魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

お気に入り登録ありがとうございます!励みになります!

今回は筆が良い感じに乗りましたのでなかなかのボリュームになりました。


第127話:弱さは強さ

 颯人達がキャロル勢の不可解な動きに頭を悩ませている頃、マリアは施設の外で1人黄昏ていた。イグナイトの制御の失敗に加え、ガリィに敗北した事が彼女の心に重く圧し掛かっていたのだ。

 

 頭に包帯を巻いた状態で暗い顔をしているマリア。その隣には、彼女を心配したセレナが付き添っている。

 

「姉さん……」

――人形に救われるとは情けない……私が弱いばかりに、魔剣の呪いに抗えないなんて……――

 

 敗北を喫したマリアだが、それは裏を返せば暴走したイグナイトの力をセレナを始めとした仲間に向ける前に止められたという事。それを考えると情けなさと悔しさが揃って心に圧し掛かり、二重の意味で泣きたくなってくる。

 

 己の弱さに苛まれるマリアを見て、セレナは何とか彼女を元気づける事は出来ないかと声を掛けた。

 

「し、仕方ないよ。マリア姉さん、普通のアガートラームを使っての戦闘もイグナイトの起動も今回が初めてだったんだもん。上手くいかないのはしょうがないって。だから、その……元気出して? ね?」

 

 セレナが必死に声を掛けるも、その気遣いすら今のマリアには辛い言葉となる。変に気を遣わせてしまっている事が逆に自身の弱さを露呈させ、突き付けられているような気になっていた。

 

 だからマリアは表面上セレナには空元気の笑みを向けるが、その心には暗い感情が泥の様にへばり付いていた。

 

「気にしないで、セレナ……私が弱い事は事実だから……」

「そんな事……」

 

 マリアの様子に自身の言葉が追い打ちにしかなっていないことに気付いたセレナは、何と言うべきか分からなくなり口を噤んだ。姉1人元気付ける事も出来ない事に、今度はセレナの方が己の無力さに心を痛める。

 

――強くなりたい!――

 

 姉妹が揃って己の無力さに打ちひしがれていると、2人の傍にバレーボールが飛んできた。何故こんな所にと2人が飛んできたボールの方に目を向けると、飛んできた方からエルフナインが走って来た。

 

「はぁ、はぁ……ごめんなさい! 皆さんの邪魔をしないよう思ってたのに……」

 

 どうやらエルフナインは1人サーブの練習をしていたらしい。考えてみればここは砂浜に近い。バレーボールの練習をするにはうってつけだろう。

 

「邪魔だなんて……」

「1人で練習してたんですか?」

「私達も付き合うわよ」

 

 咄嗟に口から出た言葉だったが、少し考えてから悪い提案でもないかと思い至った。悩んでいても悪い考えしか浮かばない。それならば、少しでも体を動かした方が余程建設的だ。

 

 打算を含んだマリアの提案だったが、1人でやるよりは複数人でやった方が為になるとエルフナインも思ったのか喜んで受け入れた。

 

「はい!」

 

 ネットを挟んで、一方にマリアとエルフナイン、もう一方にセレナが立つ。マリアの指導の元、エルフナインがサーブをしてセレナがそれをキャッチする。やはりエルフナインのサーブには力があまり乗っておらず、マリアに教えられたアンダーサーブでも飛距離が出ずネットを超えはしたがかなりギリギリだった。

 

「もうちょっとです。肩から力を抜いて、体全体でボールを打ってみてください」

「はい……えい!」

 

 セレナのアドバイスを受けもう一度サーブするが、ボールは先程とそれほど変わらない位置に落下した。

 その結果にエルフナインは納得がいかない様子だった。

 

「おかしいな……上手くいかないな、やっぱり」

「大丈夫ですよ。さっきに比べてずっと良くなってます。焦らず一歩一歩、確実に進んでいきましょう」

 

 肩を落とすエルフナインにセレナの励ましが飛ぶ。

 エルフナインには経験は無くても知識がある。今はその知識に体が追い付いていないが、練習と指導により着実に実を付けつつあった。

 

 その様子を見て、マリアは思い切って悩みを打ち明けた。

 

「……色々な知識に通じているエルフナインなら、分かるのかな」

「ん?」

「だとしたら、教えて欲しい」

「姉さん……」

 

