俺ガイル 合同短編カップリング企画!   作:しゃけ式

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袖野霧亜さん 八幡×折本 二人が夫婦になるまで

「俺と結婚してください」

「うん、いいよー」

 

 〜♪〜

 

 大学を卒業して三年。俺は雪ノ下さんが独立させた会社で強制的に働かされていた。

 四回生に上がる前に、得に行く気もなかった企業から内々定を貰っていた。勢いに乗って本命の企業を受けようとしていたところ、どこからかその話を聞きつけた雪ノ下さんが俺の家に来て「比企谷君は私のモノなんだから!」と言って聞かなかった。もう駄々のコネ方が半端じゃないかった。どれくらいかっていうとプリキュアの新衣装とステッキを欲しがる子供くらい。

 雪ノ下にも相談したんだが、こればっかりはどうにも出来なかったらしい。埒が明かないので結局俺が折れる事になった。

 でもまぁ給料と休暇がちゃんと貰えてるし、仕事の量もそれほどで繁忙期でない限り残業という言葉は存在しないホワイト企業だからラッキーだよね。内々定貰ったところいつの間にか潰れてたし。そこだけは雪ノ下さんに感謝だな。

 

「比企谷ー」

 

 一つ不満があるとしたら、たまに仕事が終わった頃を狙って居酒屋に拉致られて愚痴られる事だ。内容とかほぼ全部雪ノ下に関することだ。それなのに毎度違う話の内容で飽きがこないのが厄介すぎる。なんだこの姉妹話題性が富んでるな。いいぞもっとやれ。

 

「ひーきーがーやー」

「ん、おぉ。折本か。どした」

 

 折本かおり。俺と同じ会社に実力で入社した同い歳の女性。

 そして、何かの間違いで中学時代からからずっと付き合っている人だ。

 何かの間違いっていうのは、まぁ、俺が折本に偽の告白をしてフラれる算段を立ててたんだよ。その上で折本とつるんでたヤツらに「折本かおりは誰かと付き合う気が無い」っていう噂を俺の名前と一緒に流してもらうつもりだったんだよ。リアリティを出すためにな。それなのに折本は俺の告白を受けた。もう当時の事を詳しく覚えてないけど、どうせウケるからとかそんな理由だろう。そういうやつだ、アイツは。

 俺の名誉のために言っておくと、当時の俺は折本に多少なり惹かれていた。これだけは間違いじゃない。それからしばらく付き合ってしっかり恋心が育って行ったわ。悪いかコノヤロー!

 ん? それなのになんで中学から続いてるのにまだ苗字で呼びあってるのかだと? 呼び方を変えるタイミング失いすぎてズルズルここまで来たんだよ悪いか。

 

「反応遅すぎだしウケる。今夜どうする? どこかでご飯食べてから帰る?」

「ん、そうすっか。何食いたい?」

「ラーメン以外ならオッケー。二日連続でラーメンだったから他のものがいいね」

「わかった。じゃあ適当に考えとく」

「よろしくー」

 

 社会人になってからしばらくして、俺と折本は金銭的に楽をするため同棲を始めてる。

 それにも関わらず、お互いに下の名前で呼ぶタイミングを無くしてしまいとうとう二十代後半を迎えてしまった。

 ……ダメじゃないか? どれだけ奥手なんだよ。今どきの小学生、いや幼稚園生にも遅れとってるぞ。余程盛り上がらないとキスとかしないし。あれ? 盛り上がってるのにキスだけっていうのもおかしいな。大切にしすぎじゃない? もっと狼になってもいいと思うよ? 小町からも「まーだキス止まりのお子ちゃまカップルしてるのお兄ちゃん達」って煽られたもん。

 

「実際それじゃあダメだもんなぁ……」

「なーにが、ダメなのかなぁ? 仕事中に他の事を考えるなんて余裕じゃん、比企谷君?」

「うおっ!? ……なんだ雪ノ下さん、じゃなくて社長か。ビックリさせないでくださいよ。俺のノミ並しかない心臓がバックバクしてますよ」

 

