本を読むのも飽きてきたな。
ふとそんな事を考えてしまう程今の生活に飽きていたのだ。
高校に上がってからもう1年の月日が流れた。中学時代に色々あったお陰で、かなりの人間不信になり高校に上がってからはまともに人と関係をもってこなかったのだ。
そんな俺が生活の中で楽しみにしていたのは読書であった。漫画からラノベ、小説など様々なジャンルの本を読み耽った。読んできた本の中には人と人との友情は素晴らしいとか言っているものもあったが、それはどうせフィクションの中での話で現実はそう甘くはないと割り切って読んでいた。
人は信じ合えるなんて馬鹿らしい。どうせ裏切られるのがオチなのだから。
そんな思考をしている俺は、読書に飽きてしまっても結局読書に逃げるしかなかったのだ。そんなこんなで俺は未読本の在庫が無くなった俺は放課後1人で駅前の本屋に向かった。
あまり人の多い所は苦手なのだが、駅前にある本屋の品揃えは中々に素晴らしく、つい苦手意識も気にせずに寄ってしまうのだ。
お目当ての本と、気になった本を何冊か買い店を出た。その際店内から聞き覚えのある声が聞こえてきたが、どうせ俺の事なんて認知してないだろうしそのままろくに確認もせずその場を去ろうとした。
「ちょっと待ってよ!比企谷君!」
少し駅から離れた所でさっき店内で聞こえた声がみた聞こえてきた。あれ?なんで俺の事知ってるんだ?
声をかけられたので後ろを向くと、そこには……
「あっ!やっと気づいてくれた」
うちの学校で多分1番人気があり皆の憧れの的となっている雪ノ下陽乃の姿があった。
え?なんで?俺何かしたっけ?
いきなり話しかけられた事、そしてその相手が雪ノ下陽乃であったりと俺の頭は混乱していた。
「おーい比企谷君?いきなり固まってどうしたの」
いかんいかん、冷静になれ比企谷八幡。女の子と話すのはいつぶりだ?
「えぇぇぅえっと、ゆゅ雪ノ下さん…だよね?」
思いっきりキョドってしまった…恥ずかしいよぉ〜死にたいよぉ〜。
「あははっ!そんなにびっくりしなくてもいいじゃん」
そんな俺の姿を見ながら彼女はどこか楽しそうな感じで笑ってくれた。
「そ、そうだよな あはは…」
「それで、俺に何か用があったのか?」
本屋で俺を見かけたから話し掛けたとしても、ここまで追いかけてくる必要は無い訳でここまで着いてきたという事は何かしら用事があったということだろう。
「特にないよ?ただ見掛けたから話し掛けただけ」
「は?」
何を言ってるのか分からなかった。見掛けたからってわざわざここまで追いかけてきたと?意味がわからん。そんな時間の無駄をしてどうなるというのだ。
「だって学校だと休み時間は本読んでるし、昼休みや放課後もすぐどっか行ってしまうから話し掛けれ無かったからね〜」
確かにイヤホン付けたり人の居ない場所には行ったが……まさか俺に気があるのか?……いやいや有り得ない。学校一の美少女で文武両道の雪ノ下陽乃さまが俺みたいな凡人以下な奴を…
「ま、今日はいいや!また明日話そうね!」
そう言い彼女はその場を去って行った。
え、明日?
その日はそのまま過ぎて行き……次の日
「比企谷、どういうつもりだ?この舐め腐った作文は」
次の日の放課後、俺は先日に提出した作文の事で三十路の女教師から呼び出しをくらっていた。
「どうもこうも先生が高校生活を振り返ってと言うお題で何を書いてもいいと言ったじゃないですか」
「アホか。高校生にもなって何を書いてもいいと言われて本当に無茶苦茶に書く物があるか」
そこから愚痴愚痴と先生の説教といつの間にか結婚できないとかの愚痴に付き合われてしまった。その後着いてこいと手を引っ張られ別棟のとある一室に連れられてきた。
「先生ここに何かあるんですか?」
「まぁいいから入れ」
先生に言われるがままに俺はドアを開け空き教室に入っていった。そして最初に目に飛び込んできたのは…ただの何も無い教室であった。
「ただの空き教室かよ」
「ひゃっはろー!」
「うぉお!?」
誰も居ないと思っていた教室から突然1人の女の子が目の前に現れてきた。
「また会えたね比企谷君♪」
そう、その女の子とは昨日出会った雪ノ下陽乃であった。つか昨日言ってた事ってこの事か?いや、考えすぎか
「陽乃、後は頼んだぞ」
「まっかせて!静ちゃんの願いは私が叶えてあげるから」
彼女は妙にキャピキャピさせながら平塚先生を相手していた。つーか先生、静ちゃんって似合わねぇ、絶対ごつい名前の方が似合うだろ。と思っている間に平塚先生は俺を置いたまま教室から去っていってしまった。
「それじゃはじめよっか」
始める?何を?先生からなんの説明もなく連れてこられたせいで今から何が行われるのかも知らない俺は、不安ながらも何かよく分からないものに期待していた。学校一の美少女と2人きりなんてシチュエーション。男子なら1度は夢見るものだからな。
ただ、雪ノ下陽乃を見ていると何か引っかかる。頭も良くて人柄も良いし人懐っこい。たくさんの人に好かれる要素をもちあわせている。なのに、どこか…
「えっと、何も聞かされずにここに連れてこられて…それで一体何をするんだ?」
取り敢えず在り来りな質問です会話を始めた。この引っかかりがなんなのかが分からないからってそれに執着していても時間の無駄だしな。
「あれ?静ちゃんから何も聞かされてないの?」
「あぁ」
「それじゃあ説明するね!静ちゃんは君を更生させようとしてるんだよ」
「更生?いや、なんで俺が」
俺なんかよりよっぽど問題児が居るだろうに何故俺が更生しなきゃいけないんだ?それにそう簡単に変えられるかよ。つーか個性なんて人に決め付けられるものじゃないし、まず俺はそう簡単に変われないし変わる気もない!
