剣鬼の軌跡   作:温野菜

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第7話

Ⅶ組一同の前に現れたサラ・バレスタイン。そしてリィンを忌諱するかのように離れている数名を視て、早くもこうなったかと流石のサラもその様子に頭を抱えた。

 

だがどちらにせよこうなることは自明の理だったのだ。そう考え直し、サラはⅦ組一同に声を掛けた。

 

「はいはい!みんな注目よ。それにしてもARCUSの戦術リンクはリィン以外はちゃんと機能したわね。」

 

サラは手を叩きながら、そう説明したが唐突の説明に困惑の声があがる。

 

「ARCUSの戦術リンクですか…?何なんですか、それは。」

 

アリサ・ラインフォルトは聞いたこともない機能に疑問を問い掛けた。それは他のメンバーも同様の疑問だった。

 

「ARCUS。それは様々なアーツが使えたり、通信機能を持っていたりと多彩な機能を秘めているけど、その真価は『戦術リンク』――。先ほどリィン以外が体験した現象にある。」

 

リィン以外のⅦ組一同は自分たちのオーブメントを見詰め、先ほどのガーゴイルと戦っていたときに起きたお互いが繋がっている感覚を思い返す。リィンはリンクをしていないので解らないが話は聞いていた。

 

「これが、そうね…。例えば戦場においてそれがもたらす恩恵は絶大よ。どんな状況下でもお互いの行動を把握できて最大限に連携できる精鋭部隊……。仮にそんな部隊が存在すればあらゆる作戦行動が可能になる。まさに戦場における革命と言ってもいいわね。」

 

アルゼイド流を修め、武門の道に進んでいるラウラ・S・アルゼイドはそれに同意し、『西風の旅団』に所属していた元猟兵、フィー・クラウゼルも戦術リンクの有用性に価値を見出だした。そこでサラは説明を続ける。

 

「でも現時点で、ARCUSは個人的な適正に差があってね新入生の中で、君たちは特に高い適正を示したのよ。それが身分や出身に関わらず君たちが選ばれた理由でもあるわ。」

 

サラのその言にガイウスは納得の意を示し、自身が選ばれた偶然にマキアスは驚きの声をあげる。サラはそのまま言葉を続け、いきなりオリエンテーリングを始めたり、仕掛けを使い地下に落とした文句を受け付けるといってのけた。だが誰も声をあげない。サラはその様子を見渡し、頷いて言を続ける。

 

「トールズ士官学院はこのARCUSの適合者として君たち9名を見出だした。でも、やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で『Ⅶ組』に参加するかどうか――。改めて聞かせて貰いましょうか。あ、ちなみに辞退したら本来所属するはずだったクラスにいってもらうことになるわ。貴族出身ならⅠ組かⅡ組、それ以外ならⅢ〜Ⅴ組になるわね。今だったらまだ初日だし、そのまま溶け込めると思うわよ〜。」

 

サラは厳しい表情からの説明を一転し安心させるかのように後述に説明をした。まず声をあげたのはラウラだった。元々は鍛練の意味も兼ねて、ここ士官学院に入学したのだ。ならば今回のⅦ組に待ち受けられる他のクラスよりハードなカリキュラムは望むところである。

 

次はガイウス・ウォーゼル。学ぶために来た学院で濃密なカリキュラムは遣り甲斐があると判断したのである。サラはその2人の参加を了承し、次を促す。

 

そのサラの促しに前に出たのはエマ・ミルスティンである。奨学金という施しを受けているから学院に協力できればという彼女の言は本心なのだろう。だがそれだけではない。彼女の役割は観察者であり、導くものであるからである。他にも何か有るだろう謎の少女だ。

 

3人参加に思わず釣られていった感じにエリオット・クレイグである。ここまで一緒に戦ってきた仲間もいるという思いもある。リィンに対して恐怖の感情はあるがそれを押し込めたのだ。

 

サラは2人の魔導杖のテスト要員の参加に了承した。了承の意を示し、続けて魔導杖の運用レポートも期待していると続けた。エマはそれを笑って了承した。エリオットはレポートというものに書き慣れていなく少しばかり後悔したのであった。

 

そこにアリサは決然としたした様子で参加の意を示した。これにはサラは驚いた。彼女の背景を知っており、不参加だと思ったからである。その事をアリサにぶつけると腹を立てても仕方がないと言ってのけたのである。

 

そして6名の参加にサラは自分が士官学院に連れてきたフィーに尋ねる。彼女はあまり興味がないようで投げ遣りにどちらでもいいもしくはサラが決めていいと言った。サラはそれを咎めた。自分のことは自分で決めると。ならば参加すると即答するフィーに周囲は呆れ返った。

 

サラはマキアス・レーグニッツとユーシス・アルバレアに参加の意を問う。先ほどからこの2人、お互いの顔が見えないように背けている。初めて会ったときからの険悪ぶりである。

 

サラはその2人に向かって青春の汗を流せばお互いにわだかまりなどなくなると言ってのけるが冗談が通じなかったマキアスは憤慨して反論したのだ。続けて帝国の身分制度を批判したのである。サラはそれは自分に言われても困ると愚痴た。まったくもってそのとおりである。そこでユーシスが参加の意を示したのだ。そしてマキアスに向かってこれを機にお互いに袂を別つべきだと提案する。だがマキアスは何故自分がユーシスに遠慮して他のクラスに行かなければならない!ならば自分も参加すると衝動的に言ってのけたのであった。それを視ていたⅦ組の面々は先が思いやられた。

 

