蒼き夜に暁を、水平線に勝利を   作:黒っぽい猫

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久々にスラスラ書けましたよーー!!というわけで更新です。


第四話

自分はどこから生まれたのだろう?自分はどこへ行くのだろう?そんな事を、生まれたばかりの頃は考えていた気がする。今となっては最早考えることも無くなった純粋な疑問。殺すための兵器なのだと、自分を無理やり納得させて忘れたフリをしていたモノ。自分の生まれた場所、生まれた理由への疑問。

 

何も思い出せない自分でも、ただ一つだけ覚えていたことがある。自分が生まれる前にいた場所は暗く、冷たい場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄く目が開いた。まだ瞼は重い。体の節々が痛む。立ち上がろうとして、体が全く動かないことに驚いた。直前のことを少しずつ思い出すにつれて胸の内に微かな焦りが生まれた。

 

(あの人は──どうなったのかしら?)

 

最後に見たあの人は服の所々が焼け焦げ、腹部には血の跡があった。きっと鹿島と加賀は抑え込んだのだろう。

 

だが、この鎮守府での最強はあの二人じゃない。私の姉(天龍)だ。あの傷で、果たして彼は彼女に勝てるだろうか。

 

「そういえばここは……お湯の中?」

 

そこまで考えてようやく、私は自分の置かれている場所に目を向ける。緩慢な動きで周りを見渡すと湯気のせいか、あまり周りがよく見えない。

 

真上を見ると数字が書いてありカシャ、カシャと一定のリズムで数字が減っている。

 

「入渠施設かしら?」

 

「ああそうだ。目ェ覚めたみたいだな、龍田」

 

呟きに返答が帰ってきた。驚いて周りを見渡すと前方から影が歩いてくるのが見える。そして、その影は徐々にこちらに近づいてくると見慣れた人だった。

 

「てん……りゅうちゃん……?」

 

「おう、俺だ。ここは提督が妖精さん達に直してもらった場所なんだとよ。野郎はまだやる事がある、って言ってさっさと俺にお前を俺に預けてどっか行っちまった」

 

そう言うと寂しそうに笑って天龍ちゃんは私の横の浴槽に浸かる。

 

「まさか、またこんな綺麗な風呂に入れる日が来るなんてな。今度酒でも持って入るか」

 

「お風呂でお酒はダメよ〜?溺れるかもしれないんだから」

 

「別にいいだろー、隼鷹だって──」

 

自分でもその名前が出てきたことに驚いたのか、ハッとした表情を浮かべていた。私はその時代の隼鷹を知らないので何も言えずただ無言で天龍ちゃんを見ているとバツが悪そうに自嘲した。

 

「あぁ……そうだったな。アイツはもう飲まねぇか」

 

「天龍ちゃん……?」

 

「悪ぃ、龍田。久々に骨がある提督が来たからよ。昔みたいに考えちまった──ンなわけねぇのにな」

 

そう、実際はまだ何も変わっていない。恐怖による支配を体現していた鹿島達の体制が終わっただけなのだ。これからやるべきことが沢山ある。でも、それでも確かに変化したのだ。

 

「大丈夫よ、天龍ちゃん。きっと隼鷹もまたお酒を飲めるようになる」

 

もちろん根拠は無い。でも、きっとやってくれる──そう思わせる何かがあの人には確かにある。

 

「……信じましょう、提督を」

 

「ああ、そうだな…………それと、龍田」

 

一瞬だけ明るくなった後、顔に再び暗い影が差した。どうかしたのかしら?

 

「ん〜?どうしたの〜?」

 

「……悪かった、腕折っちまって」

 

「別にいいわよ、私たちはすぐ治るんだから。それに、万が一の保険のつもりだったんでしょ?」

 

見抜かれていた事が意外だったのかポカンと口を開く天龍ちゃん。珍しい間抜けな顔に思わず吹き出してしまう。

 

「バレてないつもりだったの〜?」

 

「……」

 

「わかるわよ〜、それくらい。私がなんで出撃も演習も許されないのか、なんであの二人の傍に置かれたのかを考えればね」

 

「……恨まねぇのか?」

 

「どうして〜?姉が自分の心配をしてくれたのにどうして恨む必要があるのかしら?」

 

