魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第161話:その身に流れる血を誇りにして

 カリオストロを辛くも退けた颯人達は、一旦後方へと戻ってきていた。マリア達が避難させた農家の老婆の事も心配だったし、早くも結社の幹部がこの地にやってきた事は警戒すべき事態だからだ。

 

 現状、あの後敵が何らかのアクションを起こす事は無く、松代周辺は不気味なほどの静けさに包まれていた。

 そんな中で、颯人はトレーラー内の即席指令室のソファーに横になって帽子をアイマスク代わりに仮眠を取っていた。

 

 誰もが緊張感と共に動いている中、1人暢気に寝ている颯人にガルドはその神経の図太さに呆れ半分関心半分と言った目を向けていた。

 

「よくこんな状況で寝れるな。何時敵が再度攻撃を仕掛けてこないとも限らないのに」

〔大物なんですよ〕

「そうだろうか?」

 

 透の評価に対しガルドは半信半疑と言った様子だ。

 

 するとアルドがやって来て、寝ている颯人に毛布を被せてやった。

 

「とは言え、休む事も大事なのは間違いありません。特に颯人は、先日危険な目に遭った訳ですし」

「あぁ、あのレギオンとか言う奴な。そう言えば、結局どうなったんだ?」

〔ウィズさんが追いかけた筈ですが?〕

 

 あの戦いの後、ウィズは即座にレギオンファントムの追撃に移った。奴はあの場で逃がすには危険すぎる相手。再度攻撃を仕掛けてくるにせよ、別の人間に狙いを定めるにせよ、どちらにしても放置する訳にはいかない。

 

 気になったガルドと透からの問い掛けに対し、アルドは溜め息と共に首を左右に振った。

 

「残念ながら、逃がしてしまったようです。先程見失ったと連絡がありました」

「となると、アイツにも警戒しなきゃならないのか。こりゃ面倒だぞ……」

 

 パヴァリア光明結社からの襲撃に加えて、レギオンファントムに対しても警戒しなければならない現状にガルドは苦い顔をした。一方透はと言うと、話の途中からどこか上の空な感じで虚空を見つめている。その事に気付いたアルドは、彼の考えている事を見抜き静かに指摘した。

 

「まだ、クリスさんと仲違いしている事で悩んでいるのですか?」

「ッ!?」

 

 アルドの指摘に透は肩をビクンと震わせ彼女の方を見る。今回ばかりは言葉も筆談も無く彼の考えている事が分かった。

 

 何故分かったのか。彼の顔はそう語っていた。

 

 慄く透に対し、隣のガルドも仕方ないと言いたげに溜め息を吐いた。

 

「トオル、まだクリスと話をしていないのか?」

 

 あれからそれなりに時間が経っているにも拘らず、透は未だにクリスと距離が離れたままだ。それは今この場に彼が居る事が何よりも雄弁に物語っている。現在マリア達元F.I.S.組の3人を除く装者は全員周辺警戒に動いているが、普段の透であれば何かと理由を付けてちょくちょくクリスの元へと向かっている筈だった。例えば飲み物なんかの差し入れなどである。

 

 だが、現状2人の間にはとても分厚い見えない壁が存在していた。たとえ同じ空間の中に居ても、2人は互いに離れて目も合わせない。と言うよりクリスの方が露骨に透の事を避けていた。

 これでは仲直りもへったくれも無い。

 

「お前達2人の関係に部外者の俺が口出しするのもどうかとは思うが、それでも敢えて言わせてくれ。お前達は一度、しっかりと話し合うべきだ。日本の言葉にもある、口を割って本心で話し合わなければ何時までもこのままだぞ?」

「ガルド、割るのは腹です。口を割るのは隠し事なんかを喋る時に使う言葉ですよ」

「……本当?」

 

 微妙に締まらないガルドの言葉に、透は少し肩から力が抜けたのか苦笑するとメモにペンを走らせた。

 

〔僕自身、クリスと話すべきだと言うのは分かっています。ただ……〕

「ただ……何だ?」

〔クリスとどう接するのが正しいのか、分からなくなっちゃったんです〕

 

