魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第188話:神の力の顕現

 颯人を連れてサンジェルマンと奏が本部に撤退した後も、アダムとの戦いは続いていた。

 

「うわっと!?」

「くぅっ!?」

「わぁぁっ!?」

「あぅっ!?」

「ぐっ!?」

 

 カリオストロにプレラーティと言う、元パヴァリア光明結社の幹部に加えて響・切歌、そしてガルドの5人で同時に挑んで掛るも、アダムはのらりくらりと攻撃を躱し反撃の錬金術にて5人を圧倒していた。彼らにとって、特別大きな戦力となっていた颯人や奏、サンジェルマンらが居なくなった事は大きく、そもそも元パヴァリアの2人とS.O.N.G.の3人の間には連携が皆無な事も要因となって苦戦していた。

 

「ふふっ、拙いね、連携がさッ!」

 

 アダムが手に火球を作り出して放って来る。風鳴機関本部を消滅させたり、クリスとマリアの連携攻撃を迎え撃とうとした時のそれに比べれば遥かに低温ではあったが、それでも直撃すればただでは済まない事確実のその攻撃。咄嗟に避けようとしたカリオストロであったが、別の方向から動いた響とぶつかり合い動きが止まってしまった。

 

「あっ!? ちょ、邪魔ッ!?」

「あわわっ!?」

「カリオストロッ!? チィッ!」

「ヒビキッ!」

〈バインド、プリーズ〉

 

 互いにぶつかった所為で身動きが取れずにいる2人をフォローすべく、プレラーティが2人の前に躍り出て錬金術により強化したけん玉のハンマーで火球を殴り相殺する。同時にガルドが魔法の鎖で2人を引っ張り、一度後退させて体勢を立て直させた。あのままあそこに居るとプレラーティにとっても邪魔になる。

 

 難を逃れた2人は、ホッと一息つくも即座にカリオストロの方が響に文句を言いだした。

 

「ちょっとさっきからアンタら邪魔すんじゃないわよッ!」

「ご、ごめんなさいッ!?」

「全く、これだからお気楽は困るのよ」

「喧嘩してる場合か。今はそれよりも、あれを何とかするのが先決だろ」

 

 険悪なムードになりかけたのを見兼ねてガルドがカリオストロを宥める。正論ではあるが、何度も敵対した相手である彼にそう言われると何だか癪に障るのかフンと鼻を鳴らした。

 

 その間、アダムとの戦いはプレラーティと切歌だけで行われる。

 

「デースッ!」

「無暗に突っ込むなッ!」

 

 無策で突撃し、大鎌の一撃をひらりと避けられ逆に蹴り飛ばされる切歌。その先に居たプレラーティは、飛んできた切歌を一瞬けん玉で殴り退かそうとして、しかしそれをするとS.O.N.G.側とも本格的に険悪になって間接的にサンジェルマンの足を引っ張る事になると考え仕方なく受け止めることにした。小さな体躯でありながら、いとも容易く自分を受け止めた事に切歌は驚きの表情を浮かべる。

 

「うわっ、とと……あ、ありがとデス」

「勘違いするな。お前の為じゃなく、サンジェルマンの為なワケダ」

「それでも、危ない所を助けてもらったのは事実デスし」

「……カリオストロの言う通り、本当にお気楽だな。こんなのに2人掛りだったとは言え負けたと思うと自分が情けなくなる」

 

 吐き捨てる様なプレラーティの言葉に、切歌はそれを自覚していると言う様に乾いた笑いを浮かべて答えた。

 

「確かに私はお気楽かもです。でも、1人くらいお気楽でいないと、いざって時に他の人の重荷を背負えないじゃないデスか」

「ん?」

「今、颯人さんが大変で奏さんも辛い思いをしてるんデス。だったら、その分私が頑張らないと……!」

 

 切歌の話を聞いて、プレラーティの彼女を見る目が少し変わった。仲間の重荷を背負う、その考えにはプレラーティにも頷けるものがあったからだ。無論、切歌が根っからの能天気という評価は変わっていないが、少なくとも考えなしの阿呆と言う印象は今のセリフで訂正せざるを得ないと考えるくらいには彼女への評価を変えていた。

 

「……この国の諺だったか」

「ほぇ?」

「一寸の虫にも五分の魂……存外、馬鹿に出来ないワケダ」

「正しい諺デスね」

「どういう意味だ?」

「こっちの話デス」

 

