皆城一樹は勇者に非ず   作:ここにいるもの

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 夏が過ぎて、秋が来た。

 ここに来るまでに見つけることができたのは白骨化した遺体のみ。

「生存者なんてどこにもいないのでは?」と誰もが考え始めた時、俺たちの仲間の巫女が神託を受け取った。

 次の襲撃はこれまで以上の数のバーテックスが来るという神託を。

 告げられた神託に俺たちの心は折れそうだった。

 2年半の旅で、何とかやり繰りしてきた物資は半分以上がなくなった。

 戦える者も俺を含めて六人。今までの襲撃でもかなり厳しいのにそれを超える数のバーテックスに来られたら俺たちは全滅だ。

 

 

 ☆★☆

 

 

 今日、全員で集まって話し合いをした。

 話し合いの内容は四国へ逃げ帰るか、それとも諦めずにバーテックスの襲撃を耐えるか。

 話し合いは逃げ帰るべきだと言う人が半数。まだ、諦めずに戦うべきだと言う人が半数という状況で硬直状態になった。

 バーテックスの襲撃の日まであと1週間。

 何も進まないまま、ただ時間だけが過ぎていこうとしていた。

 

 

 ☆★☆

 

 

 話し合いを始めてから3日が経った。

 話し合いの結果を言えば、半数ずつに分かれることになった。

 半数は四国へと帰り外の状況を伝える。もう半数はまだ生存者がいる可能性の高い諏訪へ行くことになった。

 総士は四国へと帰る方を選んだ。四国へ帰って残りの帰りを待つことを選択した。

 俺は、諏訪へ行く道を選んだ。諏訪へ行き、生存者を探す方を選んだ。

 それぞれが自分たちの選択をした。そして、この日の夜は少しだけ豪華なご飯を食べた。

 全員が笑いあって、写真を撮った。

 これが最後になるかもしれない。もう生きて会うことはないかもしれない。

 そんなことを誰もが考えていた。けれど、この時間だけは……みんな心から笑っていた。

 

 

 ☆★☆

 

 

 翌日、俺たちは別れた。

 必ず生きて四国へ帰る、そう全員が誓って笑顔で別れた。

その誓いが果たされる可能性は低いと誰もがわかっていながら。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 

 そこは、地獄だった。

 空を埋め尽くすほどのバーテックス。そして、バーテックスに破られた結界。

 為すすべなく蹂躙される人々。目の前で今日まで一緒にいた人たちが消えて行く光景はそれを見ていた人たちに2015年の7月末のあの日を思い出させていた。

 だが、それでも残った人たちは生きることを諦めていなかった。

 何故なら、残った人たちは知っているからだ。今もなお一人の『勇者』が戦っていて、その傍らには戦う力のない『巫女』がその戦いを目に焼き付けていることを。

 だからこそ、残った人たちは諦めない。これまで守ってもらった自分たちが勇者よりも先に生きるのを諦めるのは違うとそう誰もが思っているからだ。

 そして、残った人たちが思っているのはそれだけではない。

 今もなお戦っている勇者を助けて欲しい。自分たちを守るために戦っている勇者を助けて欲しいという思い。

 目の前でまた一人、一人と人が消えて行く。

 

 ────残った人たちの思いは確かに神樹に届いていた。

 

 バーテックスが口を広げて次の獲物へとその顎門を閉じようとする。

 

 ────だが、四国から戦力は送れない。まだその時期ではないから。

 

 怯える子供を親が庇う。そして、来るべき痛みに備えてその瞳を強く閉じる。

 

 ────だが、四国以外にも戦力はある。意図せず力を得てしまった勇者とは違う戦う者たちが、四国の外にいる。

 

 いつまで経っても訪れないそれに親は困惑しながら顔を上げる。いや、その親だけではない。生存者全てがその顔を上げた。

 誰もが静かになったからか遠くから聞こえてくる音に誰もが気づく。

 かつては、その音が聞こえるのが普通だった。それが道を走ることが日常の一部だった。

 

「────車」

 

 誰かがそう言ったと同時にその車────正確にはバスだが────の屋根から何かが飛び出した。

 それは、人々を軽々と飛び越えると人々を狙っていたバーテックスをその手に持った槍で切り裂き、その先へと目にまとまらない速さで向かっていった。

 何が起きたのか、分からない人々の前にバスが止まる。そして、扉が開いた。

 出てきたのは4人の子供。その子供たちは全員がその手に毛布などを持って残った人たちを次々とバスの中へと誘導していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バーテックスが集中している場所。そこに、二人の少女がいた。

 一人はその手に持つ鞭でバーテックスたちを倒すこの諏訪を守ってきた勇者『白鳥歌野』。

 もう一人はバーテックスと戦う勇者の姿を目を背けることなく見守る巫女『藤森水都』。

 勇者である白鳥歌野は身体中に傷をつけながら、増やしながらもバーテックスに怯むことなく戦う。

 その姿に目を背けたくなるものの藤森水都は、それでも目を背けることなくその姿を目に焼き付ける。

 既に、この諏訪が滅びる未来は確定している。

 そんなことは勇者である白鳥歌野も、巫女である藤森水都も理解している。

 勇者である白鳥歌野の体力はこれまでの連戦でかなり消耗し、さらには一人では到底捌き切れないほどのバーテックスの数。けれど、勇者は諦めずに戦い、巫女はそんな勇者を見届ける。

 肩で息をする白鳥歌野。既に戦闘が始まって一時間以上が経過している。連戦に次ぐ連戦。何時、疲労の影響が出てきても何らおかしくはない。

 絶体絶命の状況。もはや、死の未来が近づいているのを白鳥歌野も藤森水都も察している。

 

 

 ────そして、その時が来た。

 

 

 白鳥歌野の手から鞭が離れた。バーテックスによって弾き飛ばされたわけではない。疲労による握力の低下とによる滑りにより手から離れていっただけだ。

 しかし、それは今この場においては致命的だ。なぜならバーテックスを攻撃する唯一の手段を失ったのだから。

 バーテックスが二人の少女へと群がっていく。もはや、二人の少女にはどうすることもできない状況となってしまった。

 

「──────」

 

 そう、二人の少女には────。

 ドンっと衝撃とともに何体かのバーテックスがその身体を不自然に揺らした。

 群がっていたバーテックスが少しずつ少女たちから離れていく。

 それと同時に少女たちとバーテックスの間へと何かが割って入った。

 

「────なんで、襲う」

 

 少女たちの耳に声が聞こえて来た。

 少し高めの、少年の声。少女たちの目には自分たちより少しだけ身長の高い少年がその手に槍を持ってバーテックスから少女たちを守るように立っているのが見えた。

 

「なんで人を襲う!なんで……、なんで殺すんだーーーー!!」

 

 一閃、それは少女たちを救うためか……。

 それとも、怒りに任せてか……それは、本人にしか、わからない。

 だが、少年のそれが2人の少女の未来を変えたことにーーーー変わりはない。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 笑いあえる友達がいた。

 いつも隣にいてくれる人がいた。

 家族が、友達が、親友が、たくさんのものが奪われた。

 もう奪われたくないと望み、手にしたのは奪われないための力。

 その力に代償があると分かっていても、俺たちはその力を使い続けた。

 かけがえのない今を、大切なものを奪われないために。

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