 マリアの呟きにエルフナインが振り向き、セレナがボールを持って近付いてくる。

 

 近付いてくるセレナに視線を向けながら、マリアは思い切って訊ねた。

 

「強いって、どういう事かしら?」

 

 そう訊ねるマリアの視線の先には、恐れずその身を犠牲にしてマリア達を守ったセレナ。そしてその後ろから、己の正体を隠してでもセレナを守る為に傍に立ち続けたガルドがやって来ていた。

 ガルドがセレナの隣に立つと、エルフナインも気付いたのかそちらに視線を向ける。

 

「ガルドさん……」

「教えて、セレナ、ガルド、エルフナイン……強いってどういう事? セレナとガルドは、どうしてあんなに強かったの?」

 

 縋る様な目で訊ねてくるマリアに、ガルドとセレナはどう答えるべきかと顔を見合わせた。

 が、2人に応えられることは1つしかなかった。

 

「……俺達は、自分が強いだなんて思った事は無い」

「そうだね。私も、ガルド君も、ただ必死だっただけだよ」

「必死だった?」

「そう。俺もセレナも、どっちも守りたい物を守る為に必死に足掻いた。ただ、それだけの話なんだ。そこに強いも弱いも無い」

 

 それならば自分だって一緒だった筈だと、マリアは声高に叫びたかった。先程の戦い、マリアは戦えないセレナ達の為に戦おうとした筈だ。それなのに自分は負けてしまった。一体自分と2人で何が違うと言うのか、マリアは分からず顔を俯かせた。

 

 マリアが顔を俯かせると、その視線の先にはエルフナインが居た。エルフナインはマリアに、彼女を安心させるように柔らかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「強いとはどういう事か……それは、マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか」

「え?」

 

 エルフナインの言葉の意味が分からずキョトンとするマリアが、どう言う意味かと問い質そうとしたその時、突如近くの砂浜から水柱が立った。水が無いところで立つ水柱。そんな事が出来る者など、錬金術師か魔法使いしかいない。

 

「おっ待たせ、外れ装者」

 

 今回は前者、錬金術師の方だった。正確には錬金術師が使役する人形だが、どちらも錬金術を駆使しているので些細な違いだろう。

 

 水柱の上でバレリーナのようなポーズをとるガリィの姿を見た瞬間、ガルドはセレナ達を守る様に前に出て指輪を嵌めてドライバーを装着する。

 

〈ドライバーオン、プリーズ〉

「性懲りも無くまた来たか! 変身!」

マイティ、プリーズ。ファイヤーブリザードサンダーグラビティマイティスペル!

 

 キャスターに変身したガルドは、3人を守るべくマイティガンランスを構えてガリィに向け突撃する。今度こそ、ここでオートスコアラーの1体を討ち取ると意気込みを入れて飛び掛かった。

 

 それを受け止めたのは、やはりと言うべきかビーストに変身したハンスであった。今度はファルコスタイルでやって来たハンスは、滑空しながらガルドに接近し彼の槍の一撃をダイスサーベルで受け止め逆に地面に蹴り落とした。

 

「オラッ、落ちろ!」

「ぐっ?!」

 

 地面に叩き落されたガルドが苦悶の声を上げる。ハンスは倒れたガルドに追い打ちをかけるべく、上空から猛禽類が獲物を捕らえようとするかの如く襲い掛かった。

 

「そらぁっ!」

「舐めるな!!」

〈ファイヤーエンチャント、プリーズ〉

 

 上空から襲い掛かって来るハンスに対し、ガルドは素早く槍に炎の魔力をエンチャントしその状態で槍を砲撃モードにして上空に向け砲撃した。放たれるのは炎の砲撃。火山の噴火の様な劫火が、ガルドに襲い掛かろうとしていたハンスを飲み込もうとした。

 

「くっ!?」

 

 流石にあんなものを喰らってはただでは済まない。ハンスは降下角度を変え、ガルドの砲撃をギリギリで避けると速度を落とし、彼から少し離れた所に着地した。

 

 着地したハンスに、体勢を立て直したガルドが今度は自分の番だと言わんばかりに槍を振り下ろす。今度は穂先に炎を纏わせて放った振り下ろしを、ハンスは受け止めず回避した。

 

 睨み合うガルドとハンス。奇襲されはしたが、姿さえ消されなければ対抗手段は幾らでもあった。

 