 思わずガルドと比べてしまった切歌に首を傾げるプレラーティだったが、何時までも悠長に話してはいられないと小さく息を吐いて気持ちを切り替えスペルキャスターである巨大けん玉を構えた。切歌もそれに倣う様に大鎌を構える。

 

「ついて来い、シンフォギア。来れなかったら置いていく」

「ガッテン承知デースッ!」

 

 未だ拙い連携ながら、それでも先程に比べれば背中を預け合って戦い始める2人。ほんのちょっぴりかもしれないが、距離を縮めた様子の切歌とプレラーティの姿にガルドは改めて響とカリオストロを交互に見た。

 

「あれ見たか? あっちは少しは仲良くなれたみたいだぞ?」

 

 ガルドの言葉に、カリオストロは面白くなさそうに喉を鳴らす。一方の響は、カリオストロと距離を縮めたいのになかなか上手く行かない事に頬をかいていた。

 

「……」

「私は、カリオストロさんとも仲良くなりたいんですけど……」

「はぁ? 何で? 言っておくけど、アダムを何とかしたら、あーし達はまた敵同士よ?」

「私は、そうは思いません」

 

 慣れ合うつもりはサラサラないと言うカリオストロであったが、それに対する響の答えは否であった。その答えが気に入らないのか、カリオストロが睨むように響を見るのをガルドは内心ハラハラしながら見やりつつ、アダムとの戦いを続ける切歌とプレラーティの援護を行っていた。

 

「何で?」

「だって、カリオストロさん達はサンジェルマンさんの為に無茶してるんですよね? そのサンジェルマンさんが、颯人さんの事を心配してくれてる。だったら、サンジェルマンさんと颯人さんが戦わないならカリオストロさん達も戦う必要ないじゃないですか」

 

 悔しいが響の言う通りだった。先程の説得で、サンジェルマンは完全に颯人の側に靡いたと言える。そんな彼女が、これ以上革命の為に動く事はもうないであろう。仮にまだ世界を変えるつもりがあったとしても、それはもっと平和的なものである筈だ。少なくとも颯人達と敵対する様な道を選ぶ事はない。

 であるとすれば、なるほど確かに響の言う様にカリオストロがこの戦いの後彼女達と戦う必要もなくなる。

 

 お気楽だ何だと評価を下してきた相手が、存外物事の本質を見据えている事に自分の認識もまだまだ甘いと認めざるを得なくなった。その事が悔しくて、カリオストロは響の視線から逃れるようにアダムを見据えながら口を開いた。

 

「あーしとプレラーティは、サンジェルマンの為に戦ってるわ」

「知ってます」

「だから、端からアンタ達と慣れ合うつもりは無い」

「はい」

「だけど…………」

 

 目線だけで響の方を見ながら。カリオストロが手を差し出す。その意味に気付いた響は、顔に笑みが浮かぶのを抑える事が出来なかった。

 

「カリオストロさん……!」

「……アンタ達がサンジェルマンの事も考えて戦ってくれるって言うなら、あーしも一緒に戦ってあげる」

「はいッ! 一緒に戦いましょうッ!」

 

 笑顔で差し出された手を取る響。サンジェルマンも決して満更ではないのか、口角が上がるのを抑えきれていない様子だ。それを見て取り合えずは大丈夫かと、ガルドは改めてこの状況をどう切り抜けるかを相談した。

 

「さて、話も纏まった所でだ……俺達はどうすればいい? アダムをぶちのめせばいいのか?」

「それも手だけど、手っ取り早いのはティキを何とかする事ね。器を壊せば、儀式その物が失敗する」

「その為には、あの人を何とかしないといけませんね」

 

 響の言う通り、ティキは相変わらずアダムが守っている。なかなかに堅牢な守りであり、先程から切歌とプレラーティが何度も仕掛けているが依然突破できずにいる。その様子にガルドが歯噛みしながら見ていると、カリオストロが興味深い事を口にした。

 

「……いえ、もしかすると今が最大のチャンスかも」

「どういう意味だ?」

「気付かない? 儀式が本格的に始まった辺りから、あの男黄金錬成をやってこないのよ。あーし達に手心なんて加える必要も無いのに、ね」

 

 言われてみればそうだ。儀式が始まる前こそクリスとマリアを迎え撃つ為に使おうとしていた節があるが、それ以降は全く使う様子を見せない。あれを使えばこの場の全員を一網打尽に出来ると言うのに。

 