 ていうかそっちもだいぶ暇そうだな。社長ってもっと忙しいはずじゃないんですねぇ。

 

「私はいいんだよ。だって他の人、主に比企谷君が頑張ってくれてるしねー」

「最近仕事の量と給料が増えてきたと思ったらそのせいか……。貰えるものが増えて苦しいと嬉しいが入り乱れて感謝しにくいですね」

「ちゃんと働いてくれる子にはしっかり報奨を払わないとね。それだけで社員はちゃんと着いてきてくれるから楽だよ? 比企谷君も早く出世して私くらいになったら?」

 

 無理を言うな無理を。文系以外が崩壊してるレベルの人間が雪ノ下クラスのパーフェクトヒューマンになれるはずも無い。俺は俺のやれる範囲で仕事をするだけだ。上に行く気もさらさら無い。

 

「あ、そうだ比企谷君。今日付き合える? また愚痴聞いて欲しいんだけど」

「……すみません、今日だけは」

「ふーん、そんな事言っていいんだー。社長命令だよ〜?」

「パワハラじゃないですか……」

 

 今はそういうのうるさいんですからそういうのやめてくださいよ。まぁ雪ノ下さんも俺だからやってると感じもあるけどさ。

 

「それで? 今日は何のアニメ? それとも本かな?」

「あぁ、いえ、今日は折本と飯食いに行く約束してまして」

「へー。それは大切だねぇ。お嫁さんとのスキンシップも夫の甲斐性だよ」

「なんすかそれ……。それにまだ夫婦じゃないですよ俺と折本」

「そうなんだー……、ん? ちょっと待って比企谷君。今なんて言った?」

 

 いきなり目をくわっと見開いて俺の肩を握り潰すように掴む。あの、痛いんですけど。

 

「いい? 比企谷君。回答を間違えないでね。お姉さん、まだ君を再起不能にさせたくないの」

「こっわ! 何するつもりなんですか! ……だから俺と折本は恋人であって夫婦じゃないんですよ」

「中学生からずっと付き合ってて、2年以上も同居してるのに?」

「まぁ、はいそうですね」

 

 そう返事すると、雪ノ下さんはよろよろと後ろに下がって頭を抱える。

 ……なんか心無しか他の社員もえぇ……? みたいな雰囲気になってる気がする。

 なるほど、こういう時に俺また何かしちゃいました? って言えばいいんだな? また一つ賢くなってしまった……。

 

「比企谷君」

「ひっ、は、はい」

 

 突然、雪ノ下さんが豹変して久しぶりにどもってしまう。

 なにその低い声。今までで一番なんですけど。

 

「ちょっとお姉さん、今から折本ちゃん連れて外回りしてくるから比企谷君は折本ちゃんと私の仕事やっといてね」

「えっ、は? ちょ、雪ノ下さん!?」

 

 それだけ言うと雪ノ下さんは外に出る準備をすぐに済ませ、俺の静止を無視して折本を拉致するように室内から出ていった。

 ……今は午後の三時。終業まで後三時間。ここから三人分、か。久しぶりの残業だなこれは。

 

「……しょうがねぇ、やるか」

 

 シャツの袖を軽くまくって予備のマッ缶を二つ、机の上に置いておく。

 MAXコーヒーをキメながら一先ず自分の仕事を終わらせるため、キーボードをカチャカチャ叩く。その間にどの仕事から片付けるべきかを脳内で平行処理する。

 出来る社会人は缶コーヒー片手に仕事をするのがかっこいいって親父が言ってたな。今日は特例でやるけど明日からやめよ。親父からの受け売りを実践してるみたいで嫌だし。

 

 〜♪〜

 

「お、終わった……! マッ缶飲みてぇ……」

 

 机の上に空になったマッ缶と俺がが無惨に倒れ伏している。

 たぶん繁忙期の倍のスピードで働いたんじゃねぇの……。それでも一時間残業してるし……。あー、疲れた……。

 

「おつかれ比企谷〜」

「おう、超お疲れだぞ今の俺。明日明後日サボっても怒られないまである」

「なにそれウケる! ほらお詫びにご飯奢るから早く帰ろ」

 

 折本に腕をグイグイと引かれながら会社を出ていく。途中、どのお店がいいか吟味しつつのんびりと歩きながらどうでもいい事を話す。今日のお昼に誰がどんな事してたとか、仕事中に変な電話かかってきてウケたとか、そんな話。

 

「あっ、そうだ比企谷。久しぶりに飲まない?」

 

 と、飯屋探す旅の途中で折本からの提案が出てきた。

 ふむ、酒か。そういえば最近飲んでなかった気がするな。あれ? 最後に飲んだのいつだっけ?

