魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、オリライの方を読まれていない方達は新年明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!黒井です。

新年一発目の本作は、対キャロル戦における颯人の行動の種明かし。そして皆さんお待ちかねのあの力が発動します。


第140話:明かされるタネ

 チフォージュ・シャトーが起動し、世界の分解まで秒読み段階に入った。最早止めることなど出来る筈もなく、勝利は揺るがないのだとキャロルは確信していた。

 

 だと言うのに、奏から掛けられた不吉な言葉。そう言えば、この戦いが始まってから颯人の姿が無い事に不安を覚えはしたが、それでもキャロルは尚己の勝利を信じて疑わなかった。

 

「フンッ! 強がりを言うな。今更何が出来る。さぁ、世界の分解の始まりだ!!」

 

 

 

 

「いいや、残念ながらそうはならないわ」

 

 キャロルによる勝利宣言。それを遮る様に第3者の声がその場に響き渡った。声の主を探せば、シャトーの直ぐ近くにメデューサが配下のメイジを率いて佇んでいた。

 

 久し振りに見たジェネシスの魔法使い達。完全武装した様子の彼らだが、キャロルに与していると言う割にはその様子に奏は違和感を覚えずにいられない。

 何故ならメイジ達の敵意は、どう考えてもキャロルにまで向けられているように見えたからだ。

 

「どういうつもりだ、貴様ら?」

 

 キャロルもジェネシスの魔法使いが纏っている不穏な空気に気付いたのだろう。奏への警戒もそこそこに、その矛先をメデューサ達に向けた。

 

「ご苦労だったわね、キャロル。お陰で我々は、先の戦いでの損失を補う事が出来る」

「何?」

「お前が必死になって調整していたレイラインだがな、あれにちょっと手を加えさせてもらった。魔力の流れを制御し、こちらの望む魔法を発動する為にな」

「なっ!?」

 

 メデューサの言葉にキャロルが目を見開いたその時、大地に大きな魔法陣が描かれる。魔法陣はどんどん広がり、東京だけでなく地球全体を覆う勢いだ。

 

 その光景を見て焦りを抱いた奏は、何時までもキャロルに構っている訳にはいかないと距離を取り翼達の傍へと戻った。

 

「ふぅ、やれやれメデューサの奴。ここの所姿を見せないと思ってたらそう言う事か」

「奏、大丈夫?」

「ん? あぁ、何てことないよ」

「それより、あの野郎何考えてんだ!?」

「奏さん、分かるんですか?」

「ま、大体の予想はつく。多分……」

 

『サバトを行うつもりです』

 

 メデューサが何を目論んでいるのか。それに対する推測を口にしようとした奏だったが、そこに割って入る様に通信が入りアルドが答えを口にした。

 

『今計測した所、魔力の流れがサバトを行う際に見られるものと酷似しています。規模は比べ物になりませんが、間違いありません』

「サバトって……それ、大変じゃないですか!?」

「サバトってのが始まったら、世界中の人間が強制的に魔法使いにされちまうって事かよッ!?」

「いや、魔法使いになれればまだ良い方だ。素質の無い者、耐えられない者はそのまま死ぬと聞いた。一体何人の犠牲が出るか……」

「!!」

 

 サバトが行われれば、その度に多くの人が苦痛と絶望に命を落とす。その惨劇を目の当たりにした事のある透が、させてなるものかと飛び出しメデューサへと向かって行った。

 

 彼にしては珍しく、感情的で後先を考えない行動。クリスでさえも一瞬反応が遅れるほどの素早い行動だったが、メデューサはそんな彼を相手にすることはしなかった。

 彼女が軽く手を振れば、それに応じて部下達が一斉に透に向けて魔法の矢を放ってくる。放たれた無数の魔法を透はカリヴァイオリンで弾きながらも前進するが、苛烈な弾幕に加えサバトを阻止しなければならないという焦りから動きに精細さを欠き次第に動きを制限されていった。

 

 このままでは透が嬲り殺しにあう。そう危惧したクリスは、彼を援護すべくガトリングとミサイルでメイジ達に攻撃した。

 

「下がれ透ッ!?」

「翼ッ!」

「分かった!」

 

