魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第230話:獅子の目覚め

 キャロルの窮地を、突如現れたファラが救った。それを皮切りに、ジェネレーターに繋げられた棺の中から新たに3体のオートスコアラーが飛び出した。

 

 ファラと同様、以前の戦いで破壊された筈のオートスコアラー達。レイアがコインの弾幕でベルゼバブを釘付けにしている内に、接近したミカがカーボンロッドで殴り飛ばし、ファラを呆然と見上げていたキャロルをガリィが抱き上げた。

 

「お、お前達は……!?」

 

 今の今まで命の危機にあった事もあり、混乱せずにはいられないキャロル。だが最近色々と記憶が戻ってきた中で、オートスコアラー達の事も朧気にだが彼女の中に蘇りつつあった。

 

「ガ、ガリィ……?」

「えぇ、マスター。思い出していただけて光栄です」

「ガリィ。コイツは私とファラが相手をする。お前はミカと共に派手にここから逃げ出せ」

「言われるまでも無いわ」

 

 ガリィがそのままキャロルを抱えて部屋から出ていこうとすると、そうはさせじとベルゼバブが配下の魔法使いを呼び出し彼女達の行く手を阻もうとした。

 

「行かせるなッ! そいつらはここで確実に始末しろッ!」

 

 ベルゼバブの呼び出しに応える様に転移魔法で次々と部屋に現れるメイジ達。取り囲まれたガリィは周囲のメイジを忌々し気に睨みながら、腕の中のキャロルを傷付けさせまいと強く抱きしめる。

 

「チッ、鬱陶しい……万全な状態ならこんな奴ら……」

 

 見ると復活したオートスコアラー達はどれも皆あちこちが罅割れていたりと既にボロボロだった。

 

 魔法少女事変の際、キャロルはイグナイトモジュールを使用した装者ではなく魔法使いによりオートスコアラーが破壊されるのを危惧していた。その為、彼女はもしもと言う時の為に予備のオートスコアラー達を常に用意していた。最終決戦の最中、颯人が相手をしたオートスコアラー達はそれである。

 当然他にもまだ予備躯体は残っていたのだが、それらは獅子機の爆発の影響で軒並み破損。まともに動かせる状態のものは殆どが失われ、こうしてジェネレーターのパーツにするくらいしか価値が無くなってしまった。

 

 だがそれでも、彼女達のオートスコアラーとしての矜持……即ち、キャロルの為に尽くすという使命は失われてはいなかった。故に彼女達は、主の窮地にこうして飛び出し、不完全な状態であろうともキャロルに尽くす為動き始めたのだ。

 

 オートスコアラー達の目的は、キャロルの目的を果たす手助けをする事。その為に今必要なのは、彼女をここから何としてでも逃がす事であった。その為に…………

 

「ガリィ、伏せなさいッ!」

 

 ファラがソードブレイカーを振るうと竜巻が起こり、キャロルとガリィの周囲のメイジを吹き飛ばした。一時的とは言え周囲から敵が居なくなったのを見て、ガリィは即座にミカに声を掛けながら動き出す。

 

「ミカッ!」

「分かってるゾッ!」

 

 多くの言葉が無くとも、ミカはガリィの意図をすぐさま理解し手の平から射出したカーボンロッドで扉を破壊するとキャロルを抱えたガリィ共々部屋から逃げていく。

 

「えぇい、逃がすなッ!」

 

 それを黙って見送るベルゼバブではなく、逃げていくキャロル達を追おうと新たに剣を取り出して破壊された扉へと向かおうとした。だがその前に、ファラとレイアの2体が立ち塞がる。

 

「お前は地味にここに居てもらう」

「私たちのマスターを、これ以上傷付けさせはしませんわ」

 

 決死の覚悟を感じさせるファラ達の声。それを聞いて、まだ完全に記憶が戻りきっていないながらもキャロルは彼女達に反射的に言葉を投げかけていた。

 

