魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

201 / 324
第184話:希望に溢れる世界を愛して

 サンジェルマンが最後の儀式を行うと言う場所に颯人達が到着した時、そこに広がる光景に彼らは思わず目を瞬かせた。

 

 そこでは全裸で光の柱の中に浮かぶサンジェルマンを背景に、アダムとレギオンファントムが戦っていたのだから。

 

「おいおい、何だか面倒な事になってないか?」

 

 颯人もこの場でサンジェルマンとレギオンファントムとの戦いは想定していた。だが加えてアダムまで居ると言うのは少々予想の範囲を超えていた。しかもアダムはレギオンファントムと激闘を繰り広げているのだから面倒な事この上ない。回転する帽子や錬金術で放つ火球をレギオンファントムがハルメギドで薙ぎ払い、お返しとばかりに接近して斬りつけたり遠距離から衝撃波をアダムがひらりと回避する。その両者の応酬に神社の境内は見るも無残に破壊されており、辛うじて社殿が原型を留めている程度となってしまっていた。

 

「これ、どうします奏さんッ!」

「どうするっつったって……とりあえずはサンジェルマンを止めるしかないだろ?」

「その通りよッ! このままだとサンジェルマンが自分の命を燃やして儀式を完遂してしまうわッ!」

「カリオストロッ! サンジェルマンを止めるぞッ!」

「分かってるッ!」

 

 このままサンジェルマンに儀式を行わせてはならないと、カリオストロとプレラーティはファウストローブを纏って飛び出した。颯人はそれを見送ると、やれやれと溜め息を吐きながら奏達にアダムとレギオンファントムの気を引くよう頼んだ。

 

「しゃーねえ。どの道あの人は止めなきゃならねえ訳だしな。奏、他の連中と一緒にあの暴れてる連中を何とかしてもらえるか?」

「分かった。ただこっちの余波がそっちに行かないって保障はないぞ?」

「上等。寧ろこっちの事は気にしなくていい。頼むぜ、皆?」

 

 颯人の言葉に奏達は頷くと、今正に戦っている最中のアダムとレギオンファントムに横から殴り掛かった。

 

「お前らぁぁッ!」

「私達が相手よッ!」

 

「っと! やはり来たか、邪魔をしにね」

 

 アダムにはクリスとマリア、そして奏の3人が攻撃を仕掛け、残りの透とガルド、響、切歌の4人がレギオンファントムに立ち向かった。レギオンファントムの方に魔法使い2人が向かったのは、やはり奴が持つ相手の中に入り心を壊してくる攻撃を警戒しての事である。ただでさえ強いレギオンファントムに、装者では立ち入る事の出来ない領域に入られては手の施しようが無くなる。

 

 アダムは向かってくる3人の装者を前に、獰猛な笑みを浮かべると被っていた帽子をブーメランのように投げて攻撃してきた。

 

「挨拶代わりだ、まずはこれでッ!」

 

 高速で回転しながら飛んでくる白い帽子。一見するとただの帽子でしかないが、奏がアームドギアで弾くとただの帽子にあるまじき硬い音と重たい衝撃に彼女は思わず顔を顰めた。

 

「いっつ!? 何だこれッ!?」

 

 予想外の衝撃に思わず面食らう奏ではあったが、それでも気合で力を籠め帽子を明後日の方に向け弾き飛ばした。弾かれた帽子は回転を失わず境内の林の方へと飛んでいき、まるでカッターの様にそのまま林の木々を両断しながら弧を描きアダムの手の中へと戻っていった。あまりにも非常識な光景にマリアもクリスも開いた口が塞がらなくなった。

 

「嘘でしょッ!?」

「何で出来てやがんだあの帽子ッ!」

 

 彼女らが慄く前で、アダムは戻って来た帽子を手に取り優雅に被り直した。そして鍔の下から不敵な笑みを浮かべ、挑発的な視線を奏達に送った。

 

「フフッ、この程度かい? シンフォギアと言うものは?」

「あ? 嘗めてもらっちゃ困るな。そうだろ、2人共?」

「そうね」

「あぁ。このトンチキ野郎に目に物見せてやるッ!」

 

「「イグナイトモジュール! 抜剣ッ!」」

「さぁ、ショータイムだッ!」

【【DAINSLEIF】】

〈プリーズ〉

 

 クリスとマリアはイグナイトモジュールを、奏はウィザードギアとなってアダムと対峙する。現状でエクスドライブを除いた本気の彼女達を前に、しかしアダムは余裕そうな態度を崩さない。