「それは、あの人形を巻き込まないようにする為じゃないんですか?」

「その可能性も無くはないけど、一番考えられるのはそうするだけの余裕が無いからよ。何せ元々はサンジェルマンか、あの坊やを生贄にして儀式を完遂する予定だったみたいだし。察するに、天のレイラインからエネルギーチャージするのは、あの男にとっても予定外の行動だったんじゃないかしら?」

 

 つまり、今アダムは予定外の消耗により完全に全力を出す事が出来ないと言う事。であるならば、勝機は必ずある。

 

 カリオストロの話にガルドと響が希望を見出していると、一旦体勢を立て直す為か切歌とプレラーティが後退してきた。どちらもアダムとの戦いで消耗しているのか、揃って肩で息をしている。

 

「はぁ、はぁ、あいつ、強すぎデス……!」

「おいお前らッ! 私達に任せて何時までくっちゃべってる気だッ!」

「2人共、悪いが耳を貸してくれ」

 

 気付けば自分達だけでアダムの相手をさせられていた事に文句を言うプレラーティを宥め、ガルドが考え付いた作戦を全員に話した。作戦と言っても、考え付く方法はそう多くも無ければ複雑でもない。ある程度は分かり合えたとしても、根本的に連携が拙いのだ。そんな中で出来る事と言えば、アダム1人では対処が間に合わなくなるほどの過剰なまでの連続攻撃であった。

 その中でも攻撃の要と言えるのは響である。

 

「原理は分からないが、ヒビキの攻撃はお前達が作り出した神の力とやらに対抗できる。だから何としてでも、ヒビキをあの人形の所まで送り届けるんだ。出来るか?」

「なるほど、あれは術式に問題があった訳じゃなかったのね」

「なかなかに興味深い話なワケダ。出来れば是非とも研究してみたいワケダが……」

「い、痛い奴じゃなければ、お手柔らかに……」

 

「終わったかな? 無意味な作戦会議は」

 

 何時の間にかアダムが彼らの近くまで来ていた。空中に佇み、こちらを見下してくるアダムにガルドとカリオストロが前に出る。

 

「あぁ終わったとも。お前の泣き顔を拝む為の会議がなッ!」

〈キャモナッ! シューティング、シェイクハンズッ! ケイオスッ! シューティングストライクッ!〉

「その余裕、何時まで持つかしらねッ!」

 

 ガルドの砲撃とカリオストロの錬金術が同時にアダムに襲い掛かる。魔法と錬金術、二つの攻撃をアダムはエッジの燃える帽子の投擲で迎え撃った。2人の攻撃が同時に直撃する事でバラバラに攻撃するよりも遥かに高い威力を持つ筈なのに、アダムの帽子はそれを正面から受け止めかき消してしまった。その瞬間空中に炎の壁が作られる。

 

 先程までであれば、ガルド達もその光景に歯噛みした事だろう。しかし今度のこれは想定の範囲内。寧ろ作戦通りと言ったところであった。

 

「……むッ!」

 

 油断なく下を見据えていたアダムの目に、炎の壁を突き破って迫るプレラーティの鉄球が映った。鉄球は炎を突き破り真っ直ぐアダムへと向かっていく。それをアダムは、何と蹴りで弾いてしまった。

 

「小賢しい真似をッ!」

 

 特大の鉄球を弾き、明後日の方へ飛んでいく。その瞬間アダムの視線はその鉄球の方へと引き付けられ、束の間下方への警戒が僅かにだが疎かになった。彼らはこれを待っていたのだ。

 

 アダムは先程から上から見下ろすばかりで、自身が上の方に視線を向ける事を殆どしない。それが彼にとっての最大の弱点。自分が見下ろす側になっている事になれた者は、見上げる事に慣れないもの。自分が見上げた事で、下がどうなっているかを考える頭が一時的にだが欠如するのである。

 

 それを狙って、切歌は一気にアダムへと肉薄した。

 

「隙あり、デースッ!」

「ッ!?」

 

 プレラーティの鉄球はアダムの目から切歌を隠す為のフェイク。鉄球が炎の壁を突き破る瞬間、彼女は鉄球を繋ぐ光の紐に掴まりアダムの近くまで接近していたのだ。そして、アダムが鉄球を何らかの方法で弾くのを待ち、弾かれた瞬間離れて肩のバーニアを噴かして大鎌を振り抜いた。

 これにはアダムも反応が遅れ、直撃は回避できたが左腕を切り裂かれてしまった。

 