その言葉にビクリと肩を震わせる。本当にこの人は──ゆっくりと身体を持ち上げて、戸惑う彼女の額に自分の額を合わせる。

 

「私たちは唯一無二の家族なの。だから、何をしようとしてるかなんて全部お見通しなのよ〜」

 

「龍田…………ありがとう」

 

暫くの間、私達はそのまま動かずにいた。二人の間にある繋がり()を決して忘れない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな所かな……?」

 

壊れた本棚を木材と金属に分別し、まだ使える本を横に積む作業もようやく一段落した。小さな欠片は妖精さん達がいつの間にか掃除し終えていた。

 

机と椅子は最初の加賀の爆撃によって木っ端微塵だったのでトラックに積んであったものを持ち込んだ。とりあえず最低限でも設備を整えない事には執務すらまともに出来ない。

 

幸いにも電気、ガス、水はしっかりと引けているし妖精さん達がそこも修理してくれていたので問題なく動く。お陰様で疲れた身体にコーヒーを飲むことが出来る。タバコも酒もあまり嗜まない僕だが、その代わりにコーヒーや紅茶をよく飲む。

 

「妖精さん達は甘いココアでいいの?」

 

『はい!!』

 

全員が頷くので専用のカップにミルクココアを少し温くして注いでいく。それぞれ専用のストローでそれを飲み始めるのをちゃんと見てからため息と共に伸びをする。

 

携帯を開いて驚いたのだが、もう僕達がこの鎮守府についてから三日も経っていた。今思えばこの短期間に随分と濃い体験をしたものである。天龍との初戦、直後に龍田に気絶させられ次は拷問だ。その後には三隻もの艦娘と戦闘。多分常人なら命が幾つあっても足りないだろう。

 

「それを考えると忌々しいこの体質にも少しは感謝しないとね」

 

付け直したバンダナの下に隠れた左目をそっとなぞる。と、不意にスマホが振動して着信を伝える。

 

「……?誰からかな」

 

こっちはプライベートで使ってる回線なので電話をかけてくる相手なんて居ないはずだが…………。

 

「はい、南雲ですが」

 

『私だ、恭介。三日も連絡が来ないから心配でかけさせてもらった』

 

「……悪ふざけはやめてください。公務的な話はちゃんと有効な回線を使ってくださいよ、元帥」

 

声の主に溜息をつきながらボヤくと快活な笑い声が帰ってきた。

 

『そう邪険にすることも無いだろう。お前をそこまで育てあげたのは私だぞ?』

 

「それとこれとは話が別です。確かに今となっては自分を保護して下さったことに感謝はしていますが出来れば艦娘に関わる仕事にはもう就きたくなかったのに…………」

 

『あー、それに関してはスマンと思っているが、仕方が無いんだ。頭の固い親艦娘派の連中がお前の更生を頑として認めなくってな……未だにお前の死刑を望む者も多い』

 

バツが悪そうに一段階小さくなった声で元帥はそんなことを言う。

 

「まあ別に、その事は良いですよ。済んだ事ですからね。自分が聞きたいのはもっと別の事──彼女達のことです」

 

百歩譲って僕がこの鎮守府に来ることになったこと自体は構わない。だが許せないのは此処の設備の悪さと艦娘達の姿だ。敢えて触れなかったが戦った三人も、龍田も痩せているように見受けられた。

 

「何をどうしたら本来人間に友好的な彼女達をあそこまで追い込めた?アンタ達は彼女達に一体何をしたんだ?」

 

『珍しく気が立っているか、恭介?』

 

「……まさか、自分に腹を立てる権利なんてありませんよ。自分だってきっとここの前任者の同類なのですから」

 

自虐気味にそう返すと暫くの沈黙の後、溜息が聞こえてきた。

 

『本当にお前と言うやつは……まあいい。その鎮守府についての資料は任務資料の中に混ざっている。目を通しておくといい。前もって言うならば、今回も結局我々(大本営)の落ち度だ』

 

「了解しました。こちらで確認します。それと元帥、この鎮守府全体を立て直すには些か資材が足りません。更なる充実化のために資金と資材をお願いできませんか?」

 

『ふむ……よかろう。明日までに送るよう手配する。他に当分先まで持つような食料品も送ろう』

 