そして最後の1人、この輪のなかで我関せずといわんばかりに刀の手入れをしているリィン・シュバルツァーである。この男、サラが登場しても、ここまで一言も喋っていない徹底ぶりである。サラはリィンに尋ねる。

 

「最後はキミよ。リィン・シュバルツァー君。」

 

リィン以外の面々も視線を向ける。気になるのであろうと彼のことが。あのような登場の仕方をしたから当然である。リィンは刀の手入れを止め、鞘に仕舞う。

 

「――もちろん、参加します。」

 

リィンはサラに言った。サラは推測ではあるがリィンが参加の理由には想像がついた。初めて会ったときから自分を見詰める視線が妙に好戦的なのである。これは厄介な子に目を付けられたなと頭を悩ませるサラではあるが自制した。今夜から少しばかり酒の量が増えるという思いが過ぎ去った。今はその思いを無視して手を叩く。

 

 

「これで9名――。全員参加ってことね!――それでは、この場をもって特科クラス『Ⅶ組』の発足を宣言する。この一年、ビジバシしごいてあげるから楽しみにしていなさい――!それじゃ、これでオリエンテーリングは終了します。解散!」

 

サラの解散の一言に一足跳びでリィンは出口に向かった。もうこの場に用がないからである。途中、2人の人間が見受けられたが気にも止めずトリスタの街道を目指すことにした。どんな魔獣がいるか彼はトリスタに来たときから気になっていたのである。

 

リィンの驚異なる身体能力に再び唖然とする一同。出口までは距離にすれば10m以上を一足跳びでそれを成したからである。サラはそれには驚いていない。リィン以外にもできる人物は知っており、自分にもリィンほどではなくても身体能力にブーストを掛ければ似たようなことができるからである。

 

 

「君たちどうしたの?もう解散していいのよ。」

 

だがそれを無視してマキアスが前に出る。

 

「―サラ教官、質問があります。―――あの男はいったい何者ですか?」

 

そのマキアスの問いに皆一同、気になるのだろう。それに頷いている。ユーシスやフィーでさえ場に残っているのだから。

 

「う〜ん、本人に聞くのは……駄目?」

 

ちょっと茶目っ気を出すサラであるが、マキアスの渋面にやはり駄目かと思った。

 

「そうね、皆も知っていたほうがいいか。」

 

サラの答えに一同、居を佇ませる。サラは咳払いをする。

 

 

 

「テオ・シュバルツァー男爵家の息子、リィン・シュバルツァー。またの名を『剣鬼』リィン・シュバルツァー。そして八葉一刀流の皆伝者として私たちに知られている人物よ。」

 

「『剣鬼』……!」

 

フィーは驚きの声を上げた。フィーは当然、その呼び名に聞き覚えがあった。それは自分が所属していた『西風の旅団』と宿敵関係である『赤い星座』の『闘神』を降した者である。結局は殺すに至らず、少し前に彼女の親代わりであった『猟兵王』と相討ちになってしまったが…。

 

ラウラも驚いていた。武の道に進めば必ずや八葉の者と関わることになると父に聞かされていたがまさか皆伝しかも自分と同じ年齢でそれを成したのであるからだ。余談だがリィンが弐の型を免許皆伝したのは11の頃である。全くもっての化け物ぶりである。

 

 

「『剣鬼』…。随分と物騒な呼び名ね」

 

アリサは顔をしかめて、おもむろに声を出す。

 

「そうだな、サラ教官。何故、あの者は『剣鬼』と呼ばれているのだ?父上から聞いた話では八葉の皆伝者は皆、『剣聖』と呼ばれると聞き及んでいるぞ。」

 

ラウラにとっては当然の疑問だった。

 

「ラウラの言う通りよ。『剣聖』――。八葉一刀流の皆伝者たちは全員そう呼ばれるわ。リィン・シュバルツァーを除いてね。リィンが興した1つの所業が広まりすぎたのよ。ほかにもいろいろあるけどね。それが『剣鬼』と呼ばれる由縁になったわ。」

 

「しょ、所業って……。」

 

エリオットは困惑の声を思わず口に出してしまった。リィンがいったい何をしたのか一同、サラの言を待つ。サラは溜め息を吐いて言葉を続けた。

「一番有名なのがリィンが当時13歳の頃、ゼムリア大陸の西を拠点とした、西の最強の猟兵団の1つの『赤い星座』、『闘神』バルデル・オルランドと呼ばれる最強の一角に死闘を行い、降し勝ったことが有名ね。ほかには一部の貴族が暴走して彼に対して50人の猟兵を差し向けて皆殺しにしたのもあるわね。ほかにもチラホラと聞いたことがあるけど――聞きたい?」

 

 

話を聞いた『Ⅶ組』の面々はこれには呆然とした。フィーを除いてだが――。元々その話は『猟兵王』から聞いたからである。

 

「そ、そんな危険人物が何故、士官学校に居るんですか!普通はあり得ないでしょ!それに加えてそんな人間がⅦ組にいるなんて!」

 

 

マキアスは声を大にしてサラに訴えた。これも当然の反応である。自分の近くにそんな人間はいてほしくないのだ。

 

「それを言われると痛いわね〜。でも私の見立てでは基本的には無関心って感じがするのよね。ある一定の実力者には露骨に反応するけど。『剣鬼』って呼び名も案外伊達じゃないわねー。まあ――、そこらへんは理事の方々と学院長に申し出てね♪」

ウィンクをしてサラはⅦ組全員にそうまくし立て、抗議を無視して足早に去っていったのであった。

 


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