「レイア、ファラ…………死ぬなッ!」

「「ッ!」」

 

 何を意図してそんな言葉が出たのか、キャロル自身理解できていなかった。正直に言って、今のキャロルにとって自分を守ろうとするオートスコアラー達は何となく知っている他人に近い存在でしかなかった。何故自分が彼女達の事を知っているのかも、彼女達が自分の事をマスターと呼ぶ理由も分からない。それでも、彼女の心はその言葉を反射的に口にしてしまっていた。

 

「俺はまだ、お前達の事を全然思い出せていないんだッ! だから、そんな俺の為に、簡単に死んだりするんじゃないッ!」

 

 ハンス以外の事、父の事などを思い出していき、徐々にキャロルの中の世界が広がっていった。世界が広がると、目に見える景色も何だか違って見えるようになってきた。するとキャロルは、もっと自分の中の世界を広げたくなっていったのだ。世界を識りたくなったのだ。

 

 キャロルはまだ気付いていない。それが今は亡き、彼女の父が託した本当の命題である事を。復讐や憎しみから解放され、人を愛する事、人に愛される事を思い出したからこそ気付く事が出来た父の命題の意味。

 その命題の為、キャロルは自分の知る者の死を許す訳にはいかなかった。

 

 その言葉を置いて、キャロルはガリィに抱えられて部屋から出ていく。その後をメイジ達が追っていくのを、ミカが邪魔しながら後を追った。

 

「チッ、逃がすかっ!」

 

 ベルゼバブもその後を追おうとするが、それはレイアとファラが許さない。2体のオートスコアラーは並び立つと、武器を構えてベルゼバブの前に立ち塞がった。

 

「困ってしまいましたわね。本当ならこの体、マスターの為に砕かれるのも覚悟していたのですけれど」

「あの様に命じられてしまっては、地味にそうも言っていられないな」

「何をゴチャゴチャとッ!」

 

 そのままレイアとファラはベルゼバブと戦い始めた。しかし通常のメイジであればともかく、相手は幹部クラスのしかもファントム。対してレイア達は全身ガタガタのボロボロであり、戦力差は歴然であった。

 

 あっという間に劣勢に追い込まれ、ファラは剣を持った片腕を切断される。トドメを刺そうとするベルゼバブをレイアが妨害しようとするが、こちらも破損により満足に動けない。

 

 奏が乱入したのは、そんな時なのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、逃げ出したガリィは足元を凍らせて滑って移動しながらこの後の事を考えていた。まず何と言っても最大の目標は、キャロルを安全な所まで逃がす事にあった。その為には、自分達だけではどうにも厳しい。

 

 何より、後ろから追い立ててくるメイジが邪魔であった。これでは逃げ道を探そうにも苦労する。今は兎に角1人でも多くの味方が必要であった。

 

「とは言え、どうしたもんですかねぇ」

 

 ぼやくガリィであったが、途中キャロルがあるものを見つけてそれを指差した。

 

「あっ! ガリィ、止まれッ!」

「え?」

「あれだ、あれ!」

「あれは……」

 

 そこにあったのは、本来シャトーには無い筈の通信設備であった。元々シャトーは外部との連携や通信を考慮していなかったので、こういった設備は本来存在しない。外部と何らかのやり取りをする場合は、錬金術を使えばよかったのだ。

 つまりこれは後からシャトーに運び込まれたもの。恐らくは日本政府がシャトーの構造解析などをする時の為に持ち込んだのだろう。ガリィに運ばれてそれに近付けば、機材はどれも使える状態だった。

 

「よし、これなら……!」

 

 記憶を失ってしまったキャロルであったが、その後にエルフナインと共に本部の作業の手伝いなどをしていた事が功を奏した。お陰でこの程度の機材の使い方なら何となく分かる。キャロルは記憶を引っ張り出しながら、機材を操作して何とか本部との通信を繋げた。

 

