【完結】最強の聖騎士だけど聖女様の乳を揉みたいので魔王軍に寝返ってみた   作:青ヤギ

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このおっぱいで聖女は無理でしょ

 魔王軍の侵略によって、いま世界は危機に陥っている。

 聖騎士である俺は、国と人々を守るため日夜戦い続けていた。

 

「聖女様。騎士団長、フェイン・エスプレソン。ただいま帰還いたしました」

 

 魔王軍との一戦を終え聖都に帰還した俺は、神殿で待っていた聖女様に膝をつき頭を垂れる。

 

「よく戻られましたフェイン。ご無事で何よりです」

 

 いつものように、柔らかで慈しみに満ちた声が迎える。

 

「此度の戦いも獅子奮迅のご活躍をなされたようで。さすがは聖都最強と謳われる《剣将》。聖女として感謝いたします」

 

「勿体なきお言葉。聖女様にお仕えする聖騎士として、当然のことをしたまでです」

 

「相変わらず謙虚なのですね。そういうところがあなたの良いところでありますが……。さ、お顔を上げてフェイン?」

 

 言われるがままに顔を上げると、両頬が少女特有の華奢な手で包まれる。

 目の前には聖女様のご尊顔。

 まだあどけなさの抜けない、それゆえに尊く美しい笑顔が向けられる。

 

「フェイン。あなたのおかげでまた多くの命が救われました。どうか、あなたに《聖神》のご加護がありますように……」

 

 瞳を閉じ祈りの言葉を口にする。

 聖なる光が肉体を包み、蓄積した疲労を癒やしていく。

 戦いを終えた聖騎士を慈しみ、祝福するその姿はまさに聖女の名にふさわしい。

 

 聖女様は俺を謙虚という。

 だが違う。

 俺という男は本当は誰よりも強欲だ。

 こうして間近で聖女様と触れ合える時間を、その笑顔を、自分だけが独り占めにしたいと思っているのだから。

 ああ、聖女様は今日もお美しい。

 男だけでなく、同性すらも虜にしてしまう完成された美貌は、いつまでも見つめていたいと思うほどに神々しい。

 

 しかし、俺の視線は聖女様の顔より下に移った。

 聖女様の美貌だけでも充分眼福だが、もっと凝視したいものがそこにはあったからだ。

 

 ああ、やっぱりいつ見ても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖女様のおっぱい、超でけええええ!

 

 でかい。でかすぎる。

 でけーな。本当にでけーな。

 なんなの、このおっぱい?

 いったい何カップあるんだ?

 露出の少ない聖衣を突き破らんばかりに発育した特大のおっぱい。

 歩くだけでたぷんたぷんと揺れる巨大なおっぱい。

 ああ、揉みたい。

 いけないとわかっていても、このおっぱいを……。

 

 聖女様のおっぱいを揉みたい!

 

 

 

 

 聖女ミルキース。

 いまや、その名を知らない者はいないだろう。

 そのおっぱいの大きさを知らない者もいない。

 いや本当になんだ、このバカでかいおっぱいは? ふざけているのか?

 このおっぱいで聖女は無理でしょ。

 一度でいいから揉ませてほしい。

 

 

 唯一にして絶対なる《聖神》に選ばれた聖女様。

 神聖不可侵の存在である彼女の乳を揉むなど、いうまでもなく異端審問レベルの背徳行為である。

 でもめっちゃ揉みたい。ダメと言われるほど揉みたくなる。ああ、揉みたい。

 ただのおっぱいじゃない。なんたって聖女様のおっぱいである。神聖なる聖女っぱいだ。

 

 なぜ聖女のおっぱいというだけで特別感が増すのだろう?

 なぜ伝承に語られる伝説の存在のおっぱいというだけで価値が増して見えるのだろう?

 興奮してしょうがねー。

 

 幼少時は辺境の教会で育ち、贅沢とは縁遠い質素な生活を送っていたそうだが……

 それでどうやってこんな凶悪なドスケベボディが育つんだ?

