「え、カレーつくんの?俺が?明日?」
「そうなのよ。」
畑での作業の手伝いの後、母に告げられた事実。というか仕事?
ともかく、ハロンタウンにはたくさんのウールーがいて、もちろんそいつらにも食事を与えなければならないのだが…。
明日というのは文字通りだ。今日の分はあるけど、それだけ。
「カレー用のきのみが底をついたのか?」
「そうそう!ブラッシータウンにきのみショップがあるじゃない?みんな偶然都合悪くて買い出し行けないのよ…。お願い!シキしかいないのよ…!」
「んまぁ、それぐらいならいいけどさ、シャワー浴びてからでいい?流石に汗流したい。」
「もちろん!あっ、領収書ちゃんと貰ってねー」
────────
「いくぞー、サルノリー」
─キィ!
シャワーを浴びて着替えてから、ブラッシーに向けて出発する。
俺の足から駆け上がり、頭の上にサルノリが乗ってくる。最初こそ重いーと思っていたが、いまではこの重さが心地よくなっていた。
ホント、ありがとうなサルノリ。
家とブラッシータウンはそこまで遠くないというか、めっちゃ近い。俺たち…つまり俺とホップ、ユウリの家はハロンとブラッシーの境目みたいなところにある。歩いて1分もしないで事実上はブラッシーにいるのだ。
さて、今回向かうきのみショップだが、売っているきのみの種類は少ないが、カレーには使いやすいものが大量に買えるため、よく利用している。
駅とポケセンの間にあるそこそこ急な坂を上るといつもと違う雰囲気の店主がいた。
「おっちゃーん。」
「ん?あぁ、シキか。きのみか?」
「ん。いつものすけど…どうかしました?」
あぁ…とバツの悪そうな顔をした店主は1度ため息をしてから話を切り出す。
「わりぃな、シキ…在庫がなくてな…。」
「まじすか。トラブルですか?」
「あぁ。ブラッシーとエンジン、電車で繋がってるだろ?いつもそーやってきのみ届けてもらってるんだが、野生のウールーが線路上でわんさか眠っててよ…今日は店開けそうにねぇんだ。」
「あー、月に何回かありますね。りょーかいです。」
軽く別れの挨拶を交わしてからどうしようかと迷う。このままじゃウールーたちの飯がない。この辺で生えているきのみのなる木を揺らしてもウールーたち全員に分け与えれる量にはならない。
「あー…どしよ」
─キィキ!
「ん?駅さしてどし…あぁワイルドエリア」
ワイルドエリアに行くべし!とサルノリが伝えてくれる。たしかに、ワイルドエリアを自転車か何かでかっ飛ばせば数時間できのみを大量にゲット出来るだろう。
が、ここで問題がひとつ。
「でもよ。サルノリ…手持ちはもうお前しかいないんだぞ。」
─キ!
「いや、お前もワイルドエリアのポケモンの強さは知ってるだろ。お前の負担が大きい。」
─…キィ…
「いや、気持ちは嬉しいけどよ…」
─……キィ!!!
「痛ってえええええ?!おまっバチで脳天ぐりぐりすんなよ!!痛てぇ!!」
──────────
「あぁ、来ちまった。…どや顔するなサルノリ。」
まだ痛い。こういうときはホントこいつ譲らないというか…『いじっぱり』というか…。
「…できる限り草むらは避けていく。いいな?サルノリ」
─キィ!
要は戦闘にならなきゃいい。なったとしても最低限にして、バッグの中のピッピにんぎょうを野生ポケモンの顔面にたたきつけてやればなおよし。
あっ、かわいそうだからホントはそんな事しないよ?
小一時間が過ぎた。きのみの回収は順調で、それほど危険なことにはなっていなかった。
「って、ここエンジンシティの前か。流石に進みすぎたな…」
気がつくとエンジンシティの門の前までやってきていた。よほど集中していたのか、まったく気づかなかった。
理由には心当たりしか無かった。
サルノリとの旅がまたできたみたいで…
─キィ?
横を歩いていたサルノリと目が合う。いつもより楽しそうなのは、俺と同じ心境だからだろう。
わかっている。俺が心の底から旅を続けたいのは自分でもわかっている。ハロンタウンのみんなも簡単な仕事しか割り振らないのはいつでも抜けていいよという気遣いなのも気がついている。
実際、いまのこの「買い出し」でさえかなり浮き足立ってしまっている。知らないポケモンやテレビで見たポケモンとすれ違うだけで興奮した。
さっきやせいのポケモンと戦闘になった。トレーナーとしての腕前はかなり鈍っていたけど、サルノリに指示を出して、サルノリがそれに応えてくれる当たり前のポケモンバトルに心踊った。
「なんでもねえよ」
なるべくこの高揚が表に出ないように答ええて、サルノリの頭を撫でる。でもたぶん、サルノリも気づいてる。なんてったって相棒…だしな。
「…サルノリちょっと寄ってくか?帰りは電車が動いてることに賭けてさ」
─キィ!
