発進シークエンスを終えたSOKOKURAは愛知県の沖合い40kmのところで艦首を東京湾に向けて停止した。
「SOKOKURA指定エリアに到着しました」
「よし。このまま奴等が来るまで待機だ」
「了解」
艦橋の一番高いところにある艦長‥‥‥社長席に隆文はいた。
「準備万端だな。何か動きがあるまで下がっておけ」
「はい」
社員を下がらせた隆文の脳裏に浮かぶのは最近連絡がとれていない息子、隆彦のことだった。
「今何をやってるんだお前は。学園にもいないというし企業連に聞いても「答えられません」としか言われない。不安だ‥‥‥」
しかし口に出したところで違和感に気がついた。
「ん?「知りません」じゃなくて「答えられません」か‥‥真実を伝えない事はあっても嘘は言わない企業連だ。まあ大丈夫‥‥‥だろうな」
彼の放った言葉は誰にも届くことなく消えていった。
日本IS部隊
「まさかISでダイビングをする日が来るなんてね」
「デコイと合わせれば発見される可能性は限りなく低いわ。ただし詳細が分からない相手だから何かあったらすぐに離脱すること。いい?」
「了解です」
日本のIS部隊は有澤重工のAFに向けて密かに水中を行動していた。彼女等の言ったデコイとは空中を高速で飛ぶレーダーの反応だけは強い無人の飛行機である。他国が超高速による強襲を行い、それが有効だったことを踏まえた作戦である。しかし、超高速でも撃墜された例もあったためこのような作戦となった。
有澤重工side
「敵機確認!マッハ2.5にて本艦に接近中!」
「総員持ち場に着け!対IS戦闘用意!」
カーンカーンカーンカーン
号令と共に鳴り響く鐘。それと共に閉められる戦闘に関係ない区画の隔壁。船内は一気に慌ただしくなった。
「数は!?」
「右舷から2機、左舷から5機来ます!」
「狼狽えるな!側面のガトリンググレネードを使え!」
「了解!ガトリンググレネード、自由射撃開始!」
SOKOKURAのレーダーはあまり高性能ではないため敵機を捕捉し、戦闘用意を整えた時にはかなり接近していた。
「敵機のミサイル発射を確認!」
「敵機だけを狙え!ミサイルごときでSOKOKURAは沈まん!」
ドガガン!
音と光だけがあった。ミサイルが着弾したSOKOKURAは揺れさえ起こらず、着弾地点が少し煤けた程度であった。
「損害ほぼ皆無!」
「我が社の装甲を甘く見るな!」
ヴーーーーーーーーーーー
その頃外では射程に捉えたガトリンググレネードが対空射撃を開始していた。連続で爆発するグレネードの爆炎と煙でSOKOKURAが見えなくなる程であった。
「敵機全て撃墜!増援認められず」
「よし。状況終了だ。まだISが来ていないから警戒を怠るな」
「了っ!」
「どうした!?」
「なぜ気がつかなかったんだ?魚雷です!数は6本!左舷から来ます!命中コースです!」
「総員衝撃にそなえぇぇぇぇぇ!!」
ドン!
鈍く響く音は魚雷が命中したことを示していた。
「報告!」
「左舷の装甲が凹みました!他は特に異常無し!」
「ふむ‥‥次からは気を付けろ!魚雷は最優先で捕捉、迎撃しろ!」
「了解!」
「しかしなんだあの魚雷は?凄まじい威力だった」
それもそのはず、この一週間日本は何もしていない訳では無かった。命中した魚雷は新型の魚雷でありそれは戦時中に猛威を振るったロングランス、酸素魚雷であった。電動のものよりパワーがあり、炸薬を倍近く詰められるのだ。現代技術で作られたそれは高い威力があり、あわよくば撃沈を狙ったものだったがSOKOKURAの装甲がそれを防いだのだった。
SOKOKURA近海、海中
「ようやく着いたわね。敵の反応は?」
「動き無し。気がついていないようです」
「杜撰な警戒ね。各自持ち場について」
SOKOKURAには対潜ソナーの類いが一切なく彼女等の接近に気がつかなかったのだ。通信もレーダー以外の索敵装備が無い為気がつくことは無かった。
「いくわよ?3、2、1‥‥‥発射!」
「「「発射!」」」
ズゴン!