 

「フン、元より僕は恐れていないよ。魔剣の力などね。それに……通用すると思うのかい? 付け焼刃の魔法程度が?」

 

 そもそもアダムは戦いの際にファウストローブを纏わない。あれはシンフォギアと同じく、女性にしか纏う事が出来ないものだからだ。故にアダムは戦いに際して、ファウストローブの火力と防御力に頼らぬ純粋な錬金術のみでこれまで戦ってきた。その戦いでレギオンファントムを相手に殆どダメージを受ける事無く互角に渡り合ったのだから、それだけでも彼の能力の高さを伺わせた。

 

 しかし奏は、自分の魔法を付け焼刃程度と侮られた事に対して挑発的な笑みを返した。

 

「ハッ! どうかな? これでも颯人の戦いを間近で見てきたんだ。付け焼刃でも、扱い方は良く知ってるんだよッ!」

 

 言うが早いか、奏は形状が変化したアームドギアでアダムに攻撃を仕掛ける。魔法の炎を纏った槍を振るうと、その刃の軌跡から炎の斬撃が放たれアダムへと飛んでいく。アダムはそれを錬金術の火球で迎え撃とうとしたが、斬撃と火球がぶつかる直前奏はある魔法を発動させた。

 

〈コネクト、プリーズ〉

 

 奏が発動した魔法はコネクト。空間同士を繋げる魔法であり、普段は遠くにある物を引っ張り出すのに使われる。

 だがこの時の奏はコネクトの魔法を別の事に使った。その利用法を目の当たりにした時、アダムも思わずその表情を崩した。

 

「何ッ!?」

 

 奏が魔法を繋げたのは、アダムの火球のすぐ前。そこに出現した魔法陣は、アダムの火球を飲み込むと奏の真横に作り出されたもう一つの魔法陣から飛び出した。普通この魔法は自分の手元に作り出す魔法陣は自分の方を向くものだが、この時奏は自分の手元に作り出す魔法陣を別の方向へと向けていた。

 

 その方向とは……アダムが居る方。そう、奏は自分の攻撃が相殺されるのを防ぐと同時に、アダムの攻撃を本人にお返ししたのである。

 

 向かってくる炎の斬撃と高温の火球。二つがぶつかり合うのではなく合体して向かってきた事で、その温度は軽く太陽の表面にも匹敵するほどのものとなって襲い掛かった。迫る超高温の斬撃を前に、アダムも体勢を崩して回避する。その際に近くを通った高温の斬撃により、アダムの白いスーツが焼けて落ちた。

 

「くっ!?」

 

「体勢が崩れたッ! 行くぞマリアッ!」

「えぇっ!」

 

 アダムの体勢が崩れたのを見たクリスとマリアは、このタイミングを逃してはならぬと鍛え上げたユニゾンでフォニックゲインを上昇。高まったフォニックゲインにより2人のギアが連結し、クリスのギアがウィングとブースター、マリアのギアが機首を形成し戦闘機の様な姿となる。その状態で飛翔した2人は、赤いオーラを纏いながら空中で体勢を崩したアダムに向け一気に突撃した。

 

「「行っけぇぇぇぇぇっ!!」」

Change ♰he Future

 

 さながら赤熱する彗星の様にアダムに突撃する2人。生身の人間相手にここまでやるのはやり過ぎという気もしなくも無いが、彼女らは既に生身でありながら常識外れの戦闘力で装者を圧倒する人間を言うものを体感している。その彼女らに、例え生身でも敵を相手に容赦をすると言う甘さは無かった。そもそもアダムは生身でありながらファントムと互角に渡り合う程の力を見せたのだ。そんな奴を相手に、全力の攻撃を躊躇ってなどいられない。

 

 迫る赤熱する戦闘機を前に、アダムは一瞬目を見開くが直ぐに嘲るような笑みを浮かべるとその手に高温の火球を生み出した。

 

「愚かしいね! 功を焦って自ら死地に飛び込むなど!」

 

 生みだした火球は以前風鳴機関を消滅させたのと同じ性質を持つ。これに突っ込めば2人はギアごと焼き尽くされ、後には錬成されて砂金の様に小粒の金となってしまうだろう。アダムはその火球の中に2人を飲み込ませようとその手を掲げた。

 

 が、その手が突如鎖によりあらぬ方向へと引っ張られた。何事かとそちらを見れば、火球を生み出した手が魔法陣に飲み込まれて消えている。

 

「これはっ!?」

 

