魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

260 / 324
第240話:傲慢の芽を摘んで

 ワイズマンにより連れ去られた未来の行方は用として知れなかった。弦十郎は、動かせるスタッフを総動員して草の根分けてでも探し出そうとしてくれたが、やはり魔法という超常の力を前にしては単純なマンパワーでは太刀打ちできず、結局未来は行方不明と言う状況となってしまっていた。

 

 この事態に、颯人達魔法使いも手をこまねいていた訳ではなく、寧ろ魔法はこちらの領分だと言わんばかりに積極的に捜査に参加。使い魔を各地に放ち、怪しい所を徹底的に捜索していた。

 

「とは言え、海外に逃げられたら面倒なんてもんじゃないんじゃないか?」

 

 未来捜索の為放った使い魔達の様子を眺めながら、颯人は徐にそんな事をぼやいた。彼がそう思うのも無理はない。何せジェネシスは以前の颯人達同様、世界のあちこちに隠れ家を構えているのだ。この世界には前人未到の場所が幾つもある。そんな所を探して虱潰しにするのは、魔法であっても年単位の時間が掛かるのは想像に難くない。しかも、必ずしも隠れ家がそう言った場所にあるとは限らないのだ。今回のシャトーの様に、思わぬところに拠点を構えていてもおかしくない。

 

 因みにそのシャトーであるが、騒動が収束したあと改めてS.O.N.G.により調査が行われた。が、内部は予想通りもぬけの殻であり、手掛かりになりそうなものは何一つ残されてはいなかった。

 

 途方もない捜索になりそうな予感に、颯人も胃が重くなるのを感じずにはいられない。しかし輝彦はと言うと、そんな彼の意見に対して否と答えた。

 

「いや……少なくとも日本を出てはいないだろう」

「何でまた?」

「魔法はともかく、技術設備に関しては相応の場所が必要だからだ」

 

 未来は恐らくダイレクトフィードバックシステムの改良型の様な物で操られているのだろうと言うのが、S.O.N.G.技術班の見解であった。先の戦闘でクリスが見た未来の背中に取り付けられていた装置。あれをウェル博士に見せた所、確証はないが高確率でダイレクトフィードバックシステムに間違いないとの事。

 しかしその装置を取り付けられた未来は、完全に操られたと言う感じではなく何やら抗っていた様子。洗脳は完璧と言う訳ではないのだ。つまり、その洗脳を完璧なものにする為に設備や技術を伴う場所に連れていく必要があると言う事。

 

 さて、今現在そんな設備を用意できる組織と言えば…………

 

「アメリカ……は、今は無理か。ロスアラモスもジェネシスがメチャメチャにしたばかりだし」

「欧州はパヴァリアが幅を利かせていた影響でジェネシスが身を寄せられる場所は無かった筈だな」

「そうだ。そうなると、考えられるのは……」

「……ここ、か」

 

 そう最終的に行き着く場所は、この日本国内。もっと言えばそう言った技術に熱心に力を注いでいるのは、風鳴機関と言う事になる。

 

 符号は大分集まってきた。後はそれらを線で結んでいけば、自ずと答えは見えてくる。後欲しいのはその確証に至る証言ないし証拠の類だが…………

 

「輝彦さん」

「アリスか、どうだ?」

「えぇ、彼女達も話してくれました。やはりジェネシスと風鳴機関、と言うより風鳴 訃堂は裏で繋がっていたようです」

 

 あの戦いの後、ヴァネッサ達3人は保護と言う形でS.O.N.G.本部へと連れてこられた。そしてアリスは彼女達の診断をする傍らで、彼女達の今までの経緯や関連組織についての話を聞き、その結果遂に今回の騒動の裏に風鳴 訃堂が暗躍している事を知ったのである。

 

「やはりか。しかし、思っていた以上に早く話してくれたな」

「母さんが自分達を人間に戻せるってんで、連中もいろいろ背負う必要が無くなったんだろ?」

「それだけではなさそうです。どうやら訃堂は、今回の一件の後か最中に彼女達を始末するつもりだったみたいです」

 

