魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第219話:アドリブ、試される時

 装者達と颯人を除く魔法使い達には実質暇が出された訳だが、本部そのものは静かとは言い難かった。当然だ、今本部は査察官に率いられた日本政府の職員による調査などが行われているのだから。

 

 颯人は万が一にも逃げ出すと言う事が無いようにと本部内の部屋に軟禁されており、監視の役目を言い渡された自衛隊の隊員が目を光らせている。今のところ颯人は大人しくしているらしく、見張りの隊員からも特に異常はないと言う報告が上がっていた。

 

 そして発令所では、本来その席に座っているべき朔也やあおいが追い払われ代わりに赤い制服を着た日本政府の職員が座り、コンソールを弄って何やらデータの吸い出しなどを行っているらしかった。弦十郎は険しい顔で、査察官は満足そうにその様子を眺めていた。

 

 了子らもこの場からは追い出され、各々自分の仕事場である部屋に押し込められている状態であるが、そんな中で異彩を放っているのが颯人の父親である輝彦であった。彼はここが占拠された時と変わらず壁に寄りかかり、特に何を見るでもなく時々辺りを見渡している。

 彼も魔法使いと言う事で、その周りには警戒する様に銃を携えた隊員が2~3人取り囲んでいた。監視の目が光っているにも拘らず、まるで気にした様子もなく平静を保っていられているのは流石颯人の父親と言う他ない。

 

 と、その時、徐に輝彦が懐から懐中時計を取り出し時間を見た。

 

「ふむ……」

 

 時間を確認した彼は何を思ったのか、時計をしまうと右手に指輪を嵌め始める。それが魔法を使う合図だと言う事を知っていた弦十郎は突如動き始めた彼の方を見て、それにつられて輝彦を見た査察官は明らかに怪しい動きをし始めた彼を止めようと声を上げた。

 

「お、おい貴様何をしているッ! 止めろッ!」

「動くなッ!」

 

 査察官の声に僅かに遅れる形で隊員達が輝彦に銃口を向けるが、彼は気にする素振りも無く右手をハンドオーサーの前に翳した。

 

〈コネクト、ナーウ〉

 

 詳しい事は分からずとも、それが魔法を使った合図だと気付いた隊員達の引き金に掛けられた指に力が籠る。時分に向けられた銃口から間もなく火が噴こうとしている中、輝彦は無人の野を行くが如く平然とした様子で魔法を発動した右手を直ぐ傍に向けた。

 

 その光景に査察官が輝彦の反抗を予測し、内心で格好の攻撃材料が出来たと喜んだ次の瞬間、彼が手を向けた先にイスとテーブルが出現し思わず目が点になった。

 

「……は?」

 

 査察官だけでなく、銃を構えていた隊員達が困惑する中、輝彦は椅子に腰掛けると軽く鼻歌を歌いながらテーブルの上に置かれたティーセットで紅茶を淹れ始めた。

 

「ふむ、今日は……やはりアールグレイでいくか」

〈バーナー、ナーウ〉

「な、何をしている……?」

「ん?」

 

 魔法で火をつけ、湯を沸かして紅茶を淹れる輝彦にやっと再起動した査察官が頬を引き攣らせながら問い掛ける。その声に反応して輝彦は顔を上げると、今一度懐中時計を取り出して時間を確認しそれを査察官にも見せた。

 

「もう3時だ。3時と言えば午後のティータイムだ、分かるだろ?」

「貴様、状況分かっているのか?」

 

 周囲を銃を持った男に取り囲まれた状態で、平然とティータイムと洒落込もうとするその神経が理解できず査察官が震える声で問い掛ける。彼には輝彦の行動が、自分達を小馬鹿にしているように映ったのだろう。実際、殆ど銃で脅されているも同然の状況で暢気に午後の紅茶を楽しもうなどとすれば正気を疑うか、舐められているかを考えるのは当然だ。

 それを理解しているのかいないのか、輝彦は顔に血管を浮かべそうな査察官の顔を見て彼の分のティーカップも用意し始めた。

 

「何だ、お前も飲みたいのか? いいぞ、何にする? 茶葉なら色々と取り揃えている。アールグレイにダージリン、アッサムにウバ、ヌワラエリアなんかも――」

「そうではないッ! 誰も茶葉の話なんかしとらんッ!」

「紅茶は嫌いか? 安心しろ、コーヒーに緑茶の用意もある」

「だからッ!? 誰が茶を飲みたいなどと言ったかッ!?」

 