「声出てるよ」
「えっ」
やばい、恥ずかしくて死にそう……
「顔赤くなっちゃったけどいいや、君の作文読ませてもらったけど、いや〜面白いね君!だけどそんなんじゃこれから困るよ〜」
彼女は笑いながら俺の周りを歩き始めるとまた口を動かし始めた。つかあれが面白いってこいつの感性も中々曲がってるぞ。
「一人でいる時間が好きなのはいい事だと思うけど、友達が居た方が楽な事とかもあるんだよ、困った時とか頼れるし」
「友達と一緒にハメを外したい時とかパーッと遊べるし」
「それも宿題とかやり忘れたら嫌も言わずに貸してくれるんだよ」
最後のは駄目だろと心の中でツッコミを入れながら話の続きを聞いた。
「君がどういう経緯で人と関わるのを嫌になったのかは知らないけど、そんな悪い人ばっかでは無いと思うよ」
話を聞きながら俺はほんの少しだけ違和感を感じていた。どのようなと言われたら答えにくいほどの小さな違和感だった。ずっと楽しそうな口調で話していながら心は笑ってない。そんな気がしただけだった。だけれど、その違和感はすぐ消えた。ほんの一瞬だけ漏れ出た本心を何かで塗りつぶされたような気がした。だから俺は尋ねた。
「それならどうして…」
「どうしてお前は……そんな仮面を付けてるんだ?」
「……」
仮面って表現が正しいかは分からない…だけどなにか物凄く黒いものが漏れ出ているような気がした。友達の事を語っていながら本心は別のところにあるような…そんな気がしたから。
「へぇ、分かっちゃうんだ」
この時彼女が発した声は、聞いただけで凍てついてしまいそうなほど冷えきっていたように感じた。
「一瞬だけ、羽目を外したいとお前が言った時、ほんの一瞬だったけど違和感を感じた。そして後はただの予想だ」
「どんなの?」
「この完璧な存在な雪ノ下陽乃に釣り合う奴は居るのだろうか。こいつを満足させる事ができる人間がまずこの学校に存在するするのだろうか。その答えは否」
「……合格かな」
合格?なんの事だ?