 クリスの弾幕が放たれると同時、奏と翼が前に飛び出し足止めされていた透を左右の腕を掴んで元居た場所まで引きずった。あのままあそこに居てはクリスの援護射撃が止められない。

 

 透を安全圏まで引っ張ったあたりで、クリスは射撃を止め透の腕を掴んで自分を向かせた。

 

「透ッ!? 何無茶してんだよ、落ち着けッ!?」

 

 透はクリスと再会する以前、ジェネシスのサバトで何が起こったのかを詳しく説明していなかった。説明している暇が無かったし、自分が何に加担していたのかをクリスに知られる事が怖かったからだ。

 だからクリスは、何故透がここまで必死になるのかが分からなかった。

 

 それでもクリスの心配そうな様子に透も少しは頭が冷えたのか、彼女を振り払って再び突撃するような愚は犯さなかった。心を落ち着け、もう大丈夫だと言う様にクリス達に頷きかける。

 が、それで状況が好転する訳ではなく、正に間もなくサバトが世界規模で行われようとしている所であった。

 

「でも、どうしましょう!? このままだと、大変な事になるんですよね?」

 

 響の言う通り、このままだと全世界で多くの人が命を落とす事になる。だと言うのに今の彼女達にはメデューサ達を止める手立てがない。響が焦るのも当然と言えた。

 

 否、それは正確ではない。この場においてS.O.N.G.側で焦っていない者が1人居た。奏だ。彼女だけは顔に汗を浮かべつつ、落ち着いた顔をしていた。

 

「落ち着け響。まだ全部が終わった訳じゃない」

「どういう意味ですか?」

「忘れてないか? 今、颯人がここに居ないって事を」

「あ? そう言えばあのペテン師、今どこで何してやがんだ?」

 

 ここで漸く響達も颯人が何時まで経っても姿を見せない事に疑問を抱き、どこに居るのかと周囲を意味も無く見渡した。

 

 彼女らが不在の颯人に疑問を感じている前で、メデューサの方は機嫌良さそうに右手の指輪を取り換えた。

 

「フロンティア事変で大きく減った魔法使い。それをどう補うかで頭を悩ませていた時に、グレムリンがお前の事を教えてくれたよ。キャロル・マールス・ディーンハイム」

「貴様……俺の世界分解の為のレイラインの流れを変えて、自分達の魔法を発動する為に……!?」

 

 ここ最近唐突にジェネシスの動きが静かになったのはそう言う理由だった。キャロルやウィズにバレないように、静かに動き破壊された要石の代わりとなる魔力の流れを変える基点を作り出していたのだ。

 それが今、彼女達の足元に広がっている。チフォージュ・シャトーの起動により大規模に魔力が流れ、本来であれば発動できない規模でサバトが行われようとしている。

 

 後はメデューサが発動の為の魔法を使えば、全世界でサバトが発生し一気に全人類が魔法使いへと覚醒する。

 

 メデューサが指輪を嵌めた右手を腰のハンドオーサーの前へと持って行こうとしていた。このままではマズイと響達が前に出ようとするが、奏は1人それを阻んだ。

 

「待てッ! まだだ……まだ待て」

「待つって、何をッ!?」

「このままじゃ、奏さんッ!?」

「大体あのペテン師はどこに居やがるッ!?」

 

 装者達が騒ぐ中、遂にメデューサが右手をハンドオーサーの前に翳し――――

 

〈エラー〉

「……は?」

 

「「「え?」」」

 

 空しく響き渡った魔法不発の音声に、メデューサは言葉を失い響・翼・クリスの3人は目が点になった。透も仮面で顔は隠れているがクリス達と同じ顔をしている事だろう。

 

 だがそれ以上に動揺しているのは言うまでもなくメデューサである。万全を喫して発動した筈の魔法がまさかの不発に終わったのだ。魔力に関しては十分、レイラインの流れを弄る為の楔も不足はない筈。にも拘らず何故サバトが不発に終わったのかがメデューサには分からなかった。

 

 困惑するメデューサの様子にキャロルも怪訝な顔をしていると、新たな声がその場に響き渡った。

 

「レディース、アンド、ジェントルメーン!!」

 

