【完結】最強の聖騎士だけど聖女様の乳を揉みたいので魔王軍に寝返ってみた   作:青ヤギ

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 描写不足の点があったので補足をば。


間章・魔王リィムの葛藤

 フェインが《叛逆の聖騎士》として聖騎士たちを迎える少し前のこと……

 

「ねえ、フェイン。しつこいようだけど本当にいいの? いまならまだ向こうに戻れるかもしれないんだよ?」

 

 念のため、リィムはフェインにそう問いかけた。

 かつての仲間たちを迷わず迎え撃とうとするフェインの行動に驚いたためでもある。

 ここで仲間を討てば、彼は本当に後戻りができなくなる。

 リィムなりに温情をかけたつもりだったが……

 

「くどいぜ魔王様。聖女様の乳を揉むまで、俺があのクソ国家に戻ることはありえないぞ」

 

 やはりフェインの決意が揺らぐことはないようだった。

 リィムは苦笑した。

 

「そっか。……しかしフェインにそこまで言わせるなんて、よほどひどい場所なんだね聖都って」

 

「ああ、俺たち民衆には節制を強いておきながら、上の連中は贅沢三昧だからな。たぶん、俺が知らないだけでもっとヒドイことをしてる可能性だってある……」

 

 フェインの瞳には、聖都というよりも、人間に対する失望の色が宿っているようにリィムに見えた。

 

「『魔族はおぞましいバケモノだ』って散々教えられてきたが……けど、ここに来て思ったよ。正直アンタたちよりも、神官どものほうがずっとおぞましいバケモノだったんじゃないかってな」

 

「おいおい、それは言い過ぎだろ。ぼくたちはもういくつも土地を奪っている侵略者だぜ? それがおぞましいバケモノじゃなかったら、なんだって言うんだ?」

 

「でもさ……アンタたち、いつも交渉持ちかけてるだろ、戦う前に。『話し合う気はないか?』ってさ」

 

「……」

 

「前までは『何言ってんだこいつら』って思ってだが……でも、いま思い返すと、アンタたちの戦い方って奇妙なんだよな。なんか『他に方法がないから仕方なくやってる』って感じがするっていうか」

 

「……思い違いだよ。ぼくらは本気で地上を侵略する気で戦ってる」

 

「そう言うわりにはさ」

 

 フェインはリィムと目を合わせて、告げる。

 

「アンタたち、一度も人を殺してないよな?」

 

「……」

 

「いや、少なくとも俺の記憶の範疇ではって話だが……怪我は負っても、それが致命傷だったってことは実は一度もないんだよな」

 

 フェインは記憶を掘り返す。

 思えば領地を奪われたときも、あれは攻撃というよりも、どちらかというと追い払うような戦い方だった。

 敵意はあっても、魔族たちの攻撃に殺意はなかったのである。

 人間である自分たちは、もう何度も魔族の命を奪っているにも関わらず、魔族たちが直接、人間たちに手をかけた瞬間をフェインは一度だって目撃したことがない。

 

 それが意味することは即ち……

 

「なあ魔王様。アンタたちの話がどこまで真実なのかは俺にはわからない。

 魔王同士の闘争で魔界が荒廃したことも。穏健派のアンタが苦しむ民衆を率いてこっちにやってきたってことも。最初は人類が戦争まがいのことを仕掛けたってことも。

 ……でも俺は信じたいほうを信じることにするよ」

 

 聖都という歪みきった国を滅ぼしたいフェインにとっては、口実さえあればいい。

 真実はどうでもいい。最終的に信じられるのは自分自身だけなのだから。

 

「でもフェイン」

 

 魔王の部屋から出ようとするフェインの背に、リィムは語りかける。

 

「もしもぼくが残虐な本性を出して、君の大切な人を殺めようとしたら、君はどうする気だい?」

 

「簡単さ。そんなことは絶対にさせない。クソ神官どもは、くたばってくれて全然構わないが、罪のない民衆たちを見捨てるほど俺も鬼じゃない。守りたいやつは守りつつ、聖都を滅ぼす。それだけだ」

 

「むちゃくちゃだね君は……」

 

「やりたいようにやるって決めたからな。言っとくが、いくら魔王様でも聖都に住んでる民衆たちにヒドイことしたら許さねーぜ? そこんとこよろしく」

 

 そう言って、フェインは再び背を向け、

 

「……ま、そんな心配はしてないけどな」

 

 ぽつりとそう呟いた。

 

「フェイン!」

 

 いままでにない真剣な表情を浮かべて、リィムは叫ぶ。

 

「ぼくたちは侵略をやめない! ぼくたちには住む場所が必要なんだ!」

 

 それは『もはや引き返せないところまで来てしまったから』とも取れる言い方だった。

 

「……でも約束しよう! 決してイタズラに人間たちの命を奪わないと! 必要以上に傷つけないと!