 それはヴァネッサ達に訃堂から渡された全血製剤を調べて分かった事だった。先の戦いで流石に人工透析が必要になった彼女達が、事前に渡されていた全血製剤を使おうとした際それを見たアリスは違和感を感じ調べたところ、稀血の中に毒が仕込まれていたことが判明したのだ。もし先の戦いの最中、必要以上に力を使い消耗した体を癒す為に人工透析を行っていたら彼女達は一巻の終わりだった。

 

 訃堂が約束を守らず自分達を捨て駒にしようとしていた事を知った3人は、これにより完全に訃堂と縁を切る事を選択。自分達が知る限りの訃堂の悪事を暴露したのである。

 思えばヴァネッサ達は、その働きや能力に反してかなり格下な扱いを受けていたようにガルドは感じていた。その上約束を反故にされて使い捨てられそうになっていたとなると、彼女達に対して憐れみを感じずにはいられない。

 

「結局はあの3人もただの被害者だったと言う訳か。それで、今は?」

「こちらで改めて用意した全血製剤で人工透析を行い、今は休んでもらっています。本当なら、直ぐにでも3人の治療に取り掛かりたいんですけど……」

「それは悪いが後回しにしてもらおう。今はこちらも忙しいからな」

 

 ともあれこれで捜索の範囲は大分狭める事が出来た。狙うは風鳴機関中枢、訃堂の周辺を重点的に捜索すればいい。

 一見途方もないと思われていた捜索に目途が立ちそうだと分かり、颯人も少し安心して大きく背筋を伸ばし筋肉を解す。それを横で見ていたガルドは、そう言えば彼が奏と行動していない事に首を傾げた。

 

「そう言えばハヤト、奏の傍に居なくていいのか?」

「ん? あぁ、まぁな。本当は傍に居たいのは山々なんだが……流石に今は、な」

 

 キャロルにハンス、そして奏までを取り戻す事は出来た。しかし未来だけは連れ去られてしまった。決して勝利とは言えぬ現状、未来を連れ去られて落ち込む響を差し置いて自分が奏と暢気にしている訳にはいかないと颯人は自重していたのだ。尤もそれは奏の方も同じような事を考えていたらしい。2人は騒動の後軽く互いの無事と再会に安堵した後、未来を連れ去られて落ち込んだ響のケアの為彼女の傍に寄り添っていた。その傍には翼も居り、今は2人が響を元気付けようとしてくれている筈である。

 

 そんな話を聞かされて、ガルドは思わず目を丸くしていた。

 

「意外だな……お前の中に自重と言う言葉があったとは」

「TPOくらい弁えますぅッ!」

「意外と思われたくないなら少しは普段の行動を改める事だ」

「奏ちゃんも颯人が相手だと苦労しますね」

「余計なお世話だっつうのッ!」

 

 ガルドだけでなく輝彦とアリスからも小言を言われ、颯人はふてくされた様に唇を尖らせそっぽを向いた。

 

 するとそこに、今度は何やら思いつめた様子の透がやって来た。彼は輝彦の姿を見つけると、颯人達を無視して彼に近付いて行った。

 

「すみません、輝彦さん。少し、お時間宜しいですか?」

「ん、透か。ふむ……」

 

 一応今は未来捜索の為使い魔を放っている最中なのだが、自分1人が抜けても大丈夫かと周囲を見渡す。

 

「あ~あ~、未来ちゃんとあの爺様の事なら俺らで探しとくから」

「テルヒコはトオルの方に行ってやってくれ」

「分かった、頼む。それでは透、行こうか」

「はい……!」

 

 そう言って輝彦と透はその場から去って行ってしまった。後に残された3人は、透が普段と様子が違った事に首を傾げる。

 

「何か透の奴、様子がおかしくなかったか?」

「先の戦いの後からだな。何か思うところがあったんだろう」

「彼が悩む事と言ったら、クリスさん絡みでしょう」

 