「……今度は負けない」

「ほざけ。今度こそ息の根を止めてやる」

 

 そのまま2人は一進一退の戦いを繰り広げる。槍と言う長物の武器を、付与する魔力を変えたりと変幻自在に戦うガルドに対しハンスは素早い身のこなしで対抗した。

 

 2人が戦うのを横目に、ガリィはマリアを見下ろした。ハンスのお陰で邪魔者は居なくなった。ならば自分の相手はただ1人。

 

 その相手であるマリアは、ガルドが頼れなくなった以上自分しかいないと前に出て頭に巻かれていた包帯を毟り取り放り投げた。

 覚悟を決めた様子のマリアの目に、ガリィは口の端に笑みを浮かべながら訊ねた。

 

「今度こそ唄ってもらえるんでしょうね?」

 

 何処か見下す様にそう問いかけてくるガリィに、マリアは顔に汗を浮かべながら険しい顔をする。正直、今の自分がガリィ相手に何処まで対抗できるか分からないからだ。

 何しろまだ何も掴んでいない。強さとは何か? それすら分からない状態だ。そんな有様でガリィと対峙して、勝負になるかと言われると――――

 

「大丈夫です、マリアさんならできます!」

 

 そんなマリアにエルフナインからの言葉が飛ぶ。エルフナインはマリアの事を微塵も疑わない声で、彼女が勝てると確信して言葉を放った。

 その言葉にセレナが続いた。

 

「そうだよ、マリア姉さん! マリア姉さんは弱くなんかない! 私は、ううん、私もガルド君も、皆もそう信じてる!」

 

 2人の言葉に、マリアは答えない。ただ真っ直ぐガリィを見つめながら、ギアペンダントを取り出し聖詠を口にした。

 

「Seilien coffin airget-lamh tron」

 

 アガートラームをマリアが纏う。ガリィはそれを見下ろして、獰猛な顔になりながら手にアルカノイズの召喚結晶を取り周囲にばら撒いた。

 

「外れでないのなら、戦いの中で示して見せてよ!!」

 

 無数に召喚されたアルカノイズ。やはり一瞬で無数の軍勢を呼び出せるのはアルカノイズ最大の利点と言えるだろう。

 尤もそれも普通の人間相手の場合だ。装者相手にはそうはいかない。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 舞い踊る様にマリアはアガートラームのアームドギアである短剣を振るう。短剣で、蛇腹剣で並み居るアルカノイズを次々と切り裂き屠っていく。

 

 アルカノイズの出現は当然近くの施設でも確認された。

 

「アルカノイズの反応を検知!!」

「!」

「マリア達がピンチデス!!」

 

 持ち運び用のノートパソコンに表示された警報とアラームに朔也が声を上げた。それに翼達装者は飛び上がる様に立ち上がると、マリア達の窮地を救おうと部屋から飛び出していく。

 

「……あれ? そう言えば奏さんと颯人さんは!?」

 

 最後に部屋を飛び出した響は、この場に颯人と奏が居ないことに気付いた。もし2人が別の部屋に居るのであれば、この事も知らない筈だ。

 2人を探してこの事を報せるべきと響が足を止めると、その背を透が押しクリスが手を引っ張った。

 

「あのペテン師なら何だかんだで来るだろ、放っておけ!」

「で、でも……」

「いいから、急ぐぞ!」

 

 クリスと透に引っ張られる形で響は半ば強引にその場から移動させられた。急いでいたので、扉は閉められることなく開けっ放しで装者達が出て行った廊下が丸見えとなる。

 

 その部屋の前を何かが通り過ぎていった。

 

「ん?」

 

 不可視の何かが部屋お前を通り過ぎていったような様子に、異変を感じた慎次が部屋を出て何かが通り過ぎていった方を見る。しかしその先には何も見当たらない。

 

「……風?」

 

 異変を感じた気がしたが、何もない事に気の所為だったかと首を傾げる慎次。

 

 しかしそれは気の所為ではなかった。慎次の目は確かに一瞬だが捉えていたのだ。

 

 姿を消した状態で施設の中を進む、オートスコアラー・ファラの姿を。

 ファラは誰にも見られることなくある部屋に向かった。その先にあるのは、この施設に保存されているフォトスフィアのデータがある部屋。

 

 その部屋が目の前に見えたところで、ファラは姿を消したまま部屋の扉を開けようと手を掛けた。

 