 穢れを知らぬ聖女として表舞台に出て、その特大おっぱいを民衆に見せ散らかした彼女。

 その清廉な精神と無欲な振る舞いは人々の感動を呼んだ。

 俺も感動から泣いた。

 こんなにも素晴らしいおっぱいを持つ美少女がこの世にいたのかと、思わず天を仰いで感謝した。

 

 美人な女性ならば貴族の中にも多くいるが、だいたいは高飛車の性格ブスだ。

 しかし聖女様にいたっては人格面にマイナス要素が微塵もなく、外見まで美人ときた。

 最強かよ。

 

 年端もいかない少女ながら透き通るような美貌、優しさが透けて見えるような穢れなき美貌。

 そして、おっぱいである。

 小柄な背丈や童顔に見合わぬロケットおっぱい。

 もう巨乳なんてものじゃない。爆乳というか魔乳レベルである。

 いや、聖女だから聖乳と呼ぶべきか。

 聖乳、超揉みたい。

 心優しくいい子な彼女のおっぱいを、淫らなことなんてほとんど知らなそうな無知でムチムチのおっぱいを揉んで揉みまくりたい。

 魔王の出現に合わせ聖女として目覚めたという彼女の奇跡のおっぱいを揉みたい。

 

「本日もご苦労様でしたフェイン。何か感謝の印をご用意しないといけませんね。あなたからご希望はございますか?」

 

「いえ、どうかお構いなく。聖女様のそのお気持ちが、わたくしにとっては充分すぎる褒美でございます」

 

 嘘である。

 いますぐ「では、そのご立派な乳を揉ませてください」と声を大にして言いたい。

 まあ、バレたら確実に火刑コースだから言えないけどね。

 

 本音を押し殺した素っ気ない返答を前に、聖女様は残念そうに微笑む。

 

「そうですか……。節制は聖騎士の美徳なのは承知ですが、たまにはワガママを言ってくださっても構わないのですよ? 神官たちはうるさいかもしれませんが、私は何も咎めませんから」

 

 ああ、聖女様は本当にお優しいな。

 こうして聖女様が直々に癒やしてくださること自体が、聖騎士にとっては法外の誉れだというのに。

 その上で褒美を用意しようとするのは彼女自身の生来の性格によるものだ。

 良くも悪くもまだまだ普通の少女としての感性が抜けきっていない。

 そんなところが、また人々に愛されている理由だが。

 

 改めてこんな心優しく美しい少女が人類の命運を握る存在ということに驚く。

 

 

 

 地平を埋め尽くす魔王軍。

 とうに人類が滅びていてもおかしくはない圧倒的な戦力差だが、それでもこうして無事でいられるのは、奇跡としか言い様がない聖女様のチカラのおかげだ。

 

 国を覆うほどの巨大で強固な結界は魔王軍の侵入を阻み、治せないとされた傷も病も『癒やしの波動』でたちまち回復する。

 聖神のチカラの一部を他者に授ける『聖女の加護』は、ただの人間を異能のチカラに目覚めさせる。

 そうして編成された聖騎士団の登場によって、人類は初めて魔王軍と対等に戦えるようになったのだ。

 

 希望とは、まさに彼女のことだ。

 そんな聖女様に、ふしだらな感情を向けるほど不敬なことはない。

 わかってはいる。だが、それでも揉みたい。

 普段から感謝してる救世主たる彼女の乳を――感謝の言葉と共に揉みしだきたいのだ。

 感謝のモミモミ。ありがとうおっぱいしたい。

 

 勘違いしないでほしいが俺の聖女様へ向ける忠誠心は本物だ。

 あの乳をぶら下げて世界を守り続けている彼女を尊敬している。

 柔らかそうで、でかいあの乳を見ながらその気高い姿に心酔している。

 心酔しつつ揉みたい。人々が彼女を女神のごとく讃えているように、俺も彼女の聖乳を讃えつつ揉みしだきたい。

 

 日に日に増していくそんな欲望は戦いで発散してきた。

 おかげで気づけば聖都最高戦力である十二人の騎士団長《十二聖将》の頂点に昇り詰めていた。

 だが俺は地位や名誉に興味はない。

 俺が望むのは、ただひとつ。

 聖女様のおっぱいだ。

 