「感謝致します」

 

その言葉にウム、と頷いたような音がこちらに聞こえると改めて威厳のある声で元帥は言った。

 

『では南雲 恭介大佐。引き続き該当鎮守府における任務を続行したまえ。次の定期連絡で吉報を聞けることを期待している』

 

「ハッ!失礼致します!」

 

こちらの事を向こうから見ることは出来ないが関係上は上司と部下。敬礼をして電話が切れ、三秒経過するまでその姿勢をキープする。それを終えれば今度は机の上の資料に目を通していく作業だ。

 

「この鎮守府の前任の事は──これか」

 

プリントを漁っていると数枚捲った先に『任務地についての報告書』という見出しのプリントを発見した。素早く手に取り内容を読んでいく。

 

そこにはこの鎮守府を代々管理してきた提督達の事が綴られていた。

 

まず初代提督、これはまだ大本営としてここが使われていた時期なので当時の元帥が指揮を執っていた。その後は本丸の場所が変わってもここは防衛の要とされ二代、三代と堅実な性格の提督が守っている。

 

この鎮守府の気色が変わるのは五代目提督の頃だ。五代目、つまり僕の前任者は駆逐艦を他の『艦娘隷属派』の鎮守府から引き取り『捨て艦』として戦艦や空母の身代わりとした他、戦果を挙げられなかった重巡に性的な暴行を行っていたそうだ。

 

それだけに留まらず、轟沈したと本営に報告のあった戦艦六隻のうち五隻が大陸に奴隷として売り飛ばされていたのである。思わず紙を破り捨てそうになるのを堪えて読み進めていく。

 

戦艦が居なくなれば、次は正規空母だ。元々ここに居た加賀はその際に抵抗し解体処分とされている。今この鎮守府にいる彼女はどうやらその後に建造されたらしい。

 

次々に積み上がっていく悲惨なこの鎮守府の背景にやるせなさがどうしようもなく積み重なっていく。どうして人は自分たちを慕う存在にここまでの仕打ちができるのだろう。

 

相手はただ生まれた場所が違うだけで自分たちと本質は何も変わらない感情を持った艦娘(人間)だというのに。資料を全て読み終えるとこの書類を金庫の中にしまい鍵をかける。

 

「さあ、次の書類を────あれ?」

 

気が付くと、妖精さん達によって机上の書類が綺麗さっぱり片されていた。慌てて机に戻ると飲みかけだったハズのコーヒーすらもどこかへ消えてしまっている。

 

てちてちと頬を叩かれ横を見ると肩にはいつの間にか妖精さんがいた。ふんす、とドヤ顔しながら妖精さんが言う。

 

「きょーちゃん、そろそろねなきゃだめ」

 

「せんとうしてから、もうにじゅうじかんいじょうやすんでません」

 

「これいじょうのむりはさせない、きょーちゃんたおれたらやだ」

 

「えぇ……そこをなんとか、あと六時間だけ」

 

『だめ!!!』

 

はっきりと拒絶されてしまった。どうやら彼女達はどんな手を使っても僕を休ませたいらしい。隅ではハンカチに例の睡眠剤を振りかけようと五人ほどで必死にビンを担ぐ妖精さん達が見えた。

 

そんな彼女達からビンとハンカチを取り上げながら苦笑いする。

 

「わかった、わかったよ。今は休むから無理やり僕を寝かせようとしないでくれ。但し、今日はイスの上で休ませてもらうよ。誰か来た時にすぐ反応したいからね」

 

若干不満そうにしていたものの、仕方ないと諦めてくれたのか、ふと顔を上げると妖精さん達は既に居なくなっていた。

 

「やれやれ……やることも無いし、寝ようかな」

 

椅子に深々と腰掛けて腕を組む。目を瞑るとやはり疲れていたようで早々に意識が深みに溶けていく。その心地よい感覚に身を委ねた僕は夢の世界に旅立つことにしたのだった。




登場させて欲しい艦娘などのご要望は感想などでボソッと呟いてくだされば検討しますのでどうぞお気軽にどうぞ!

ヒロインすらまだ未定ですから……ね()

いつも読んでくださっている方々に感謝申し上げます、ありがとうございます。

それではまた次回の更新で!アデュー!
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