『通信ッ!? 一体何、のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

 通信が繋がったかと思ったら、スピーカーから響いたのは朔也の悲鳴であった。キャロルからは分からなかったが、本部の正面モニターにはガリィとミカの顔がドアップで映っていたのだ。突然の通信だけでも度肝を抜かれたのに、繋げれば画面に嘗て敵対していたオートスコアラーの顔が大きく映ればそりゃ驚くのは当たり前。しかも今のガリィ達の顔は、破損して罅割れて軽くホラーテイストになっているのだ。怖さも倍増である。

 

 スピーカーから響く朔也の悲鳴に、何となく向こうでこちらがどう映っているのかを察したキャロルはカメラの前に陣取るガリィ達を退かして自分の姿を見える様にしながら話し掛けた。

 

「S.O.N.G.本部か? 私だ、キャロルだッ!」

『キャロルッ! 無事だったんですねッ!』

 

 キャロルが名乗ると、通信機からはエルフナインの喜色を含んだ声が聞こえてきた。それに続くようにエルフナインの背後から聞こえてくるのはキャロルの無事を喜ぶ響達の声。最早聞き慣れた彼女達の声に、通信機越しとは言え聞こえてきたそれにキャロルも束の間安堵に肩から力を抜いた。

 

 だが何時までも暢気にしてはいられない。今も後ろからは敵が迫ってきているのだから。

 

「単刀直入に言う。今私はシャトーに居る」

『あぁ、その様だ。こちらでも、敵の根城はそこであると結論が出たばかりだ』

『キャロル、そっちに奏や未来ちゃんは居るかい?』

 

 弦十郎の言葉に続けて聞こえてきた颯人の声。ゴタゴタの影響もあって未来も捕まっている事を知らなかったキャロルは、彼の言葉に息を飲んだ。

 

「み、未来ッ!? いや、2人は近くにはいない。何処にいるのかも……」

『そうか……分かった。取り合えず、そっちの状況を教えてくれ』

 

 未来の所在や安否が分からない事に弦十郎が僅かに肩を落としたが、キャロルが無事であるという事が分かればまだ希望はあった。特に奏は何時までも大人しくしている性分ではない。きっと何らかの形で脱出の為に動いていると颯人も確信していた。

 

 その肝心の奏だが、実はキャロルも気付かない内にすれ違っていたがそれを指摘してくれる者は誰も居らず、そのまま話はこれからの事に繋がった。

 

「見てくれれば分かるが、今は私はガリィ達に助けられている。何とか逃げ出したが、あまり長く持ちそうにない。助けに来てくれるなら早めに頼む」

 

 何時の間にか画面からはミカの姿が消え、ガリィだけがキャロルと一緒にモニターを見ている。長話に飽きたミカは、見張りも兼ねて近くの台座の上でお馴染みの待機時のポーズを取っていた。

 モニターに映る破損したガリィの姿に、確かにあまり長持ちし無さそうだと理解した弦十郎は即座に颯人達に指示を出した。

 

『颯人君、ガルド君、透君。今すぐ装者達と共に、シャトーに転移してくれッ!』

『はいよ、お任せあれ』

 

 キャロル達が居るのがシャトーであれば話は早いと言わんばかりに、颯人達が転移魔法で装者達を送り込もうとする。しかしその目論見は、ハンドオーサーから響く音声で打ち破られた。

 

〈〈〈エラー〉〉〉

『あ?』

『何?』

『まさか……』

『おい、どうした?』

 

 困惑した颯人達の声。3人の魔法が失敗に終わったのだ。これが誰か1人が失敗したという事ならまだしも、3人が同時に失敗したとなるとその意味は違ってくる。

 

『マズイな……どうやらキャロルが逃げ出した事で、敵もこちらの動きを警戒しているらしい。シャトーの周りに転移魔法を妨害する結界が張られたようだ』

『チッ、読まれてたか』

 

 こうなると救援に少し時間が掛かる。ヘリを使って飛んでいけばそれほど時間もかからないだろうが、それでも救助までに何が起こるか。

 