 これまでは少しでも彼女の傍にいられるのなら、それだけで幸せだと思っていたが……欲望というものには際限がない。

 騎士団長としてお顔を合わす機会が増えれば増えるほど、聖女様と手を繋いでみたいとか、聖女様を抱きしめてみたいとか、聖女様の乳を揉みたいとか聖女様の乳を揉みたいとか聖女様の乳を揉みたいとか、やりたいことが溢れるように出てくる。

 もう最近はほとんどおっぱいのことしか頭にない。

 ああ、おっぱい……。

 

 こうして功績を挙げ続ければ、もしかしたら聖女様が俺を特別な目で見てくれるのではないかと内心期待していた。

 だが……それは彼女が聖女である限りありえない。

 彼女の愛は人類すべてに向けられるものだからだ。

 聖女様がその役目を終え、再び普通の女の子に戻れるのは、それこそ魔王軍との戦いが終結したときだけだろう。

 

 

 

 ……でもな~。アイツらいくら倒してもキリがないんだよな~。

 というか親玉の魔王が存在し続けている限り、死んでもいくらでも復活できるとか卑怯じゃね?

 これじゃ終わる戦いも終わらない。

 

 いや、そもそも敵の本拠地がどこにあるかなんて、とっくの昔にわかっている。

 だから全戦力を投入してさっさと攻め込んでしまえばいいのだ。

 これまで何度も神官たちに魔王城を攻めようと要請してきた。

 だが神官のジジイどもは許さなかった。

 なぜか?

 親愛なる聖騎士を失いたくないから?

 まさか。

 理由はもっと俗っぽいものだ。

 

 戦いが終われば、聖女様は普通の女の子に戻る。

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 人類の希望、聖女様を失いたくないがゆえに。

 正確には『聖女』という都合のいいシンボルを。

 

 いま人類は聖女様を中心にして回っていると言っても過言ではない。

 それは即ち、聖女様の権威を使えば、いくらでも政治を操れるということ。

 もちろん聖女様にそんな黒い意図はない。

 だが彼女に付き従う神官たちまで、愛国精神に満ちているとは限らない。

 というか、ほとんどの連中が聖女様の威を借りて国を好き勝手にしている老害どもだ。

 くそジジイどもめ。

 聖女様が世間知らずなのをいいことに、自分たちばっかり得するような決まり事を作りやがって。

 

 何が戒律だ。

 何が『聖神の加護を得るためにも節制して生きろ』だ。

 自分たちは影で飲んだくれているくせに。

 聖職者が聞いて呆れる。

 

 もしも聖女様が真実を知ったら純粋な彼女は大いにショックを受けることだろう。

 政治の道具にされたことよりも、自分がいたせいで神官たちが歪んでしまったことを悔やみ、自分を責めるだろう。

 聖女様には何の罪もない。

 彼女の良心を傷つけないためにも、これまで黙っていたのだが……

 

 しかし、いい加減に我慢の限界かもしれない。

 終わりの見えない戦いに身を投じるのも。

 人の善意を利用して腹を肥やす神官どもの悪政も。

 

 そして、聖女様のおっぱいを揉めない日々も!

 

 

 

 

 あ~あ~。

 なんで俺は聖騎士になんかになっちゃったんだろう……。

 はい、聖女様とお近づきになりたかったからですが何か?

 でも、いくら聖騎士として頑張ったところで、この思いが報われることはないんだよな……。

 これじゃ何のために戦っているのか、わからなくなってくる。

 

「やめちゃおうかな聖騎士……」

 

 自室でひとり、そう呟く。

 俺と違って純粋な使命感に燃える他の聖騎士連中が聞いたら、間違いなく激怒するだろう。

 けど俺は真剣に引退を考えている。

 これ以上、聖都という名の腐敗した国に忠義を尽くすのも癪だし。

 届かない思いを抱えたまま聖女様のお傍でムラムラする禁欲生活も辛い。

 

