仮面ライダーエデン‐EDEN‐   作:あかLemon

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脱走を試みた千葉空斗は、2匹のスパイダーケルビムに包囲される。決意の変身でそれを救出する夕樹だが、ある男に命を狙われる。

今話の執筆/あかれもん



第2話 開戦/それは避けられぬもの

「変身!」

その計算され尽くした床の模様が、シグナルを押し込む拳に呼応するように決壊し、大噴射を起こした。

天高く打ち上がった水柱が夕樹を荒々しく包み込む。

ピチピチと活きの良い大魚にも見える水柱は、徐々に角張っていき、夕樹の肩、肘、膝に刺々しく突き出したパーツを形成した。

獲物の全てを噛み砕くには十分すぎるほどに鋭利なクラッシャーを獲得し、鱗模様のアーマーが各部位に装着された。

荒波にもまれ、夕樹はついに水を操る紅き戦士、仮面ライダーグライズに変身を遂げた。

夕樹はその異形な姿を自覚するよりも先に、出口を糸で封鎖し始めたスパイダーケルビム達に飛びかかった。

「でやっ!えいっ!」

8本脚を突き立てながら動くスパイダーだが、その見た目に反してなかなかにすばしっこい。何も考えず格闘で押さえつけに行ったが、初めの数発は確かに感触を覚えたが、徐々に蜘蛛の糸で制止されるようになった。

「くっ!こいつ、対処がめんどくせぇ!」

そうこう言っている間に、1匹のスパイダーが、千葉の首元に糸を巻きつけはじめた。

「うがぁ!た、助けてくれぇ!う、くぅ...」

「わーちょっ!待て待て待て!」

グライズは応戦していたスパイダーの足を跳ね除けると、千葉の首に絡みついた糸を処理しはじめる。

幸いにももたつく程複雑な絡み方はしていなかったのだが、千葉を救出して彼には確実に隙ができた。

背後を取られ、2匹のスパイダーに包囲される。

「げ、どうすりゃいいんだ...!」

落とした視線に、ふと左の腕時計、エデンウォッチが紛れ込んだのは、つくづく彼がラッキーボーイ的なところがあるのを象徴した。

「確かこの時計を押せば...」

右手で軽く液晶に触れると、電子音が鳴った。

[ウェポン:グライズ・カリバー]

グライズが右手を開くと、水が突然白銀の剣・スプラッシュライザーに変形した。

スプラッシュライザーを振りかざし、左右のスパイダーの脚を次々と切除していく。

右側のスパイダーの腹部に潜り込み、剣を突き立てて爆散させると、そのまま滑り込むようにもう1匹にロックオンした。

「へー。やっぱりそれなりの戦闘センスはあるのね」

神谷の感心が夕樹に聞こえているかどうかといえば、Noだった。

スパイダーの心臓にカリバーを突き刺す。

「ふんすっ!」

少し間があってから、勢いよく腕ごと引き抜いた。

蜘蛛の断末魔が見えるよりも早く、それはバラバラになって、やがて粒子としてどこかへ漂っていった。

 

「はぁ、はぁ、やった...のか...」

スプラッシュライザーをゆっくり地面に置いた。

「た、助けてくれてありがとう!」

千葉が必死の表情で言ってくるのに、軽く微笑みかけて、おう、とだけ返した。

そして改めて周囲を見回すと、笑顔で拍手を与えてくれる者がいた。五篠ミナトは、本当に助かった、よくやってくれたと繰り返し言いながら、夕樹を讃えた。そんな中でも、真剣な顔つき、中には殺意の類を示す者もいた。

「へー。兄ちゃんやるねぇ。...んで、怪人を2匹も殺ったってこたぁ、当然そんだけ君の寿命も増えてるってこった」

織田登午に指摘されて、思い出したようにエデンウォッチを見る。たしかに夕樹のコアは5個増えて、18個になった。今26歳の夕樹が、18個のコアを持っているということは、90年の余命、つまり116歳という超長寿人間になったことを示していた。

「俺は君のコアの数を把握しているわけとは違うから、君があと何年生きられるか知ってるわけじゃないが...さっきのバケモンから貰った分くらい、貰ってもいいよねぇ?」

「...あんた、正気か...?」

織田の目付き...ガチだ。殺しにくる気満々だ。夕樹はとりあえず説得しようと試みる。

「どうせここで逃げようたって、さっきみたいなのが俺たちの逃げ道を塞ぐんだ。だったらもう俺たちに退く道はない。こうなったらサバイバルするしかないだろってこと」

「待て、俺はあんたとやる気はないんだ、ほ、ほら...それに、これから初変身になるあんたより、俺の方が有利だ。そう思わないかい?なぁ、とりあえずここで殺りあうのはやめようぜ...」

