魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第213話:花咲く前夜

 廃棄物処理場跡での戦いから帰還した奏達は、休息と戦闘後の体の異常が見られないかの検査を終えた後に対策会議を行っていた。

 そこで奏は、ヴァネッサと会話した上で凡そ推測できる彼女達とジェネシスの関係性などを話した。

 

「つまりあの錬金術師達は、揃ってジェネシスの連中に脅されてるって訳か」

 

 奏の話を噛み砕いて言葉にする颯人に、他の者達は大なり小なり苦い顔をする。特に響の表情は重い。単純に手を伸ばすだけでは取れない手を前に、どうするのが最善かと頭を悩ませているのだ。

 

「全員か、或いはあのヴァネッサって奴だけかは分かんねえけどな。少なくともいい関係じゃない事は確かだろうよ」

「ケッ! 相変わらず胸糞の悪くなる奴らだ。大体連中の交渉材料だって、あの3人を人間に戻すって事だろうけれどそれも守る気があるかどうか」

 

 クリスが零した悪態に、透は意識せず自分の傷痕だけが残る首に手を触れた。彼は一時期半分洗脳状態だったとは言え、ジェネシスに所属していた人間だ。その頃の朧げな記憶を手繰り寄せても、ジェネシスが誰かを癒す為に魔法を使っている記憶は無かった。恐らく十中八九、連中はあの3人の望みを叶える事はしない。利用するだけ利用して、用が済んだら捨てられるだろう事が想像できてしまう。

 気付けば自分で自分の首に指を突き立てる様に力を入れていた彼に、気付いた翼が彼の肩を叩いた。

 

「ッ!」

「気に病むな北上。あの3人を心配する気持ちは皆同じだ」

「……はい」

 

 ともあれ、結局は逃げられてしまった事は動かしようのない事実。それに分からないのは、あの3人が何故あそこにいたのかと言う事である。あんな何もないような場所で何をしていたのか?

 

「そう言えば、初歩的な疑問だがアイツらあそこで何してたんだ? 何であんなところでアルカノイズを暴れさせた?」

 

 尤もなガルドの疑問の言葉。その謎を紐解く鍵となるものを、エルフナインが見せてくれた。

 

「それについては、これを見てください」

 

 そう言ってエルフナインが正面のモニターに表示したのは、特に装者達にとっては見慣れた波形図。誰の物とも合致しないが、紛れもないアウフヴァッヘン波形であった。

 

「これは、アウフヴァッヘン波形?」

「それも、アタシらとは別の……! って、まさかッ!」

 

 アウフヴァッヘン波形は聖遺物にフォニックゲインかそれに相当する何らかの刺激が加わらなければ発生しない。そして直近で聖遺物と言われてまず真っ先に思い浮かぶものは、彼女達にとって一つしかなかった。

 

「あぁ。奪われた腕輪が起動したとみて、間違いないだろう」

「アルカノイズの反応に紛れ、見落としかねないほど微弱なパターンでしたが、辛うじて観測出来ました」

「恐らくは、強固な結界の向こうでの儀式だった筈。例えば……バルベルデでのオペラハウスの様な」

 

 パヴァリア光明結社と本格的な衝突の切っ掛けともなった、バルベルデでの出来事は記憶に新しい。当時の大統領達が隠れ潜む為に用いられたオペラハウスも、直接現地に赴かなければ存在を感知する事も出来なかった。

 あの時は何も見えない事が逆にその存在を浮き彫りにさせてしまっていたが、今回は上手く隠れ潜む事が出来ていたらしい。だがそれも、腕輪の起動によるアクシデントもあって意味を為さなくなってしまったようだが。

 

「つまりあの腕輪には、結界をブチ破る程の力があるって事か」

 

 颯人は軽い感じに言うが、その実内心は焦りに近い感情を抱いていた。そんなものをジェネシスの連中が手にして完全に制御してしまったら、一体どんな事になるのか考えたくもない。

 

 危機感を抱く颯人達だったが、重要な話はそれだけではなかった。

 

「そして、観測されたのはもう一つ」

 

 そう言ってエルフナインがコンソールを操作すると、今度はスピーカーから不協和音に近い音が流れ始めた。あまりの不快感に颯人や奏、透なんかは思わず耳を塞いでしまった。

 

「うげぇ、何だこれ? 気持ちワリィ」

「な、何、これ? 音楽?」

「だとしたら、デタラメが過ぎるデス」

 

 誰もが顔を顰める様な音であったが、そんな中でマリアとガルドだけは少し違う反応を見せていた。特にマリアは何かを深く考えるような顔をしている。

 

――聞いた事のない音の羅列……だけど私は何処かで……?――

「何だろうな、この感覚……嫌なんだが嫌じゃない……んん?」

 

 首を傾げるガルドだったが、音は不意に止められた。ガルド達が顔を上げると、エルフナインはこの音に関する話を始めた。

 

「音の正体については、目下のところ調査中。ですが、これらの情報を総合的に判断して、ジェネシスないし錬金術師3人に大きな動きがあったと予測します」

「やはり、こちらから打って出るべき頃合いだな」

 