 そうペンを走らせ、彼はクリスを引っ叩いた時の自分の手を見た。今でも思い出せる。あの時クリスの頬を引っ叩いてしまった時の感触と、その時に向けられたクリスの驚愕と絶望、恐れが綯い交ぜになった表情を。そしてその直後に自分を突き飛ばして離れていく彼女の後姿を思い浮かべる度に、透は息苦しさを感じる程胸が締め付けられるような感覚に陥った。

 

 何故あの時、彼女を引っ叩いてしまったのか。未だに後悔している。仕方がない、なんて言い訳もできない。クリスを守るべき自分が彼女を逆に傷付けてしまった事に、彼は自分が憎くて仕方なかった。自制心が働かなければ、今すぐにでもこの手を引き千切ってしまいたい衝動にすら駆られた。

 その衝動と、胸の痛みを堪える様に透は己の手を握り締め額に押し付け、目を瞑って俯いた。

 

 苦しみに耐えている彼の姿に、痛ましさを感じてガルドは何も言えなくなる。一方で、アルドは静かに透に近付くと彼の肩に手を置きゆっくりと顔を上げさせた。

 

「透さん。一つ……聞かせてください」

「?」

「何故……泣かないんですか?」

 

 今の透の顔は今にも泣きそうな程に歪んでいるにも拘らず、その目からは一滴の涙も零れていない。これほど胸が張り裂けそうなほどの苦しみを感じているのなら、涙を流してもおかしくない筈なのにだ。

 

 頑ななまでに涙を流さない透に違和感を感じたアルドが問い掛ければ、彼は再び俯き力無く首を左右に振った。一体今彼がどんな顔をしているのかとアルドが横から覗き込もうとすれば、彼は顔を逸らしてしまう。

 

 何も語らず、ただ頑なに泣かないようにしている。どうやらそこに何かあるらしいことは分かるのだが、生憎とそこから先へは彼も踏み込ませてくれないらしい。

 その先へ踏み込む事が出来るのは、恐らくこの世でただ1人。

 

 それを察したアルドは、溜め息を吐くと懐中時計を取り出し今の時間を見てからその場を離れた。

 

「……そろそろいい時間です。軽食の用意をしますので、ガルドはここを頼みますよ」

「食事なら俺が……」

「いえ、あなたも休息すべきです」

 

 有無を言わさずこの場に残らされ、ガルドは持ち上げかけた腰をソファーに下ろした。そして寝ている颯人と俯いている透を交互に見て、彼も疲れを吐き出す様に息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、トレーラー内の大型モニターの前ではあおいと了子、そしてエルフナインの3人がコンソールと睨めっこしていた。現時点でまだ暗号解読は終わっておらず、結果を待つしかない今彼女らに出来る事はデータの解析などだった。

 

 そんな彼女らに、調達が差し入れでコーヒーを持って来た。

 

「友里さん。あったかいもの、どうぞ」

「デース」

「あったかいものどうも。何だか何時もとあべこべね」

 

 普段はあおいが適温にしたコーヒーなどを差し入れるのが普通だったので、こうして誰かに彼女が差し入れしてもらうと言うのは非常に珍しい。最近では、初めて颯人が二課本部を訪れた時くらいだろうか?

 

 あおいが調からコーヒーを受け取っている横では、了子にはマリアが、エルフナインにはキャロルがそれぞれコーヒーを差し入れていた。

 

「あなたにも」

「あら悪いわね」

「ん」

「ありがとう、キャロル」

 

 エルフナインはともかくキャロルまでもがこの場に居るのは、偏に彼女の身の安全を考えての事でもあった。生ける屍同然のハンスは強固な結界を張っておけば問題ないが、自分の意志で動けるキャロルはそうもいかない。かと言って彼女までハンスと同じ結界の中に押し込む訳にもいかないので、結果的にこうして連れ歩くのが一番安全と言う結論に達した。

 少なくとも目の届く範囲に置いておけば、何か異常があった時すぐに対処できる。

 

 マリアは了子にコーヒーを渡す傍ら、彼女の前にあるコンソールを覗き込んだ。

 

「調べ物、順調かしら?」

 

 何気なく気になったから程度の理由でマリアがコンソールを覗き込むと、そこに映っていたのは複数人の見知った服装の、見覚えのある顔立ちの少女達だった。

 

「これ、もしかして――」

「ゴメンね、嫌な物見せちゃって。本当の意味での改良型LiNKERの完成の為には、必要だと思って……」

 