 襲ってきた不安にキャロルが胸元て両手を握り締めるが、まだここにはハンスが囚われているのだと考えて自身を奮い立たせた。

 

「分かった……こちらは何とか逃げて時間を稼ぐ。ハンスもまだ捕まってるし、連れていく時間は必要だ」

『キャロル、無茶ですッ! 見た所、ガリィ達も何時動けなくなるか分かりません。そんな中で逃げ続けるなんて……』

「そうだ、無茶だ。だから、出来るだけ早くに助けに来てくれ」

 

 そこまで告げた所で、背後が騒がしくなってきた。どうやらメイジ達が追い付いてきたらしい。これ以上の通信は無理だと、キャロルは今一度モニターのカメラを見て手短に告げた。

 

「信じてる……頼んだ」

 

 それだけを告げると、ガリィがキャロルを抱えて再び逃走を始めた。ミカはそんな彼女達を守りながら、共にシャトーの奥へと消えていく。

 

 逃走の最中、キャロルはここで目が覚めてからの事を思い出しハンスが居る部屋を必死になって探していた。先程ジェネレーター室から逃げる時には色々と必死だった為、自分が何処へ向かっているのかも分かっていなかった。それでも、部屋からジェネレーター室まで連れていかれる途中で通信設備の様な物は無かったと記憶している。つまり、今キャロル達はハンスが居る部屋からは離れている事になる。

 

「ガリィ、何とか迂回してさっきの部屋の反対側に行くことはできないか?」

「出来なくはありませんけど、本当に大きく迂回する事になりますよ?」

「構わない。ハンスを何とかして助けないと」

 

 兎に角それが今は第一だった。自分の身の安全もそうだが、眠ったままで動けないハンスを助け出さなくてはならない。ガリィも、元となった人格はキャロルのそれである為か、ハンスを助ける為ならば多少の苦労など何のその。マスターであるキャロルの望みを叶える為、今取れる最善の行動を選択しようとした。

 

「分かりました。であれば、こっちですね」

 

 ガリィがミカを伴ってキャロルを連れて行ったのは、後付けで作られたエレベーターであった。これも日本政府がシャトー調査の為に作ったのだろう。内装に似つかわしくない機械的なエレベーターに乗り込むと、ガリィは上の階を目指してボタンを押した。

 

 あまり広いとは言えないエレベーターが唸りを上げて上昇していく。その中でキャロルは不安を胸に抱きながら扉が開くのを待っていた。

 

「……大丈夫かな」

 

 何気なく口をついて出たのは、ジェネレーター室に残したレイアとファラを案じる声。その声にガリィは気楽そうな声で答えた。

 

「安心してください。レイアちゃんもファラちゃんもそう簡単にやられるほど柔じゃありませんから」

 

 そうは言うものの、ガリィの動きも明らかにぎこちない。手を少し動かすだけでも、何年も油を差していない機械の様にギチギチとした動きをしていた。これだけでも今のオートスコアラーの状態が伺えると言うものであり、そんな彼女達がジェネシスの魔法使いを相手にどれ程対抗できるか不安に思わずにはいられなかった。

 

 その不安を煽る様に、エレベーターが大きく振動した。目的の階に止まった事による振動ではない。明らかに外部から攻撃を受けての振動であった。

 

「ッ! ミカちゃん!」

 

 咄嗟にガリィがミカに警戒を促すと、ほぼ同時にエレベーターの扉をこじ開けて何者かの手が捩じ込まれてきた。キャロルを奪おうとするように伸ばされた手を、ミカは防ごうと立ち塞がる。

 

「ぞなもしっ!」

 

 両手をクロスさせて防御の姿勢を取るミカ。すると伸ばされた手はそのミカの手を掴んでエレベーターの外に引き摺りだした。無理矢理ミカを外に引き摺りだそうとした影響で、扉は破壊されエレベーターも完全に停止してしまう。