 自信に溢れる声を高らかに響き渡らせたのは、この場に居なかった颯人であった。彼は何時の間にか奏達の近くのビルの屋上に立っていた。

 

 漸く登場した颯人に奏は安堵の混じった笑みを向けた。奏が向けてくる笑みに、颯人も同じ笑みを返す。

 

「よ、待たせたな奏」

「遅いぞ、颯人?」

「そう言うなって。結構ベストなタイミングだったろ?」

 

 現れるなり早々に奏と軽口を叩き合う颯人だったが、置いていかれて他の者達からすれば何が何だか分からなかった。

 ただそれでも颯人が何かした所為でキャロルの思惑だけでなくメデューサの思惑すらも失敗に終わった事だけは理解できた。

 

「貴様、明星 颯人ッ!? 何をしたッ!?」

 

 それまでの余裕を感じさせる雰囲気は何処へ行ったのか、メデューサが激昂して颯人に問う。

 

 その声を聞き、颯人は奏に向けているのとは違う挑発的な笑みを向けながら右手をハンドオーサーの前に翳した。

 

〈フラワー、プリーズ〉

 

 颯人が魔法を発動させると、その瞬間足元に広がる魔法陣の光が一際強くなる。そして次の瞬間、魔法陣の範囲が及ぶ全ての場所、即ち世界中に色とりどりの花弁が散った。

 それは誰が傷付く事も無い、ただ花弁を散らす為だけの言ってしまえば賑やかしの為だけの魔法。恐らく戦いで活用する事は無いだろうその魔法が発動したのを見て、響は場違いにも驚きながら目を輝かせた。

 

「うわぁっ! 何これ凄いッ!」

「これは、何が?」

 

 装者達は何が何だか分からないと言った様子だが、魔法使いと錬金術師はこれがどういう事か理解していた。要は颯人もメデューサと同じ事をしていたのだ。

 

 だがそうだとして、分からない事がある。キャロルの企みが世界の分解である事に気付けたとして、一体何時この魔法を仕込んでいたのか? S.O.N.G.がキャロルの企みに気付いたのはかなり最近の話。気付いてからではこんな仕込み出来る訳がない。

 

「明星 颯人ッ!? 貴様どこでキャロルの企みに気付いたッ!? 一体何時こんな魔法を仕込んだッ!?」

 

「そうです颯人さんッ! 一体何時の間にこんなのを?」

「え? そんなのエルフナインちゃんが合流してからだけど?」

「えぇっ!?」

 

 実は颯人は、キャロル達が最初に攻撃を仕掛けてきてエルフナインが合流した時には既に彼女がキャロルと繋がっている事に気付いていた。いや、これは正確ではないか。気付いていたと言うより、繋がっている可能性が高いという事をウィズとアルドにより聞かされていた。そう、あの時ウィズがエルフナインを始末しようとしていたのも全て演技だったのだ。敢えてウィズがエルフナインを疑う演技をし、颯人がそれを止める演技をした事で彼も他の者達と同じくエルフナインを疑ってはいないと思わせていた。

 全てはキャロルからの警戒心を外す為だ。エルフナインの事を警戒している姿勢を見せては、キャロルからも最優先で排除すべき危険人物と見られる可能性があった。

 

「あれ? ちょっと待ってください? 確かあの時颯人さんと一緒にウィズさんを連れ出したのって師匠だった気が……」

「……まさか、司令もその事を知ってて?」

「うん。って言うか知らないのは俺と奏以外の戦闘要員全員だよ」

 

 まさかのカミングアウトである。敵を騙すにはまず味方からと言うが、それを実践されると驚きは凄まじい。

 

「何故そんな事をした? 俺がエルフナインを通してお前達の情報を得ていると知っていたのなら、何故それを放置した?」

「んなの簡単だよ。どの情報がそっちに知られてるのか分かってれば次の行動も予想し易くなるだろ?」

 

 どの情報を相手が握っているのか分からなければ、最悪の事態も避けようがない。颯人は敢えてキャロルに情報を握らせることで、対策を練りやすくしていたのだ。

 