 未だ難航しているLiNKERの改良。ウェル博士の研究から何かヒントが得られないかと思い、嘗てのF.I.S.のデータを閲覧しているのだがその結果は芳しくない。

 それどころかマリア達に嫌な事を思い出させてしまった事に対して、了子は申し訳ないとすら思っていた。

 

「私達の忌まわしい想い出ね……。フィーネの器と認定されなかったばかりに、適合係数の上昇実験にあてがわれた孤児達の記録……」

 

 今でもマリアは思い出せる。ガングニールになかなか適合できず、拒絶反応で苦しんだ日々の辛さを。

 

 ギアが体に馴染まず苦痛に膝を折る度に弱音をナスターシャ教授に吐き、そして何度も厳しい言葉で諭されてきた。

 

 甘える事を許されなかったあの頃、ナスターシャ教授が時に鬼のように見えた事は今でも鮮明に覚えていた。

 

「……マム……」

 

 当時の事を思い出して沈んだ顔になるマリア。

 その横では、キャロルが同じようにエルフナインのコンソールを覗き込んでいた。

 

「エルフナイン、これは……?」

「これはね、了子さんの手伝いなんだ」

 

 エルフナインの前のモニターに表示されているのは、ここ最近の奏のバイタルの変移だった。嘗てはマリア達と同じようにLiNKERの薬効に悩まされ、頻繁に体内洗浄を必要としていた奏。

 だがここ最近は、奏のバイタルも随分と安定していた。適合係数も上昇傾向にあるし、何よりもLiNKERの消費量も格段に下がりつつあった。了子はそこに何らかのヒントがあるかもしれないと睨み、こうしてエルフナインに調べてもらっている最中だったのだ。

 

 キャロルがエルフナインと共にコンソールを覗き込む。一見すると幼い子供が一つしかないテレビの画面を揃って至近距離から見ているような光景に、あおいと調達が頬を綻ばせていた。

 

 その時、突如車内に警報が鳴り響いた。

 

「ッ! 多数のアルカノイズの反応ッ! 場所は……、松代第三小学校付近から、風鳴機関本部へ進行中ッ!」

 

 あおいの報告に切歌達が思わず息を呑んだ。その場所は昼間助けた老婆を連れて行ったところに程近いからだ。厳密には、その近くに退去させられた住民を一時的に集めておく集結地点がある。

 

「トマトお婆ちゃんを連れて行ったところデスッ!」

「マリアッ!」

「ええッ!」

 

 報告を聞くなりマリア達3人が即座に動き出す。今の報告に戦おうとしていると勘違いしたエルフナインは、慌てて3人を引き留めようとした。

 

「いけませんッ! 皆さんにはLiNKERがありませんッ!」

「言っておくけど、奏ちゃん用の奴は使っちゃ駄目だからね? これ以上の負担は掛けられないわ」

 

 エルフナインと了子の制止の声を背に浴びながらトレーラーから出ようとした彼女達は、同時に入ろうとしてきた弦十郎達と鉢合わせた。

 

「む……どこへ行くッ!」

 

 敵襲があった事は弦十郎も知っている。そこから彼もマリア達が戦いに行こうとしていると勘違いしたが、それに対しマリアは即座に首を横に振った。

 

「敵は翼達に任せるわ。私達は民間人の避難誘導をッ!」

 

 正直、物は言いようだった。例え避難誘導と言う名目で外に出したとして、そこに敵が近付いた場合彼女達は躊躇せずにギアを纏うだろう。そういう覚悟が決まった者達だ。

 ハッキリ言ってしまえば、何時指示を無視して無茶をするか分かったものではない。だがしかし、ここでマリア達の提案を突っ撥ねてこの場に繋ぎ止める事は、彼女達の事を信用しないと明言しているに等しい。それは彼女達に対するこの上ない侮辱に繋がる。

 何より弦十郎は、彼女達の想いを汲めない程無感動な人間ではなかった。

 

「……分かった。無茶はするなよッ!」

「えぇ……」

 

 

 

 

 マリア達が民間人の避難誘導の為にトレーラーから出た頃、奏達4人の装者は蔓延るアルカノイズ達と対峙していた。視界を埋め尽くさんばかりに存在するアルカノイズ、コイツ等を一匹でも逃せば後ろに居る民間人や重要な施設が被害を受ける。