 

「あ~ん、もう! しっちゃかめっちゃか~!」

 

 予定が狂ってしまった事にガリィは溜め息を吐きながらキャロルを抱えてエレベーターを飛び出した。

 

 そこでは無数のメイジ達に加えて、メデューサがミカの腕を掴んで押さえ付けていた。

 

「鬼ごっこはここまでよ」

「くっ……」

 

 追い詰められた事にキャロルの頬を冷や汗が伝う。だがそんな彼女の不安を打ち払うように、ミカは自身の腕を掴んでいるメデューサを逆に振り回して近くのメイジを巻き込んで壁に叩き付けた。

 

「どりゃぁぁぁぁぁっ!」

「なっ!? うわっ!?」

 

 破損したオートスコアラー、それも稼働の為の想い出が残り僅かだろう躯体でこれほどのパワーが発揮できたことに、メデューサは目を見開きされるがままに壁に叩き付けられる。

 指揮官であったメデューサが一時的に動けなくなった事で、敵の動きに乱れが出来た。今が好機と、ガリィはキャロルを抱えてその場を走り去る。

 

 だがミカはその後に続かない。その場に残って、残りのメイジ達の相手をするつもりだた。

 

「ガリィ、マスターの事は任せたゾ」

「はいはい、任せなさい」

「待て、ガリィ! ミカが、ミカは……!」

 

 先程のレイアとファラ同様、決死の覚悟で残る事を決意したミカ。その覚悟を感じ取ったキャロルは、彼女の想いを無駄にしない為口から出掛かった言葉を飲み込み別の言葉を口にした。

 

「ミカッ!」

「!」

「ありがとう、ミカ。必ず……必ず迎えに来るから!」

「……ニヒッ!」

 

 迎えに来る……必ず戻って来るからと、キャロルはそう告げてガリィに連れられて行く。それはオートスコアラーと言う人形でしかない自分を、キャロルが家族の様に考えているという何よりの証拠だった。実際、オートスコアラー達を作り出した際のキャロルの心の何処かには、失った家族の温もりを少しでも得たいという気持ちもあったのかもしれない。膨れ上がった怒りと憎しみがその気持ちを忘れさせて彼女達を道具にしてしまっただけで。

 

 温かさを取り戻したキャロルからの言葉に、ミカは嬉しそうに笑みを浮かべた。本来感情など持たない筈のオートスコアラーであるが、それでもミカは確かに嬉しいという気持ちに近い何かを感じていた。

 

 ミカを残してガリィはキャロルを運んでいく。だがその動きは次第に覚束無くなっていた。真っ直ぐ進む事も出来ず、蛇行した氷の道を残してハンスが囚われている部屋へと向かう。

 

 ガリィの動きが悪くなってきている事には、キャロルも気付いていた。流石にこれ以上無理をさせる訳にはいかないかと、キャロルは自力での移動を進言した。

 

「ガ、ガリィ……ここまで来ればもう十分だ。後は俺も自分の足で……」

「何言ってんですかマスター。そんな体では、走ったってすぐ追いつかれます。このまま私が運ぶので大人しくしててくださいな」

「むぐ……」

 

 言外にチビ扱いされ、流石に少しムッとなった。とは言え実際ガリィの言う通りであり、今下ろされたら移動に大分時間が掛かるだろう事は容易に想像できてしまったのでそれ以上の反論はしないでおくことを選択した。

 大人しくなったキャロルにガリィが再び前を見た。すると出し抜けに壁を突き破る様にしてメデューサが飛び出してきた。

 

「なっ!?」

「くっ!」

 

 行く手を塞いだメデューサに、ガリィは移動を止め後退しようと足を動かす。だがメデューサが手に持つものを見た瞬間、キャロルの顔から血の気が引いた。

 

「あ、あぁ……!? ハンスッ!?」

 