 それは、ぼくたちがこれまでずっと貫いてきた決まりだ! だからフェイン!」

 

 魔王として、リィムは告げる。

 

「君もかつての仲間を殺すな。それだけは絶対に守れ」

 

「……仰せのままに。魔王様」

 

 剣を持って、フェインは魔王の部屋から駆け出す。

 その後ろ姿は、どこか喜んでいるようにリィムには見えた。

 

「……なあルチェ。君の目から見て、彼は信用に値する男かい?」

 

 一部始終を見ていた部下であるルチェの傷を魔力で癒やしつつ、リィムは尋ねる。

 主に問われたルチェは、苦々しい顔を浮かべつつ答えを出す。

 

「まだ、なんとも言えません。ですが、やはり私は人間を簡単に信用することができません……あんな思いは、もう二度と」

 

「そっか……」

 

 ルチェの気持ちもわからなくもない。

 だがリィムは期待したかった。

 フェインという存在が、魔族と人間を結びつけるきっかけになるのではないかと。

 

 人間との和睦。

 荒廃した魔界を抜け出し、新天地を求めた魔王リィムにとって、それだけが望みだった。

 

  ◆

 

 魔王とは、ひと言で言ってしまえば『承認欲求』の塊だった。

 自分以外に偉い存在がいることを認められない。

 自分が最強でないと我慢できない。

 

 我こそが最強の魔王だ。それを証明するためなら、周りを巻き込もうが、世界がどうなろうが構わない。

 そんな王ばかりが存在する限り、魔界が荒廃するのは必然だった。

 

 魔王リィムは、そんな魔王の中でも異質な存在だった。

 まず争いごとを好まない。

 のんびりと過ごすのが好きで、楽しく穏やかに生きることがモットー。

 魔王らしからぬ習性ばかりを持つ、奇妙な魔王だった。

 

 多くの魔王たちがリィムに挑んだ。

 そのほとんどをリィムはスルーしてきた。

 誰が最強かだなんて、そんなことちっとも興味がなかった。

 

 リィムは不思議に思った。

 なぜ、皆そんな疲れるようなことばかりするのだろう?

 楽しいことに夢中になったほうがずっと健全なのに。

 

『まあ、それが君たちにとって楽しいことなら好きにすればいいさ』

 

 そんな風にリィムは、魔王たちの闘争とは関係ないところで、毎日楽しくのんびりと過ごした。

 

 ……結果、魔界は荒れ果てた。

 

 多くの魔族がリィムに救いを求めた。

 魔王らしからぬ魔王こそ、彼らにとってはもはや救世主だった。

 

『もうこんなことはイヤです。どうか我々をお導きください。リィム様』

 

 魔王たちの承認欲求を満たすための、無益な戦いに巻き込まれた民衆たち。

 彼らの傷と涙を見たとき、リィムは、初めて責任を感じた。

 

 ああ、ぼくがすべての魔王を倒して、魔界を統治しなくちゃいけなかったんだな……と。

 

 だが後悔しても、もう遅かった。

 魔界はすでに、生き物が暮らせる場所ではない、文字通り死の世界になっていた。

 もはや別の世界に渡ることでしか、僅かに生き残った民衆たちを救う手はなかった。

 

 

 人間界に来て、まずリィムは交渉に入った。

 本当に僅かな土地で構わない。

 労働ならいくらでもする。

 魔法の技術もいくらでも提供する。

 どうか自分たちを国民として受け入れてほしい。

 魔界で起きた事情をすべて話した結果、人間の王たちは快く頷いた。

 

 では、魔族の皆さんを連れてらっしゃい。

 と、なんとも寛大なことを言ってくれた。

 

 よかった。この世界の住人は話せばわかる者たちだ。

 魔族の誰もが喜びながら、指定された場所に集まった。

 

 待っていたのは砲撃の嵐だった。

 

『出てけー! おぞましいバケモノどもが!』

 

『本当は俺たちの世界を乗っ取る気なんだろう! そうはいかんぞ!』

 

『何が魔王同士の争いで荒廃しただ! 自業自得じゃねーか! お前らの世界の事情なんて知ったこっちゃねーんだよ!』

 

『ここは人間様の世界だ! ひとつだってテメェらにやる土地なんざねーんだ!』

 

『魔界が滅んだならテメェらも滅びな!』

 

 チカラのない女こどもだろうと関係なく人間たちは魔族諸共、虐殺しようとした。

 

 リィムは知らなかった。

 異種族が土地を求めるという行為は、人間たちの感性からすれば宣戦布告も同然のことだということを。

 

 それでも、リィムは反撃しようとはしなかった。

 一度でもこちらが敵意を見せてしまったら、交渉のチャンスを失ってしまう。

 

 以降、リィムたちは人が寄りつきにくい、人ではとても住めない寂れた沼地か、険しい山岳でキャンプをした。

 しかし、それすらも人間たちは許さなかった。

 自分たちの世界に未知の種族が息づいている。殺す理由はそれだけで充分だった。

 毎日のように襲撃が起こり、そのたびリィムたちは拠点を変えねばならなかった。

 