 そうはさせじと、奏を除く3人の装者はイグナイトモジュールを起動して一気に勝負を掛けようとした。

 

「猶予はないッ! 刹那に薙ぎ払うぞッ!」

 

「「「イグナイトモジュール、抜剣ッ!」」」

 

 一斉に黒いギアを纏ってアルカノイズを文字通り蹴散らす3人。

 

 その横では奏が、こちらは通常ギアのままアルカノイズと渡り合っていた。ウィザードギアを用いればもっと効果的に戦えるのだろうが、流石に先日かなりぶん回したのでいざと言う時の為に今回は抑える方向で動くつもりだった。

 

 それでも装者の中では1~2を争う実力の持ち主、例え魔力に頼らずとも、イグナイトを起動した3人ほどではないにしても十分にアルカノイズを殲滅できていた。

 

「よっ! はっ! へへっ、お前ら程度ならこのままでも十分さ!」

「奏、無茶はしないで!」

「そう言う翼達こそ。何時敵の大物が出てくるか分からないんだ、手早く余裕をもって――」

 

 時に軽口を叩き合いながらアルカノイズを片付けていく4人の装者の戦いを、サンジェルマン、カリオストロ、そしてプレラーティの3人が高所から見下ろしていた。

 

「抜剣……待ってましたッ!」

「流石のイグナイト。凄いワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティがイグナイトモジュールを起動した翼達の戦いに注目している傍で、サンジェルマンはウィザードギアを使わずにアルカノイズと戦う奏の方に目を向けていた。永い時を生きてきた彼女から見ても、奏の戦いは粗削りながらどこか洗練されており、立ち回りは見事と言う他ない。あの若さであれ程の戦いが出来るのなら、将来はきっと有望だろうと素直に感嘆した。

 だが同時に、惜しいとも思っていた。サンジェルマンも奏がLiNKERの力を受けてギアを纏っていると言う事実を知っている。その制限が存在する限り、奏は必ずどこかで壁にぶつかってしまう。優良にはなれても最上にはなれない。ウィザードギアを用いればそれもある程度埋められるが、今回はその肝心のウィザードギアを使わないつもりらしいと言う事に僅かな落胆を抱かないでもなかった。

 

 戦場を静かに見下ろすサンジェルマンの様子を、両隣から同僚が見やり声を掛ける。

 

「な~に? サンジェルマン、またあの子探してるの?」

「そう言えば、今回はあの小僧共出てきていないワケダ。大方私達が別口から襲撃を掛ける事を警戒しているのか……」

「どちらかと言えば、レンの方を警戒しているのでしょう。あの後結局逃がしたらしいし」

 

 そうぼやいたサンジェルマンは、2人からは見えないように拳を強く握りしめた。先日、颯人が窮地に陥った時何も出来なかった事を彼女はまだ悔いているらしい。

 

 その事を振り払う様に軽く頭を振ると、気を取り直す様に小さく息を吐いて懐から凝った装飾のフリントロックピストルを取り出した。

 

「さ、無駄話は終わりにしましょう。この手に赤く輝く勝機、見せてあげましょう」

 

 サンジェルマンがピストルを取り出すと、それに倣う様にカリオストロとプレラーティも何かを取り出した。カリオストロは指輪、プレラーティはカエルのぬいぐるみの中からけん玉を取り出す。大きさも形状も違うものを取り出した3人だったが、唯一共通しているのはそれらすべてに赤いハート型の宝石の様な物が組み込まれている事だった。

 

 サンジェルマンはピストルの引き金を引き、カリオストロは指輪を左手中指に嵌め、プレラーティはけん玉を胸元に掲げた。

 するとその瞬間ハートの形をして宝石から赤く眩い光が放たれ、その光が3人の体を包み込んだ。

 

 例えアルカノイズとの戦闘中であっても、そんな光が放たれれば流石に奏達の意識もそちらに向く。4人は戦闘を思わず中断し、その光の発生源へと目を向けた。

 

「なッ……あれはッ!」

 

 赤い光が徐々に収まっていき、3人の姿が見えるようになってくると翼達は思わず息を呑んだ。そこに居たのは、特徴的な服装をした3人ではなくどこかシンフォギアと似た鎧とも言えるものを身に纏ったサンジェルマン達の姿であった。

