皆城一樹は勇者に非ず 作:ここにいるもの
紅葉と翔子が会話をした翌日、一樹と友奈が目を覚ました。
その連絡はすぐに勇者と戦士たちに伝えられその日の放課後には友奈のところには勇者たちが、一樹のところには紅葉と翔子が来ていた。
「もう大丈夫なのか?」
「あぁ、明日からは一般病棟の個室に移動らしい」
「そうか、なら良かった」
一樹と紅葉が話しているのを翔子は見ながら微笑む。
そしてしばらく話していると一樹は紅葉に違和感を感じた。
「なぁ、何かあったのか?」
「え?」
「いや、だって……」
楽しげに一樹が眠っていた間の学校生活のことを話していた紅葉に一樹は翔子を見る。
翔子は一樹の視線に気づくが何かを言うことはせずただ静かに微笑んでいる。
「……学校について、楽しく話してたからさ」
「…………」
一樹の言葉に紅葉は気まずげに目を逸らす。だが、それも数秒ですぐに一樹に目を合わせて言った。
一樹が眠っていた間のことを。一樹と杏がみんなに内緒で翔子のところに来ていたのを翔子自身から聞いたこと。翔子の病室で若葉たちと話し合ったこと。
そして────勇者たちと紅葉の間にあった確執がなくなったことを。
……あとついでに一樹がいない間の食事を勇者たちと共にしたことも。
紅葉の言葉を一樹は真面目に(最後だけは苦笑いになった)聞いていた。
「……そうか、紅葉は凄いな」
「そうでもないさ。俺はいつでも一樹と……羽佐間に助けられてばかりだからさ」
「でも、前には進んでる」
一樹の言葉に紅葉は……いや、紅葉と翔子は一樹の言葉にハッとした顔をした。
翔子と紅葉はその一樹の顔に既視感を感じ、それにすぐに思い当たった。
何故なら、それは紅葉が、翔子がたまにしていた顔。
戻れない過去を思い、現在から逃避して、現在よりも先にある未来から目を逸らしてきた紅葉たちと同じ、影のある顔を一樹はしていた。
しかしそれも一瞬、一樹はすぐにいつも通りの明るくもなく暗くもない顔に戻る。
「今度、勇者の人たちにお礼をしないとな」
「……一応聞くけど、何をする気だ?」
「…………料理、だな。それ以外はちょっとな」
料理と聞いて紅葉は納得する。一樹の料理の腕は派遣部隊の時から知っている。一樹の料理なら何も心配ないかっと思いながら紅葉はかつて作った自分の料理を思い出す。
野菜炒めを作ったはずが、出来上がった物は紫色に変貌し叫び声が聞こえてきそうな形容し難い何かだった。
箸でつまんでみればドロっとした感触が伝わってきて、口に入れればドロっとした見た目からは想像ができないしっかりとした歯応え、そして────思い出すのを本能が拒否するレベルの味覚に対する(不味さという意味での)暴力。
「……大丈夫か紅葉?」
「どうしたの春日井くん?」
一樹と翔子が紅葉に聞く。紅葉はそれになんでもないと答えようとするが、紅葉の顔を覗き込むように近くまで来ていた翔子の顔に驚き慌てて離れようとするが、椅子につまづき翔子を巻き込むように倒れてしまう。
三つのものが倒れる音が響く。一つは椅子だが残りは紅葉と翔子だ。
翔子を衝撃から守るように下になっている紅葉とその紅葉に覆い被さるように倒れた翔子。
それをベッドの上から見ていた一樹はその光景を何処かでみたような気がしていたが、やがてそれが杏に読ませてもらった少女漫画で出てきたものだと思い出す。
「……そういえば、あの続きって────」
一樹がその後の展開まで思い出そうとしたその時、バタバタと外から足音が聞こえてきた。
「「「大丈夫か(ですか)!?」」」
バンっと扉を開いて来たのは若葉と杏、球子の四国の勇者三人組。
三人はまず最初に、一樹を見てそしてそのまま視線が下のほうにいく。
……いってしまった。
翔子と紅葉の姿を見た三人の反応はそれぞれが別だった。
若葉はそれを見て呆け、球子はそれに顔を赤くし、杏は興奮状態に入った。
そして、紅葉が……いや、紅葉と翔子が三人に気づいた。それと同時に自分たちの今の状況を思い出した紅葉と翔子は二人揃って熟した林檎のように顔を真っ赤にすると慌てて挽回しようとした。
「……邪魔をしたな」
若葉がピシャッと扉を閉める。紅葉と翔子は慌ててその扉を開けて何処かへ行った勇者たちに追いかけて病室から出て行った。
「……変わったな、紅葉」
少し寂しげに、けれど嬉しそうに一樹はその扉を見てそうつぶやいた。
☆★☆
人は時間の中で変わっていく、成長していく。
一人の戦士は勇者たちと関わり、前へと進んだ。
変化し、成長した勇者たち。だけど、それに喜ぶ時間はなかった。
次の試練が四国に近づこうとしていた。