そして俺はパーカーのフードを深く被ってエンジンシティに入っていった。
──────────
エンジンシティに入るとすぐポケモンセンターがある。戦闘は最低限とはいえ、した。だからまずはサルノリを回復させることにした。
「ポケモンセンターへようこそ!ポケモンをあず…あっ。」
「えと、サルノリをお願いします。」
「えっ、は、はい!」
「…」
サルノリを回復させてからブティックやヘアサロンの通りの反対側にあるバトルカフェに入る。バトルカフェとは名の通りポケモンバトルができるカフェだ。1日1回挑戦することができて、勝つとスイーツをくれるという謎システム。
まぁ、今日は普通にお茶するだけだが…。
「うまいか?サルノリ」
─キュキィ!
他にもこのカフェにはポケモンフーズが置いてあったり、トレーナーの行きつけの店によくなる。
「…なぁ、あいつ」
「…え、流石に人違いじゃない?」
「…」
ご飯を食べてからカフェをあとにする。
すると向かいのブティックの中に見知った顔が見える。ユウリだ。あのカブさんとの熱い試合からまだ時間はそんなに経っていない。
ジムチャレンジは期間内にバッジを8個集めてシュートシティでエントリーすることでセミファイナルトーナメントへ進めるシステムになっている。俺が覚えている期限はまだずっと先。ヤローさんにまだ挑んでいないジムチャレンジャーもいるそうだ。
なら、俺もまだ間に合うのではないか。その疑問は当然だが。俺はダンデさんを通して正式に辞退させてもらった。集めたバッジはひとつだけだったけど、バッジとダイマックスバンドもダンデさんに渡した。
さて、ユウリに話を戻そう。いまも楽しそうに服を選んでいる。ん?というか、ひとりじゃないな隣にいる女の子は…。
あっ、隣の子のポケモンだろうモルペコと目が合った。だれだっけなあの子。会ったときすんごいインパクトあったような…。
と、見つめ過ぎたのかモルペコのトレーナーは俺と目が合う。ユウリもその子の視線をたどって俺に気づく。やばい。
…やっぱ合わせる顔、ねぇよな。
そんなくっだらないプライドから、俺はユウリに背を向けて走り出した。
────────
「ごめんな、サルノリ。急に走っちゃって。」
─…キイ!
謝るのはぼくにじゃない!って叱られているような気がする。
…そうだよな。ユウリに悪いことしちゃったな。はぁ…っ。
「シっ…シキ!!!」
「…追ってくんのかよ。ユウリ。」
振り切ったと思った人の声が後ろからした。俺ダッサイなぁ。振り向くとユウリと一緒に買い物をしていた女の子まで一緒にいた。
「ユウリ、急に走ってどうしたの?…ってそのひと…」
「まってマリィ!シキは噂…は事実かもだけど!絶対悪い人なんかじゃない!!」
あぁ、優しいなユウリ。マリィと呼ばれた女の子はいまも俺を睨みつけている。そりゃそうだ俺評判はかなり悪い。ショッピングを一緒にする仲だ。友達…なのだろうその友達を守るための威嚇。話したことは、多分少ないけどマリィという子も、いい子なのだろう。
さて、ここはエンジンシティ。昼時で人はかなりいる。全世界に発信されるジムチャレンジ。その注目株のチャレンジャーが2人いるそれだけでも注目を集める。
それに加えて、俺もいる。
「────ねぇ、あの人ってさ」
今日はかなり夢を見てしまった。もう一度サルノリと、あいつらと旅を、だなんて
「────あぁ、あいつ…」
その声に現実に戻される。
俺は馬鹿だ。あんなことしといてまたポケモンと旅したいだなんて…。
「────厳選野郎だぜ。」
俺は、
主人公は転生者です。
厳選野郎ということで、その辺を否定する表現もあると思いますが、それはもちろん「ポケモンが現実にいる世界だから」です。
俺自身、もちろんレートで勝つために厳選、交換、ドーピングを繰り返してます。
なので、皆さんにはそこを切り離して楽しんでいただければと思います。