「ぐぁぁっ!?」

「響さんッ!」

「ハァァァァァァァッ!」

 

 切歌に左腕を切られた事で、アダムの体勢が大きく崩れた。今までロクに攻撃など受けた事が無いのだろう。慣れていない痛みに、仰け反るアダムの姿は隙だらけであった。

 そこに響が拳を叩き込む。無防備なアダムの腹に握り締めた拳を捩じ込み、ボロボロになった境内へと叩き落したのだ。

 

「ぐはっ?!」

 

 アダムが殆ど土を剥き出しにした地面に叩き付けられ、それに遅れるような形で響と切歌が着地する。予想外の大きなダメージを受けたからか、アダムは立ち上がるのにも苦労している様子だ。

 

「今だッ! アダムが満足に動けないでいるうちに、ティキを破壊するワケダッ!」

 

 今が好機と言うプレラーティの言葉に、響も再び跳躍してティキの破壊を狙う。が、その前に立ちあがったアダムに目を向け、彼女は思わず息を呑んだ。

 

「あっ!?」

 

 否、響だけではない。ガルドも切歌も、アダムを良く知る元幹部だった2人までもが、立ち上がったアダムの姿に言葉を失った。

 正確に言えば、先程切歌に切り裂かれた左腕。そこに5人は()()()を見てしまった事で折角の勢いを失ってしまったのだ。

 

 そこにあったのは、切り裂かれて血を流す傷口……ではなく、人の身ではあり得ない管と飛び散る火花であった。

 

 それが意味するものとは、つまり…………

 

「アンタ、まさか……!?」

「錬金術師を束ねる結社の局長が……」

「人形、なのか……?」

 

「ッ!? 人形だと……?」

 

 アダムの腕は、彼が人間ではない事の証明であった。今の今まで全く知る由も無かった事実に、カリオストロとプレラーティも驚愕に思考が停止してしまう。

 そしてガルドは、思わずその言葉を口にしてしまった。それを聞いた瞬間、アダムは烈火の如く怒りを露にする。

 

「人形だとォォォォォォッ!!」

 

 アダムの激昂に呼応するように、光の柱の中に浮かぶティキも怒りを露にしたように叫んだ。

 

「ユルザナイ……アダムヲヨグモ……。イタクサセルナンテェェェッ!」

 

 突如として眩い光に包まれたティキ。何が起きたのか分からず眩しさに思わず響達が手で光を遮っていると、プレラーティが光を見ながら呟いた。

 

「光が……生まれる……!」

「生まれる? 何が……!?」

 

 程無くして光は収まった。視界が開けるようになった時、彼らが顔を上げるとそこには、空中に浮かぶ人型の巨大な”何か”が存在していた。上半身は女性の様だが、胸元から下は水棲生物の様。両腕はあるにはあるが、人間のそれと比べるとまるで骨と皮で出来ているかのように細いと言う何とも歪な姿である。

 

「なっ……」

「何デスか、あのデカいのは……!?」

「まさか、さっきの人形が?」

 

 ガルド達が思わず言葉を失う中、アダムは”それ”の顔の部分の直ぐ真横まで移動した。

 

「神力顕現……、持ち帰るだけのつもりだったんだけどね。今日のところは」

「ゴメンナサイ……アダシ、アダムガヒドイコトサレテタカラ、ツイ……」

 

 見るとその巨大な人型の胸元には結晶で出来た棺の様な物があり、その中にティキが納まっていた。アダムはその中に居るティキに語り掛ける。

 

「仕方ないよ、済んだ事は。……だけど折角だから……」

 

「ッ!? マズイ、皆下がれッ!?」

 

 自分達を見下してくるアダムの視線に危険なものを感じたガルドが素早く全員を下がらせようとした。だが彼らが行動に移すよりも早く、アダムがティキに指示を出した。

 

「知らしめようか、完成した神の力をッ! 『ディバインウェポン』の恐怖をッ!」

 

 アダムの指示に、ティキ改めディバインウェポンの両肩の結晶が光り輝く。そして放たれた光線が、眼下の地上を焼き払った。




と言う訳で第188話でした。

今回は時間を遡って、響達の戦いの方に焦点を当てました。戦いと言うよりは、響達とカリオストロ達の和解の方がメインになった感じですけども。最初はお気楽謂われまくってた切歌とカリオストロ、響とプレラーティで和解に進ませるはずでしたが書いてる内に響とカリオストロ、切歌とプレラーティで和解の方向の流れになってしまいました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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