 しかし親父から引き継いだ領地はとっくに魔王軍に占領されているしなぁ……。

 引退したところで行く当てもない。

 元侯爵家の長男もこれじゃ形無しだ。

 

「はぁ~。いっそ俺が魔王軍だったら戒律なんて無視して好き勝手にできたのにな……」

 

 またもや他の聖騎士たちが激怒しそうな失言をこぼす。

 でも本当に、いっそ魔王軍側に付きたいくらいである。

 悪者になれば開き直って欲望のままに生きられるではないか。

 思う存分、聖女様にあーんなことや、こーんなことができたかもしれない。

 

「……ん? いや待てよ?」

 

 何気ない自分の発言で気づいてしまう。

 

 あれ?

 なっちゃえばよくね?

 魔王軍に。

 

 だってこの国に尽くすメリットとか、聖女様と一緒にいられること以外ほぼ皆無だし。

 節制という名のみすぼらしい食生活。肉や酒はもちろんダメ。

 エロいことは禁止。子作りするときは快感を覚えちゃダメ。

 金銭は「聖神様に捧げるものだ」とか言ってほとんど税収されてしまう。

 

 いや、改めて考えると本当にうんざりするな。

 ちっとも人間らしい生活できてないじゃん。

 もちろん神官どもは影で酒池肉林の日々で税収した金も奴らが好き放題使っている。

 まさに聖都という名のブラック国家。

 ……あ、うん。まったく守る価値ねーわこんな国。

 

「よしっ、寝返ろう!」

 

 魔王軍になってこの国を滅ぼそう!

 そして聖女様の乳を揉もう!

 

 聖女様への忠誠心はどうしたって?

 ……知るかあああああああああああああああああああああ!

 おっぱいの前では男など皆ケダモノだ!

 というか、このまま終わりのない戦いに生涯を捧げて、政治の道具にされ続ける聖女様が気の毒じゃないか!

 だったらいっそ俺が引導を渡して、彼女を聖女の任から解き放ってやろうじゃないか!

 そして俺の手で女性として生まれたことの喜びを教えてあげようじゃないか(物理)!

 

 さらばだ聖都!

 さらばだ戦友たちよ! そしてたったひとりの妹よ!

 お前たちが住まう場所を滅ぼすのは心苦しいが……

 

 クソッタレな国家に所属しちまったことをどうか悔やんでくれ!

 

 俺は()に生きる!

 

  ◆

 

 翌日。

 聖女ミルキースがいつものように朝の祈りを捧げていると、慌ただしく駆け込む足音が神殿に響く。

 

「聖女様! 大変です!」

 

 猫のように丸い目と薄桃色の髪をおさげにした少女がミルキースの背に声をかける。

 神官たちがいれば「聖女様の祈りを邪魔するとは!」と懲罰という名の鬱憤晴らしが始まるところだったが、幸いここにはミルキースと駆け込んできた少女しかいない。

 なによりミルキースにとって少女は、いつだって歓迎すべき数少ない同年代の友人だった。

 祈りを終えて、快く友人を迎える。

 

「シュカ。どうされたのですか? そんなに慌てて」

 

「た、大変なのです! あ、兄上がっ、その……」

 

「フェインがどうかされたのですか?」

 

 またシュカの兄に対する心配性が始まったのだろうか。

 フェインの義理の妹であるシュカ・エスプレソン。

 見た目は愛らしい少女だが、これでも義兄のフェインと同じく《十二聖将》のひとりである。

 もともと貧困街に生まれた孤児だったが、剣の素養と過酷な環境を生き残る気骨を買われ、代々武官の一族であるエスプレソン家に拾われたのだという。

 その才覚はこのとおり結果として表れている。

 

 同じ孤児の生まれということで、ミルキースとシュカは意気投合した。

 こうして二人きりでいるときは彼女たちも己の身分を忘れて《ただの少女》として会話に華を咲かせることができた。

 兄を心から敬愛するシュカが相手だと、自然と話題はフェインに偏る。

 なかなか自分に素の姿を見せてくれないフェインの意外な一面をシュカの口を通して知ることができるため、ミルキースは彼女との時間を気に入っていた。

 今日もまたフェインのことで楽しい会話ができるのかと期待していたミルキースだったが……どうやらシュカの様子を見るに、穏やかな内容ではないようだった。

 

