皆城一樹は勇者に非ず 作:ここにいるもの
たくさんのものを失った。たくさんのものを奪われた。
それでも、残ったものがあった。
それでも、守りたいものが残った。
最後の仲間、大切な人、残った仲間の意思。
だからそれを奪われるかもしれなかったのが怖かった。
だから、俺は────。
☆★☆
病院の特別治療室、そこには二人の人物が意識不明の重体で横たわっていた。
一人は四国の勇者『高嶋友奈』。乃木若葉の独断先行とそれによる乃木若葉の危機を救うため動き、そして重傷を負った。
包帯とチューブに巻かれている姿が痛々しいものの、幸いにも命に別状はない。
もう一人は今は勇者たちと共に戦う戦士『皆城一樹』。高嶋友奈と同じく乃木若葉の危機を救うため動き、重傷を負った。
友奈とは違いチューブは巻かれていないものの、身体の見える部分には包帯が巻かれている。
一応、命には別状がないと言われているが、一樹には未知の現象が起こっているため友奈とは違い油断できないと言われている。
そして、そんな友奈と一樹をガラス越しで見ているのは勇者と戦士、そして巫女。
誰もがそれぞれ何を言って良いのか分からずに、静寂がこの場を支配していた。
だが、そんな静寂もすぐに壊された。
「……これ、が────お前の引き起こした結果だッ!!」
紅葉が若葉の胸ぐらを掴んで叫んだ。
その叫び声は普段の紅葉からは考えられない程の声で、それ故に紅葉の怒りが辺りに伝わる。
「何で、こんな事になったのか……、お前は本当に分かっているのか!?」
「……分かっている。私の突出と、無策が全ての原因だ……」
暴走と言っても過言ではない単独行動。それがこの結果をもたらしたのだと若葉は言う。
だが────。
「違う……違うだろ……ッ!!」
紅葉が胸ぐらを掴む力を強める。
「やっぱりだ! お前は……自分のそれがわかっていない! 一番の問題はお前の戦う理由だッ!!」
「戦う、理由……?」
「お前はいつも、いつも! バーテックスへの復讐のためだけに戦っている!! だから、怒りで我を忘れる! そして────自分が周りの人間を危険に晒していても気づいてすらいない!!」
それは、一樹と紅葉、翔子が気づいたこと。
一樹たち戦士は、若葉のような人を知っている。何故ならそれは死んでいった戦士の中で最も多かった者で、そして────最も仲間たちを危機に晒してしまった者でもある。
「今のお前は、勇者し────」
「言い過ぎよ、紅葉」
誰もが若葉を庇護することができない中で、ただ一人紅葉を止めるために動いたのは椿だった。
「それに、ここは病院よ。静かにした方がいいわ」
「そうね。乃木さんも今、反省しているようだしこれ以上は紅葉くんもシャラップよ」
椿と歌野が紅葉と若葉を引き離す。紅葉は椿の方を見て、すぐに目を逸らすとそのままそこから出て行った。
後に残ったのは凍りついた空気と、機械音だけだった。
☆★☆
勇者たちが全員、いなくなったそこで椿はただ一人、未だに目覚める様子のない一樹をガラス越しに見続けていた。
その瞳には薄っすらと涙が溜まっており勇者たちがいなくなるまで頑張って耐えていたことが分かる。
「……一樹」
椿がそっと呟く。その呟きは、当人にも、周囲にも響くことはなく、ただ椿の耳にのみ残っただけだった。
☆★☆
その時の私たちにあったのは、バーテックスを撃退した喜びではなかった。
誰かが犠牲になっていたかもしれないという現実。
それを受け入れるのに……みんな精一杯だった。