 慌てて視線を巡らせれば、そこにあったのは魔法の鎖でアダムの手を魔法陣から引っ張り出している奏の姿。鎖で多少距離を取っているとは言え、ツングースカ級の火力を持つ灼熱の火球を前に額には大粒の汗を浮かべていた。

 

「あっちち……! とは言え、へへっ! この程度の炎で、アタシが参る道理はねえなッ!」

 

 奏には颯人の魔力が宿っている。その魔力が彼女の身を守ってくれている為、アダムの生み出した火球の熱にも耐える事が出来ていた。

 

 これでアダムに残された手は、迫るクリスとマリアの連携攻撃を睨み返す以外に無くなった…………かに思われた。

 

「フム……」

 

 チラリと視線を巡らせれば、レギオンファントムは装者と魔法使い相手に完全に足止めをくらっている。一方サンジェルマンの方はと言うと、どうやら外的要因で儀式その物を中断させられたらしくウィザードに変身した颯人とファウストローブを纏ったカリオストロ、プレラーティと対峙しその近くにはティキが力無く倒れている。一見すると完全に詰みと言う状況だ。

 しかしこの時、アダムの中に焦りの感情は存在しなかった。

 

「仕方がないね。そろそろ幕を引こうか、この茶番のね」

 

 誰に言うともなくそう呟いた彼が、空いている方の手で指をパチンと鳴らした。

 

 刹那、夜空に輝くオリオン座が怪しい光を放ちティキを中心に光の柱が立ち上った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 時は少し遡り、アダムとレギオンファントムを仲間達に任せて颯人は元パヴァリア光明結社の幹部2人と共に儀式にその身を捧げるサンジェルマンの元へと向かった。

 

 彼が辿り着いた先では、儀式によりその命を散らそうとしている全裸のサンジェルマンにカリオストロとプレラーティが必死に声を掛けている所であった。

 

「サンジェルマン、もう止めてッ!?」

「目を覚ますワケダ、サンジェルマンッ! アダムは、あの男は、最初から私達の事等何とも思っていなかった! お前の望む理想だって、叶えるつもりがあるかどうか……」

 

 苦楽を共にしてきた仲間達の必死の叫び。しかしその声も、今のサンジェルマンには届かない。

 

「カリ、オストロ……プレラー、ティ……私は……私は、それでも、私は……!」

 

 サンジェルマンはこれまでに犠牲にしてきた命を無駄にせんが為、この世界を支配と言う軛から解放する為に世界を変えようとする。その為の第一歩が、今踏み出される。

 

 地上に鏡写しに作り出されたオリオン座を中心に、世界中に向けて波動のようなものが放たれる。それが門が開いた事の証であると察したティキが、喜びの声を上げた。

 

「ッ! 開いた! 神出ずる門ッ!」

 

「レイラインより抽出された星の命に、従順にして盲目なる恋乙女の概念を付与させるッ!」

 

 サンジェルマンが両手を天に掲げると、それに合わせてティキが新たに発生した光の柱の中に浮かび上がる。そして、その彼女の口と両目に彼女らが求める神の力とやらが入り込んだ。

 

「ア、アアアアッ! バイッデグルゥウウッ!!」

 

「ウウウゥゥ、アアァァッ!」

 

 儀式が進んだ事で周辺に大きな変化が起きる。見渡すとあちらこちらでサンジェルマンを包んでいるのと同様の光の柱が立ち上っていた。地上に居る颯人達からでは分からないが、上空から見ればそれは地上に描かれた鏡写しのオリオン座に見えた事だろう。

 

 寧ろ今この周辺で起こっている事に関しては、本部の方が詳しく状況を理解できていた。

 

『レイラインを通じて、観測地点にエネルギーが集束中ッ!』

『このままでは、門を越えて神の力が顕現しますッ!』

 

「止めてッ! 駄目よサンジェルマンッ!」

「このままでは、お前の体が、命が……!!」

 

 次々と入って来る危機的状況を知らせる報告に、カリオストロとプレラーティが危険を承知で光の柱に飛び込みサンジェルマンを引っ張り出そうと一歩足を踏み出す。だがその2人の肩を、颯人が掴んで引き留めた。

 

「ちょい待ち! 焦るにはまだ早いってもんだ、お2人さん」

「放しなさいよッ!?」

「邪魔をするつもりかッ!?」

「そうじゃないって。こっちが何の準備もしてない訳がないっしょ?」

 