 

「ん? いいぞ。どこで飲むか」

「宅飲みにしよ。帰りも考えず飲めるし」

「ほどほどにしとけよ。明日も仕事だぞ」

「アタシも比企谷も強いからヘーキだって!」

 

 強いって言っても俺はストロングZER○のロング缶でまだ物足りないレベルなだけだぞ。お前と一緒にするな。完全にザルなのに酔える謎体質なんだから。異世界転生ものでチートとしてやっていけるレベルだぞそれ。役に立つかは知らんけど。

 

「よっし、早く家に帰ろ! 晩ご飯はスーパーのお弁当とお酒とおつまみに決定!」

 

 またしても腕をグイグイ引っ張られる。いつもの事になってきたこれも慣れたもので、最初の頃はやられる度にバランスを崩していた。しかし今となっては折本が踏み出すタイミングで俺も足を出せるようになっているのでこのやり取りも心地よくなったものだ。

 

 〜♪〜

 

「かんぱーい!」

「乾杯」

 

 自宅に着いた俺と折本はさっさと風呂に替わりばんこで入り、寝巻きを身にまとって買ってきた食料やお酒とつまみを机いっぱいに広げる。

 そして、酒をさらに美味しく頂くためにわざわざ氷の入ったコップに酒を注いでいる。これだけでも冷え具合が変わる。温《ぬる》くなった酒は美味しさが半減するからな。なんでそうなるのかわからんけど。

 

「んくっ、んっ! ぷはーっ! おいっしー!」

「……ふぅ、染み渡るな」

 

 最初の一杯はお互いにプレ○ル。この缶ビール以外は飲んだことないが、これはハズレがないからオススメって雪ノ下さんに言われてからずっとコレだ。いや、だってこれ普通に美味いもん。水みたいに飲める。

 それからしばらくビール飲んでは小休止で氷○をのんだりほろ○いを飲む。さすがに俺は途中何度かお水を体に入れて飲み続けてはいるけど、折本のペースが早くてそれに乗せられてついつい飲むスピードが早くなってしまう。

 

「いやお前いつもより早すぎねぇか? 何杯目だそれ」

 

 いつの間にか積まれている空き缶が折本の周りを囲っている。普通サイズの缶を含めると既に軽く十を超えててヤバい。

 おかしい、まだ飲み始めて一時間ちょっと経ったくらいなのになんでもうこんなに空いてるんだ?

 

「そー? アタシ的にはまだそんなでも……あり? なんか結構飲んじゃってた! ウケるんだけど!」

「自分の飲んだ量くらい気にしとけって……ほれ、水」

「気が利く〜。サンキュー」

 

 そう言うと折本は手に持った水をまたごくごくと飲み干す。その後は酒とつまみの延々ループだ。

 

「あー、そういえばさー」

「ん、なんだ?」

 

 何やら唐突に思い出したかのようにぱんっと両手を胸の前で叩いてまた酒の入ったグラスに口をつける。

 話すならはよ話せ。内容が気になるだろうが。と思いつつ待ち時間を俺のグラスに入っているレモンサワーを飲む。

 うん、やっぱり檸檬堂のは美味いな。同じレモンサワーでも度数で味が変わるのが嬉しい。

 

「今日さー、陽乃さんにアタシ達いつになったら結婚するのって聞かれてさ〜」

「んぐっふっ」

 

 むせた。

 あー、そういや雪ノ下さんに連れてかれてたな。その時に聞かれたのか。

 

