たまに夢を見る。
見るものは決まってあの時のこと。
「シキ!なんでだよ!!」
「シキ…本当にやめるの…?」
「ごめんホップ、ユウリ。俺はもう無理だ。」
幼馴染2人と切磋琢磨して、3人でチャンピオン目指して、でかいスタジアムで戦うって約束したのに、
俺は2人を裏切ってしまった。
理由も言えず、俺は黙って2人に背を向けて…
──────────
コンッ…コンッ…とリズミカルな衝撃をおでこに感じ、目が覚める。
─キキッ!
「ん。毎朝ありがとサルノリ。」
起こしてくれたサルノリの頭を撫で、軽く礼を言う。
朝は別に苦手じゃなかった。なんなら、毎朝自分で起きれていたし、ホップやユウリが寝坊しそうな時、2人の親に、家にあがらせてもらって叩き起こしたこともある。
けど、あの時から妙に起きれなくなっていた。
「ヘイ、ロトム」
その一言で机の上に置いてあったスマホロトムが目の前に飛んでくる。まだハッキリと目が見えているわけじゃないので、目を細くして日付と時間を確認する。
時間は朝の5時半。
一般的に見れば早い時間だが、ハロンタウンでは違う。畑はもちろん、ウールーの世話もしなければならない。もちろん、大事なことや子供には難しいことは大人がやる。俺がするのはあくまで手伝い。
昔はユウリもホップもいたから分担して仕事を分けていたからもう少し寝ることが出来たけど…
「…ってそうか。今日あいつらのジムチャレンジあるんだ。」
畑仕事に出る服装を整えて家の階段を降りながら思い出す。玄関で既に準備を終えている母が出迎える。
「シキ。おはよ。」
「おはよう。母さん。」
あのことについては、母は言及してこない。言い出せないでいる俺に気を使っているのは明白。微妙な空気になることもあるが、いまはそれがありがたかった。
「なぁ、母さん今日」
「録画を頼むんじゃなくて、見に行ってきたら?エンジンシティは電車使えばそこまで遠くないわよ?」
「…いや、録画しといて。」
「別に見に行くぐらいいいと思うわよ?」
「…」
エンジンシティで行われるジムチャレンジ。俺の幼馴染は2人とも今日チャレンジする予定だ。
応援はしている。2人とも大切な幼馴染だ。出来ることならスタジアムで直接応援してやりたい。
けど…俺にはその資格が…
「…わかったわ。いきましょ。サルノリもお願いね」
─キィッ!
玄関から出ていく母を追おうとしたとき、スマホロトムに通知が入る。
手に取って画面を開くとメッセージが2つ。
ホップ:シキ!今日やばいバトルするから未来のチャンピオンをよーく見とけよ!
ユウリ:今日カブさんとの試合なんだ。応援してくれたら嬉しいな!
思わず表情が緩む。
変わんねーなあいつら。
でも、ごめん。やっぱ応援は行けない。俺はどうしても自分が許せない。
「行く」と返信するのは嘘になる。でも「行かない」と答える勇気もないので、
シキ:がんばれ
とだけ返信した。
「いこうサルノリ。今日はウールーたちの手入れだよな?」
─キ!
────────
「バカ!ホップ!やけどケアしないと!!」
「あーもうユウリ!タイプ相性分かってないじゃん!」
「いっけええ!ラビフット!」
「おせえええ!ジメレオン!」
「はぁ…シキったら、あの応援が彼らの力にならないわけないじゃない。」
違う部屋にいても聞こえてくるシキの声援。部屋で見ているものは確実に幼馴染2人のジムチャレンジの録画だろう。
カレーを頬張っている息子の相棒のサルノリに話しかける。
「ごめんねサルノリ。キミも戦いたかっただろうに…。」
─キィキ!
もちろんサルノリが何を言っているのかは分からない。しかし、サルノリの目を見て、シキの母は確かな信頼を感じ取った。
(でもぼくはシキを信じてるから!)
「ありがとね。たしかに、シキが本当に自分で思ってるようなやつなら、ポケモンがこんなに懐くわけないもんね!」
(うん!ぼくはシキに選ばれて幸せだよ!)
母がシキがジムチャレンジをやめた理由に言及しない理由は単純だ。
信じているからだ。
自分も息子がまた、立ち上がる時が来ると。
シキ:おめでと。かっこよかったよ。
ホップ:おう!
ユウリ:うん!
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