彼女はとことこと部屋の中を歩きだし、そして2つだけ用意されていたうちの1つの椅子に腰を掛けた
「やっぱ私が見込んだとおりだったよ」
「何の事だ?」
彼女は不気味な笑を浮かべながらこちらの方を見ていた。そしてまだ高校生の癖に妙な大人な色気が感じられた。そんな事を俺が思ってる中彼女は予想だにもしなかった言葉を言い放った。
「比企谷君私の彼氏にならない?」
ザーッ
午前は快晴だったのに、放課後になって急に降り始めた。天気予報では降水確率20%で雨は降らないと思い込んでいたのでもちろん傘はない。
「ねぇ、黙ってないで何か話してよ」
「……」
「……」
「…イタタタタッ!おい急に喋れとか言われても話題とかねぇよ」
あまり広くない車の中、後部座敷に2人並んで座っている。車は土砂降りの中前もしっかりと見えないなかちゃんと俺の家まで送ってくれている。どうしてこんな状況になったかと言うと……こいつが俺の彼女だからだ。いや正確には彼女になったからと言うべきか…
「私が選んだ人がそんなのだと困るんだけど」
「んな事言われてもな…あっそこの突き当たりの角を曲がったら直ぐの所です」
雪ノ下が呼んだ運転手の人に家はもうすぐそこだと言うことを伝えた。学校までは自転車で行ける距離なので車だとあっという間だ。
「それじゃあね。とりあえず帰ったらこのノートに書いてある事をちゃんと見て実践すること。もし守らなかったらきつーいお仕置してあげるから」
「あぁ、分かったよサンキュな」
言葉を伝え終わると車は発進し影の彼方へ消え去って行った。その姿を見ていると今までの事が幻のように見えてくる。だけどあいつの…あいつと恋人になったのは本当の事なんだと再認識したのであった。
家に着くと妹が元気にお迎えにやって来てくれた。流石我がマイシスターだ。どこぞの腹黒さんとは大違いだ。まぁそこが良いってのもあるが…
「お兄ちゃんおかえり雨酷かったけど大丈夫だった?」
「あぁ。ちょっと家の前まで車で送ってもらったからな」
「送ってもらった?お兄ちゃんが………平塚先生?」
それだけ粘って先生しか出てこないのヤバすぎるだろ。まぁ俺が悪いのか…
それだけ俺は昔から友達と言えるような人物が居なかったのだ。
「まぁな…放課後呼び出されて遅くなったら雨が降り出したから送ってくれたんだ。」
こいつに勘づかれると面倒だからな、取り敢えずは平塚先生という事でいいだろう
「そうなんだーじゃ小町もうご飯食べたからレンジで温めて食べてね〜」
そういうと部屋にタタタと早足で戻っていった。きっと勉強だろ。あいつはあいつで色々頑張ってるからな。その後1度部屋に戻り布団に突っ伏した
「私の彼氏にならない?」
「は、はぁ!?突然何言ってるんだよ」
あいつのあの時の目は真剣だった。
「私って基本なんでも出来ちゃうから他人からよく好かれるし。みんな私の事を求めてくれるんだよね」
「そりゃそうだろ そうじゃなきゃあんな宗教みたいに祭り上げないしな」
「最初はそれで喜んでたんだけどすぐに気づいたの あぁこの人達は私の都合のいい所しか見てないんだって。それから自分以外の人間に冷めちゃったんだ。それから他人に興味が無くなったの」
「それがどうして俺を彼氏にする話に繋がるんだよ」
「わかんないかな〜?私は君という普通じゃない感性を持った人間に興味を持ったの」
「いやいや、余計に分からんのだが」
「··········ゃん·····ちゃん、お兄ちゃん!」
耳元から大きな声が聞こえてきたので渋々目を開けると目の前に妹がいた。
「あ、起きた。お兄ちゃんもう夜だよ…ご飯も食べずに寝ちゃうなんて本当にぐーたらなんだから」
どうやら寝てしまっていたらしい。
「すまん、今から食べてくる」
小町の頭をぽんと手を置きご飯を食べに行った。その後風呂に入りその日はすぐに寝た。
翌朝、珍しく俺は早起きしていた。いつもならまだ寝ているのだが雪ノ下から渡されたノートに髪型とか姿勢だとか色々細かく書かれていたからだ。雪ノ下曰く「私の彼氏がこんなのとか思われたら癪に障る」からという横暴な理由からだ。
ノートには声のトーンとか話題の広げ方とか色々書いてあったが、そっち側はまだ全然習得出来ていない。つーかいきなりこれ実践しろとかあいつ鬼かよ。とそんなこんなを思いながら時間になったので学校に向かったのであった。
「おはよ!ちゃんと言い付けは守ったみたいだね」
下駄箱で靴を履き替えていると後ろから雪ノ下がやってきた。彼女がこちらに来るだけで周りからの視線が集まる。つーか先生まで見とれてどうすんだよ
「まぁな」
「少しはマシになったけど、相変わらずその死んだ魚のような目のせいで台無しだね」
彼女は軽口を叩きながらニコニコしていた。俺にはこれが作り笑いなのか本心からなのかは分からないが彼女はが楽しいならそれでいいやと思える自分が居る。まさか俺があんな一言だけで落ちるとはな……人生何が起こるかわからんな
「うるせ、そうそう直せるかよ」
特にそれから会話なく放課後になった。その後メールで昨日の教室に来るように言われたのでわざわざ別館まで足を運んだ。
「んっん〜!やっぱ授業は疲れるな〜」
彼女は腕をあげ上半身を反らし、身体を伸ばしていた。そして元に戻すとその豊満な胸がプルンプルン揺れた。俺はその男の夢と希望が詰まったものに見入ってしまった。つーかこいつ何カップあるんだよ…高校生が持つものじゃないぞこんなの
「えっち」
「いや、不可抗力だ。俺はそれがたまたま視線に入って。たまたま見入ってしまっただけで他意はない」
「ふーん」
彼女はニヤニヤしながらこちらに寄ってきた。 何か面白いおもちゃでも見つけたような笑顔で少しずつ歩いてきた。
「触りたいから触ってもいいんだよ?」
自分の胸の前に手を当て恥ずかしそうにこちらを見てきた。その表情凄くそそられるが…
「ゴクッ。え、遠慮しとく この後何をされるか分からないしな」
「ちぇ〜つまんないな〜 でもそれで正解だよ。体目当てとか私受け付けないからね」
いやこいつの友達の中に絶対お前の体を舐めまわすように見てるやつおるだろ…まあどうでもいいけどさ。いや良くないか
「それじゃそろそろ本題に入ろっか」
そう、俺たちはここに遊びに来てる訳では無い。平塚先生の鉄拳制裁を回避するために俺の性格を更生させるのが目的だ
「と言っても何をすればいいんだ?」
「最初はね〜君のお得意の人間観察。特にリア充グループのね」
なんでこいつ俺の十八番を知ってやがる…と思いながらもこいつなら初見で見破れそうだと思った。
「リア充…葉山とかか?」
「そう!あそこまでやれとは言わないけど、どんな会話をしているのか〜とかどうやって話しを広げているのかとかだね」
性格の更生なのにリア充の観察って何か違うくないか?と思ったがこいつなら何か考えてそうだし今は特に意見もせずに聞いておくか
「今そんなことする意味あるのか?みたいな事考えたでしょ」
………怖い怖い怖い怖い!心の中読まれたぞ今!
