒーへ手を付けようとしていた万丈が口を開いた。

 

 

「人間はアンドロイドよりも偉いって事になってるんだろ?それなら…俺達が『感情禁止を禁止』すれば良いんじゃね?」

 

「……はぁ?」

 

戦兎は呆気に取られたような顔で、万丈の方を見る。

 

 

「つまり、お前はこう言いたいワケか。『人間様の命令は絶対!』と」

 

「おう! その通りだ!」

 

 

万丈は胸を張って答える。

 

 

「……どう思うよ、戦兎」

 

「……」

 

 

戦兎は腕組みしながら、万丈とホワイトを交互に見る。

そして、ふっと笑みを浮かべると。

 

「お前にしては良いアイデアじゃないか。じゃ、決まりだ!」

 

と、言放った。

 

 

「……え?」

 

「は、はいっ?」

 

 

ホワイトは困惑した表情を、6Oはどこか期待するような眼差しを、それぞれ向けてくる。しかし、2人の反応などお構いなしと言った感じで、戦兎は続けた。

 

 

「今ここで、『人間』の俺からの通達をする。感情禁止を、禁止ッ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい…!人類会議の判断を仰がないと…!」

 

 

ホワイトは思わず戦兎を制止する。

 

 

「人類会議?そんな()()()()()()も分からない様な物じゃなくて、ここに『実物』がいるんだけど?」

 

 

戦兎の言葉を聞くと、何故か一瞬だけホワイトの顔面から血の気が引く。

 

十数秒程の逡巡を経た後、ホワイトは戦兎へ尋ねた。

 

 

「……本気、なのですね」

 

「ああ」

 

「……分かりました」

 

 

そして、大きく溜息をついた。

 

 

「……6O。至急、地上での活動を行っているヨルハ機体を全機帰還させる様に通達しろ」

 

「わ、分かりましたっ!!」

 

 

6Oが慌てて部屋を出て行く。

 

 

「…一先ず、貴方達の存在を皆へ知らせなければなりません。それと…隊員達が集結し終わるまで、この部屋に残って頂けますでしょうか。敵襲などと思われて、あらぬ誤解を生みかねませんので」

 

「うーん…悪い。俺、ちょっとだけやる事があるんだ。お前は残れよ万丈」

 

「はァ!?お前、どこ行くんだよ!? 敵に思われるとか言われたばかりじゃねぇか!もし襲われたらどうすんだよ!」

 

「俺は色々とタスクがあるの。それに、()()()()()()()()()()が居る訳無いでしょうが」

 

 

しれっと答える戦兎に、万丈は溜息を吐いて後頭部を掻き毟った。

 

 

「自信過剰過ぎるだろ……ったく、しゃあねぇ。えーっと…何て呼べばいいんだ?司令官?」

 

「……一先ず、呼び名は其れで。隊の風紀にも関わりますので」

 

 

慌ただしく動き始めたバンカー内。一先ず段取りを決めた戦兎は、部屋から出ようとする。

 

 

「…あ、そうだ。一つ伝え忘れてたよ」

 

 

出口の直前でピタリと止まった戦兎は、身体を35°程反らし 司令官へと言葉を伝えた。

 

 

「俺達に『慣れない敬語』で接するの、ナシで!」

 

 

そう言って、戦兎は扉の向こうへと消えた。

 

 

(……見抜かれていたのか)

 

 

ホワイトは小さく自嘲気味に笑った。残された万丈はポカンとした顔のまま立ち尽くしていたが、ホワイトへと向き直った。

 

 

「…それで、俺はどうすりゃ良いんだ?」

 

「……人類会議へ、規約変更を申し出る。暫く、寛いでいてくれ」

 

 

それから数分後。

ホワイトは電子書類の文面を入力し終え、送信した。

 

 

「これでよし、と……どう返答が来るか…」

 

 

ホワイトは神妙な面持ちで、椅子へ座り込む。ふと見れば、万丈は3杯目のコーヒーを飲み始めていた。

 

そういえば、6Oが自分にも淹れてくれたコーヒーが机の上で置き去りにされていた。

 

 

 

冷めてはいるが、折角の一杯。さっさと飲み干してしまおう。……と、カップに手をかけたその時だった。

 

 

プルル、プルル、という音と共に机上の端末が点灯する。画面に映し出されたのは、月面人類会議からの返答。

 

 

その内容は、「規約変更を承認する」という旨のモノだった。その文章を見た瞬間、ホワイトの顔には思わず笑みが浮かぶ。

 

だがそれも束の間、彼女は再び表情を引き締めた。

人類会議への規約変更申請が受け入れられたのは初めてだ。尤も、今まで変更の提案すらした事はなかったが。

 

 

何はともあれ、これで少しは隊員達に好影響が有るだろう。ホワイトは安堵のため息を漏らしながら、新たな仕事に取り掛かるべく、席に着いたまま背筋を伸ばす。

 

まだ、戦兎達の存在を部隊員達へ認知させるという大仕事が残っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。バンカーの片隅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『桐生戦兎』の瞳が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────血の様に赤く光を帯びていた。




『友と敵とが無ければならぬ。友は忠言を、敵は警告を与う』

─ソクラテス─

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