相手に不利だと思わせることが自分が助かる最も安全択。その考えが織田の神経を逆撫でしたのは当然のことだ。

「てめ!人助けしていい子ぶってても、そうやって自分だけ美味しい思いして逃げる気か!しょうもねーやつ!」

「おい、マジで勘弁してくれよ...」

「ほら、覚悟しろ」

織田はおもむろにシークエンスシグナルを取り出し、夕樹に見せつけた。

そしてエデンドライバーに装填する。

「待て!まじで後戻り出来なくなるぞ!変身して不利益被るのは俺だけで十分だ!なぁ!待て!待つんだ馬鹿!おい!」

「変身!」

夕樹の制止むなしく、織田は力強くシグナルを叩き、変身シークエンスに入った。

床を突き破って猛牛が現れ、織田に突進する。織田の肉体が紺色に覆われ、逞しいツノが特徴的なパワーファイター、仮面ライダースラビに変身した。刹那、肩のツノ=スクラップホーンを前方に向けて、急速に突進した!

「う、うわぁぁぁぁ!」

スラビに激突し、グライズは館のシックな壁を破壊してだいぶ後方に突き飛ばされた。

参加者一同は、その光景を目の当たりにして唖然とした。しかしながら、織田という男の言う通り、ここに我の逃げる道などはもうないことを受け止めた者もいて、そういう輩は伝染するように増えていった。

「我々もやり合うしかないのか」

リオン・テイラーが呟くと、朝岡聡が一歩前に出て、提案した。

「しかし、あの男、橘川とか言ったか?あいつは怪人2匹分のコアを手に入れている。まずはあいつの得たコア分俺達も蓄えておくのが正攻法かもしれん」

「では、私たちはここでは一旦手出しせず、ひとまず怪人退治と行きましょう」

蛭間藍華の声に反発するものは、この中にはいなかった。

 

グライズとスラビは、山奥へと戦場を遷移していた。

「ちょっと待ってくれって、俺は人を救う目的以外で変身する気はない!怪人分のコアなんて欲しくもなんともないんだよ!」

「嘘をつくな!偽善者め!」

「こんな寿命貰ったって嬉しいもんか!早死はしたくないけど、1人だけ馬鹿みたいに長生きしたって退屈するだけだ!...そうだ!へ、変身解除!変身解除に追い込めばお前は3コア俺から奪えるはずだ!さっき俺が得たのは5コア!ここで俺を変身解除にすれば俺より多い取り分になるんだぞ!ひとまずそれで勘弁してくれないか!」

「いいや、殺させてもらう。ほんとに5コアしか貰ってないって確証がどこにある?」

右肩のホーンを伸ばし、グライズを大木の幹に突き刺した。

「うがァァァ!...っくっ...」

グライズの左肩、ホーンが突き刺さった部位から、徐々に血が滴り始めた。震える右手でぐっと掴んで、ゆっくりと引き剥がし始める。

「ふぐっ!う、ぐわぁぁ!」

引き抜いた途端、洪水のように血が溢れ出し、グライズは空気の抜けた風船のように力なく倒れた。

それでも死には至っておらず、意識があるのはスラビにも確認できた。

「おうおう、もう限界か。んじゃ、コアをたーんといただくぜ」

スラビの鉄槌がグライズをあの世に送らなかったのは、後方から猛スピードで現れたウサギの仮面ライダー、レプスが、夕樹を救出したからだ。野原を駆け回る兎のように、目にも止まらぬ速さで、夕樹を抱えてさらに奥の方へ吸い込まれていった。

呆気にとられたスラビだが、その直後に、男の悲鳴を聞いた。

「た、助けてくれぇ!怪物だ!」

「怪物...?ほう、んじゃ、怪物退治もして、あわよくばそいつも殺せば...ふふふ」

織田は、声がした東の方角へと進軍した。

 

