ジムチャレンジ、辞退します。   作:尺骨茎状突起

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今回はユウリメインです。


過去、振り返ります。

 

 

「あっ、シキ。帰ったのね」

「ん。ただいま。」

「…何かあったの?」

「いや、平気。これ、きのみ。寝るわ。」

 

かなりぶっきらぼうになってしまったことを少し後悔しながら、階段をあがって部屋へ戻ろうとしたら、母さんが腕を掴んできた。

 

「全然平気そうな顔してないわよ。」

「…寝れば治るから、大丈夫。明日はちゃんとカレー作るし。」

「…そう。」

「…ごめん。おやすみ。」

 

流石に態度悪かったかな…。でも今はごめん。すぐ布団に入りたい。階段を上がるまえ、聞こえてきた母の声にさらに申し訳なくなる。

 

 

 

「シキ。泣いてる息子みて心配しない親はいないのよ。」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「あークソ!絶対あいつのポケモン個体値良い奴だ!」

 

それが、ポケモンバトルに負けた時の決まり文句になり始めていた。

 

言った後に正気に戻って後悔する。これが1セット。

 

シキ自身分かっていたのだろう。悪いのは確実に自分だと。

けど同時にそうではないと心のどこかで思いたがった。だから自分のせいではないと口からでてしまう。

 

 

 

では、誰のせいか。

 

 

 

「…いや、俺だ俺に決まってる

 

 

 

 

 

仲間のせいだなんて、二度と思うなよ。俺。」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「…もう朝か。ありがとサルノリ。」

 

─キィ!

 

いつものリズミカルな衝撃で目が覚める。気づいているかもしれないが、俺は極力、サルノリをボールに入れない。

 

寂しさから来ている…訳では無いのだろうが、目の見えるところにいると落ち着く。これも裏を返せばサルノリを疑っていることになるのだろうか…。

 

「…絶対違う。違うぞ俺。」

 

自己暗示をかけて少しでも落ち着く。なぜサルノリを出してるか?お前が起きれないからだろうが!

 

…それもダサいな。

 

 

 

 

 

『サルノリにも同じことすんじゃねぇのか?!』

 

 

 

 

 

クソッ!

あのヤジの声が忘れられない。

 

けどもっと、ずっと最悪なのはあの光景だ。まぶたの裏にこびりついていて、目を閉じると思い出してしまう。

 

 

 

 

 

血。

 

 

血。

 

 

血。

 

 

たくさんのぽけもんの───

 

 

 

 

 

 

 

──キィッ!キィイイイ!

 

「…あっ…ど、どした?サルノリ。あぁ、そうかカレー。」

 

カレーはガラルで今はやっている料理。まぁぶっちゃけ俺は昔から食ってるし、なんなら人一倍、俺のカレーはハロンタウン内で評判がいい。

 

「へっ。すっげーうめぇの作るからな。」

─キィ!

 

さんきゅ。サルノリ。

 

ちっとは違うこと考えられるかも。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

「あっ、ユウリさん」

 

私はあの後シキを追いかけたが、見つけることがどうにも出来なかった。

 

いや、私自身少し見つけたくなかったというのもあるのだろう。

 

だって、どう声をかければいいのか、全く分からないんだもん。

 

私もホップも、シキを元気づけてあげたいと思ってる。でも彼がしてしまったことはトレーナーとしてやってはいけないことなのは間違いない。

 

「こんにちは。あの、どう?

 

 

 

 

 

シキのポケモンたちは。」

 

 

 

 

 

ここは5番道路。預かり屋だ。

 

ポケモンのコンディションを整えてくれる、トレーナーのお供といっても過言ではない施設。

 

 

 

 

そして、ここはシキがもう、絶対に顔を出さない場所。

 

 

 

 

「うん。今日もいるよ。」

 

彼女は預かり屋の前に立っているお姉さんだ。

 

彼女の視線の先には預かり屋の壁を背にして、ここに帰らないかもしれない主、元主のシキを待つポケモンたちがいた。

 

レドームシとリオルだ。

 

「…なんでシキのポケモンの面倒見ているの?」

「…ポケモンたちは悪くないもの。」

「シキのことは許しているの…?」

「…」

 

彼女は1度顔を伏せて、シキのポケモンたちに歩み寄る。2匹の前にフーズを置き、2匹の頭をそっと撫でた。

 

「私がね、あの人の悪口を言うと、決まってこの子達は怒るの。シキをバカにするな!ってね。

 

預かり屋だから分かるの。彼がこの子達にどれだけ愛情を注いだのかとか、そういうの。

 

だから人間としては、彼を許したいけど、

 

預かり屋という立場からは彼がやってしまったことは許せるものじゃないよ。」

 

「…だよ…ね。」

 

「このレドームシもリオルも、ずっと彼の帰りを待ってるの。ハロンタウンに行かないのは、場所が分からないから。

多分、この子達は場所さえ分かれば彼の元に飛んでいくよ。」

 

「…分かってたとしても、シキは…」

 

「そう。多分受け入れない。だからじっと待ってるの。彼を信じてずーっと待ってるの。」

 

そっと、私はリオルとレドームシの目を見て、確信する。この2匹は諦めていない。もう一度シキと会えると、もう一度シキと旅ができると信じている。

目から闘志が消えていない。

 

なら、私も出来る限りのことをしよう。

 

「あの。」

「うん?」

「私、シキにあったとしてなんて声をかければいいのか分からないの。だから全部教えて欲しい。

 

シキは私をいつだって助けてくれたの。次は私の番だから。

 