 今までは後手に回ってばかりだったS.O.N.G.一行。だがそれもここまでの話であった。

 

「でも、打って出るってどうやってですか?」

「相変わらず、連中の居場所は分かんねえんだぞ? またヴィジョン使ってみるか?」

 

 颯人が両手を肩の高さに上げながらそう言いつつ、発令所の中を見渡し輝彦の姿を探した。ヴィジョンの指輪は輝彦が持っている。過去現在未来の情景を見る為には、彼の協力が不可欠なのである。

 

「父さん、ヴィジョンの指輪は?」

「使ってもいいが、今はその必要はない。そうだろ、風鳴 弦十郎?」

「うむ。マリア君」

 

 何か含みを持たせる輝彦の言葉に、弦十郎は頷くとマリアを呼んだ。呼ばれたマリアは彼の隣に立ち、懐から小さな機械を取り出して説明した。

 

「さっきの戦いで、発信機を取り付けさせてもらったの」

「何時の間に!?」

「……あぁ、あの時か」

 

 マリアの言葉に驚く響に対して、奏は合点が入った様に頷いた。マリアがヴァネッサに対して接触したタイミングは、グレネードから奏達を守った後の一連の攻防の中で放たれた拳による一撃の時しかない。何気に強かなマリアの行動に、颯人も思わず拍手を送った。

 

「おぉ、やるじゃんマリア。何時の間にそんな搦め手覚えた?」

「誰の所為かと言われれば、今私の目の前にいる誰かさんとしか言えないわね」

 

 腕を組み片目を瞑って見つめてくるマリアの視線に、颯人は素早く自分の左右を見やる。だが彼が視線を向ければそこに居る者達はさっと彼から離れ、マリアの視線の先に残されたのは颯人1人となった。つまりはそういう事な訳で、颯人は降参する様に両手を上げるしか出来なかった。

 

「やっぱりペテン師の影響だったか」

「まぁまぁ」

「マリアが毒されてる……」

「これ以上颯人さんの影響を受ける前に、隔離した方が良いかもしれないのデス」

「ハヤト、言われてるぞ」

「光栄だと言っておくよ」

「颯人がこの程度の事気にするわけ無いじゃん」

「その神経の図太さは見習うべきか悩み処ですね」

「お願いだから翼さんは今のままでいてください」

 

 俄かに騒がしくなる発令所の中だったが、そんな時ふと透がある事に気付いた。

 

「あれ? そう言えば了子さんは何処に行ったんです?」

 

 そう、今この場にはS.O.N.G.の技術主任でもある筈の了子の姿が見当たらなかった。聖遺物に関しては本来この場の誰よりも知識を持っている筈の彼女が、今後の対策会議の場に居ない事に違和感を感じざるを得ない。

 透の疑問の言葉に颯人達もそう言えばと言った感じで周囲を見渡していると、唐突に扉が開いて話題の人物である了子が部屋に入って来た。

 

「いや~、ゴメンねゴメンね? 色々と話し込んでたらすっかり遅くなっちゃった」

「あ、了子さん。何処で何してたんだよ?」

「ちょっと皆のシンフォギアに関して、気になる事があったから錬金術師協会のお偉いさん達とリモートで意見交換しててね」

「サンジェルマンさん達と?」

 

 了子の言葉に颯人も思わず首を傾げる。接点があるとすればシンフォギアとファウストローブに関する技術ではあるが、間接的に魔法が使える奏と違って響達は錬金術も使えない。そんな彼女達にファウストローブの技術を活かすなど出来るとは思えないのだが……

 

「それについては、彼女も交えて話させてもらうわ」

「彼女?」

 

 了子が微笑みながら正面のモニターに目を向けるので、響達が首を傾げながらそちらを見やる。するとそこには、新たにサンジェルマンの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 対策会議から数分後、颯人と奏を始めとした装者7人は、マリアがヴァネッサに仕掛けた発信機の信号が発生している地点に向けヘリで移動していた。

 今回同行する魔法使いは颯人1人。残りの2人は後詰として本部に待機し、何か起きた時の為に準備していた。

 

 まだ夜の帳が降りている空を、2機のヘリがライトで地上を照らしながら飛行している。向かう先は人里離れた山奥。解体を待つ廃車置き場にほど近い岩肌剥き出しの山の中に向かっていた。

 程無くして、ヘリのライトがヴァネッサ達3人の姿を確認した。

 

「迎え撃つとは殊勝なッ!」

「行きますッ!」

「よっと!」

 

 奏を先頭に次々と装者達がヘリから飛び降り、颯人は最後にヘリの扉の縁に足を掛けながら周囲を見渡した。あちらさんが迎え撃つ準備を整えているのならば、既に発信機は見つかったと言う事。であるならば、颯人達が来ることを見越して魔法使いかファントムが待ち伏せている事を警戒したのである。

 ざっと見渡した限りでは、あの3人以外の人影は見当たらない。だが颯人の中のドラゴンが警告している。敵は近くに居ると言う事を。

 

 嫌な予感を感じつつも、颯人は溜め息を飲み込み指輪を装着しながら自身もヘリから飛び降りた。

 