 だが仮にそうだとしても分からない事はある。エルフナインがどの情報を得ていたか、何を見ていたか等颯人は何処で見ていたのか。彼は前線に出る戦闘要員。エルフナインにずっとついていた訳ではない。不自然に本部に残る様な事はしていなかったどころか、自ら本部を空ける事すらあった。

 

「一体何時、エルフナインの事を監視していたのだ?」

 

 キャロルが問うと、颯人は被っていた帽子を脱ぎ奏に向けて投げた。UFOの様に回転しながら飛んでいった帽子を奏が見事にキャッチし、ギアを纏った状態で被った。

 

 それが一体何を意味しているのか。全員が注目していると、奏は被った帽子を脱ぎひっくり返した。すると帽子の中から颯人の使い魔達が飛び出した。

 

「ッ!? それは……!?」

「ま、こういう事さ」

 

 思い返せば颯人は奏の傍を離れる時、頻繁に自分の帽子を奏の頭に被せてから居なくなっていた。事前に情報を集めていたキャロルは2人が恋仲である事も知っていたので、それを2人なりのスキンシップの一種だと思っていたのだが、それは間違いだという事を今知った。

 この2人は何気ない行動で、颯人から警戒の目を外しつつエルフナインを、更にはその向こうに居るキャロルに監視の目を付けていたのだ。

 

「んで、こっそりとレイラインに手を加えてこっちの魔法を使えるようにしてたって訳さ」

「い、何時の間に……」

「いや~、にしてもお前ら迄同じ事やろうとしてたことに気付いた時はちょっと焦ったぞ」

「な~にが焦っただよ。人の事まんまと騙眩ましやがって……」

 

 得意げに話す颯人に、クリスも怒りを通り越して呆れた顔を向けていた。ここまで見事に騙されたら、もう起ころうと言う気にもなれない。

 

 クリスですらこれなのだから、翼と響に至っては笑うしかない。ただこの事実を知った時、シャトーに突入した4人が怒らないかという事だけが不安だった。

 

「あはは……あれ?」

 

 思わず乾いた笑い声を上げていた響だが、ここで彼女は気付いた。先程からキャロルが妙に静かな事に。

 

 見るとキャロルは俯いている。一瞬落ち込んでいる様にも見えたが、よく見ると肩が震えていた。それが湧き上がる怒りを押し殺した震えである事に気付くのに時間は掛からなかった。

 

「明星 颯人……!? 貴様ら、このままでは――」

「…………おい、ジェネシス」

「何だ!?」

 

 キャロルに対し、見て分かるほどの怒りを露にしたメデューサがメイジを率いて颯人達に襲い掛かろうとした時、キャロルが静かに声を掛けた。今から怒りを爆発させて発散させようとしていたメデューサは、出鼻を挫かれた事にキャロルにも怒りの矛先を向けるがキャロルはそれを気にも留めずシャトーを指差した。

 

「今、明星 颯人の仲間がシャトーの中に入った。今頃はシャトーの防衛機構に足止めされているだろう。さっさと仕留めて来い」

「何? 何故我々がお前の言う事など聞かなければならないの。もうお前への協力など撤回よ。今更……」

「うるさい。四の五の言わず行ってこい。それともお前ら全員この場で消し炭にされたいか?」

 

 言うが早いかキャロルが錬金術の砲撃をメデューサ達に向けて放つ。砲撃はメデューサから僅かにズレ、彼女の後ろに控えていたメイジを2~3人吹き飛ばすだけに留まった。

 それはキャロルからの最後の警告だった。ここで従わなければ全員纏めて吹き飛ばすぞと言う。

 

「っ!? くっ……」

 

 流石に今のキャロルを相手に喧嘩を売るのは得策ではないと察するだけの冷静さは残っていたのか、メデューサは残った手勢を率いてシャトーの中へと入っていく。

 

 このままではガルド達4人が挟み撃ちにあう。響達は焦りを抱いた。

 

「奏さんッ!? このままだとマリアさん達がッ!?」

「落ち着け。アイツらなら大丈夫だ。信じろ」

「そうだ立花。何より、キャロルが私達を通してはくれないだろう」

 