教えて、彼はここで何をしたのか。全部!」

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

出会いは、まぁ…最悪だったな。

 

近所に新しい家ができて、誰が越して来るんだろうって毎日のように考えていた。ホップともその話題で何度も盛り上がった。

だから「明日越してくるみたい」という母の言葉は私を期待させた。

 

その「明日」の朝の事だった。

 

「おはよぉ〜。」

「早いじゃない。ユウリ。大きな欠伸ね。」

「誰が引っ越してくるのか気になって起きちゃった。」

「そう?私はもうそこの母親に会ったけど、いい人だったわよ。」

「えぇー!ずるい!」

「ふふ、いいじゃない。後で家族で挨拶するって言ってたから。ユウリと同じぐらいの息子さんもいるみたいだったから、おめかししちゃいなよ〜。」

「…寝癖は整える。」

「ふふ。はーい。」

 

私だって女の子だ。すこしぐらいは夢見たっていいだろう。

 

ホップ?ホップもかっこよく…無いわけじゃないけど…口を開けばアニキアニキ。いい人だけど、異性としては魅力を感じるかといえば…無くはない?程度。

 

この越してくる異性はどんな人なのだろう。私は気になって仕方がなかった。

 

「…ゴンベ。私、可愛く見える?」

 

──ンべ

 

我ながらなんという質問をポケモンにするのか…。ちょっとした自己嫌悪に陥ってた時だ。

 

ドアをノックする音が響く。

 

「ユウリ!来たみたいよ!ドア開けてもらっていい?今手が離せなくて!」

「あ、うん。行こ、ゴンベ。」

 

私はゴンベを抱き抱えてドアを開けた。

 

「あっ、もしかしてユウリちゃん?可愛いわね!ほらシキ!挨拶する!」

「うぅ…せめてカビゴンの抱き心地を…、いってぇ!わぁったよ!…こんちゃ、シキで…す………っ」

 

そのシキと呼ばれた男はさぞかし面倒くさそうな態度で自己紹介をした。

 

黒。

 

この男を一言で言い表すならそれがふさわしいと思う。髪と目の色、来ている服までほぼ黒。黒いパーカーで、中のシャツはワインレッド。パンツは灰色のような色でシックにまとまっていた。

 

…きゅ、及第点だな!悪くないけど!

 

まて。ちがう。

私も1度自分を落ち着かせてから自己紹介をしよう。

…なるべく好印象を与える感じで。

 

しかし彼の次の一言は時すら止める一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「抱かせてくれ!!!!!!」

 

「はぁぁあ?!!?!」

 

 

 

私の思考と、彼が彼の母親によってぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「すまん!まじすまん!あとありがとう!ゴンベを抱かせてくれて!!」

「あ、うん。あの、顔、平気?」

「正直くそ痛い。」

 

あの「抱かせてくれ発言」は「ゴンベを抱かせてくれ」という意味だったみたい。

 

それにこの人…シキの親。見事なストレートだった。息子を粛清するための豪快な右ストレート。ポケモンとわたり合えそうだった。

 

当のシキは痛むであろう頬を気にすることも無く、ゴンベを可愛がっていた。ゴンベも楽しそうだ。

…ちょっと今のポイント高いかも。

 

じゃない。落ち着け。まずは会話だ。

 

今この場には私とシキの2人のみだ。母親は2人とも台所で楽しそうに話している。どうやら馬が合うのか、昼ごはんと晩ごはんまでご一緒することになっていた。

 

とにかく、シキと会話だ。

 

「えーと…ポケモン、好きなの?」

「まぁ結構。つか、トレーナー目指してたりする。」

「ホント?私もなんだ!チャンピオンの試合で憧れちゃって…」

「ガラルチャンピオンって…ダンテさん?だっけ?」

「ダン『デ』さんだよ。動画あるよ!見る?」

「見る見る!シロナさんのバトルもすっげぇからそっちも後で見せるよ!」

 

こんな具合でシキとの会話は尽きることがなかった。好きなポケモン。好きなポケモン、好きなわざ、好きなトレーナー、ジムリーダーなど、バトルに関する談議は終わることを知らなかった。

 

まぁ、このシキという男はそれはそれは厄介だった。

 

「ちょっと!ダメだって!!止まってシキ!まどろみの森は入っちゃダメなんだって!!!」

「ううぅぅ!離せ!!モフらなきゃいけないポケモンがいるんだ!!!」

「危ないから!!!だいたいそのポケモンって誰?!」

「んぬぅぅぅうう!ネタバレ禁止ぃぃいいい!!」

「なにいってるの?!」

 

こう、すぐ暴走するのだ。なんというか、ポケモンを身近なものといて愛してるのじゃなくて、憧れみたいな感情を抱いている気がする。

 

けど、暴走するのはポケモンのことだけで、いつもはクールというか…ツンデレ?

 

「タイプ相性?いや、未来のライバルに教える気は………イメージで考えると覚えやすいぞ」

 

「おいホップ。落ち着け。リザードンポーズは分かったからよ…は?俺も?…嫌だって………ったく、わかったよ。

くるくるくるどぉーーーん!!!」

 

「はぁ?カレーの味付けが好み?…んじゃ次からこれにするよ。…んだよ2人でニヤニヤすんな。」

 

ホップとはテンションの差があったけどホップ自身が誰とでも仲良く出来るやつだからシキともすぐに打ち解けていた。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、あんなことが起きるとは思えなかった。

 

 





シキが実際にしたことはまた今度。

リオルは母からタマゴを貰ってました。

あと、回想と現在の区別って難しいですね。次はもうちょっと分かりやすくしたいです。

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