皆城一樹は勇者に非ず   作:ここにいるもの

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 誰よりも信頼していた家族だった。

 誰よりも仲の良かった友達だった。

 俺よりも、生き残って欲しかった奴だった。

 何で、何で、お前がいなくなったんだ。

 何で、俺じゃないんだ。

 何で、総士が、いなくなったんだ。

 何で、俺じゃなくて、総士がいなくなったんだ。

 

 

 

 ☆★☆

 

 

 黒の影が戦場を駆け巡る。

 人としての限界を超えた速度、跳躍。

 出鱈目な速度、跳躍を繰り返しバーテックスを消していく。

 その光景は、四国まで無事にバスを送った紅葉。橋の前でバーテックスを抑えている歌野と同じくそこで戦っている一樹たちと同じ存在である『羽佐間翔子』と『西尾輝』の四人が見ていた。

 

 ────春日井紅葉はその光景から『怒り』を感じ取り。

 

 ────白鳥歌野はその光景から深い『悲しみ』を感じ取り。

 

 ────羽佐間翔子はその光景に不安を感じ。

 

 ────西尾輝は一樹らしくないそれに嫌な予感を感じ取った。

 

「総士を────返せぇぇぇ!」

 

 一樹の振るった槍から青白い閃光が遠くにいたバーテックスを薙ぎ払い、近くまで来ていたバーテックスは反対の手に握っている銃から放たれた銃弾によって地に落ちる。

 一騎当千とはこのことを言うのかと、紅葉たちは思うと同時に疑問に思った。

 これまで、一樹の戦いは見てきたがあそこまでの力は無いはずだと。

 一樹自身、高い身体能力と動体視力を持っているがそれでもあんな戦いをするところは見たことがない。

 いや、それ以前にそもそも一樹や紅葉たちのような勇者ではない者たちにあそこまでの力は無かった筈だ……っとそこまで紅葉が考えた瞬間、紅葉は嫌な予感を感じ取った。

 それが、何なのかは分からない。けれど、これ以上一樹を戦わせてはいけないと漠然とした予感が、確信があった。

 だからこそ、声を出した。

 

「……止めろ一樹! それは、駄目だぁぁぁ!」

 

 一樹に群がっていくバーテックスを銃で撃ち落としながら一樹へと近づいていく紅葉。

 急げ、急げと。このままでだと取り返しがつかなくなる。そんな予感に押されるように。

 だが、その足は紅葉の意思に背き、突如、止まってしまう。

 脳裏に響く鋭い痛みが、身体全体がまるで自分のものではないかのような感覚が紅葉に襲い掛かったのだ。

 

「……なに……が……ぁ……?」

 

 紅葉が自分の端末を操作して、その途中で止まる。

 それもそうだろう。端末の画面に映ったのは自分の顔と、紅く染まった右眼。

 それが意味するものを紅葉は知っている。そして、それは紅葉だけではない。

 翔子も、輝も、同じ時、それぞれの場所で同じ現象が起こっていた。

 それは、四国に来るまでの戦闘による反動。

 それは、自分たちの命の刻限。

 自分たちの存在が無くなる前兆だ。

 

「……俺がこうなら……一樹もっ!!」

 

 紅葉が慌てて一樹の方を見る。

 すると、一樹も跳んでる最中にそれが出たのか空中で身体がフラつきそのまま地面に落ちていくのが見えた。

 紅葉は痺れてきた自分の身体に鞭打ってそこへ行こうとするがその時を待ちわびていたかのように紅葉の近くにいたバーテックスたちが紅葉たちを喰い殺すためにその顎門を開けて近づいて来る。

 

「まだだぁ!!」

 

 だが、紅葉を襲おうとしていたバーテックスたちはそんな声とともに消え去った。

 

「まだだ、まだ……俺は……戦える!」

 

 紅葉の目に、身体から結晶が生えてそれでもなお戦おうとする一樹の姿が映る。

 

 ────行くな、一樹! 

 

 今すぐ紅葉はそう叫びたかった。けれど、口がうまく動かない。いや、口だけではない。身体も痺れて動けない。

 大人たちから話で聞き、自分たちも実際に目の前で見た末期症状だが、実際にそれを体験すると辛いものだ。

 

「……まだ、やれる! 俺は……まだ……やれる……ッ!」

 

 一樹の口から出る強い意志の叫び。すると、一樹の身体から生えていた結晶が砕け散る。

 砕けた結晶を背に一樹が加速する。

 向かう先はバーテックス。それも、不自然に数が集まっている場所。

 そして、完全に一樹の姿が紅葉の眼から消えると同時に四国の方から五つの影が飛び出した。

 それに、紅葉も一樹も、誰もが気がつかない。

 ただ、それに気づいたのはバーテックスのみだった。

 

 

 ☆★☆

 

 

 命の刻限が近づいていたのが分かった。

 感覚のなくなっていく身体、身体から出て来る結晶。

 自分がどこにいるのか分からなくなる感覚。

 このまま、戦い続ければ自分がいなくなる。

 その先に待つのが、自分自身の喪失だと知っていながら。

 大切なものを失ったという悲しみと、それ以上の怒りで戦うことを選び続けた、。

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