 メデューサが持っていたのは動かないハンスであった。彼女はキャロルの目的がハンスであろうことを予想すると、ミカの相手を部下に任せて自分はハンスを回収し先回りしたのである。

 

 物言わぬハンスが首を掴まれた状態でメデューサに引き摺られている光景に、キャロルは束の間我を失いガリィの腕の中で暴れ出した。

 

「ハンス、ハンスッ!?」

「ちょ、マスター駄目ですッ!?」

 

 暴れるキャロルをガリィが宥めようとする。その瞬間、後ろから後続のメイジがライドスクレイパーを槍投げの要領で投擲してきた。飛んできた槍に気付いたガリィは咄嗟にそれを避けようとするが、それにタイミングを合わせた様にメデューサがハンスを投げつけてきた。

 

「あっ!?」

 

 このまま避けたら最悪ハンスが串刺しになる。その結論に至ったガリィは、迷わずキャロルを手放し自身の体で槍を受け止めた。障壁で防ぐ事も出来ず受け止めた槍は容易くガリィの体を貫き、勢いは止まらずそのまま彼女の体を壁に磔にして動きを止めた。

 

「ぐぅ……!?」

「うわっ!?」

 

 突然ガリィから解放され、その場に転んだキャロル。ハンスはその近くに落下し、力無く四肢を投げ出していた。キャロルは壁に磔にされたガリィと倒れたハンスを交互に見て、まずハンスを抱き上げ生きてはいる事を確認するとガリィに向け手を伸ばした。

 

「ガ、ガリィ……お前、俺を……ハンスを……」

「やですね、マスター……変な期待をしないでくださいまし。性根の腐った私が、そんな殊勝なことする訳ないじゃないですか」

 

 口ではそう言うガリィだったが、実際の所今の行動はキャロルとハンスの2人を守る為以外の何物でもない。ガリィがあの時そうしていなければ、キャロルもハンスもいちころだったのは間違いないのだから。

 

 何も出来ず、ただ守られてばかりの自分にキャロルが焦りと苛立ちを感じていると、傍まで来ていたメデューサが杖の先端を彼女に向けた。

 

「手古摺らせてくれたわね。でもそれももうお終い。用済みのあなたには、ここで消えてもらうわ」

 

 杖に魔力が集束していく。妖しい光を放つ杖に照らされながら、キャロルは目尻に涙を浮かべて腕の中のハンスを抱きしめる。

 

「ハンス……俺は、お前すら守れないのか……! 皆は、俺を守ってくれたのに、俺は何も…………。誰か、誰か、ハンスだけでも……」

 

 キャロルは只管に祈った。神でも悪魔でもいいから、せめてハンスだけは助けてくれと。嘗てキャロルの父を奪った連中が必死に縋ろうとした、奇跡を起こしてくれる神に願いを託そうとした。

 そんな彼女の口から零れる願いを、メデューサが一蹴する。

 

「無駄な願いよ。最早”奇跡”も起こらない」

「…………”奇跡”……」

 

 メデューサが何気なく口にした奇跡と言う単語。それを聞いた瞬間、キャロルの脳裏に凄まじい勢いで様々な情景が駆け抜けていった。

 

 自分に手を伸ばす颯人と奏……

 

 立ち塞がる装者達……

 

 メデューサ達魔法使いとの対峙……

 

 眼下に広がる燃え盛る街並み……

 

 共に歩むハンスの姿……

 

 そして、磔にされ火刑に処される父の姿……

 

 その父が最期に残した命題……

 

『キャロル……世界を識るんだ……』

 

 次々とフラッシュバックしていく過去の情景。それらが失われていたキャロルの記憶を次々と組み上げていき、彼女の本来の人格を呼び覚ましていく。

 

「き、せき……きせ、き…………」

 

 頭痛を堪える様に額を押さえるキャロルを訝しみながらも、さっさとトドメを刺そうとメデューサは杖に集束させた魔力を解き放ちキャロルをハンス諸共消し飛ばそうとした。

 

「これで終わりよ。さようなら」

 