「いったい何があったのですか?」

 

 ミルキースは笑顔を引っ込め、聖女としての態度に切り替える。

 シュカも一介の騎士として語り出す。

 

「今朝、兄上がいつまでも訓練にやってこないので部屋に伺ったのですが……そうしたら、もぬけの殻でして……」

 

 ミルキースは驚いた。あのフェインが訓練を無断で休むなど、いままでなかったことだ。

 

「しかも、机の上にこんな書き置きが……」

 

 そう言ってシュカは一枚の紙切れを差し出す。

 

「まず、聖女様に見せるべきだと思いまして」

 

「いったい何が……」

 

 恐る恐る折りたたまれた紙を開く。

 中にはこう書かれていた。

 

 

 

    一身上の都合により魔王城に向かう。

    聖都には二度と戻らない。

    聖女様万歳。

 

 

フェイン・エスプレソン

 

 

 

 簡潔な文章。荒々しい筆跡。

 まるで書き手の「居ても立っても居られない!」と言わんばかりの激情が伝わってくるような書き置きに、ミルキースは息を呑んだ。

 

「フェインが、たったひとりで魔王城に?」

 

「兄上は悪ふざけでこのようなことは決して書きません。そこに書かれていることは、真実かと……」

 

「そんな……」

 

 勝手な魔王城への干渉は、神官たちによって禁止されている。

 破ればいかに《十二聖将》といえども、階級を剥奪されてもおかしくはない。

 それを承知で、フェインはこの聖都を出た。

 それが意味することは……

 

「シュカ……もしや、フェインは……」

 

「はい。聖女様のご想像どおりかと。……くっ、兄上は、そこまでして……」

 

 誰よりも兄を理解するシュカは、すでにこの蛮行の裏にある真意に察しがついていた。

 

「兄上は……聖都の決まりに刃向かってでも、魔王を討つ覚悟を決めたのです!」

 

「ああっ! そんなっ! フェイン!」

 

 ふたりの少女は泣き崩れた。

 

 フェインは悟ったのだろう。

 いまの保守体制のままでは、いつまでも魔王軍との戦いを終わらすことができないと。

 そのためには、国を裏切るしかなかったのだ。

 さぞ葛藤したことだろう。信心深き彼が、母国を捨てるなど。

 だが結果はどうか。

 フェインは誰ひとり巻き込まず、単騎で魔王城に向かったのである!

 彼が忠義と愛国心で特攻したことは、書き置きの最後に書かれた『聖女様万歳』が物語っている!

 

 シュカはむせび泣いた。

 兄の勇気ある決断を思えば思うほど、ただでさえ溢れんばかりの尊敬の念がますます湧いてくる。

 

「ああっ兄上! あなたこそ真の聖騎士です! でもわたくしは悲しい! なぜこの妹めにひと言でも打ち明けてくださらなかったのですか!? わたくしなら共について行ったのに!

 ……いえ、そもそもこうなるまで兄上の葛藤を理解してあげられなかった自分が憎い!」

 

「シュカ、どうかご自分を責めないで。これはすべて私の責任です」

 

「なにをおっしゃいますか!? 聖女様に非はなにひとつございません!」

 

「いえ、私のせいなのです。……ついぞ神官たちの横行を止めることができなかった私の未熟さが、この結果を招いたのです」

 

「っ!? 聖女様、あなたは……」

 

「ああ、シュカ、許してください。自分が大人たちの操り人形であると知りながら、ついぞこの国の在り方を変えられなかったことを……」

 

 ミルキースはとうに気づいていた。この聖都のいびつな体制に。

 むろん彼女も何もしてこなかったわけではない。

 知恵が足りないなりに知恵を絞り、これ以上国情が悪化しないよう影で対策してきた。

 己の権力の許される範囲で度の過ぎた蛮行に走る神官を罰してきた。

 だが、所詮は辺境育ちの少女。慣れない(まつりごと)をするには限界があった。

 