 錬金術師でありながらシンフォギアに似た装備。それに奏達は思い当たる節があった。

 

「まさか――ファウストローブッ!?」

「遂に出してきやがったか……!」

 

 先の魔法少女事変に於いて、奏達はダウルダブラのファウストローブを纏ったキャロルを相手に苦戦を強いられた。あの3人が纏っているファウストローブが、それと同等の性能を持っているとは考えたくないが、しかし劣っていると考えるにはその輝きはとても眩しかった。

 

 知らず、奏は自分でも気づかぬ内に胸元で拳を握り締めていた。

 

「ノイズばっかで飽き飽きしてたところだ、相手になってやるッ!」

 

 一方クリスはそんな奏に対し、既にやる気満々と言った様子だった。同じファウストローブを纏うキャロルとの戦闘の経験が、臆せず立ち向かう勇気を彼女に与えているのだろう。

 その闘志に引かれるように、翼も刀を握る手に力を籠め先手を打つべく飛び掛かった。

 

「錬金術師達のファウストローブ――ならば出し惜しみをしている場合でもあるまいッ!」

 

 飛び上がった翼は、足から炎の翼を羽搏かせ一気に距離を詰めて斬りかかる。

 

「推して参るは風鳴る翼ッ! この羽撃きは何人たりとも止められまいッ!」

炎鳥極翔斬

 

 翼が必殺の炎鳥極翔斬をサンジェルマン達に向けお見舞いする。それに対し、プレラーティが不敵な笑みを浮かべて迎撃した。

 

「浅はかなワケダ……」

 

 翼の事を嘲笑しながらプレラーティが巨大化したけん玉を振るうと、玉の部分がハンマーの様に飛んでいき翼の技とぶつかり合った。

 

 次の瞬間起きた事は、傍から見ていた奏達の目にも到底信じられない出来事であった。何とプレラーティの巨大なけん玉と翼の技がぶつかり合った瞬間、眩い光に包まれたかと思うと翼のギアがイグナイトを解除され通常形態に戻ってしまったのだ。

 

「――ッ!? ギアがッ!? あああああああッ!?」

「翼ぁッ!?」

 

 決戦機能の出力を失い、吹き飛ばされていく翼に奏が手を伸ばす。しかしその手は届かず、翼はそのまま地面に叩き付けられてしまった。

 

「よくも先輩をぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 落下した翼を心配して駆け寄る奏を横目に、クリスは反撃と小型ミサイルを発射する。

 しかしそのミサイルは全て障壁により受け止められ、束の間爆炎により3人の姿が見えなくなった。思わず舌打ちをするクリスだったが、ミサイルの爆発により発生した煙を突き抜けてカリオストロが飛び出すと今までの物とは比べ物にならない出力の砲撃をクリスにお見舞いした。

 

「ハァァァッ!」

「くっ!」

 

 咄嗟にリフレクターを展開して砲撃を受け止めるクリス。エネルギー系の攻撃であれば余程の物ではない限り受け止め散らせる自信があったが、なんとクリスのギアも翼のギアと同様にイグナイトが強制的に解除されてしまった。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!」

「クリスちゃんッ!?」

 

 響の見ている前でクリスが吹き飛ばされ壁に叩き付けられる。強制的にイグナイトを解除された衝撃と、攻撃を受け止めきれなかったダメージ、そして壁に叩き付けられた痛みでクリスはその場に力無く横たわった。

 

「イグ……ナイトが……」

「クリスちゃんッ!?」

 

 何故こんな事になったのか分からないと言いたげに倒れるクリスに駆け寄ろうとする響だったが、そんな彼女の前にサンジェルマンが立ち塞がる。サンジェルマンは響を見やると、金色の拳銃を向け躊躇なく引き金を引いた。

 

「グッ――」

 

 咄嗟に防御の構えを取った響だったが、放たれた銃弾は響の顔の真横を通り過ぎる。この距離で外れたのかと一瞬安堵した響だったが、外れた銃弾がどこかに当たった音がしない事に気付くのが遅れた。

 

「逃げろ響ッ!?」

「え?……ハッ!?」

 