 翼の分析通り、キャロルは颯人達の前に立ちはだかる様に浮遊し両手を広げていた。この場で全員血祭りにあげてやると言う意思が感じられる。

 

「明星 颯人……恐れ入ったよ。まさかここまでコケにされるとは思ってもみなかった」

「言っただろ? 奇跡を作るのは俺の得意技だって。どうだい? 世界を花で満たす平和な奇跡を目の当たりにした感想は?」

 

 颯人の茶化すような言葉に、キャロルは一瞬笑みを浮かべると次の瞬間には憤怒の顔で錬金術を放ち周囲に舞う花弁を焼き尽くした。その熱気は花弁を焼き尽くすだけに留まらず、まだ形を残している建物の一部を融解させるほどの熱量を持っていた。

 

「お前が奇跡を作ると言うのであれば、お前を殺せばこれ以上の奇跡は起こり得ないという事。ここで貴様を、八つ裂きにして始末してやる……!!」

「出来るのか? 単純な人数差で5対1だけど?」

「いいや、()()()()さ…………来いッ! 終末の四騎士(ナイトクォーターズ)ッ!!」

 

 キャロルがそう叫ぶと、シャトーから4つの光が飛び出した。赤・青・緑・黄の4色の光がキャロルの元に集い、その姿を晒すと響達が驚愕に目を見開いた。

 

「なっ!?」

「そんなッ!?」

「何で……何であいつらがッ!?」

 

 そこに居たのはミカ・ガリィ・ファラ・レイアの4体のオートスコアラー達。装者達によって倒された筈の4体が傷一つない姿でキャロルの周りに集っていた。

 

 倒した筈の4体が再び姿を現した事に納得がいかない様子のクリス達だったが、颯人は特に慌てた様子を見せなかった。

 

「ま、出てくるよな。俺達魔法使いが居るってのに、何の備えもしてない訳がないもんな」

 

 キャロルの計画ではオートスコアラーはイグナイトを発動させたシンフォギアによって倒されなければならない。だがS.O.N.G.には装者の他に魔法使いが居る。彼らによりオートスコアラーが倒されてしまわないと言う保証は無かった。

 

 もし仮に颯人達魔法使いによりオートスコアラーの誰かが倒されてしまっては、計画は頓挫してしまう。なのでもしもの時の為の備えとして、予備のオートスコアラーを用意しておくことはとても自然な事であった。

 

 これは思っていた以上に厳しい戦いになる。響達が気合を入れ直してキャロルとの最後の戦いに臨もうと意気込んでいると、颯人が遮る様に手を広げた。

 

「奏、響ちゃん達とキャロルを頼む。俺は、あの人形共を相手にする」

「1人で大丈夫か? アイツら1体でも結構強いぞ?」

「任せな」

〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉

 

 奏の前で、颯人がフレイムドラゴンのウィザードに変身する。

 変身した颯人は背中越しに奏を見て一度頷いて見せた。それを見て奏は彼を信じ、4体の人形を彼に任せて自分達はキャロルに集中する事を決めた。

 

「行くぞ、皆。人形共は颯人に任せろ!」

「え、ちょ、奏ッ!?」

「良いんですかッ!?」

 

 まるで颯人に面倒を押し付けるかのような奏の判断に翼達が面食らう。一方のキャロルも、一度は破れたとは言え自慢のオートスコアラー達にたった1人で挑むと言う颯人を思わず鼻で笑わずにはいられなかった。幾らなんでも無謀すぎる。

 

「フンッ! たった1人で、俺のオートスコアラー達に勝てる気でいるのか?」

「誰が1人で戦うって言った?」

「何だと?」

「フフンッ!」

〈コネクト、プリーズ〉

 

 訝しむキャロルの前で、颯人はコネクトの魔法陣に手を突っ込んだ。

 

 そこから取り出したのは、新しい武器とかそう言うのではなかった。一言で言えば腕時計の様なタイマーと言ったところか。腕輪の様で、手首の部分にはハンドオーサーとアナログ式タイマーが組み合わさったような物が付いている。

 

「それは……?」

「フッ……」

〈ドラゴタイム〉

 

 誰もが首を傾げる中、颯人は取り出したタイマーを回転させ針を赤いメモリの部分に合わせた。

 