 態となのかそれとも素なのか、噛み合わない会話に査察官が血管がブチ切れるのではないかと言うくらい怒りを露わにする。しかしそんな怒りなど柳に風と言った様子で受け流し、暢気にカップに入った紅茶を啜りスコーンに手を伸ばす輝彦。怒り狂った査察官がテーブルに手を叩きつけようと振り上げたその時、その背後から査察官と同じ声が響いた。

 

「き、貴様何をしているッ!? と言うか何者だッ!?」

「何?」

「ふむ?」

「んんッ!?」

 

 背後から聞こえてきた声に査察官が振り返ると、そこにはもう1人の査察官の姿があった。2人の査察官と言う光景に周囲の職員や隊員は勿論、弦十郎も困惑した様子で2人の査察官を交互に見ている。落ち着いているのはティーカップに口をつけている輝彦ただ1人だ。

 

 輝彦が見ている前で、2人の査察官は互いに相手を指差し合って相手に何者かを問い合うと言う不毛な言い争いを始めた。

 

「貴様何者だッ!」

「貴様こそ何者だッ! 私に化けるなど、何を考えているッ!」

「私は日本政府から派遣されS.O.N.G.の査察を言い渡されたッ!」

「私だってそうだッ!」

「嘘を吐くなッ!」

「何を証拠にッ!」

 

 声から仕草、外見まで何もかもがそっくりな2人。どちらが本物かなど分かる訳が無く、自衛隊の隊員もどちらを拘束すべきか分からず右往左往していた。

 

 そんな中、カップの中身を飲み干した輝彦が徐に口を開いた。

 

「本物なら颯人から受け取った指輪を持っているんじゃないのか?」

「そ、そうだ! 貴様、指輪は持っているのか!」

「指輪……!」

 

 輝彦の言葉に査察官の片方が相手を指差しながら問い掛ければ、もう1人の査察官はハッとした顔で懐に手を突っ込み5つの指輪を取り出した。

 

「持っているに決まっているだろうがッ!」

「ほらねッ!」

 

 自身が本物である証拠を片方の査察官が見せつけると、もう片方の査察官はそれを指差しながらさも当然の様に頷いた。否定ではなく肯定を示す指輪を持っていない査察官に、周囲が困惑していると輝彦が2杯目の紅茶をカップに注ぎながら指輪を持っていない方の査察官に声を掛けた。

 

「そこまでにしておけ。あまり悪ふざけをするんじゃない、颯人」

「へ~いへい。だって暇なんだもんよ~」

 

 そう答える査察官の声は、もう先程までの査察官のものではなくなっていた。顔は査察官そのものなのに、口から出てくる声は弦十郎も良く知る颯人のそれであった。

 

「は、颯人君?」

「そだよ~」

 

 信じられないと言った声を上げる弦十郎に対し、査察官に化けた颯人は顔の皮を引っぺがす様に変装を解いた。特殊メイクを剥がすと、そこには何時もの笑みを浮かべた颯人が周囲の反応を見て楽しんでいた。

 

「ふぃ~、どうよ俺の変装術? なかなか様になってただろ?」

「まぁまぁと言ったところだな。精々精進する事だ」

「うへ、厳しい……」

 

 等と他愛ない颯人の変装術に対する批評などを聞いていた査察官は、この親子に揶揄われていた事に気付くと顔を赤くして烈火の如く怒りを露わにした。

 

「ふざけるな貴様ッ!? 良いからとっとと出ていけっ!!」

「分~かった分かったよ。大人しく退散しますかね」

「颯人君……頼むから、あまり騒ぎを起こしてくれるなよ」

「へいへい」

 

 査察官の怒声に背を向けて扉へと向かう颯人。直後に発令所に颯人の見張りをしていた隊員が慌てた様子で飛び込んできて、少し目を離した隙に姿が見えなくなっていた颯人がここに居る事に面食らう。

 

「申し訳ありませんッ! 少し目を離した隙に監視対象が、って!?」

「ん~、お勤めご苦労さん」

「何をしている貴様らッ! さっさとその男を連れていけッ!」

「ハッ!」

 

