魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第228話:意志はそこにある

 アンティキティラの歯車を回収に向かってメデューサに襲われた慎次を救援に向かったマリア達は、追い詰めたと思ったメデューサの口から本部が襲撃されている事を知る。幾ら呼び掛けても応答がない事に、まんまと嵌められた事を察しクリスが地団太を踏み透がそれを宥める中、ガルドはせめてもの情報源としてメデューサを捉えようとマイティガンランスを突き付ける。

 

「どちらにしてもお前はここまでだッ! 大人しく、一緒に来てもらうぞ」

 

 ガルドの言葉に一時的にだが動揺から立ち直ったマリアもそれに続く様に短剣を構える。本部に残っているセレナの事は勿論心配だが、あちらには切歌に調、他にも頼りになる仲間達が居る。彼ら彼女らを信じて自分達は為すべき事をしようと、困惑と焦りに静かに蓋をしてメデューサを捕縛するべく手を伸ばした。

 

 その時、出し抜けにマリア達が装着している通信機から朔也やあおいの声が響いた。

 

『――――ちら本部ッ! 現在作戦行動している装者、並びに魔法使いは応答してくれッ!』

「ッ! サクヤかッ! そっちはどうなってる?」

 

 本部の方から通信が聞こえてきたという事は、あちら側で通信を妨害していた何かが消えたという事。それはつまり向こうの状況が一段落したという事でもあり、まだ気は早いかもしれないが届いた朗報に4人は束の間気を緩めてしまった。

 

 その心の隙をメデューサは見逃さない。彼女は素早く転がる様に突き付けられた切っ先から逃れると、ガルド達から距離を取りつつ無数の魔力弾による攻撃で4人を牽制した。

 

〈アロー、ナーウ〉

「ハッ!」

「チッ、マリア!」

〈ディフェンド、プリーズ〉

「クリス、こっち!」

〈バリアー、ナーウ〉

 

 放たれた魔法の矢を、ガルドはマリアを、透はクリスをそれぞれ引き寄せて障壁を展開させる事で被害を防ぐ。牽制目的で放たれた魔法の矢は、しかし何発かは障壁に命中しその衝撃に魔法使い2人はそれぞれ腕に走る衝撃に思わず小さな呻き声を上げる。攻撃魔法としては一番威力が低いであろう攻撃だが、それでも使い手が幹部クラスともなればその威力は侮れず積み荷を満載したトラックが衝突してきたような衝撃を感じた。

 

「ぐぅっ!」

「くっ……クリスッ!」

「あぁっ!」

 

 そんな中でも、透とクリスのコンビネーションは健在だった。彼はクリスを守りながら彼女に最低限の言葉を投げ掛けると、彼女はそこに込められたメッセージを即座に理解しアームドギアを狙撃銃に変形させ障壁の影から僅かに体と銃口を覗かせ距離を離していくメデューサに狙いを定めた。カメラ付きスコープに変形したヘッドギアが、魔法の矢が周囲に命中した事で立ち上る砂埃の中で時折見せるメデューサの姿を確かに捉える。

 

「そこだッ!」

RED HOT BLAZE

 

 狙いを定め、一撃で戦闘不能にすべく引き金を躊躇なく引くクリス。だが放たれた銃弾は、メデューサに命中する直前で何者かにより切り払われてしまった。

 

「何ッ!?」

「奴はッ!」

 

 そこに居たのは黒衣の魔法使いワイズマンであった。メデューサに向け突き進む銃弾を、ワイズマンは手にした赤い光刃で切り裂いたのだ。

 ワイズマンが銃弾を切り裂いた事で自身が窮地にあった事を察したメデューサは、危うい所を救ってくれた自らの主に感謝と手を煩わせてしまった事への申し訳なさにその場に跪いた。

 

「ワ、ワイズマン様ッ!? も、申し訳ありません、危うい所を助けていただき……」

「何、気にするな。お前にはまだまだ頑張ってもらわなければならないからな。こんな所で失う訳にはいかない」

「ワイズマン様……!」

 

 如何に幹部とは言え、ワイズマンからすれば自分だって使い捨ての駒と言う自覚がメデューサにはあった。歪んだ認識かもしれないが、ジェネシスの魔法使いは誰もが大なり小なりワイズマン委は絶対忠誠であり彼の為なら喜んでその命すら差し出す。そうなるように洗脳されていたし、それは自我を表に出せる幹部も同様であった。だからメデューサは、ワイズマンがそんな自分を助けに来てくれた事に素直に感動していたのだ。

