魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はちょいと短めです。と言うのも今日は少し体調が悪かったので、1日の殆どを横になって過ごしていたものでして。

夕方近くに大分回復したので、今週分の話をキリの良いところまで何とか書き上げた次第です。


第136話:喉元過ぎれば熱さを忘れる

 その日、立花 洸は1人浮かない顔で街を歩いていた。向かう先にあるのは、先日も響と話し合ったファミレス。今日この日、彼は再びあそこで響と会う約束をしていた。

 

 歩く先に遠くファミレスの看板が見えたのを見て、洸は足と気が重くなるのを感じた。先日響と別れた直後に、ある男に掛けられた言葉がここのところずっと心にへばり付いて離れないからだ。

 

『お前は、今の情けない自分の姿を娘に見せながら育てたいのか? 娘にお前の様な情けない人間に育って欲しいのか?』

 

『もし自分の様に育ってほしくないと思うのであれば……最早父と名乗る事はしない事だ』

 

 ナイフの様に鋭い男の言葉は、洸の忘れかけていたプライドを刺激するには十分な威力を持っていた。だがそのプライドを自覚して尚、洸の中には恐怖と迷いが燻っていた。

 

 もう一度一つの家族に戻りたいが、妻に拒絶されたらどうしよう?

 

 もしそうなったとしても、響さえ娘で居てくれるのであれば……

 

 そんな考えが離れず、だがそれはあの男の言う通り情けない男の姿に他ならない。そんな姿を響に見せて、娘ですら無くなられてしまったらどうすればいいのか。

 

「はぁ~……」

 

 思わず大きな溜め息を口にしてしまったが、冴えない男の溜め息などを気にするものなど居る筈も――――

 

「お悩みかな?」

「え?」

 

 不意に掛けられた声に洸がそちらを見ると、そこには1人の青年らしき男の姿があった。チロリアンハットを目深に被り、カジュアルなスーツ姿の何処か飄々とした雰囲気の男である。

 

 男は帽子の鍔を人差し指で押し上げると、鍔の下に隠れていた目で晃の事を見た。まるでこちらの全てを見透かしたような男の視線に、洸は思わず顔を背ける。

 

「ふむふむ、なるほどね……」

「な、何だよ? ってか、アンタ誰だ?」

 

 明確に拒絶を態度で示したのに、男は構わず近付き洸を観察し1人頷く。居心地が悪くなった洸が思わず問い掛けると、男は人を食ったような笑みを浮かべて口を開いた。

 

「おじさん、悩みを抱えてるね。それも家族絡みの悩みだ」

「な、えッ!?」

「悩みの相手は、ふ~む……奥さんの様にも見えるけど、直接的にはお子さんかな? ズバリ、娘とみたね」

 

 初対面である筈の男に、悩みがある事どころか家族、それも娘が居る事すら言い当てられた。得体の知れない男に、洸は思わず数歩後退る。

 

「何なんだよお前ッ!? 何で、俺の事を……」

「俺が誰かって? フッ……魔法使いさ」

 

 慄く洸に対し、男はそう答えると左手を握り右手でフィンガースナップを鳴らした。パチンという軽い音が響いた直後、男が握った左拳を開くとその上には一本の缶コーヒーが乗っていた。

 

 魔法と見紛う程の鮮やかな手品に、洸は目を瞬かせた。

 

「うぉっ!?」

「ま、悩みなんてものは1人で抱えてても進展しないもんさ。何かアドバイスできるかもしれないし、これでも飲んでリラックスしなって」

 

 缶コーヒーを手渡された洸は、そのまま男に促されるまま近くのベンチに腰掛けた。そして勧められるままに缶コーヒーを一口飲むと、冷たさと苦みが心を落ち着かせてくれた。

 

「ふぅ~……」

「で、話の続きだけど?」

「え?」

「娘さんの悩みさ。何か悩んでるんだろ? それも普通とは毛色の違う悩みだ。ただ娘に反抗期が来たとかそう言う類じゃない娘本人にも話し辛い悩みとみたね」

 

 男の言葉は不思議と洸の心に沁み込んでくる。まるで洸の心を読み、心の内にある事を先読みしたような話し方に、気付けば洸の口は抱えていた悩みを口にしていた。

 

「実は――――」

 

 洸はついぽつりぽつりと、ここ最近悩んでいた事を口にした。

 

 昔、勝手な理由で家族を捨ててしまった事。

 

 その家族の1人、娘と偶然再会した事。

 

 娘と再会したことで、心に再び家族を欲する気持ちが芽生えた事。

 

 自分に懐いていた娘を介して、再び家族の仲を取り戻そうとした事。

 

 そしてその娘に一度は拒絶され、更には見ず知らずの男からの厳しい言葉で家族に戻る事は絶望的だと思い知らされた事を、洸は男に話していた。

 