海中からの攻撃のため鈍く、重い音と共に巨大なSOKOKURAが揺れた。艦橋は蜂の巣を突っついたような大騒ぎとなり
「なんだ!?今のは?」
「もうダメだ~おしまいだ~」
「狼狽えるな!」
隆文の一声で皆は冷静さを取り戻す
「状況を報告しろ」
固まっていた社員も動き始め
「左舷艦底より浸水を確認。隔壁閉鎖により浸水は食い止められ、注排水装置のお陰で傾斜も復元しました」
「よくやった。ここからは我々の番だ。対潜戦闘用意!」
「そんなものはありません!」
「ガトリンググレネードを海に撃ち込めばいいだろう?」
「ハッ!確かに!」
「固定観念に囚われてはいけない」
「肝に命じておきます」
一方その頃海中では
「穴は空いたけど小さすぎる。実験じゃ大穴が空いたっていうのに!」
「恐らく有澤重工が表に出しているのはモンキーモデルかと。離脱しましょう」
「くっ!」
そう言った瞬間彼女等の全身に凄まじい衝撃が襲った。大量に撃ち込まれたグレネードが水中爆発を起こしたのだ。ちなみに空気中で爆発するより水中の方が威力が高まるのである。
「きゃああああああああ!」
まるで高いビルから落下したかのような衝撃に彼女等は意識を失った。
「海中の様子は?」
「ソナーが無い上に今は海中がかき回されてあったとしても探知出来ません」
「そうか、だが第2撃が無い辺り損害は与えただろう。そろそろこの茶番にも幕を下ろすか」
「茶番だなんて言わないでください。一応戦争ですよ?」
「こんなものは戦争ではない。断じてな!」
隆文は一度目を閉じると‥‥‥
「主砲照準合わせ!目標は東京湾入り口と日本海!」
「第1第2主砲、発射!」
「うちーかたーはじめー」
ズゴォォォォォン!
SOKOKURAの巨体が震え、後ろに下がった。
総理官邸
「IS部隊、撃破されました。自動の救難信号が出ています。恐らく操縦者の意識は無いものかと」
「そんな!?デコイを使った陽動も行ったのでしょう?」
「新開発の魚雷も効果が無かったそうで。恐らく表に出していた装甲板はモンキーモデルだったのかと」
「作戦を建て直すわ。まだISは残っt」
ドガァァァァァァアン!
遠くの方から爆発音が聞こえた。
「今のは!?」
「東京湾入り口に巨大な水柱を確認。恐らく敵の砲撃かと!」
「ここからAFまで何kmあると思ってるの?」
「追加の報告!佐渡島付近に巨大な水柱を確認!」
「何ですって!?」
本州を飛び越える長射程、実弾では考えられない射程であった。
「恐らくここも射程内です。今のはいつでも攻撃できるぞという威嚇射撃では?」
「甘いわね。ここに撃ち込んだが最後、有澤重工は日本に居られなくなるわ。奴等は撃てない」
そう言った彼女は大きく息を吐くと
「じわじわ攻撃しなさい。どうせこっちは攻撃される心配は無いのだから」
間違っていなかった。しかし‥‥
1週間経過‥‥‥
「まだ沈まないの!?」
「何分規格外の装甲でして、肉薄すれば凄まじい弾幕が襲いかかりどうにもなりません」
「いつかは資材が尽きる筈よ。それまで持ちこたえれば」
「お言葉ですが国民の批判が殺到しております。野党も連日批判を続けており、支持率も低下しておりまして‥‥」
「何よ!たかが1企業に屈服しろと言うの?」
「他国の例を見るに企業は国を乗っ取ることはせず、むしろ国の発展に勤めているとのことで国民からもさっさと企業に降伏しろとの声も‥‥」
「だったら自分でやってみなさいよ!そもそも戦争には賛成だったくせに!」
「国民は有澤重工が敵であるとだけ知らされ、野党はずっと反対していたのを強硬採決したんですがね‥‥」
「何か言った!?」
「いえなにも」
「まずいわ!このままじゃぁ!」
不安は的中した。総理は猛批判を浴び、総辞職することとなった。その後次の総理から降伏するという宣言がなされた。
日本、降伏
ひとまず企業連VS世界は終了です。ここから完結まで一気に行きますよ!