 奏の警告に背後を振り返った響は、そこに自分の真横を通り過ぎた銃弾が滞空しているのを見た。その光る銃弾は突如大きく膨れ上がると、そのまま爆発を起こし響はその中に飲み込まれていった。

 

「あああああああああッ!?」

「響ぃッ!?」

 

 閃光の中に消えた響が次に姿を現した時、彼女もやはりイグナイトモジュールを解除され傷だらけで倒れていた。

 

 その様子を見ていた弦十郎達は驚きのあまり言葉を失った。

 

「い、イグナイト、強制解除ッ!?」

「なんだとッ!?」

「まだカウントは残っているのに……」

「何故、イグナイトが……?」

 

 トレーラーに残っている者の誰もが訳が分からないと言った様子の中、了子は共に控えているアルドに意見を求めた。

 

「アルド、あれはどう言う事か分かる?」

「あの光……あれは、まさか……!?」

 

 アルドが何かに気付いていた頃、外では残った装者である奏が1人サンジェルマン達と対峙していた。

 

「お前ら、今のは何だ? 翼達に何をしたッ!」

 

「これは賢者の石のファウストローブ。私達錬金術師は、ラピス・フィロソフィカスとも呼ぶけれどね」

「本来であればその錬成には、チフォージュ・シャトーにて解析した世界構造のデータを応用させてもらうワケダが……」

「ま、色々あって、今これには純正の天然物が使われてるのよね」

 

 立ち塞がる3人の錬金術師を前に、奏は油断なくアームドギアを構えた。用語を聞いても仕組みは今一分からないが、兎に角この3人が纏っているファウストローブはキャロルの時とは違う絡繰りを持っている事だけは分かった。その絡繰りによって、イグナイトモジュールが強制的に解除されてしまう事も、だ。

 

 これは出し惜しみをしている場合ではないかもしれない。奏がウィザードギアを纏おうとギアコンバーターに手を伸ばしたその時、サンジェルマン達を銀の銃弾と砲撃、魔法の矢が襲った。

 

「ん?」

 

 降り注ぐ攻撃を苦もなく防ぐサンジェルマン達。引き下がる事すらさせる事叶わなかった攻撃だが、それでも颯人達が駆け付けるのには十分に間に合った。

 

「わっかんねぇなぁ……」

 

 奏を守る様に駆け付けた颯人は、ガンモードのウィザーソードガンを手の中で弄りながら心底分からないと言いたげに呟いた。

 

「な~んでそれだけの力を、誰かを苦しめる為に使うんだ? アンタら何がしたい?」

 

 呆れを交えながら颯人が問い掛ける。どこか挑発の色も含んだその声色が、カリオストロとプレラーティは癇に障ったのか思わず一歩前に出ようとした。だがそれをサンジェルマンが宥め、颯人に対しても諭す様に答えを口にした。

 

「誰かを苦しめる? いいえ、違うわ。積年の大願は人類の解放。支配の軛から解き放つ事に他ならないわ」

 

 サンジェルマンの言葉に、そう言えば以前バルベルデで世界革命だ何だと言っていた事をガルドは思い出す。だが正直、現時点ではそんな事言われても納得できないし何も分からない。

 

 それもあるが、何よりも颯人にとって見過ごせないのはサンジェルマン達が既に善行とはかけ離れた事に手を染めている事にあった。

 颯人は耳の穴を小指で穿る仕草をしながら、サンジェルマンの言葉に何の感慨も受けていない体を装って反論した。

 

「ほ~ん? え~っと? 確か七万三千……あ~、七百九十……幾つっつたっけ?」

「七万三千七百九十一よ」

「あぁ、そうそう。それ、アンタらが今まで犠牲にしてきた人数なんだろ?」

「そうね。革命の為の、尊い礎よ」

 

 次の瞬間、一発の銃声が辺りに響き渡った。銃声の発生源は颯人の持つウィザーソードガン。彼はサンジェルマンが言葉を口にした瞬間、素早く銃口を向け彼女の髪を掠める位置を狙って引き金を引いていた。

 

 硝煙を上げる銃口を向けられ、髪の毛先が僅かに焦げた事も気にせずサンジェルマンは仮面の奥から向けられる颯人の視線を受け止める。隠れて見えないが、彼の目がこれ以上ない程冷たくなっている事に彼女は気付いていた。

 