 魔王のチカラさえあれば、死者を蘇生することはできる。

 だが、心の傷まではどうしようもできない。

 日に日に、魔族たちの精神は疲弊していった。

 

 決断が必要だった。

 このまま一方的に害されるだけの生活に、民衆たちが耐えられるわけがない。

 

(でも、戦いは……)

 

 争いを好まないリィムにとって、それだけはどうしても避けたかった。

 しかし……

 

『魔王様! わたくしの子どもが! どうか……どうかお助けください!』

 

 まだ生まれたばかりの赤ん坊にすら、人間たちは手をかけた。

 魔王のチカラがあれば、いくらでも失った命を蘇らせることはできる。

 できるが……

 だが……

 

 まだ何も知らない無垢な存在の命すら許されない。

 それを思い知らせたとき……リィムの覚悟は決まった。

 

  ◆

 

 リィムはまず部下たちにこう告げた。

 絶対に『殺し』だけはするな、と。

 一度でもそんなことをすれば……彼らと同じになってしまう、と。

 

 最初は圧倒的なチカラの差を見せつければ充分だと思っていた。

 奪った土地も、住人たちが自分たちの支配下に置かれることを良しとするなら、以前のとおりの暮らしをさせ、安全を保証するつもりだった。

 しかし、人々は誰ひとりとして魔王軍を信用せず、聖騎士たちに導かれて聖都へ避難した。

 無理もない。

 力ずくで住む場所を奪われた挙げ句、未知の種族の支配下に置かれるほど、人間たちにとって恐ろしいことはないだろう。

 

 それでも、話し合いに応じてくれる者たちがどこかにいるかもしれない。

 リィムはそう願って交渉を持ちかけ続けた。『戦う前に、話し合う気はないか?』と。

 結局、どこも戦うことを選んだが……。

 

 魔族たちが暮らせる場所は増えたかもしれない。

 反して戦いは過激さを増す一方で、終わりというものが見えなかった。

 

 魔族の民を守るためには、これしか方法はなかった。

 だが本当にこれでよかったのか。

 リィムはときどき葛藤する。

 ひょっとしたら、もっと最良の選択肢があったのではないか。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 そんな中、フェインの登場はリィムにとって吉兆だった。

 ようやく、話をまともに聞いてくれる人間が現れた。

 聖都を裏切った目的は正直どうかと思ったが……

 それでも、燻っていたこの状況を変える歯車が動き出したように、リィムは感じた。

 

 そして、なにより……

 

『なあ魔王様。あのとき俺たちは戦いに負けて土地を奪われたんだ。勝ち取った土地をどうこうしようが、それは勝者の特権じゃないか。負けたやつがどうこう言うことじゃねえよ』

 

 長年リィムの中にあった葛藤を、その言葉が吹き飛ばしてくれた。

 

「ふふ」

 

「魔王様?」

 

「ねえ、ルチェ。ぼくはね、やっぱり争いってあんま好きじゃないや。もっと皆が笑って楽しく暮らせるような、そんな世界を創りたい」

 

「魔王様……それは、わたくしも……いえ、魔王軍全員の望みでもあります」

 

「うん。だからね、こんなことは、これで最後にしよう。さっさとぼくらの勝利で終わらせて、皆が安心して暮らせる、そんな世界を創ろうじゃないか」

 

 侵略者である自分たちと人間たちが和睦する未来。

 そんな未来はありえないかもしれない。

 もう手遅れかもしれない。

 だが……

 

 フェインという存在が、もしかしたら、その橋掛になるかもしれない。

 そうなることを、リィムは願った。

 

「まあ、それは、さておき……」

 

 いまリィムはとても気になることがあった。

 

「ねぇねぇルチェ。フェインがそこまで拘る聖女のおっぱいってどんだけおっきいのかな? もしかしてルチェよりも大きいのかな?」

 

「え? あ、いや、それはどうでしょう……」

 

「ん~。やっぱ男の子って大きいのが好きなのかな~? ぼくもそこそこはあるとは思うんだけどな~」

 

 リィムは唇を尖らせつつ、ひかえめに隆起した乳房をグニグニと握った。

 

「ま、魔王様! そんなはしたない真似をしてはなりません!」

 

「ん~、自分の揉んでもよくわかんないや。あ、じゃあルチェの揉ませてよ!」

 

「なんでそうなるんですか!?」

 

「新しい部下の趣味嗜好を理解することは大事だろ~? というわけでモミモミ~。……おう! これは凄い! フェインが夢中になる気持ちがわかるよ!」

 

「あっ、ちょっ、魔王様!? そんなとこ掴んじゃ……あんっ♡」

 

 少女には出せない、大人の女性の艶めかしい声が魔王の部屋に広がる。

 この場にフェインが残っていれば、羨望と興奮による鼻血が床にまき散らされていたであろう。

 

 


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