 男は最後の厳しい言葉を投げ掛けた男の下りで首を傾げたが、話を全て聞き終えると顎に手を当てうんうんと頷いた。

 

「なるほど……なるほど、ね」

「見ず知らずのアンタに、こんな事聞くのもどうかしてると思うんだけど……なぁ? 俺、どうすればいい? 家族には戻りたいけど、悪いのは俺だ。勝手な理由で捨てた俺を、妻が簡単に許してくれるとは思えない。娘も、この間は怒って離れちまった。あの男が言う様に、俺は……旦那と父である事を止めて、1人で生きて行くしかないのかな?」

 

 何だか話していて、そうするのが一番気が楽なのではないかと言う気がしてきた。1人で生きて行くのは寂しいが、全ての家族から拒絶されるという痛い目を見るくらいなら、このまま逃げてしまえば…………

 

「逃げ続けるってのは、しんどいもんだぜ?」

「え?」

「今アンタが考えてる事を当てようか? このまま逃げて逃げて逃げ続けて、1人その寂しさと痛みに耐えようとか考えてるんだろ? その方が気が楽だって」

 

 正に思っていた通りの事を指摘され、ぐぅの音も出ない洸は俯いた。まるで雨に打たれた捨て犬の様な姿に、男は肩を竦める。

 

「さっきも言ったけど、そいつはしんどい道だぜ。終わりが無くて、一生を負け犬のまま過ごすってのは」

「分かってる……でも、怖いんだよ!? 家族に、正面から拒絶されて、存在を否定されるって思ったら……怖くて、逃げたくなるんだ」

「でもその逃げ続ける苦しさに、アンタの心は耐えきれるのか? 手を伸ばせば届くかもしれない物を、見てみぬフリをし続ける事が出来るのかい?」

「それは……その……」

 

 先の分からない未来の事等断言できるものではない。だが男は、そんな洸の未来を見たかのようにハッキリと断言した。

 

「そう言う人間ってのはな、いつか必ず精神に限界が来て、道を踏み外すもんだ。そうなったらその先に待ってるのは地獄だぜ? 家族どころか、世間からも爪弾きにされる。そんな人生を歩んでいきたいか?」

「じゃあ、どうすればいいんだよ……」

「答えはずっと目の前にあるだろ?」

 

 即ち、娘を始めとした家族に頭を下げ、再び家族に戻りたいという意思を示す事。それが最も、洸を含め誰も傷付けず傷付かない方法であった。

 

「それでもし、家族皆から拒絶されたら?」

「そこからはリトライの連続さ。やらかしたのはアンタなんだろ? なら、例えしつこくても繰り返し謝り続けて、気持ちを伝えるしかないって」

 

 それはそれで辛いだろう。だが喉元過ぎれば熱さを忘れるともいうし、拒絶されて一番苦しいのは最初だけ。落ち着いた頃に再び気持ちを伝える事を繰り返せば、離れていた家族の心も戻ってくるかもしれない。

 

 勿論そこには戻ってこない可能性も常に付き纏ったが、それを敢えて口にする男ではなかった。

 

「何より娘さんは、アンタとまた会ってくれるんだろ?」

「あぁ……」

「それはつまり、娘さんの方もアンタと、アンタを含んだ家族に戻りたいと思ってるって事だ。希望はそこにある。後はその希望を放さないよう、アンタが努力するだけさ」

 

 男はそう言うと、帽子から万札を1枚取り出して洸の手の中に滑り込ませた。

 

「まずは、親父としての振る舞いを見せないとな。これで娘さんに美味いもんでも食わしてやりな」

 

 そうして男は立ち上がると、洸に背を向けて歩き去っていく。突然万札を渡され、洸は思わず立ち上がり男の背に手を伸ばした。

 

「いや、ちょ、これ……!?」

「んじゃ、()()()()によろしくな~」

 

 瞬きした次の瞬間には、男の姿は人混みの中に紛れて分からなくなってしまった。取り残された洸は、手の中の万札を見るとそれを取り合えず財布の中に入れファミレスへと歩き出した。気付けば約束の時間までもう直ぐだ。

 

 その途中、洸はある事に気付いた。

 

「あれ? そう言えばあの人、何で響の名前を? 言った覚えないのに……?」

 

 まさか本当に魔法使いだったのか? そんな事を一瞬考えた洸だが、そんな馬鹿なと頭を振って男の事を振り払うと響と家族の事を考えつつファミレスへと入っていった。

 

 

 

 

 一方、洸と別れた男……颯人は、帽子を目深に被り直しながら洸の健闘を祈った。

 

「頑張れよ、響ちゃんと響ちゃんのお父さん。さて、と……こっちも手早く準備済ませないとな」




という訳で第136話でした。

以前のウィズが洸さんに厳しい言葉を投げ掛けたので、今回颯人には背中を押す役をやってもらいました。颯人は何気にこういう役回りも多い気がする。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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