「言葉を飾ってんじゃねえよ。俺にんな事に加担しろって? 冗談じゃねえ。そんなことしたら最後、俺は奏にどの面下げて会えばいいんだ?」

 

 どれだけ美麗な言葉を並べ立てようと、今までサンジェルマン達が犠牲にしてきた人々がそれで納得する訳がない。そりゃ確かに、中にはどうしようもない悪党も居たのかもしれない。100人が100人、死んだ方が良いと口を揃える極悪人もその中には混じっているかもしれない。今までサンジェルマン達が犠牲にしてきたのが、どのような人々だったのかを彼は知る由も無かった。

 

 だがそれを抜きにしても、他人の命の上に足を乗せて事を成し遂げる事を誇るような人間になる気も、それに加担する気も彼には無かった。

 

「俺を誰だと思ってるの? 奇跡の手品師、明星 輝彦の息子だよ? 人々を笑顔にする男の息子が、人々から笑顔を奪う様な事に加担したら、俺は俺でなくなる。そんなの真っ平御免だね」

「そうする事で、多くの人々が救済できるとしても?」

「救済の形は1つじゃない筈だ。俺は千に一つ、万に一つの可能性だとしても犠牲が一番少ない方法を選ぶ」

「それが本当に可能だとでも……?」

 

 

 

 

「出来る」

 

 

 

 

 静かに、だが力強い言葉で颯人は返した。その言葉には、熱いハートが籠っていた。カリオストロ達も思わず口を挟めなくなるほどに。

 

「やって見せるさ。そうする必要があるのなら、俺は幾らでも奇跡を起こす」

「その根拠は?」

「誇りだ。父さんの息子である事の誇りに懸けて……」

 

 誰も、何も言えなかった。普段他人を小馬鹿にしたカリオストロとプレラーティですら、思わず飲まれてしまう程の強い信念を彼からは感じた。自分達に比べて圧倒的に若い、子供と称する事すら笑ってしまう程の年数しか生きていない颯人の抱く信念に、悔しいが2人は気圧されるものを感じてしまったのである。

 

 颯人とサンジェルマンが暫し見つめ合う。どれ程の時間が経ったのか分からない。体感1時間近い気もするが、実際には数分と経っていないような気もする。

 時間の流れが分からなくなるほどの緊張感を、先に破ったのはサンジェルマンの方だった。

 

「ふぅ……」

 

 小さく溜め息を吐き肩から力を抜く。それだけで彼女が纏っていた緊迫した空気が霧散していった。そして今一度彼女が颯人を見る時、その目には先程とは違う優しさが見え隠れしていた。

 

「本当に……君はお父上によく似ているわ」

「そう?」

「えぇ……残念ね。君には、理解してほしかったけど――」

 

 残念そうにしているが、同時に何処か嬉しそうにしているサンジェルマン。颯人が期待通りの人間だと言う事が分かって満足しているような感じだった。

 その事に隣で様子を見ていたカリオストロが思わず食って掛かろうとした、その時である。

 

「サンジェルマンッ! いい加減に――ッ!? あの光ッ!?」

 

 突如頭上から降り注いだ眩い光にカリオストロが上を見れば、そこには一番星と言うには明るすぎる光の珠の様な物が浮かんでいた。

 それが何なのかを知るカリオストロ達は、顔に焦りを浮かべずにはいられなかった。

 

「くッ――統制局長、アダム・ヴァイスハウプトッ!? どうしてここにッ!?」

 

 そこに居たのは1人の男。片手に光の珠を携えて宙に浮かぶ白いスーツ姿の男がそこに居た。

 

 アダムと呼ばれたその男は、眼下に広がる景色を見下し、その中に颯人の姿を見ると狙いを定める様に目を細めた。

 

 

 

 

 そして…………周囲は眩い光に包まれ焼き尽くされた。




と言う訳で第161話でした。

今回の話で、透の持つ歪さが徐々に周りに認知されてきた感じですね。今まではただ底抜けに心が優しいと言うだけの少年でしたが、頑なに泣こうとしない彼にアルドも異変を感じ始めた事でしょう。

それと今回、颯人が真っ向からサンジェルマンに対して否を突き付けました。アンチ・ヘイトとして描くつもりじゃありませんでしたけど、もし不快になられた方がいらっしゃいましたらごめんなさい。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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