「あのね比企谷君。ちゃんと意味はあるんだよ。人と触れ合ってみて今まで決めつけていたことが間違いだったのかもしれない。そういう風に思うことができるかどうかのためにやってるんだよ」
「はぁ…つーかお前とこっち側の人間だろ」
こいつの腹黒さは俺より酷いからな…下手したら友達=奴隷とか思ってそうだしな
「私はいいの。上手くやれるからね」
「取り敢えず明日の放課後に誰がどういう風にしてたか聞いてみるからちゃんと答えられるようにする事」
そう言われ今日は解散をした。
リア充の観察と言われてもあいつらノリと勢いでしか話してねぇじゃねぇか。あんなのある意味高等テクだろ。俺にはできる気がしねぇ。まず、なんだよそれなって同調する事しか出来ねぇのかよ。まず話しを始める時は絶対葉山に振るんだよあいつら、葉山の力がねぇとまともに話すこともできねぇのか!?
「とこれが俺の感想だ」
翌日の放課後丸1日あいつらリア充グループの観察をして導き出した答えだ。いや、本当になんであれでつるんでるのか分からない。葉山居ない時全然話してねぇじゃん。
「あはははっ!やっぱ君面白いよ!もぅ最高っ!!」
俺の感想を聞かせた後彼女は笑い転げるんじゃないかって勢いで大笑いしていた。つーか笑いすぎ。というかお前もその一員だったろ。
「でもあながち間違ってないんだよね。みんな強調ばかりで自分の意見も言えない…それが今の現状よ。けれど隼人や戸部くんとかは自分から話題を振ってたよね。君が先ず見習うのはそういう所」
戸部……戸部戸部?あーあのっべーって言ってる奴か。なんかチャラチャラしてて特に見てなかったな
「分かった。それで明日はどうするんだ?」
「うーんそうだね…最初は私を含めて複数人で会話する事かな。誰と話すことになるかは私が決めておくから」
「うぃ」
それから数日…数週間、1ヶ月、数ヶ月とちまちまと俺の更生生活は続いていった。
今思えばあいつはかなりの天才だった。俺にできる範囲の事で、尚且つ効果的なことをこの数ヶ月間繰り返して行った。お陰で妹の小町からは「お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃない!」なんて言われてしまったけど…今になってはいい思い出だ。
あいつとの出会いは突然で最初はこんな事になるなんて予想だにもしなかった。しかし事実は小説よりも奇なりとも言うしな。こんな事があっても不思議ではなかったのかも知れない。とそんなことを思ってしまう程俺にとってこの数ヶ月で俺を取り巻く環境は劇的に変わった。
他人からしてみれば少し変わったかもしれないと思われるくらいの変化しか無いかもしれない。けれど俺は…
「君は嘘をつかれるのが怖いのなら私がその嘘をつき続けてあげる」
「そうしたら君は私以外の嘘を聞かなくてもいいんだから」
あの言葉に救われた
彼女からしたらその言葉自体嘘だったのかもしれない。だけどその時の彼女の嘘は優しくそして暖かかった
「お待たせ!ごめん待たせちゃったかな?」
「いや、俺も今来たところだ」
今の俺の隣にはコイツが居る
「ふふっ 昔なら不貞腐れて何十分も待ったって言ってたのにね」
「うるせっ ほらさっさと行くぞ」
「照れちゃって可愛いな〜ツンツン」
「や、やめろってくすぐったいから」
俺はこの関係を守りたいと思っている。だって今が幸せだから