「アンタ、5johの若社長じゃねーか」

3匹の熊型怪人ベアーケルビムに囲まれていたのは、ミナトだった。

「私にはどうすることも出来ないんだ...た、助けてくれないか!」

ミナトは青ざめた表情で懇願した。

「社長さん、人に物を頼む時ってのは...わかってんね?それなりの報酬はいただく」

両肩のホーンを伸ばして左右のベアーを制し、ウォッチをタップして長く鋭利な爪を持つ武器・スクラップサックを召喚。

前方のベアーに引っ掛けた。

ホーンを剥がし、左右のベアーに交互に攻撃していく。

1vs3の戦況を容易く乗り切り、むしろ完全優位に立った。

「手っ取り早く終わらせてやる!」

ウォッチをタップして、どっしりと構えた。

[スラビ・ピアッシング・エンド!]

肩、膝、頭部、そして背中のバインダー、全身のホーンが自在に伸びて、3匹のベアーに容赦なく襲いかかった。

一瞬でズバッ!と対象を貫き、数本の木々がそのまま倒壊してしまった。

11個あった織田のコアは、9個増えて、20個に到達。

ここで続けて、ウォッチに通達が入った。

一斉送信だ。

「全プレイヤーの参加承諾を確認しました。館でお伝え出来なかったため、1stステージの規定コア数を発表致します。規定コア数は25個とし、期限はただいまより240時間と致します」

この通達を見て、自分が規定コアに達するにはあと5つのコアが必要なのが確認できた織田は、次の標的を考えていた。

「あ、ありかどうございます。一企業の社長がこんな体たらくで、申し訳ない」

ミナトは、一瞬意識が別のところにうつっていた織田を引き戻すように語りかけ、

「50万円で流して貰えますか」

と提案した。織田は快諾した。

「おう。ところで社長さんは、なんで変身しなかったんだ?」

「これを見てくれるか」

ミナトが差し出した左腕には、エデンウォッチがはめられていて、その液晶を見ると、織田は驚愕した。

「コアが3個!?アンタ、1回変身解除に追い込まれただけで即死じゃねーか!」

「その通りだ。だからもし変身して変身解除されれば死んでしまう。それに変身したとして、長丁場になってコスト切れでも起こせば、もうこちらに勝ち目がない」

「だからアンタ、さっきあの男が千葉ってやつを助けた時、あんなに褒めたたえててたんだな?」

この情報は、織田にとってメリットしかなかった。コアが3つしかなく変身そのものにリスクを背負っているミナトを、ボディガードとして守れば、自分は二人分のコアを実質独占できるし、その度にミナトから報酬が貰える。

こんなに自分にとってうまみしかないビジネスがあろうか?いや、ない。

織田は言い放った。

「しばらくの間協力してやる。俺が規定コア数に達してからは、トドメをアンタが刺すようにすりゃ、アンタにもコアが行き渡る。その代わりその分俺に報酬をよこせ。これで共に2ndに進む。どうだ?そっちに拒否する要素なんてないと思うがね」

「ああ。実においしい」

ミナトと織田は、かたく、しかし不気味な握手を交わした。

 

「君だったのか、助けてくれて感謝するよ」

夕樹を救出した仮面ライダーレプスは、千葉が変身したライダーだった。

2人は薄汚れたベンチに腰掛けて傷を癒していた。

「いやいやとんでもない。感謝したいのはこっちだよ。君のおかげで僕は一命を取りとめたし、こうして今君に感謝してもらえるのも、君が僕を助けてくれたからに他ならない」

「どうも嫌な雰囲気が漂っていたからね。君のように人当たりのいいヤツにあえて嬉しい」

夕樹は安堵からの笑みを浮かべて、千葉が渡してくれたブラックの缶コーヒーを飲んでいた。

夕樹は苦いのはあまり得意でなくて、本当だったらミルクセーキ辺りだったら嬉しかったのにな、というのはあえて口にしなかった。

「君を襲ってきた、あの織田ってやつ。あいつはかなり強欲でヤベー奴だってのを聞いたことがあるんだよね」

千葉の言葉に、目を丸くして、夕樹は食いついた。

「どういうことだ?」

「ああ。普段はお茶目で気前のいい、近所のサラリーマンといった風を装っているけど、出世欲にまみれていて、その分嫉妬心も強い。自分の障害になると踏んだやつを、ありもしない噂話を立てて左遷させたりしたって話」