 

 だがその光景は傍から見れば反吐が出るような光景であった。言葉を飾って入るが、要約すると「まだまだこき使うぞ」と言う事に他ならない。それが分かるクリスは、奥歯を噛みしめ狙いをワイズマンに変えると再び引き金を引いた。しかしそれはワイズマン相手には筒抜けだったようで、彼は軽く体を逸らす事で紙一重で飛来した銃弾を回避してしまう。

 

「チクショウ……!」

「さて、もうここに用はない。後の予定も詰まっているので、早々にお暇させてもらうよ」

〈テレポート、ナーウ〉

「ま、待てッ……!」

 

 転移魔法でその場を離れようとするワイズマンをガルドは引き留めようとするが、彼が手を伸ばした時にはワイズマンの姿はメデューサ共々光に包まれその場から消えてしまった。

 

 結局彼らはメデューサに逃げられ、また本部からも帰還指示が出ていたのでこれ以上ここに留まる意味はないと肩を落としつつ、ガルドと透の転移魔法で本部へと即座に帰還した。

 

 そして帰還早々4人を待っていたのは、奮闘虚しくキャロルを敵に連れ去られてしまったという事と、セレナが再び装者として戦いに身を置く様になったという驚きの事実であった。

 当然それを知ったガルドとマリアは、当事者であるセレナと彼女を再び戦いに赴く手助けをしたアリスの2人に詰め寄った。

 

「ちょっとどういう事よセレナッ! あなたがまた戦うなんて……!」

「アリス、何故またセレナを戦わせたッ! セレナがもう戦える体じゃない事はあなたも良く分ってた筈だろッ!」

 

 単純な怒りとも違う、不安などが入り混じった感情のままに2人に詰め寄るガルドとマリアの気迫に、響は勿論翼達も止める事が出来ず遠巻きに見ているしか出来なかった。颯人は比較的落ち着いている方だが、輝彦と共に傍観に徹するつもりなのかやはり離れた所から4人のやり取りを見ているだけである。

 

 姉と恋人の気迫に思わず気圧され委縮してしまいそうになるセレナだったが、彼女にも譲れないものがあったので、竦み上がりそうになる心に喝を入れて一歩前に踏み出した。

 

「ガルド君と姉さんの心配も、分かるよ。2人を不安にさせちゃったのは、ゴメンなさい……でも! 私も、もう皆が傷付いて戻って来るのをただ見ているだけなんて出来ないのッ!」

 

 真っ直ぐ2人の目を見返して答えるセレナの勢いに、今度は2人の方が逆に気圧されそうになる。だがそれ以上に彼女を心配する気持ちが勝ったのか、2人は引く事無く尚もセレナに思い留まらせようと説得した。

 

「そうは言っても、あなたは過去に一度死に掛けてるじゃないッ! ガルドが助けてくれたから最悪の事態にはならなかったけれど、もしまたあんな事になったりしたら……」

「セレナがそう思ってくれるのは素直に嬉しい。だがそれと同じくらい、俺達もセレナの事が大事で心配なんだ。もしこれから、セレナが戦いに出て取り返しのつかない怪我をするような事になったら……」

 

 セレナが傷付く事への不安を口にする2人であったが、その懸念は理解できるのかアリスがセレナの前に出て2人を宥める様に今の彼女の状態を説明した。

 

「それに関してですが、今のセレナさんは絶対に1人にはなれないようになっているのでそこまで心配する事はないかと」

「どういう事?」

「セレナさんの後遺症の治療と使っているアガートラームは私と共に行動する事を前提にしています。彼女が万全に戦う為には私のサポートを必要とするようにしているので、間違っても彼女が1人で敵と相対するような事は無いでしょう」

 

 無論、戦いに絶対は存在しない。もし何らかの理由でセレナが孤立するような事になれば、その時彼女がどうなってしまうかは分からない。最悪分断された上で満足に戦えず、敵になぶり殺しにされてしまう危険すらあった。それを無視できるほど、ガルドとマリアは楽観的ではなくアリスの口にする安全策を不足だと詰め寄ろうとした。

 

 そこで動き出したのが颯人であった。彼はタイミングを見て両者の間に割って入り、これ以上議論がヒートアップする前に話を纏めるべく動いた。

 

「はいはいそこまで。皆言いたい事はあるだろうけれど、少し落ち着けって」

「ハヤト……でもな」

 