「変身ッ!」

〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉

 

 飛び降りながらウィザードに変身した颯人が地上に降り立とうとした正にその時、先にギアを纏って着地した奏達の姿が爆炎の中に消えた。

 

「「「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」」」」

「奏ッ!?」

 

 遅れて着地しながら、颯人は急いで奏の元へと向かい地雷の爆発で倒れた奏を抱き起した。その様子を高い所から眺めながらエルザが呟く。

 

「……敢えてこちらの姿を晒す事で、降下地点を限定させるであります。後はそこを中心に、地雷原とするだけで……」

「他愛無いゼ!」

 

 彼女達は自分達が発信機で居場所を知られた時点で、最初から迎え撃つ事を前提に行動していた。元より彼女達はアジトを失いもう後が無い。ジェネシスは自分達の拠点の存在を彼女達に知らせていなかったのだ。逃げ場がない以上、戦うしか道は無い。

 幸いな事に全血製剤が充分な量ある上に、今回は3人が揃っている。であるならば、やりようは幾らでもあった。

 

 先手を打たれた事に颯人は舌打ちした。今回は敵の魔法使いを警戒しすぎた。これまでの戦いで、あの3人が大した事をしてこなかった事もあって正直油断していたのだ。彼女達は個々の能力自体は大した事は無いかもしれない。だがそれを差し引いても、こちらを翻弄するだけの狡猾さはしっかり持ち合わせていたのだ。

 

 それでも流石のシンフォギアと言うべきか。ダメージ自体は小さくないが、それでも動けなくなるほどではない。立ち上がった装者達は、周囲が地雷原になっていると知ると最初の爆心地へと集まろうとした。なるほどそこには確実に地雷が無い。

 

「辺り一帯地雷原なら……」

「一度爆発したところには、もう地雷は埋まってないのデス!」

 

 颯人に抱えられている奏を除く装者が全員最初に地雷が炸裂した地点に集合した。それを見て、真っ先に声を上げたのは颯人であった。

 

「待て、罠だッ!」

「チィッ!」

「奏ッ!?」

 

 最初に爆発したのが地雷だと分かった時点で、颯人は敵の目的がこちらの動きを制限する事だと気付いた。こちらは地雷が何処にどう埋まっているのか分からないのだから、安全策を取る為には確実に地雷が存在しないと思われる場所を中心に動くしかない。だがそれは同時に、敵にこちらの動きを読まれる事を意味する。何をするつもりなのかは分からないが、それでも動きを読まれるのは得策ではないと颯人が響達を引き留めようとするがそれと同時に奏が彼女達の元へと向かっていった。

 

「颯人、インフィニティー!」

「! 分かった!」

 

 奏はウィザードギアブレイブになって、何が起きても仲間達を守れるようにする為に彼女達の方へと近付いて行ったのだ。その意図に気付いた颯人がインフィニティースタイルになろうとしたその時、それまで息を潜めていたのか突如物陰から飛び出したオーガが彼を奏達から引き剥がした。

 

「ハァァッ!」

「ぐっ!? お前……!」

「颯人ッ!」

 

 オーガにより颯人と奏が引き離される。一足先に響達の元へと辿り着いていた奏が慌てて引き返すか迷った次の瞬間、何時の間にか彼女達を三方から囲んでいたヴァネッサ、ミラアルク、エルザ達が錬金術を発動し上空からルーンの様な文字の刻まれたキューブを次々と落下させてきた。

 

「掛ったであります!」

「いっくゼー!」

 

 次々と降り注ぐキューブは、不思議な事に彼女達を直接上から押し潰すようには落下せず飽く迄も彼女達を囲む様に降り注いだ。

 恐らくはこれで生き埋めにでもするつもりなのかと思ったクリスは、そうはさせじとスカートアーマーから無数のマイクロミサイルを発射して降り注ぐキューブを破壊しようとした。

 

「させるかよぉッ!」

MEGA DETH PARTY

 

 ミサイルが次々と妖しい青色に光るキューブに命中する。だが炎と煙が消えると、そこにあったのは傷一つないキューブの姿であった。装者の中でも随一の火力を誇るイチイバルの攻撃を受けて傷一つ付かないキューブに、翼も思わず目を見開く。

 

「馬鹿なッ!? 雪音の火力で砕けぬとはッ!」

 

「そう、あれかし……」

 

 慄く装者達が次々と降り注ぐキューブの山へと消えていく。それを見て彼女達を助けに向かおうとする颯人であったが、オーガはそれを許さず彼の前に立ち塞がった。

 

「クソッ! テメェ、邪魔すんなッ!」

「そうはさせねえ。お前は俺が、骨も残さず食ってやる!」

「上等だッ! 食えるもんなら食ってみやがれッ!」

〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉

 

 最早出し惜しみしている場合ではない。最初から全力でと颯人がインフィニティースタイルとなりオーガと対峙した。

 

 それと同時に奏達の姿は完全にヴァネッサ達が作り上げたピラミッドのような物の中へと消えていくのだった。




と言う訳で第213話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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