 怒り心頭と言った様子の査察官に急かされる形で、隊員達は颯人の両脇を抱える様に連れていく。

 

 その最中、颯人は一瞬だけ輝彦と目を合わせると、アイコンタクトだけでやり取りをした。

 

――んじゃ、後は任せるよ――

――全く……――

 

 言葉もなく互いに意思疎通をこなすと、輝彦は小さく溜め息を吐き未だ怒りが収まらない様子の査察官に紅茶の入ったカップを差し出した。

 

「息子がすまんな。昔からああなんだ。後で良く言い聞かせておくから、まぁ、これでも飲んで落ち着いてくれ」

 

 怒りの原因の一端は、こんな状況でも暢気に紅茶を止めない輝彦にもあったのだが、それ以上に颯人に虚仮にされた印象が強かった査察官は彼を一睨みするとカップを受け取りつつ颯人の指輪を雑にスーツのポケットに突っ込み一気に呷った。

 

 温かな紅茶が食道を落ちていく感触に、査察官は大きく息を吐き気持ちを落ち着ける。その際、輝彦の視線が指輪の入ったポケットに向いていた事に、彼は最後まで気付く事は無かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 発令所から連れ出された颯人は、2人の自衛隊員に引っ張られるような形で軟禁の為の部屋へと連れていかれていた。まるで連行される犯罪者のような扱いをされている颯人だったが、当の本人は特に気にした様子もなく頭の中ではこれからの事について考えを巡らせていた。

 

――さてさて……ここいらで何か騒ぎの一つでも起きてくれれば、話しは早いんだけどな~……――

 

 聞きようによっては大分物騒な事を考えつつ廊下を歩いていると、正面からキャロルが酷く慌てた様子で駆けてきた。普通の慌てようではない様子に、颯人は脳内で非常に嫌な予感を感じつつキャロルに声を掛けた。

 

「お~い、どしたどした? んな風に廊下走ると危ないぜ?」

 

 少しでもキャロルを落ち着かせようと敢えておどけた様子で問い掛ける颯人だったが、対するキャロルはそんな事に頓着している余裕も無いのか颯人に掴み掛る勢いで何があったのかを話した。

 

「ハ、ハンス……!? ハンスが……!?」

「落ち着け落ち着け、深呼吸しろ。何言いたいのか分かんねえって」

 

 明らかに普通ではない様子に、颯人は両脇を掴む隊員を振り払ってキャロルと視線を合わせる。振り払われた隊員達は慌てて颯人を再び拘束しようとするが、ただ事ではない事態に大人しく捕まる訳にはいかないと彼は素早く片方の隊員を腹に肘鉄を叩き込む事で無力化。明らかな反抗を見せた颯人を鎮圧しようと銃を向ける隊員に対しては、壁際に押し付けた上で相手の指にスリープの指輪を嵌めさせてハンドオーサーに翳した。

 

「な、何を……!?」

「悪いねッ!」

〈スリープ、プリーズ〉

 

 魔法が発動すると、指輪を嵌められた隊員はあっという間に意識を失い眠ってしまった。瞬く間に2人の隊員を無力化した颯人は、ちょっぴり罪悪感を感じつつ非常事態だからと言う事で自分を納得させると改めてキャロルに何があったのかを訊ねた。

 

「これでよし、と。んで? 何があったって?」

「だから、ハンスが――」

 

 今度こそキャロルが何があったかを颯人に話そうとしたその時、出し抜けに今度は廊下の奥から誰かが後ろ向きに吹き飛ばされてきた。キャロルが走ってきた方から飛んできたそれが自身の母親であるアリスである事に気付いた彼は、話を聞くのも中断して咄嗟にアリスを受け止める。

 

「ちょ、母さんッ!? うぉっ!?」

「う゛ッ!? く、は、颯人……!」

「い、つつ……次から次へと。何? 何が起きたの?」

 

 アリスを受け止めた衝撃で詰まりそうになった息を整えつつ状況を訊ねる颯人。だが彼女が事情を話す前に、その原因とも言える存在が目の前にふらりと姿を現した。

 

「あ?」

 