「動揺しすぎでしょ比企谷。大丈夫?」

「ケホッ、おう……」

 

 ティッシュを取ってもらって口周りを拭き取る。他のところに飛び散らなくてよかった。

 

「ふぅ。ちなみにそれな、折本が拉致られる前に雪ノ下さんが冷やかしで俺んとこに来てな。そん時に嫁だの夫だの言ってきたからまだ夫婦じゃないって言ったら」

「アタシと陽乃さんの仕事を比企谷に押し付けて、アタシ達はカフェでおしゃべりしてたんだ! ウケる!」

「そーそー、その通り。って何仕事をサボって優雅に茶をしばいてんだよあの人。覚えてろよマジで」

「ひひっ、どうせやり込められるんだからやめといたほうがいいよー」

 

 その通り過ぎて何も言い返せねぇ。

 

「しかしまぁ、結婚か」

「んー、だねー。なんかピンって来ないよね。どんな感じなんだろ。今の状態とか夫婦じゃんって雪ノ下さんに言われたんだけどさ」

「あー、確かにな。同棲してもう結構経つもんな」

「その間ほぼ恋人っぽい事してないもんね! ウケる!」

「お互いそういう事恥ずかしくて中々出来てないもんな」

「それあるー!」

 

 折本はひひっと一つ笑ってまた酒の入ったグラスを傾ける。それにつられて俺もキンキンに冷えたレモンサワーの残りを飲み干そうとする。

 

「で、いつ結婚するの?」

「んぐっほっ」

 

 むせた。セカンドシーズン。

 

「うわっ汚ったないな〜。何してるんだし」

「ゴホッ、うぇ……」

 

 今度は鼻にまで来た。すげぇ炭酸とアルコールで鼻が痛い……。

 

「……んで、結婚の話か」

「そー。アタシもいつか比企谷とするのかなーって思ってたらここまで来ちゃっててさ。なんかアタシから言い出すのも急かしてるみたいだしさ」

「あー、まぁ確かに……な。それは正直悪い」

 

 そうか、俺は待たせすぎたか。

 

「んでも、ここで言うのも……まぁ別にいいか」

「だねー。それにどうせそんなキザっぽい事とか狙ってかっこつけるような事出来ないでしょ」

「全くもってその通りだな」

 

 その場に立って折本と目線を合わせる。

 そうだな、告白するなら俺はこう言うべきだろう。

 今度は偽物じゃなく、本物の言葉として。

 

「俺と結婚してください」

「うん、いいよー」

 

 少しの間、静寂が通り過ぎる。

 

「……くっ」

「……ひひっ」

 

 思わず口から笑いが出てくる。

 それも無理も無い。何せ、今の流れは中学生の時に俺が告白した構文と全く同じもので、折本に至ってはそのまんま同じ返事が来たんだから。

 

「……確認はしないぞ」

「あの時みたいに戸惑ってくれてもいいけどね。あれはあれでウケたし」

「しねぇよ。ていうか、受けてくれるのをわかってんだしなるわけないだろ」

「それあるー!」

 

 はいはい、あるある。と、いつもの流れを作ってまたグラスに口をつける。

 ……思ってる以上に緊張してたのか、喉が乾いている。

 まだかなりグラスの中身が残っていたがそれを一気に飲み干す。アルコールだけど今はそんなの関係無い。

 

「んくっ……ふひぃ〜」

 

 折本もだいぶ残っていたはずの酒を一気に無くしていた。

 自分の分を注ぐついでに折本のグラスにも酒を入れる。

 その後はグラスを片手に持って折本に突き出す。改めて乾杯だ。

 その意図に気づいた折本もグラスを持って俺のグラスとかち合わせる。

 

「まぁ、そのなんだ。改めてこれからもよろしく」

「ひひっ、なんか変な感じがしてウケるわ。よろしくっ」

 

 その日初めていつもなら寝ている時間まで飲み続け、そのまま机につっ伏すように寝た。

 

「……それで、何か言い訳は?」

「「ありません、すみませんでした」」

 

 次の日二人して三時間も大遅刻して雪ノ下さんに怒られました。

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