 尚も食い下がろうとするガルドを颯人は両手を上げて押さえつつ、アリスにセレナの現状について詳しく聞いた。

 

「母さん、話し聞いた限りだとセレナが使ってるアガートラームはシンフォギアとファウストローブのハイブリッドなんだろ?」

「そうです。フォニックゲインも使いますが、魔力を併用するので適合係数による負担は少ないでしょう。魔力を捻出する為その分の負担は掛かるでしょうが、それは私が上手くコントロールするので問題はありません」

「つまり、魔力の補充と護衛さえいればセレナは十分戦力になるって事だ」

 

 何か含みを感じさせる颯人の言葉に、アリスだけでなくガルドとマリア、セレナまでもが首を傾げた。一方輝彦は、彼が言いたい事を察したのか静かにガルドの傍に近寄り肩を軽く叩いた。

 

「颯人の言いたい事は至極単純だ。もしもと言う時はお前が彼女を守ってやればいい」

「テ、テルヒコッ!」

 

 そう、物凄く問題を単純に考えれば、魔力と護衛の問題さえ解決すればセレナに関しては問題ないという事になるのだ。これは飽く迄極論であり実際には色々な不確定要素が付いて回るのだろうが、それにばかり目を向けていては話が一向に進まない。それに、今更と言う意見もある。何をどう言い募ろうが、セレナが再び戦う力を得てしまった事に変わりはないのである。であれば、最悪の事態ばかりに目を向けず、どうすればより良い方向に向かえるかを考えた方が余程建設的だ。少なくとも颯人はそう考えた。

 

 ガルドとマリアも颯人達の言いたい事が分かったのか、いい反論が思いつかず互いに顔を見合わせて唇を尖らせ呻くしか出来ない。そこでさらにダメ押しする様にセレナがガルドの手を取り、上目遣いになりながら小首を傾げた。

 

「お願い……私も、2人と一緒に戦わせて。足手纏いにはならない、精一杯頑張るから……ね?」

「うっ…………はぁ、分かった。ただし俺かアリス、必ずどちらかと一緒に居るんだぞ?」

「うんッ!」

 

 ガルドが折れてしまった以上、マリアも頷かない訳にはいかなくなった。彼女は額を抑えて俯き大きく溜め息を吐くと、セレナは姉に対し申し訳なさそうに肩を落とした。

 

「ゴメンね、姉さん。我儘言っちゃって」

「はぁ、もういいわ。その代わり、絶対にアリスさんかガルド、どっちかと一緒に行動する事。いいわね?」

 

 セレナに念押しすると今度はガルドに向き合い、立てた人差し指を彼の鼻先に持っていきこちらにも念押しするのを忘れない。

 

「ガルドも。もしもって時は必ずセレナを守るのよ」

「分かってる。俺の命に代えても必ず――」

「お馬鹿ッ! あなたも無事である事が最低条件に決まってるじゃないのッ!」

 

 我が身を犠牲にしようとするガルドをマリアはすかさず叱り付けた。仮にセレナが無事であっても、ガルドが命を落とす様な事になれば何の意味もないのだから。

 

「そ、そうだな、すまない」

「分かればいいわ。それで、これからどうするの?」

 

 取り合えずセレナに関する話はここまで。ここから先は連れ去られたキャロル達をどうやって取り返すかを話し合う時間だ。

 その話題に移った瞬間、颯人が待っていましたと手を叩いた。

 

「それだ。父さん、もうそろそろハッキリさせてもいいんじゃないのか?」

「ふむ……そうだな。ここまで来れば、敵の動きも大分把握できた」

 

 何やら知ったような事を言う颯人と輝彦の父子に、響と翼が一度顔を見合わせてからどういう事か訊ねた。

 

「あの~、颯人さん達は何か知ってるんですか?」

「まさか、私達が知らない間に敵の動きを探って?」

 

 期待を込めた目が颯人と輝彦に集中する。普通であればそんな風に注目されれば威圧感や迫力にたじろぐところであるが、生憎とこの2人は揃ってこの手の視線がへっちゃらどころか大好物。少しも臆することなく顔を見合わせて軽く肩を竦ませると、ジェネシスの狙いと現在の居場所で考えられる場所を話した。

 

「連中は一度、キャロルを狙ってここに洗脳したスパイを送り込んだ。って事はつまり、連中にはキャロルが必要な場面がどうしてもあるって事だ」

「さて質問だ。記憶を失っても尚、キャロルが必要になる場面とは一体何だ?」

 

