剣鬼の軌跡   作:温野菜

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第10話

手配魔獣を倒し、依頼主に報告し終わったリィンたちは食材も貰えてホクホク顔でケルディックに戻るのだった。途中、育てる農作物の価値が輸入によって下がってしまっているという農家ならでは悩みを依頼主は溢していたがリィンは知ったことではないのだ。

 

 

 

リィンたち一行がケルディックへと戻ってくると大市の方から騒ぎ声が、それ自体は別段珍しくない。だが男同士の怒声が聞こえてくるのだ。

 

「大市の方からみたいだけど…」

 

「ふむ、何やら、いさかいめいた響きだな。」

 

エリオットとラウラは怒声がする大市が気になるようだ。

 

「気になるわね、ちょっと行ってみない?」

アリサも怒声がする大市が気になるようだ。2人は頷く。リィンは何て物好きなと思うが3人は大市へと歩いて行く。自分だけ宿へと戻り剣の稽古でもしようかと視野に入れるがサラへの報告があったことを思い出す。

 

実習は当然の如く班行動なのだ。1人だけ独歩することは許されていない。内心苛立ちを感じながらも私心を抑え彼も大市へと向かうのであった。

 

 

 

4人が少し歩いて大市に到着したときに視た光景は2人の商人の言い争いだった。アリサが近場にいる人間に聞いてみると店を開く場所を巡ってのトラブルだということだ。

 

リィンは大体が検討を付けた。俺の店の場所。私の店の場所。飛び交っていた声を推測するにあたって2人の商人はお互い指定された店の場所が同じだったのだろう。

そこでかち合う2人。恐らく田舎出の若い商人が発端だろう。見るからに頭に血が上りやすいようだ。身なりの良い商人もそれに応じて徐々にヒートアップする。そして今に到る。

 

下らない。彼はこんな思いが出てきた。この場を仕切っている人間に聞けばいいものを。何故そんな愚も付かないことをしているのだろうか。そうこうしているうちに男たちは殴り合いをしそうな気配になっている。

 

その雰囲気を察したラウラ、アリサ、エリオットが男たちの間に入る。子供が出てくるなと田舎出の商人が声を上げるが3人の名乗りで士官学院の生徒つまり軍人の卵と知り腰が引けている。

 

大市の騒ぎを聞き付けた元締めと呼ばれた老人が商人たちから事情を聞いて、この後のことを決めようと諌める。その言に納得したのかお互いに矛を納めたようだ。

 

そこで止めに入った3人に老人は感謝する。彼はⅦ組一行を知っているようだ。最後にこの問題を片付けたら1つ、付き合ってくれないかと提案が来た。それに応える一同。

 

 

夕暮れ時、もうそのくらいの時間が経っている。老人、オットー元締めの家でお茶を一行らは奮われている。話を聞くとオットー元締めと士官学院の学院長ヴァンダイクとは旧知の仲であるとのことだ。

 

その伝でA班一行らの依頼を元締めが決めていたのだ。続きの話しにあの2人の商人の許可証は同じもので週ごとに2つの場所を交互に使うということで話がついたのだ。これらの許可証は公爵家が管理、つまりクロイツェン州を治めるアルバレア公爵が管理しているのだが、ここ最近で大市の売上税が大幅に上げられたのだ。

 

勿論、税を大幅に上げられれば商人たちは必死になる。その中で公爵家に陳情を申しにオットー元締めも何度も足を運んだらしい。だが公爵家はまともに取り合わず。事実、先ほどの大市の騒ぎでも陳情を取り下げなければ公爵家が抱える領邦軍はトラブルがあっても不干渉を貫くようだ。

 

そのような話を夕方に一行らは聞かされたのだ。現在は夜である。夜の帳が落ち空を見上げれば爛々と光り輝く空にリィンは見向きもせず一心と剣を振る。

 

彼の周囲からは虫の鳴く声も聞こえず、さながら何ぴたりとも入ることを赦されない聖域と化している。振られる剣筋の1つ1つがあらゆるものを断つ斬閃である。そしてそこに1人の少女が歩き近寄ってくる。

ラウラ・S・アルゼイド。アルゼイド流の門下にいる少女である。彼女はどうしてもリィンに問わなければならないことがあった。リィンも彼女が近づいてきたのに気付いている。彼女は要件だけを口にした。

 

「―リィン、そなたは何の為に剣を振る?」

 