 そう言って颯人は2人を宥める。尤も彼も詳細を知っている訳では無かった。だが、この状況で本部が手をこまねいているだけな訳が無いと、その信頼が彼に2人を引き留めると言う選択肢を選ばせていた。

 

 その信頼は正しい形で応えられた。

 

「合わせろゲンッ!」

「応とも兄貴ッ!」

「決議――」

 

「「――執行ッ!」」

 

 弦十郎と八紘が同時に別々の場所である装置にキーを挿し込み捻った。それを合図に、各地のレイポイント上に配置された要石が一斉に起動。これにより地上のレイラインは遮断され、儀式は強制的に中断させられた。

 

 以前の魔法少女事変に於いて、徹底的に後手に回らされた経験から彼らも錬金術師のやり方を学んでいた。そしてこのバルベルデでの出来事を発端としたこれまでの事件に於いて、結社はその手の内を見せすぎていたのである。お陰でS.O.N.G.はこうして対策し、備える事が出来た。

 

 モニターで状況の推移を見守っていた八紘は、レイラインが遮断され儀式が中断されていく様を見てこう呟いた。

 

「――お役所仕事も馬鹿に出来まいッ!」

 

 レイラインが遮断され、儀式が中断された。各地で立ち上っていた光の柱は消滅し、入り込む神の力が無くなったティキは力無く落下し文字通り糸が切れた人形の様にピクリとも動かなくなり、同じく体を浮かせていたサンジェルマンもその白磁の様な肌を冷たい石畳の上に横たえていた。

 

「ア、アウ、ナイ、ナイ」

「ティキッ!?……ぁ」

 

 地面に倒れた衝撃と先程の儀式で命を燃やしていた疲労からか、サンジェルマンの動きは酷く緩慢であった。その彼女にカリオストロとプレラーティ、そして颯人の3人が近付いた。

 

「カリオストロ、プレラーティ……それに、明星、颯人君……」

「よっ! お疲れさん。取り合えず、夏とは言え夜は冷えるだろうから……」

〈コネクト、プリーズ〉

 

 颯人は裸体を晒すサンジェルマンに、魔法で毛布を引っ張り出し被せてやった。頭から毛布を被せられた為、彼女の顔は見えなくなる。

 それでも聞こえてくる声の震え方から、彼女が目から涙を流している事は伺えた。

 

「何故……何故なの? 何故あなた達は、親子揃って私の考えを否定するの?」

 

 サンジェルマンの言葉に、颯人は振り返ってカリオストロとプレラーティの2人を仮面越しに見た。彼に視線を向けられた2人は居た堪れない顔になり一度視線を逸らし、しかし直ぐに顔を上げるとカリオストロが代表する様に無言で顎をしゃくった。その様子に彼は肩を竦めると、毛布越しにサンジェルマンの背中に手を添え優しく語りかけた。

 

「何度も言ってるでしょ? 他人の命を犠牲にした上で変えた世界なんて真っ平御免だって。それに俺は、今のこの世界が無理して変えるほどロクでもないとは思っちゃいないんでね」

 

 有り体に言って、颯人は今のこの世界が普通に気に入っている。それは順風満帆だからだとか、そんな理由ではない。愛する1人の女が世界に羽ばたき、人々を笑顔にしている。その素晴らしい世界を、守っていきたいが故に抱いた感情だった。

 

「なら……何故、私を助けるの……世界が変わらないなら、私は……」

 

 理想が叶えられず、嘗て誓った想いを遂げられないのなら死んだ方がマシ。そう口にするサンジェルマンの前で、颯人は握り締めた拳を開きそこから一輪のガーベラの花を出した。眼前でいきなり出現した一輪の花に、サンジェルマンが驚きに肩を震わせ跳ねた頭から毛布がずり落ち涙に濡れた顔が露わとなる。

 

「ッ!」

「……世界ってのは、悪い一面ばかりじゃねえさ。アンタも身が裂かれそうになるほど辛い思いをしたのかもしれねえが、今の世界を見限るのは早すぎる。この花、どう見える?」

 

 颯人の問いにサンジェルマンは答えず、蜜に誘われる蝶の様にフラフラと手を伸ばしてその花を手に取った。ピンク色の花弁を持つガーベラの花を、サンジェルマンはとても穏やかな目で見ていた。

 

「……綺麗だと、思う」

「だろう? たった一輪の花でも心に染み渡るんだ。もっと広い世界を見てみれば、こんなの目じゃない位綺麗なモノを幾らでも見れる。俺も、そして父さんも、そんな世界を愛してる。そして、アンタにもその世界を愛してほしいから、俺はアンタを助けるのさ。きっと父さんも、同じ気持ちだったんだと思うぜ?」