 それはミラアルクであった。颯人が秘密裏にアリスの元へと連れて行った筈の彼女が、明らかに彼女を攻撃したらしき状況に颯人は一瞬ミラアルクがアリスに激昂して暴れたのかと思った。

 

「母さん、あの子の説得失敗した?」

「そうではありません。あの子、何かに操られています」

「何だって?」

 

 アリスが己の首筋を叩きながら告げた内容に、颯人がミラアルクの同じ部分を見ればそこには何やら虫のような物が張り付いているのが見えた。そして肝心のミラアルクはと言うと、何処か生気の感じられない目で颯人達の事を見ている。

 

 ミラアルクからの視線に颯人が警戒してアリスを後ろに下がらせつつ身構えると、キャロルが狼狽した様子で今度こそ何があったのかを話した。

 

「ハンスが、ハンスが消えたんだッ!? アイツが持ってた、何か……えっと、兎に角小さな瓶みたいなのをハンスの傍で割ったら、いきなり……!?」

 

 キャロルの話す内容に颯人は思わず舌打ちをした。そりゃ確かに何か騒動の一つも起きてくれとは願ったが、こんな形の騒動は願い下げだ。しかも状況が予想を遥かに上回り厄介な事になっている。まさかハンスが狙われるとは思ってもみなかった。

 

「母さん、ハンスが何処に連れて行かれたかは分かるか?」

「生憎とそこまでは。ただ、彼女の様子から背後にジェネシスが居るのはほぼ確実です」

「何だって連中がハンスを連れていく?」

「違います。操られたミラアルクさんの目当ては彼ではなくキャロルさんです」

「はぁ?」

 

 では何故キャロルがここに居て、ハンスが居なくなると言う事態になるのか? 訳が分からないと颯人が思わず素っ頓狂な声を上げると、キャロルが震える声で答えた。

 

「アイツが小瓶を振り下ろそうとした時、ハンスが……ハンスが俺を突き飛ばして……」

「ッ! アイツ、起きたのか?」

「いえ、起きたと言うよりは体が反射的に動いたような感じでした。実際キャロルさんをテレポートジェムの範囲から押し出した後は、再び動かなくなりましたから」

 

 どうやら状況は彼の想定を超えると言う言葉では言い表せない位に面倒な事になっているらしい。颯人自身も色々と動かなければならないと言うのにこの状況。もし髪と言う存在が本当に要るのであれば、一発ぶん殴っても許されるのではないかと思ってしまった。

 

「取り合えず母さんはキャロルと一緒にハンス探しに行ってくれ。ここは俺が何とかしとく。”もしも”って時の備えは一応用意できてんだろ?」

「えぇ。まだ試してはいませんが」

「じゃあそっちは頼む。こっちは俺と父さんで何とかしとくから」

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン! シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉

 

 こうして話している間にも、ミラアルクはこちらの隙を伺って何時でも飛び掛かれるように構えていた。もう何時攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。颯人はアリスとキャロルをこの場から遠ざけつつ、自分はミラアルクの相手をすべくウィザードに変身した。

 

「変身ッ!」

〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉

 

 炎の魔法陣に包まれてウィザードに変身した颯人。ミラアルクはそれを合図にしたかのように颯人に鋭い爪で飛び掛かり、アリスは組み付き合う2人に背を向けてキャロルの手を引きその場を離れた。

 

「すみません、颯人! 頼みます!」

「はいよッ!」

 

 アリスとキャロルが離れていくのを気配で感じ、2人が十分に離れた所で颯人は一旦ミラアルクから距離を取った。彼が離れると、ミラアルクは虚ろな目を彼に向けながら背中の翼を変形させて両腕に纏い、巨腕を形成して構えを取った。

 颯人もそれを迎え撃つべく、ウィザーソードガンをソードモードで構えつつ愚痴を零した。

 

「ったくよぉ、こちとら色々とやらなきゃならない事が多くて忙しいってのに、イレギュラーばっか起こりやがる。ま、アドリブ全開で行くしかねえって事か」

 

 颯人のボヤキを聞く者は、操られているミラアルク以外誰も居なかった。そのミラアルク自身も、彼の言葉の意味を理解することなく機械的に動き、剣を構える颯人に飛び掛かるのであった。




と言う訳で第219話でした。

ここら辺から展開が大分オリジナルマシマシになっていきます。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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