 そう言えばシャトーでの戦いで、クリスはかなり危うい所だった。透の悩みはそれかと颯人達は考えながら、未来の行方の手掛かりを探すのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 颯人達の予想はほぼほぼ正解であった。

 

 訃堂が座している風鳴総家、その地下には独自の研究施設が存在していた。そこは限られた人員しか入る事を許されず、存在自体が秘匿された訃堂の居城。

 

 その中の一室に、訃堂とワイズマンの姿はあった。

 

「ここまでは順調……と言ったところかな? 訃堂殿?」

 

 ワイズマンは壁に寄りかかりながら訃堂の背に声を掛ける。その声に訃堂はチラリと背後に目をやり、直ぐに興味を失ったように視線を前に戻す。その不遜な態度に傍に控えているメデューサが文句を言おうとしたが、ワイズマンが手を上げた事でその言葉を飲み込まされる。

 

「貴様……」

「まぁ待て」

「ワイズマン様…………ッ」

 

 一度は剥こうとした牙を、手を上げられただけで引っ込めた。配下の制御が出来ているワイズマン達ジェネシスの姿に、訃堂は面白くなさそうに鼻を鳴らした。。

 

「よく躾けられた犬よの。羨ましい限りじゃ」

「そう言う自分は、飼い犬に逃げられたと言ったところかな?」

 

 訃堂がヴァネッサ達3人に仲介を最中接触を図っていた事はワイズマンも知っている。大方ジェネシスの弱みでも握って取引を有利にしようと考えつつ、適当な所で切り捨てるつもりだったのだろう。しかしその計画は、アリスが居た事で完全にご破算となった。神の力に頼る必要が無いのならば、ジェネシスにも訃堂にもつく必要はない。ヴァネッサ達は自分を虐げ見下し、使い潰そうと目論むワイズマンと訃堂から上手い事逃げおおせたのである。

 

「元の飼い主は其方であろう。であれば、飼い犬に逃げられたのもまた其方ではないか?」

「これは一本取られた。ともあれ、一番欲していたものは手に入れられたのだから、良しと言う事で」

 

 そう言ってワイズマンが訃堂の視線の先を追えば、そこに居たのは彼らにより連れ去られた未来であった。何らかの容器の中に浮いた黒いドレス姿の未来の目は固く閉ざされ、その背には項から背中の中程まで伸びた新型のダイレクトフィードバックシステムにコードのような物が伸びている。

 

「……進捗は順調で?」

「左様。調整が済めば、神の力は完全に我がものとなる。そうすれば、次世代抑止力の誕生よッ!」

 

 自慢気に語る訃堂を、ワイズマンが仮面の奥から見ている。仮面に隠れている為その表情を伺う事は出来ないが、よく見ると肩が僅かに震えているのが分かった。メデューサは主の肩が震えている事に気付きながら、それを口にする事はしない。

 

「しかしそうなると、やはりあの3人があちらに渡ったのは手痛いですな。この場所までは知らずとも、連中の口から我々の関係が明かされるのはほぼ確実。そう遠くない内に、向こうからこちらに仕掛けてくるでしょう」

「ならばどうすればいいか……其方等なら分かっていよう? この者が奪い返されては全てが水の泡なのだからな」

 

 つまりはワイズマン達で再びS.O.N.G.へ攻撃を仕掛け、全ての準備が整うまでの時間稼ぎをしろと言う事か。体よく使われていると言う自覚はあるが、このまま座して待つのは退屈だし何よりあちら側にイニシアチブを握られるのは面白くない。と言う事で、ワイズマンは訃堂からの要請と言う名の指示に快く従った。

 

「いいでしょう。その代わり、対価の生贄の件は頼みましたぞ、訃堂殿?」

「言われるまでもない」

「結構。それでは」

〈テレポート、ナーウ〉

 