 ミルキースが学んだことはひとつ。

 人間とは、いくらでも相手の裏をかく悪知恵を絞り出せるのだということ。

 

 それでもミルキースは人間に失望することなく、聖女としての役目を全うした。

 たとえ都合良く利用されていようと、立場を放棄して罪なき人々を見捨てるわけにはいかなかった。

 清く正しく、聖女としての道を貫けば、きっといつか神官たちの心にも響き、この国の在り方を変えると信じてきた。

 

 ……だが現実はどうか。

 いま自分たちは、掛け替えのないひとりの聖騎士を失おうとしている。

 

「……もはや迷っている猶予はありませんね」

 

「聖女様?」

 

「フェインが覚悟を決めたのなら、私も同じように覚悟を決めなくては」

 

「では……」

 

「はい。――魔王城に総攻撃を仕掛けます」

 

 もはや神官たちに何と言われようと決定を覆すつもりはない。

 すべての決着をつけるときが来たのだ。

 

「これまでにない過酷な戦いになることは必至でしょう。それでも行ってくださいますかシュカ? いえ……《翼将》シュカ・エスプレソン」

 

「もちろんです。《十二聖将》の名にかけて、必ずや勝利を!」

 

 その後、他の聖騎士たちにもフェインのことを話すと全員一丸となって決戦に向かうことを承諾してくれた。

 神官たちはこの期に及んでもなお保守的な苦言を口にしたが、ミルキースのこれまでにない圧を前にして怯み、しぶしぶ首を縦に振った。

 

 そもそも聖騎士たちの間に広がる熱気を静めることは、もはや誰にもできなかった。

 フェインの行動を機に、日々不満を溜めていた聖騎士たちの心に等しく火が着いたのだ。

 

「我らも《剣将》に続きましょうぞ!」

 

「おうとも! ここで臆していては聖騎士の名折れ!」

 

「フェイン殿こそ真の敬虔なる聖騎士なり!」

 

「おお万歳! 《剣将》フェイン万歳!」

 

 聖騎士たちを死地に送ることにミルキースはいつだって葛藤してきた。

 今回に限っては敵の本拠地である。決行には大いに悩んだ。

 しかし……彼らの目に宿る戦意を見れば、きっと大丈夫と信じることができた。

 

「皆さん。どうか無事に戻ってきてください。あなたたちに《聖神》の加護がありますように……」

 

 聖女としてのミルキースは願う。

 聖騎士たちの帰還を。

 

 少女としてのミルキースは願う。

 自分にとって特別な青年の無事を……

 

  ◆

 

 神殿にひとりになったミルキースは再び祈りを行う。

 聖都の主戦力が出陣したいま、聖都に張った結界をより強める必要がある。

 聖騎士たちを信じて送り出した後に聖女ができることは、チカラなき市民たちを守ることだ。

 ミルキースは己の使命に殉じようと精神を研ぎ澄ましていたが……

 

「フェイン……」

 

 どうしても、ひとりの青年に思いを馳せてしまう。

 

 聖女の慈愛は万人に向けられるべきもの。

 特定の誰かを特別扱いするなど、本来ならあってはならない。

 そうわかっていても、ミルキースは少女としての感情を抑えることができずにいた。

 

 ミルキースは己を恥じる。

 自分は聖女失格だ。

 この有事になってもなお、幼き頃からの思いをついぞ絶てずにいるのだから。

 

 

 

 フェインはきっと覚えていないだろう。

 聖女となる前……まだ辺境の教会の孤児だった頃。

 まだ人同士が争っていた時代。

 異国の騎士に教会を攻め込まれたとき、少年の騎士に命を救ってもらった。

 それが国境を守る武官の一族、エスプレソン家の長男であることは世間知らずのミルキースでも知っていた。

 自分とあまり歳も変わらない少年が、大の大人相手にも怯まず剣を揮い、無双する勇姿は少女を虜にした。

 以来、ミルキースにとってフェイン・エスプレソンはずっと思慕の対象だった。

 