そう、これがリィンにずっと尋ねたかったことなのだ。それほどの剣技を誇り、何故力を思うがままに使い殺傷をする?剣はそのようなことに在るためじゃないと。彼女の胸中に常に此れが渦巻いていたのだ。そしてリィンの返答は――

 

「斬るためです。」

 

迷いもなく言い切った。そう、彼は元よりこの為に剣を振るのだ。

 

「それ以外に理由があるとすれば、最強の剣士になることです。」

 

そしてこれも彼が剣を振る理由の1つだ。振るならば、なまくらより質の良い剣がいい。単純にこれである。故に彼女は受け入れられない。そのような斬人の剣など。

 

「違う…剣はそのような物の為に在るのではない!」

 

彼女は否定する。それは騎士道に反する。剣は守り、弱者を救い、理不尽に対抗するためのものなのだと声を大いにする。リィンは彼女の言いたいことが何となく分かった。だが――

 

「知りませんよ。そんなもの。俺が何故貴女方の流儀に合わせなければならないのでしょうか?それに合わせて、もっと上手く剣を振ることが出来るのであれば貴女方に合わせましょう。ですがそうではないのでしょう?」

一呼吸入れる。

 

「貴女が言いたいのは騎士道とでも言うのでしょうか。ですが俺は貴女方の騎士道やらにこう思うのです。何かしら理由がなければ剣を振ることも叶わない。こういうのを何て言うのでしょう。あぁ…、あれですね。女々しいと呼べばいいのでしょうか。」

 

 

 

これがリィンである。彼は斬り合い、殺し合いの場、戦場にそんな余分なものは要らないのだ。不粋すぎる。彼女は、ラウラはこの言を許すことは出来ない。よりにもよって女々しいだと。父から教わったものが、門下生の者たちと励んでいたものが。アルゼイド流を侮辱するのかと。

 

彼女は大剣に手が掛かる。そこで――

 

「その大剣を手にするのですか。ほら、何処に騎士道なんてあるのでしょうか。結局のところ、斬り合いになる。そういうことでしょう。」

彼女はハッとする。自分は何をしている?剣は守るためと思っているのは他ならぬ自分自身ではないか。だが先の発言を撤回させたい。

 

「俺の言に侮辱したと思ったのですか?そのようなつもりは無いのですけど、社交辞令と言った便法が昔から苦手でして、飾るとかめんどくさいんですよ。」

 

 

リィンは悔しそうに睨み付けるラウラに言葉を続ける。

 

「でも気持ちは分かります。俺も剣を侮辱されれば相手に意図など無くとも斬り殺すでしょう。だから一度だけ模擬戦をしましょう。そして貴女が俺に示せばいいのです。騎士道を誇るアルゼイド流は強いのだと。」

 

ラウラはそのリィンの言葉を反芻する。解っているのだ彼女とて。リィンに挑んでも届かないのだ。そう、届かない。だが彼女は引き下がらない。大剣を構える。そしてリィンへと詰め寄った!

 

リィンは自身に向かって疾駆するラウラの姿を視る。遅すぎる。鈍重。脳裏にそんな言葉が尽きる。リィンもラウラへと踏み込み、間合いに入り込み顎へと掌底を入れる。ラウラからすれば何故かいつの間にか頭に衝撃を受けた印象だろう。

 

だがこの一撃で意識を飛ばさなかった彼女を褒め称えるべきだ。しかしこれで終わりである。彼は掌底を入れた腕をそのまま肘鉄で彼女の鳩尾へと叩き込んだ。それを受けた彼女は地面に何度も身体を打ち付け、リバウンドしながらようやく止まるのであった。

たった2撃。それだけで自分は戦闘不能。そんな事実は認められない!彼女は身体に力を入れるが、身体はそれを拒否して痛みの悲鳴をあげる。立つことができない。リィンが〈風見亭〉に戻る姿が見受けられた。

 

刀を抜かすことも出来ず、後に残るのは地面に這いつくばらされた自分の姿。その事実に1人ラウラは涙するのだった。

 

余談だが意図せず相手の武を侮辱していたことにリィンも反省していたのだ。同時にアルゼイド流にリィンが得た感想であり、だからこそ上っ面な謝罪などせず自ら模擬戦を申し込んだのだ。

 

本来リィンは自分より下の圧倒的に実力差が有るものに戦いを申し込んだりしないのだ。彼女に対するリィンなりの反省の意を示したつもりだが果たして功を為したのだろうか。

 

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