皆城一樹は勇者に非ず 作:ここにいるもの
諏訪の人たちの救助は、一日半かけて行われた。
その間、バーテックスと戦える力を持つ俺たちは休む時間を削り戦い、戦える力のない巫女たちや今は怪我と疲労で戦えない勇者が生存者を探し、バスへと誘導する。
時間がかかるのは当然だった。
救助できた人の数は勇者と巫女含め十数人。
それ以外の人たちは救助の途中でバーテックスに喰い殺されたか、誰かを守るために自分を犠牲にした。
早ければ、救えたかもしれない人がいた。
俺たちに力があれば助けられたかもしれない人がいた。
もっと頑張れば、『身代わり』という選択をさせなかったかもしれなかった。
救った人の数だけ、いや、それ以上に救えなかった人たちがいた。
そんな事は誰もが口にせずとも分かっていた。
それでも、今は救えた人がいたことを喜ぼう。
そうでもしないと挫けそうになるから
☆★☆
四国へ向けて移動してから一週間がすぎた。
激しくなっていくバーテックスとの戦闘で思うように進むことができなかった。
食糧、薬、弾薬……数に限りがあるものは日に日に減っていき、このままでは長く見積もって三週間……短く見積もって一週間しか保たないと大人たちは言っていた。
一週間、その時間の短さに大人たちに焦りが出始めた。
いや、焦り始めたのは大人たちだけじゃない。
俺たちにも……焦りが出始めた。
☆★☆
一週間経った。
バーテックスの襲撃はより激しくなり────ついに、俺たちの中から戦えなくなった者が現れ始めた。
目が紅くなり、身体がうまく動かなくなる。
俺たちがいずれ辿ることになる末路がそこにあった。
大人たちは戦線から外し、今できることをやった。
それから、2日。
そいつが────居なくなった。
☆★☆
一人、居なくなった。
それは、戦っている俺たちだけでなく救助した諏訪の人たちにも大きな衝撃を与えた。
勇者と違い、神に選ばれず『偶然』力を手にした俺たちの末路。それを知り覚悟していた俺たちと違い救助した人たちはそれに『絶望』を感じてしまった。
それでも、誰も諦める事だけはしなかった。
☆★☆
3日が経った。
四国へと通信ができるようになった。
大人たちは大社の人たちに今の状況を伝えた。
誰もが、ゴールが見えて来たことに喜びを隠せなかった。
四国と本州を繋ぐ大橋が遠目に見える。
俺たちの旅の終わりが近づいていた。
☆★☆
ビービービーと忙しなくアラートが鳴る。
煩いと本来なら誰もが思うが、今の彼らにはそう思う事はできなかった。
窓から見えるのは空と数えるのも馬鹿らしくなるほどのバーテックス。
そして、それらからみんなを守るために戦う勇者たちの姿。
一瞬でも気を抜けない状況。だが、四国まであと少し。
「……絶対に、生きて帰るんだ」
バスの前から来た数十体のバーテックス。それを一人の少年があっという間に倒す。
身の丈ほどある槍と左手に持つ銃を巧みに操り、バスの進路を切り開く。
「一樹! もう道は切り開かなくていい!」
「分かった!」
道を切り開いていた一樹に向けてバスの上でバーテックスを銃撃していた一樹と同じくバーテックスと戦える力を持っている少年春日井紅葉は一樹に暗に他の場所で戦ってる奴の援護に迎えと言う。
一樹はその言葉に答えると紅葉の後ろに迫っていたバーテックスを槍で切り裂き、バスの後方へと向かっていく。
目指すのはその後ろで戦っている勇者たちのもと。だが、その途中で一樹の目には不自然なものが映った。
黒煙だ。
一樹は少し思考し、結果勇者たちの援軍に行くのをやめてその場所へと向かった。
木々の上を駆け、黒煙の発生源に辿り着いたと同時に一樹の顔が強張る。
黒煙の発生源はバスの残骸だった。だが、それだけなら一樹は顔を強張らせはしなかっただろう。
一樹の顔が強張った原因。それは、そのバスの残骸の周囲にあった。
自分たちがよく知る銃、槍、剣が散らばっていてさらにはその周囲には赤いシミが出来ていた。
「……」
一樹がそれに近づこうとした時、何処からか呻き声のようなものが聞こえてきた。
一樹は、その声の位置へと身体を向ける。そこにあったのは同じく赤いシミ。けれど、それは草むらの陰に隠れるように続いている。
一樹は走ってその跡を追って行く。そして、そこに辿り着いた時、一樹は息を呑んだ。
「……総……士……」
そこには、皆城総士がいた。
右足がなく、かろうじて両腕がつながっている状態。
――――生きているのが不思議なほどの重傷を負った。
「……一樹か」
「総士!」
総士の声に一樹はしゃがんで応急処置を施そうとするが、それを総士は拒否する。
「何で!」
「無駄だ。もう、僕は助からない」
「助かる! 絶対に助かる! だから────」
「……無駄なんだ。一樹」
何処か、悟ったような声で一樹に語りかける総士に一樹は違和感を抱きながら総士の顔を見て────固まった。
総士の、目が紅くなっていたのだ。いや、それだけではない。
総士の左目を覆うように結晶が現れていたのだ。
それを一樹は、よく知っている。
一樹たちが戦い続ければいずれ辿り着く末路。自分たちがバーテックスと戦う力を使う代償、それの末期症状だ。
末期症状の手前までであれば延命の処置が今はできる。しかし、末期症状であれば話は別だ。
今の、一樹にも、大人たちにも、四国にも末期症状はどうすることもできない。
――――皆城総士がいなくなることは確定してしまっていた。
「……一樹、椿を、頼む。お前も……知っての取り、あいつは……寂しがりや……なんだ。――――それと」
「止めろ、止めてくれ、総士。頼むから、いなくならないでくれ……っ」
「……あとは任せた。希望を――――」
総士が自分の端末を一樹に無理矢理渡す。それと同時に結晶が左目を中心に総士の身体を全て覆い尽くす。
そして、一樹の腕の中でその結晶は砕け散った。
その光景はまるで花が散っていくみたいで――――。
一樹の腕の中には、何も無くなった。先ほどまであった血の感触も、温度も、重さも。
全てが無くなった。
「……総……士……っ。総士……っ!総士ぃぃぃぃ!」
一樹の慟哭が周囲に響く。それに反応してか、バーテックスたちが向かってくる。人を容易く殺す牙が一樹を捉えようとするがそれよりも早く一樹の槍がバーテックスの身体を切り裂いた。
「………………せ」
銃弾がバーテックスを打ち抜き、槍がバーテックスの身体を貫き地面に叩きつけられる。
「………………えせ」
一体一体では勝てないと悟ったのかバーテックスが一斉に襲いかかる。だが、槍が、銃弾がその全てのバーテックスを蹂躙していく。
「…………返せ、みんなを────総士を返せぇぇぇ!」
一樹の叫びが周囲一帯に響き渡った。
☆★☆
交わした約束があった。
生きて、四国で会おうと約束した。
けれど、その約束は二度と果たされることがなくなった。
それに対する悲しみが心に残った。
でもそれ以上に大切な友達を殺された怒りが止まらなかった。