 だが相手は侯爵家の長男。

 ただの孤児である自分がお近づきになれるわけがない……はずだった。聖女として覚醒するまでは。

 

 聖都で憧れの少年と再会したとき、ミルキースは運命を感じずにはいられなかった。

 だが悲しいかな。

 身分の差という壁は、ここでも立ちはだかった。

 聖女と聖騎士である以上、自分たちがそれ以上の関係になることはない。

 

 だからこそ、少女はときどき夢想してしまう。

 何のわだかまりもない、もしもの関係を。

 

「んっ……」

 

 このままでは祈りに集中できない。

 そういうとき、ミルキースはひとつの発散法を行う。

 それさえすれば不思議と邪念は晴れ、聖女としての意識に切り替えることができた。

 その方法とは……

 

「あぅ、あっ……」

 

 聖衣を突き破らんばかりに育ったふたつの巨峰。

 ミルキースはおもむろに、それを鷲掴んだ。

 甘い快感が総身に走り抜ける。

 

「はぅ……あぁん……」

 

 いつの頃から始めてしまい、夢中になってしまっているこの行為。

 俗世に疎いミルキースは、それがどういう名の行為なのかは知らない。

 だが、ひどく罰当たりな行為だということは本能的にわかっていた。

 

 それでもミルキースは止めることができない。

 これまでの人生で最も至福の瞬間とさえ思える快感の波に抗うことができない。

 

「ああ、なんてはしたないことを……お許しを……ああ、どうかお許しを」

 

 許しを請いつつも、ミルキースは過剰に育った膨らみを小さな手で揉みしだき続ける。

 

「ああっ……フェイン……」

 

 握りしめるその手が、かの聖騎士のものだと思えば思うほど、譫言のように甘い声色が漏れる。

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 だがもしも……フェインが強引にでもこんな真似をしようものなら、自分は決して拒めないだろう。

 いや、むしろ喜んで……

 

「んっ……あぁああああぁあっ!」

 

 神殿に甘い嬌声が響き渡った。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 事を済ませたミルキースは艶っぽい息を吐きながら祈りの姿勢を取る。

 ここからは聖女として祈りに集中しなければならない。

 ならないのだが……今日に限って、なかなか余熱が引いてくれない。

 それはやはり、こうしているいまもフェインが危険な目に遭っていると考えてしまうからだろう。

 

「ああ、フェイン、どうか……」

 

 無事でいて……と彼の生死を案じつつ、ミルキースは再び邪念を発散すべく己の膨らみに手を伸ばした。

 

「~~っ♡」

 

 神殿に似つかわしくない甘い嬌声が再び響き渡る。

 

 このおっぱいで聖女は無理でしょ。

 ある意味で、フェインのその見立ては間違っていないのだった。

 

  ◆

 

 一方その頃。

 無事、魔王城に辿り着いたフェインは門番の前で足止めをくらっていた。

 

「だからさ~何度も言ってるじゃん。俺は聖都を裏切ってきたんだって。頼むから魔王様に会わせておくれよ~」

 

「信用できるか馬鹿者! だいたい裏切った理由が『聖女の乳を揉みたいから』だと!? ふざけているのか!? そんなバカみたいな理由で国を裏切るやつがどこにいるんだ!」

 

「ああああぁん!? てめぇ俺の悲願をバカにするのか!? 上等だぁ! こうなったら力ずくで魔王の部屋に行ってやろうじゃないか! 道を空けろオラァ!」

 

「ぎゃああああ! こいつ滅茶苦茶だああ!」

 

「門番がやられたぞ! 者ども出会え出会え!」

 

「かかってこいやぁあ! 聖女っぱいを揉むまで俺は死なねえ! 聖女様(のおっぱい)万歳!」

 

 かくして。

 衝動に従っていれば悲願の成就は間近だったにも関わらず、すれ違いにすれ違った結果、ただ事態をややこしくしただけのフェイン・エスプレソン。

 そんな男の頭の中には、やはり聖女の乳を揉むことしかないのだった。

 




 異世界ファンタジーって書いたことのないので習作として書いてみました。
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