 

 穏やかな声色でそう語る颯人の言葉に、サンジェルマンは手元のガーベラの花を今一度まじまじと見つめる。そして視線を上げた先には、未だ彼女の事を慕う2人の仲間の姿があった。

 自然と、サンジェルマンは口を開いていた。

 

「カリオストロ……プレラーティ……」

「サンジェルマン……その、あーし達は、別にそいつに絆された訳じゃないわ。ただ、あーし達にとってはサンジェルマンの居る世界が全てなだけよ」

「その通りなワケダ。私達にとって、世界がどうなるかよりもサンジェルマンが居てくれることの方が重要なワケダ。例え世界が変わっても、サンジェルマンが居なければ私達にとっては何の価値もない」

「今は世界を変えられなくても、別の形で変える方法もあるかもしれないわ。皆で一緒に、それを探しましょ?」

 

 サンジェルマンの事を諭す様に言ってくる2人の言葉に、彼女はもう一度ガーベラの花を見た。その脳裏に浮かぶのは、この花の花言葉であった。

 

「ガーベラ……花言葉は希望、だったかしら?」

「ご名答。たった一輪の花だって希望を語れるんだ。世界に溢れる希望、もう少し信じてみないか?」

 

『お前はもう少し、世界に溢れる希望を信じてみるべきじゃないのか?』

 

 恐らく何気なく口にしただろう颯人の言葉は、奇しくも嘗て彼の父がサンジェルマンに向けた言葉とほとんど同じであった。親子揃って同じ言葉で諭してきた事実に気付き、サンジェルマンはハッと目を見開くと次の瞬間小さく笑った。

 

「ふ、ふふ……私の、負けね」

 

 穏やかな敗北宣言。それを聞き颯人はこれ以上彼女との戦いにはならないと安堵の溜め息を吐いた。そして彼は、未だ地面に座り込んでいるサンジェルマンを立たせようと手を差し伸べた。

 

 その時、空に浮かぶオリオン座が怪しく煌めいたかと思うと再びティキが宙に浮かび上がった。

 

「ッ!? 何だッ!」

 

 颯人が夜空を見上げると、上空に輝くオリオン座に向けて赤い光が集まっていく。それは天を巡るレイライン。地上を巡る命ではなく、宇宙を巡る命の輝き。

 

 

 

 

「アルドさん、これはッ!?」

「マクロコスモスとミクロコスモスの照応? でも、地上から一体どうやって…………!? そうか、あの人形!」

 

 態々地上にオリオン座を見立てて儀式を行おうとしていたから失念していた。アダムは宇宙に輝くオリオン座そのものを神出ずる門に見立てて神の力を顕現させようとする可能性。そのカラクリの全てが、以前バルベルデから回収されたオートスコアラー・ティキにあるものだとアルドも漸く気付いた。

 もしカリオストロ達から、ティキの性能をもっと詳しく聞いていればこんな事にはならなかったかもしれない。尤もアダムはこれまでティキの事を基本手元に置いてばかりで、表立った動きを見せていなかったので気付く事が出来たがどうかは今となっては微妙な所であるが。

 

「超高レベルのエネルギー、来ますッ!」

 

 発令所で観測していた朔也の声と共に、上空のオリオン座から光が降り注ぐ。その光は真っ直ぐティキを捉え、無限の神の力を与えた。

 

 その力を使って、アダムはまず最初に自分に迫っていた脅威を打ち払う。

 

「消し飛びたまえ」

 

 再びアダムが指を鳴らすと、ティキが軋むように動きその口を開けた。口には光が集まっていき、一筋の閃光がアダムに迫っていたクリスとマリアに向け放たれる。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」

 

「クリスッ!? マリアッ!?」

 

 強烈な光線により2人の連携技は容易く打ち破られ、巻き起こった爆発によりクリスとマリアは大きく吹き飛ばされた。奏が素早く2人の元へ向かうと、2人は辛うじて無事であったがイグナイトが解除され立つ事も儘ならない様子であった。

 

「う、ぐぅぅ……!?」

「く、ぁ……」

 

 イグナイトとユニゾンによる連携技を容易く打ち破った神の力。それを目の当たりに、サンジェルマンが抱いたのは疑問であった。本当にあの力で、人類は支配の軛から解き放たれていたのだろうかと言う。

 