 メデューサ共々、魔法でその場から姿を消すワイズマン。2人の姿が無くなると、残された訃堂はここで漸く体ごと振り返り先程までワイズマン達が居た場所を睨んでいた。その目は、間違っても同盟を組んでいる相手に対して向けるそれではなかった。

 

「……いい気になっているが良い。貴様らの考えなぞ、儂等とて承知の上よ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 シャトーへの攻撃後、奏達装者は居心地の悪い時間を過ごしていた。何と言っても未来を連れ去られたままなのが何よりも痛い。先の戦いで未来は神獣鏡のシンフォギアの様な物を纏っていたが、アリス曰くあれは恐らくファウストローブの類だろうとの事。シンフォギアを作り出せるのは了子か今は亡きナスターシャ教授のみ。そのどちらが作った物でもないとなると、考えられるのは錬金術により作成されたファウストローブと言う事になる。

 

 今後の戦いでは、最悪そのファウストローブを纏った未来と戦う事になるかもしれない。そう思うと響は気が重くなるのを感じずにはいられなかった。

 

「はぁ……響の奴、大丈夫かな?」

 

 あの戦いの後暫く響の傍で彼女を元気付けようとしていた奏だったが、イマイチ手応えが無くお手上げ状態となっていた。このままでは埒が明かないと思った翼の提案で、響は一度本部を出て家族の元へと向かわされていた。幸か不幸か、近隣にはまだ完全に復縁出来ず安アパートで独り暮らしをしている響の父である晃が居る。父親と話す事で何か見えるものもあるかもしれないと、翼は響に一時帰宅を勧め響もそれに頷き今は本部に居なかった。

 

 奏は翼やクリスらと共に本部の廊下を休憩所に向けて歩きながら溜め息を吐いていた。そんな彼女の背を、相棒の翼が優しく叩く。

 

「らしくないわよ奏。折角颯人さんともまた会えたって言うのに」

「んぇ? あぁ、いや……流石にこの状況で、颯人と暢気に会ってられないって」

「マジでらしくねえな、先輩? 普段の様子はどこ行ったんだよ」

「そう言うクリスこそ、透と一緒じゃないじゃん?」

 

 悩める奏からの思わぬ反撃に、今度はクリスが言葉に詰まった。実際、あの戦いの後からどうにも透の様子がおかしいとは思い話し掛けようとしたのだがタイミングが悪いのか悉くすれ違ってしまうのだ。

 

「何か……透に避けられてるような気が……」

「えぇ? あの透が? んなまさか、無い無い」

「訳あって、雪音に顔を合わせられないんじゃないか?」

「それは……」

 

 思い当たる節と言えば、やはりシャトーの屋上で危うくワイズマンに喉を切り裂かれる寸前だった事だろうか。あの時の透の焦りようと絶望は今までに見た事が無かった。ともすれば絶望に膝を折ってしまいそうなほどであった位だ。それは彼がそれだけクリスの事を大事に想ってくれている事の表れでもあるが、今回に限って言えばそれが悪い方向に向かっている様に奏達には見えた。

 

「気にしてんのかな、透の奴。クリスを守り切れなかったって」

「可能性としては、高いかもね」

「透……」

 

 それほどまでに思われている事に対し、クリスは嬉しく思うと同時に何処か危うさを感じて不安になる。

 

 その不安を現したかのように、突如すぐ傍の部屋から大きな破裂音の様な物が響いた。基本防音性の高い本部内部で、廊下にまで音が響くと言うのは相当な事である。

 

「な、何だッ!?」

「敵襲ッ!?」

「いや、ここ……シミュレーションルームだ……」

 

 音の発生源は訓練などでよく利用するシミュレーションルームであった。一体何が中で行われているのかと、奏達は顔を見合わせると意を決して中へと入る。

 

 すると中では、今し方の音の原因だろう爆発による砂埃の中で、その場に膝をつくグロウ=メイジに変身した透と彼の前に佇む変身した輝彦の姿があった。場所が場所だから訓練していたのだろうが、それにしたって透の姿がボロボロな事にクリスは思わず中に飛び込み透の傍へと駆け寄った。