 まるで謎かけの様な2人の話に誰もが顔を見合わせて首を傾げる。そもそも記憶を失ったキャロルに今更どんな価値があるかと言われても、事錬金術に関しては素人の装者や魔法使い達ではピンとくるものではない。

 しかしこの場には本当の意味で馬鹿と呼ばれる者は居ない。頭の回転速度こそ違えど、勘の鋭い者や洞察力のある者がちゃんと居た。

 

 その最たる人物が、他でもない響である。彼女はキャロルが大きく関わっているのは何かと考え、そして彼女を必要とするものとは何かを想像した時閃く様に脳裏にある一つのワードを思い浮かべた。

 

「…………あっ! も、もしかして、颯人さんッ! キャロルちゃんが連れていかれた場所って、もしかして……!」

 

 正解に辿り着いたらしき響の反応に、颯人は嬉しそうに笑みを浮かべある方向を見つめた。この場所からでは直接見る事は出来ないが、方角は間違っていないその先にあるものと言えば…………

 

「あぁ、間違いない。キャロルちゃんが連れていかれた場所は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チフォージュ・シャトーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 偽グレムリンにより連れ去られたキャロルは、シャトー内部の一室に放り込まれるように閉じ込められた。まるで荷物を扱うように乱暴に運ばれたキャロルは、放り込まれた際に出来た擦り傷を手で押さえながら立ち上がり周囲を見渡す。

 

「こ、ここは……?」

 

 所々荒れているが、まだ人が活動するのに必要最低限の様相は呈しているその部屋にはベッドが一つあった。そのベッドの上に居たのは、彼女にとって何よりも大切な1人の眠り続ける少年の姿。

 それを見た瞬間、キャロルはそれまで感じていた不安も忘れてベッドの上の少年、ハンスに飛びついた。

 

「ハンスッ!」

 

 近付いてみると、まだ彼は温かく息もしている。相変わらず目覚めてはいないが、キャロルにとっては彼がまだ生きているという事実だけでも十分であった。

 

「ハンス……! あ、あぁ、良かった……! 無事だった、ハンス……!」

 

 まるで何年もあっていなかったように、キャロルが彼の手を取り頬擦りし彼の手から伝わる温もりに身を委ねる。あまりに熱心に顔を押し付けるものだから、不意にキャロルの小さな唇がハンスの手に優しく触れる。

 その瞬間、彼の手が一瞬確かにピクリと動いた。間違いではない。唇が触れた瞬間、彼の手が感電して震える時のように動いたのだ。それに気付いたキャロルはハッとなって彼の顔を凝視する。

 

「ハンス……?」

 

 呼び掛けても彼の目は開かない。時が止まった様に眠り続ける彼の姿に、キャロルは朧気だが最近思い出してきた昔の光景を脳裏に浮かべる。

 

 今と同じように、眠り続けて目を覚まさないハンスの姿。その彼を起こそうとして、彼の顔にそっと顔を近付ける自分の姿。

 

 キャロルはその光景を再現する様に、引き寄せられるように彼の口元に顔を近付けていく。そして、あと少しで2人の唇が触れ合いそうになった。

 

 だがあと数㎝どころか数㎜と言うところまで近付いたところで、何者かがキャロルの襟首を引っ張ってハンスから引き離した。

 

「うぁぁっ!?」

「再会を喜んでいるところ悪いが、来てもらうぞ」

 

 キャロルをハンスから引き離したのはベルゼバブであった。キャロルが抵抗するのも構わず、ベルゼバブはそのまま彼女を部屋から連れ出していく。

 後に残されたのはベッドの上に寝かされたハンス1人。その彼の手が、何時の間にかキャロルが連れられて行った扉の方へ伸ばされていた。直前までキャロルが彼の手を取っていた為、連れ出される際に引っ張ってそのままになったようにも見えるが、何かがおかしい。

 

 おかしいのだが、それに疑問を持つような者はこの場にはおらず、扉に伸ばされていた手はそのまま力無くだらりと床に向け下がるのであった。




と言う訳で第228話でした。

セレナに関するあれこれは今回で決着です。あんまり長引いてる余裕はないので。

シャトーに連れ去られたキャロルは一瞬ですが念願のハンスと再会できました。直ぐに引き離されてしまいましたが、ハンスの様子が明らかにおかしく……

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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