「統制局長ッ! 教えてください、局長。その力で本当に、人類は支配の軛より解き放たれていたのですかッ!?」

 

 サンジェルマンの目からは、神の力はただ破壊を齎す為の暴虐にしか見えなかった。それは彼女にとっても忌まわしい、全てを支配し辱めるだけの悪逆。彼女が目指すものとは正反対であった。

 

 その疑問を声を大にして叫ぶ彼女に、アダムは酷薄な笑みを浮かべながら答えを返した。

 

「出来る……んじゃないかな? ただ、僕にはそうするつもりがないのさ。最初からね」

 

 それはつまり、彼の今までの言葉は全て虚言だと言う事に他ならない。彼は最初から、世界を支配の軛から解放するどころかそもそもバラルの呪詛をどうこうするつもりすらなかったと言う事。サンジェルマン達は今までずっと、彼により謀られていたのだ。

 

 自らが今まで行ってきた事、犠牲にしてきた命が無駄であったと思い知らされ、サンジェルマンは絶望に膝をついた。

 

「私は……私は今まで、何の為に…………!?」

「サンジェルマンッ!?」

「あのロクデナシッ!? ここまでとはッ!」

 

 絶望し心折れそうになるサンジェルマンを、カリオストロが支えプレラーティがアダムに怒りを露にする。そんな中、颯人は彼女が膝をついた際に落としたガーベラを拾い上げると無理矢理立ち上がらせその頬を軽く叩いた。

 

「しっかりしなさいって、ほれ」

「ッ、な、何を……!」

「落とし物だよ」

「ぁ……」

 

 颯人が無理矢理サンジェルマンに持たせたのは、希望の花言葉を持つガーベラの花。胸元に押し付けるように渡されたそれに、サンジェルマンは何と言葉を返せばいいのかと思案する。

 

「颯人君……私は……私は……」

「間違ってた……なんてセリフ、今は聞きたくないね。今はあれをどうするかが先決だ。あっちを何とかしないと、アンタらが嫌いな支配をあのロクデナシがやり始めるぞ?」

 

 その言葉にサンジェルマンがハッと顔を上げアダムを見る。こちらを見下すその姿に、サンジェルマンは嘗て自分と母を蔑ろにした古代の貴族の男の姿を重ね合わせ怒りの炎を燃やした。

 

「~~~~ッ! 颯人君、お願いがあるのだけれど……」

「皆まで言うな。分かってる。一緒にあの男を倒そうってんだろ?」

 

 サンジェルマンは颯人の言葉に頷きながら、スペルキャスターのフリントロックピストルを取り出した。

 

「今更な上に、図々しい物言いなのはわかってる。それでも、だとしても……」

「良いよ、その話乗った」

「……本当に?」

「多分父さんも、俺と同じ判断をした筈だから」

「……フッ。そう……」

 

 言われてそうかもしれないと、サンジェルマンは笑みを一瞬浮かべた。そして一頻り笑うと、カリオストロ・プレラーティと頷き合い颯人の隣に立つ。自分の横に並び立つ嘗ての結社幹部達に、颯人は仮面の奥で口角を上げ笑みを浮かべた。

 

「さぁて、タネも仕掛けも無いマジックショーは、これからだ!」

〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉

 

 神の力を手にしたアダムと対峙すべく、颯人もドラゴンの力を引き出し本気となる。その彼の隣でサンジェルマンがファウストローブを纏い、4人でアダムと対峙する。

 

 上空から4人を見下ろすアダムは、その際に颯人の体から立ち上るドラゴンの形をしたオーラに目敏く気付いた。

 

――あれは…………――

 

 本人達は気付いていない颯人の身に起きている異変。それにいち早く気付いたアダムは、4人を見下ろしながら嘲笑う様な笑みを浮かべた。




と言う訳で第184話でした。

今回はアダムとの戦闘とサンジェルマンの説得がメインとなりました。レギオンファントムとの戦いは基本足止めが主となるので、絵面的に見栄えしないので省きました。

本作ではカリオストロ相手にユニゾンしたのが響と切歌だったので、クリスとマリアのユニゾンをここで披露しました。ただここでアダムを倒す展開にする訳にはいかないので、連携技を発動はしても不発に終わると言うちょっと残念な結果になってしまったのは正直申し訳なかったですね。

サンジェルマンはカリオストロとプレラーティ、そして一目置いている颯人が自分の前に立ち塞がった事で戦意よりも意気消沈の方が勝って戦いにはなりませんでした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。