 次の瞬間、部屋は内側から開かれた。

 

「!?」

「ん?」

 

 部屋から出てきたのはアルドであった。まさか部屋からアルドが出てくるとは思っていなかったのか、ファラは息を呑みながらも姿を消したままゆっくりと下がる。

 

 先程慎次は距離があった為気の所為で済ませていたが、流石に目の前ともなれば違和感は大きくなる。

 

 アルドはそっと前方に手を伸ばす。アルドの手が近付いてくることにファラは焦りを感じつつ、派手に動けば装者達が戻ってくるかもしれないと迂闊な事が出来ずゆっくりと距離を取るしか出来ない。だがファラが距離を取るより、アルドが手を近付けてくる方が早かった。

 このままではファラの存在がアルドにバレる。

 

「何してんだアルド?」

 

 そこに颯人がやって来た。彼が声を掛けてきた事でアルドの意識がそちらに向き、同時に手が引っ込められた。

 

「颯人? 貴方こそこんな所で何を?」

「ん~……便所? それよりそっちは?」

「調べものです」

 

 アルドは簡潔に答えると、改めて違和感の正体を見極めようと手を伸ばした。そかし伸ばされた手は何もない空間を掴んだだけに留まり、違和感の正体を知る事は出来なかった。

 

 首を傾げるアルドだったが、気の所為ならそれでいいかと小さく息を吐いた。

 

「どうした?」

「何でもありません。それより颯人、近くでアルカノイズが出たようです。貴方も早く向かいなさい」

「へ~いへいっと」

 

 颯人は気の無い返事を返しながら、廊下を進み外へと向かう。アルドはその後をゆっくりとついて行った。

 

 誰も廊下から居なくなったのを見て、ファラは安堵の溜め息を吐き改めて目的の部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 そんな事が起こっているとは知る由も無く、マリアはガリィとアルカノイズを、ガルドはハンスを相手に戦いを繰り広げていた。

 

「あぁぁぁぁっ!」

 

 無数の短剣を投擲し、アルカノイズを次々と屠るマリア。

 

 そのマリアに向けて、ガリィは錬金術で生み出した水流を叩き付けた。

 

「くっ!?」

 

 放たれた水の砲撃をマリアは短剣で作り出したバリアで防ぐ。しかしガリィの砲撃は小さなバリアで防ぎきれるものではなく、マリアは足先から徐々に凍っていった。

 

――強く……強くならねば!!――

 

「マリアさん!?」

「姉さん!?」

 

 遂には頭まで氷漬けになってしまったマリアにエルフナインとセレナが声を上げる。

 

「――強くッ!!」

 

 全身氷の中に閉じ込められたマリアは、自力で氷の牢獄を破り外に出た。しかしダメージは大きく、氷から出られた直後その場に膝をついてしまった。

 

「ぐっ!?」

 

 砂浜に膝をついたマリアを前に、ガリィは勝ち誇る事をせずそれどころか不機嫌そうに吐き捨てた。

 

「てんで弱すぎる!?」

 

 不機嫌そうなガリィの様子に、セレナは疑問を感じずにはいられなかった。敵であるのなら、自身が優勢な事に満足そうな顔をしても良い筈だ。なのに実際にはその逆。まるでマリアが弱いと都合が悪いかの様なガリィの様子は、セレナに違和感を抱かせるには十分であった。

 

 セレナはガリィの様子に違和感を覚えていたが、対峙しているマリアにそのことに気付く余裕はない。ただ必死に戦うマリアは、ここで負ける訳にはいかないと胸元のギアコンバーターに手を伸ばした。

 今再び、イグナイトの力に手を出そうと言うのだ。

 

「その力、弱いアンタに使えるの?」

 

 尚も足掻こうとするマリアにガリィが吐き捨てる。先程は失敗したイグナイトの起動を、弱いままで使おうと言うのだ。最早ガリィはマリアに対し失望し、何も期待していない様子だった。

 

 見下したガリィの言葉は、マリアの心に深く突き刺さった。

 

「はっ!? 私はまだ弱いまま……どうしたら強く――!?」

 

 苦悩するマリア。その脳裏に浮かんだのは、先程エルフナインから掛けられた言葉だった。

 

『それは、マリアさんが僕に教えてくれたじゃないですか』

 