「そりゃとんでもないクズ野郎だな。けど、なんで君がそんなこと知ってんだ?」

「それはね...」

言いかけたところで、ガサガサ、と物音がして、千葉は反射的に口を塞いだ。

「人の陰口やら噂やらってのは良くない事だねぇ。アンタ、さっき俺の大切な狩りの時間を良くも邪魔してくれたなぁ!」

スラビだ。生身の千葉に襲いかかる。千葉は咄嗟に変身し、応戦した。

しかし、先程のようにレプスはいいようには立ち回れない。

的確に脚を狙われ、スピードバトルに持ち込めない。

「クソっ!ぐわぁ!」

スクラップサックを顔面に受けて、激痛が走った。

「この卑怯者め!変身!」

夕樹がグライズに変身し、不利に立たされたレプスを援護した。

「1vs2とか、そっちのがよっぽど卑怯だろうが!」

ホーンを上手く活用しながら、なんとか対等に渡り合うスラビ。

「このままじゃ埒があかねぇ!」

スラビは必殺技のスタンバイをした。

[スラビ・ピアッシング・エンド!]

「死ねぇぇぇぇぇ!」

全身のホーンで2人まとめて手にかけようとする。が、2人は間一髪回避した。

「先に退散しろ千葉!俺が止める!」

「橘川君!...分かった、頼む」

「諦めろ織田!」

グライズはウォッチに触れて、右脚に力を込めた。

[グライズ・スプラッシング・エンド!]

水柱に乗って高く舞い上がり、押し寄せる波に身を委ねる。

「ハーァッ!セイヤぁぁぁぁっ!」

荒波と共にグライズのキックが命中し、スラビは文字通り破竹の勢いで吹き飛んだ。

「ふぅ、ひとまずこれでいいだろう。」

夕樹はコアの数に変動がないのを確認して、千葉を追いかけるように西に進んだ。

 

吹き飛ばされて全身に傷を負った織田は、スラビの姿のまま、フラフラと歩いていた。

「ハァ、ハァ、ハァ...ちくしょう、ちくしょう...」

満身創痍の体を引きずりながら、木を頼りに戻るべき場所へゆっくりと進んでいく。

ついには木を使って立つことも出来ず、情けなく這いつくばった。

「ハァ、ハァ。社長さん...」

ミナトを視界に捕らえ、彼の左足を掴む。

「お、俺...立てねぇや...ちょっと、木代わりに掴ませてもらえやせんかねぇ...ハァ、ハァ...」

しばらく無言で見ていたミナトは、やがて口を開いた。

「...触るな、下郎」

「なっ!?」

スラビの手を振り払うと、そのまま右足で彼の頭部を蹴り、グリグリっ、と踏みつけた。

「貴様の護衛なんぞ必要ない。金で貴様を雇うくらいなら、私が戦った方が安いし早い」

「ど、どういう...意味だ?」

「もう貴様は用済みだ。なあ下等サラリーマンよ。最小限のデメリットで最大級のメリットを生めたら、最高だと思わないかい?」

そう言い放つと、ミナトはシグナルを取り出してドライバーに装填した。

大きく胸を張り、ゆったりと、時計の針を巻き戻すように左腕を掲げ、顔の前にかざす。

「変身...。」

そのまま左手でシグナルを押し込むと、

赤い鷲、そして漆黒の鴎が天から地からミナトを囲い、その翼で彼を包んだ。

天・地・海、全てを制す黒いライダー、仮面ライダーイージスがここに誕生した。

イージスは織田の首を掴んで起き上がらせると、拳を顔面に打ち込んだ。

織田の歯の数本が欠けていく音が、マスク越しにもイージスにしっかり伝わったし、その音と共に織田の意識が遠のいていくのもはっきり分かった。

「しぶといやつめ」

イージスは今一度右の拳に力を集中させた。

次の一突きが腹部に食いこんだ途端、スラビは完全に抜け殻となった。

ドサッ、と地に伏したスラビから、もはや呼吸は聞こえない。

息の根は止まった。

スラビの体が徐々に粒子化し、むなしく飛散した。

織田の姿になることは二度となかった。

ミナトのコア数は、23個に増えていた。

「これがビジネスです。身をもって知っていただけましたか?来世に期待していますよ」

 

織田登午、死亡。残り7名。




今年1年ありがとうございました!
3話は1月頃になる見込みです。3、4話は執筆者が交代します。僕とまた違う作風をお楽しみいただけるかも?ご期待ください。
良いお年を!
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