 しかしそれよりも前に、キャロルが俯きながら言葉を紡いだ。

 

「奇跡は……」

「ん?」

「望んでいない…………俺が、殺すからだ」

「…………え?」

 

 芯の通った声でそう呟き、顔を上げたキャロル。その表情は、先程までの儚く弱々しいものではなく、以前の彼女が見せた不敵で力強いものであった。

 今し方の言葉とその表情で、メデューサはキャロルが記憶を取り戻した事を悟った。マズイと思い魔力を解き放とうとするが、それより早くにキャロルが放った錬金術がメデューサを吹き飛ばす方が先だった。

 

「フッ!」

「ぐあぁぁっ!?」

 

 メデューサが吹き飛ばされた先には追い付いてきたメイジ達も居る。メイジ達は吹き飛ばされてきたメデューサを受け止めようとして一緒に吹き飛ばされ、その間にキャロルはハンスを抱えながら立ち上がり手を横に翳すとそこから堅琴を取り出した。

 

 それは以前彼女が使用した、ダウルダブラのファウストローブ。全てを思い出したキャロルがそれを慣れた動きでかき鳴らすと、彼女の体が成人女性のそれに変化しその体を錬金術の鎧が包み込む。

 

 再びファウストローブを纏い立ち上がったキャロルの姿を見たガリィは、磔にされながらも歓喜の笑みを浮かべていた。

 

「マスター……お帰りなさい……!」

 

 その言葉を最後に、ガリィは力尽きた様に項垂れ動かなくなった。一方のキャロルはと言うと、混乱から立ち直りつつあるメデューサ達を一瞥すると未だ腕の中で眠り続けるハンスを優しい眼差しで見つめながら抱き寄せた。

 

「ハンス……俺の眠り王子……お前が俺を守る為に託してくれた全てを今、お前に返そう」

 

 そう言うとキャロルは物言わぬハンスの唇に自らの唇を重ねた。するとキャロルから金色のオーラの様な物がハンスの中へと入り込む。

 

 それは嘗ての戦いで、ハンスがキャロルに託した彼自身の魔力の全て。アーキタイプと称されるビーストドライバーを長年使い続けることで彼の中に生まれた、彼自身の魔力からなるファントムの力。

 

 今までずっとキャロルの中で彼女を守り続けてきた門番の獣が、本来の主の元へと戻っていったのだ。

 

「ッ!!」

 

 ハンスの目がカッと見開かれ、次の瞬間噴き出した魔力が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。そして、ファウストローブを纏い成長したキャロル同様成人した姿になったハンスは、愛しい存在に対し騎士の様に恭しく跪いた。

 

「おはよう……キャロル」

「おはよう……ハンス」

 

 待ちに待った瞬間に、キャロルは胸中に歓喜が渦巻く中錬金術で空間を繋げるとある物を取り出した。

 

 それはビーストドライバー。あの戦いの後、アリスにより回収され今の今まで保管されていた。ハンスはそれをキャロルから受け取ると、立ち上がり腰に装着して変身する。

 

「さぁ……狩りの時間だッ! 変身ッ!」

〈セット! オープン!〉

 

〈L・I・O・N、ライオーン!〉

 

 獅子の咆哮と共に、ハンスの姿が鎧に包まれる。今この瞬間、嘗て世界を分解しようとした錬金術師キャロルと、彼女に付き従う騎士であるビーストが復活した。




と言う訳で第230話でした。

キャロルとハンス完全復活です。原作では復活したキャロルはダウルダブラ纏っても体が小さいままでしたが、本作では治療を受けて原作より余裕がある事 + ハンスから託されていた魔力の影響でGX編同様戦闘モードでは大人の姿になります。

後に明かされますが、ハンスが再び変身したビーストも以前と違って使用に際して命を削るような仕様ではない(劇場版ウィザード仕様)になるようアリスにより改良されている為、前よりも安全に戦う事が出来る様になりました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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