〈セットアップ〉

「さぁ、タネも仕掛けも無いマジックショーの開幕だ!」

〈スタート!〉

 

 ハンドオーサーの親指部分を押すと同時に、颯人がオートスコアラー達に突撃する。4体のオートスコアラーは、たった1人で向かってくる颯人を侮り嬲り殺しにしようと四方から取り囲んで時間差で攻撃する。

 

「お前1人、さっさとバラバラに分解してやるゾッ!」

 

 ミカの攻撃を颯人はソードモードのウィザーソードガンで受け流す。決して攻撃を受け止めないのは、すぐ後ろにレイアが迫っているからだ。

 

「隙ありッ!」

「何のッ!」

 

 腕にコインをトンファーにして攻撃してきたレイアを、ガンモードで迎え撃ち後ろに下がらせる。

 そこに今度はガリィが、腕に氷柱の剣を作り出した状態で地面の上を滑るように突撃してきた。

 

「貰ったぁッ!」

 

 これは会心の一撃だ。そう確信を持って突きを放ったガリィ。しかしその時、颯人は再び腕のタイマーの親指部分を押した。

 

〈ウォータードラゴン!〉

 

 颯人が親指を押すと、青い魔法陣が出現しそこからウォータードラゴンスタイルのウィザードが飛び出しガリィの前に立ちはだかる。そしてウォータードラゴンのウィザードは、手にしたガンモードのウィザーソードガンで迫るガリィを迎え撃った。

 

「なぁっ!? くっ!?」

 

 突然目の前に新たに現れたウィザードに、ガリィは攻撃を中断し防御の為の障壁を張る。銀の銃弾が障壁に阻まれ火花を散らす横から、ファラが飛び出しウォータードラゴンのウィザードに2本のソードブレイカーを振り下ろした。

 

「ハッ!」

「お前にはこいつだ!」

〈ハリケーンドラゴン!〉

 

 ファラの攻撃がウォータードラゴンのウィザードに襲い掛かる直前、今度は緑の魔法陣が出現しそこからハリケーンドラゴンスタイルのウィザードが出現。剣を振り下ろそうとして隙だらけとなったファラを蹴り飛ばした。

 

「うぁっ!?」

「何、ファラッ!?」

 

 攻撃しようとしていたファラが逆に攻撃され地面に倒れるのを見て、レイアの意識がそちらに逸れる。その隙に颯人はもう一度タイマーの親指を襲うと手を伸ばした。

 

「ッ!? まさか……!?」

「もう分かるだろ?」

〈ランドドラゴン!〉

 

 ここまでの事からこのタイマーの効果に気付いたレイアが顔を引き攣らせると、颯人はタイマーの親指を押しランドドラゴンスタイルのウィザードを召喚した。ランドドラゴンスタイルのウィザードは、フレイムドラゴンスタイルのウィザードと共にレイアを蹴り飛ばした。

 

「グッ!?」

 

 強制的に距離を放されたレイアに、オートスコアラー達は状況を整理すべく一旦颯人達から距離を取った。

 

 彼女らの目の前には4人のウィザード。それぞれ炎・水・風・土の属性を持ったドラゴンの力を発揮するウィザード達が、明らかにそれぞれの意思を持って佇んでいた。




という訳で第140話でした。

実は颯人はエルフナインが合流した時から彼女の動向などを監視していました。ウィズがエルフナインを始末しようとしたあのシーンは全て演技だった訳ですね。ただまぁ颯人自身エルフナインを敵として見ていた訳ではなく、彼女が利用されていると理解した上で行動していた訳です。

それとGX編では作中で述べている通り、颯人がちょくちょく奏に帽子を被せてその場を離れるシーンがあった訳ですが、それ以前のシリーズではこれやってないんですよね。気付かれた方はいらっしゃいますでしょうか?

最後にはお待ちかねのドラゴタイマーの登場。実はこのドラゴタイムのウィザードラゴン4人 VS オートスコアラー4体の戦いはずっとやりたかったことなんですよね。同じ属性、同じ人数の戦いを次回はより激しく描いていこうと思いますので、どうかお楽しみに!

今年もよろしくお願いします!それでは。
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