「ッ!! 私が?」

「マリアさん!!」

 

 突如マリアの耳に、エルフナインの声が届く。エルフナインは拳を握り、マリアを信じた顔で言葉を投げかけた。

 

「大事なのは、自分らしくある事です!!」

 

 それは間違いなく、マリアがエルフナインに掛けた言葉だった。ビーチバレーで上手くサーブが出来ないエルフナインに、マリアがアドバイスとして掛けた優しい言葉。

 

「そうだよ、マリア姉さん! 私もガルド君も強くあろうとなんてしてない! ただ自分が思うままに、自分らしく力を使っただけ! 強いかどうかなんて、気にした事は一度も無いよ!」

 

 続くセレナの言葉に、マリアは胸につかえていた物が取れたような気になった。

 

 セレナとガルドだけではない。仲間の誰もが、自分が思うままに力を使っていた。颯人などその最たるものだ。彼はただ只管に奏を守る為に力を振るっていた。それが結果的に彼の強さとなっただけなのだ。

 

 その事に気付くと、マリアは自然と視界が開けた様な気になった。

 

「……弱い、そうだ」

「んん?」

 

 立ち上がったマリアの目は明らかに先程とは違う。相対しているガリィはそれに気付き、怪訝な顔をした。

 

「強くなれない私に、エルフナインとセレナが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事……それが、強さ!」

 

 エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず勇気をもって行動を起こしマリア達にイグナイトの力を与えてくれた。

 

 そしてセレナは当時、幼い身でありながらも危険を承知で暴走したネフィリムと対峙し、危険を承知で絶唱を口にしマリア達を守った。

 

 2人の在り方がマリアに教えてくれた。大事なのは勇気……心の強さであると。それがマリアに新たな覚悟を与えた。

 

「ふぅん?」

 

 マリアの心構えが変わった事にガリィも気付いたのか、どこか嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「エルフナイン! そこで聴いていて欲しい。君の勇気に応える唄だ…………イグナイトモジュール、抜剣!!」

【DAINSLEIF】

 

 満を持しての二度目のイグナイト起動。マリアのめに不安も恐怖も無い。

 

 胸を貫かれ呪いが体と心を苛む。

 

「ぐ、うぅ――!?」

――狼狽える度、偽りに縋って来た昨日までの私――

 

「う、うぅぅぅ……そうだ。らしくある事が強さであるなら!!」

「マリアさん!」

「姉さん、負けないで!!」

「私は弱いまま、この呪いに反逆してみせる!!」

 

 弱さを受け入れ、同時に呪いを押し退ける宣言。極まった覚悟に呪いが敗北し、アガートラームのイグナイトモジュールが起動する。

 通常状態とは打って変わり黒を主体とした色合いの、何処か刺々しさを感じるギアを身に纏ったマリア。

 

 ガリィはそんなマリアを前に不敵な笑みを崩さない。

 

「弱さは強さなんて、頓智を利かせ過ぎだって!!」

 

 新たに無数のアルカノイズを召喚したガリィは、呼び出した手勢をマリアに嗾けた。まずはお手並み拝見と言ったところか。

 

 それに対しマリアは、短剣を左腕のガントレットに柄を手首側から装着してアルカノイズに向けた。するとガントレットから短剣がマシンガンの様に次々と放たれ、アルカノイズを穿ち屠っていく。

 

 その場から一歩も動かずあっという間にアルカノイズを一掃してしまったマリアに、ガリィはアイススケートの様に足元を凍らせながら滑って接近した。

 

「いいねいいね!」

 

 マリアに接近していくガリィは何処となく嬉しそうだ。だがマリアはその事に違和感を抱く事無く迎え撃つ。

 

 接近してきたガリィを右手に逆手に持った剣で一刀両断する。しかし両断された瞬間、ガリィの体は無数の泡となり弾けた。

 泡の中にはそれぞれガリィが様々なポーズで入っている。マリアはそれを短剣のマシンガンで一つ残らず撃ち落とした。

 

 マリアの意識が泡の方に向いていると、背後に一際大きな泡が現れる。人一人が入れるくらいの大きさの泡が弾けると、そこには無傷のガリィが居た。

 

「――アタシが一番乗りなんだから!!」

 

 意味不明な事を呟くガリィに、マリアは構わず攻撃を仕掛ける。逆手に持った剣をガリィを両断する為に振るうが、剣は腕ごとガリィの眼前に張られた障壁に受け止められる。

 

 しかし今のマリアは止められない。何とマリアはガリィの障壁を切り裂き粉砕すると、無防備となったガリィの顎を左手のアッパーカットで殴り飛ばした。

 

 その光景は近くで戦っていたガルドとハンスの目にも留まった。大きく殴り飛ばされ打ち上げられたガリィの姿に、2人は鍔競り合いを中断しそちらに目を向ける。

 

「ッ!? ガリィ!?」

「マリア、行けぇ!!」

 

 今まで散々馬鹿にされてきた鬱憤を晴らすかのような一発で大きく真上に吹き飛ばされるガリィ。マリアはガリィのさらに上に向けて跳躍すると、右手に持った剣をガントレットに装着。刃を肘側に向けて装着すると刀身が伸び、まるで肘から剣が伸びているかのようなシルエットになった。

 

 その状態でアガートラームの腰のバーニアが火を噴いた。腰だけでなく、ガントレットからも火を噴き炎を纏ったかのような一撃が空中で動けないガリィを腰の部分で真っ二つに切り裂いた。

 

「一番乗りなんだからぁぁぁぁぁっ!!」

 

SERE†NADE

 

 ガリィはまるで歓喜しているようにも聞こえる声で叫ぶと、その身を弾けさせた。

 

 ガリィが討ち取られた様子はガルドとハンスも見ていた。ガリィが敗北したことを示す爆発が起こった瞬間、ハンスは戦いを止め構えを解いた。

 

「……ここまでだな」

「あ、待て……くそ」

 

 ハンスは小さく呟くとテレポートジェムを足元に叩き付け姿を消した。決着がつけられなかった事に、ガルドは小さく肩を落とすがそこはあまり気にならなかった。

 

 それよりも彼が気になっているのは、爆散する寸前にガリィが叫んでいた言葉だった。

 

「一番……? 一体何の事だ?」

 

 まぁ普通に考えればオートスコアラーの中で一番に脱落した事を示すのだろうが、そんな事をさも嬉しそうに声高に叫ぶだろうか?

 不可解なガリィの言葉に、ガルドは一抹の不安に近いものを感じた。

 

 しかしまぁ、それは今すぐ答えを出すべきことではないだろう。今はこの日一番の大金星を飾った、マリアを労うべきだ。

 戦いを終え、疲れが足に来たのかその場に膝をつきながらギアを解除したマリアに響達が駆け寄る。

 

「マリアさん!!」

「オートスコアラーを倒したのか?」

「どうにかこうにかね」

「何だい何だい、折角大急ぎで駆け付けたってのに出番なし? 一つくらい残しといてくれよ」

 

 まさか1人でオートスコアラーの1体を倒すとは思っていなかったので、翼が感心した声を上げた。

 奏は急いだ事が無駄骨になった事で不満そうな声を上げるが、それは彼女なりの激励だった。よく1人で強敵を倒せたなと言う、奏なりの感心を示す言葉だ。

 

「これがマリアさんの強さ……」

「弱さかもしれない」

「え?」

「でもそれは、私らしくある為の力だ。教えてくれてありがとう。セレナも……」

 

 そう言ってほほ笑むマリアに、最早憂いは感じられない。憑き物が落ちた様なマリアの笑みに、エルフナインとセレナは安心したように笑みを返した。

 

「はい!」

「フフッ!」

 

 何はともあれ、これで強敵の一つが墜ちた。それは装者達に大きな希望となったのは間違いないだろう。

 

 しかしその一方で、キャロル達の企みが着実に進行している事に、響達はまだ気付いていなかった。




という訳で第127話でした。

今作ではセレナをどういう感じで絡ませていくかが悩み所でしたね。あんまり出張り過ぎるとエルフナインとかの立場を奪っちゃうので、出しゃばり過ぎない程度に、でも飾りにならない感じに動かすのが大変でした。

ゲームでも再現されているガリィの散り際のセリフ、普通に考えると意味不明ですよね。戦ってるマリアはそこまで気にしてる余裕も無かったでしょうが、傍から聞いてたら誰か違和感に気付いていたかもしれません。

さてさて次回からは新たなステージ。響パパ登場です。響と翼の家庭問題に、颯人達が切り込んでいきますよ。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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