 

「透ッ! お前、何やって……」

「ク、クリス……はぁ、はぁ……いいんだ。僕が頼んだ事だから……はぁ、はぁ……」

「どういう事だ、義父さん?」

 

 クリスを押し退ける様に立ち上がろうとする透の姿に、奏が輝彦に問い掛ける。すると彼は変身を解き、コートの襟を正しながら答えた。

 

「言葉通りの意味だ。透が、自分をもっと鍛えて欲しいとな」

 

 やはり透は、あの戦いでクリスを危険に晒した事をとても悔いていたのだ。彼女を危険に晒した、彼女を守り切る事が出来なかった事に対し、己の弱さを悔やみ怒りすら抱いていた。今まで怒りを全て流してきた彼には珍しい事であった。

 

「僕は、もっと強くならなくちゃいけないんだ……そうしないと、またクリスが奴らに危ない目に遭わされる。そんなのイヤなんだ。僕は、クリスに傷付いてほしくない。だから……」

 

 そう言って立ち上がり剣を取ろうとする透。だがクリスはそんな彼の何処か弱々しい姿に、胸が締め付けられるような気持ちになり気が付けば彼をその場に押し倒していた。

 

「馬鹿野郎ッ!!」

「わっ!? ク、クリス?」

 

 突然クリスに押し倒されて困惑する透。何故と起き上がろうとした、その彼の仮面に小さな雫が滴った。

 

「馬鹿……透の馬鹿……! 1人で全部背負い込むなって、言っただろうが……!?」

「クリス……」

 

 雫はクリスの涙だった。彼女はトオルの上で馬乗りになりながら、彼に覆い被さった状態で涙を流していた。それは怒りの涙ではなく、結果的に彼に全てを背負わせてしまっている自分の不甲斐無さに対する悔しさと彼の重荷になってしまっている事への悲しさの涙だった。

 

 すすり泣くクリスを見て、奏と翼は顔を見合わせ肩を竦めると、奏が優しくクリスを透の上から退かせ翼が透に手を貸し起き上がらせる。

 

「北上……雪音が悲しむのも当然だ。今のお前は、雪音自身を見ていない。雪音を守る事を見ている」

「それは……でも、大事だからこそ守るのは当たり前なんじゃ……」

「それは違うぞ、北上。お前は自分が傷付く事に慣れ過ぎてしまっているから分からないんだろうが、守ることは所詮手段に過ぎず結果ではない。自分を蔑ろにしてまで雪音を守り、その先にあるものを考えた事があるか?」

 

 翼の言葉に対し、透は即答する事が出来なかった。やはり彼は、今まで守る事ばかりを考えて、その為に自分が犠牲になった先の事を考えていなかったのだ。とは言えそれも仕方のない話か。彼は我慢強い少年だ。耐える事が当たり前の日々を送って来た彼が、唯一欲した光がクリスなのだ。それを失わないようにする為に、彼が我武者羅になるのはある意味で当然と言える。その気持ちは翼にも何となく分かった。

 

 だからこそ、翼は言わなければならなかった。同じように守る事を定められた防人としての人生を歩んできた先達として。

 

「いいか、よく聞け北上。今のお前は恐らくこう考えている。『自分が何が何でも雪音を守らなければならない、守ってあげなくてはならないのだ』……とな」

「ぁ……」

 

 言葉を失った透に、翼は畳み掛ける様に言葉を紡ぐ。

 

「それはある意味で最大限の雪音に対する侮辱となる。雪音はお前が思っているほど、か弱い存在ではないのだ。それを考えず雪音の安全だけを考えて守ろうとするのは、これ以上ない位傲慢な事だぞ」

 

 翼の言葉が刃の様に透の心に突き刺さる。言われてその通りだと、透自身理解してしまったからだ。確かに先程輝彦に鍛えられている間、彼はクリスを守る事のみ考えてその先の事を少しも考えなかった。身勝手極まりない独善に近い献身は、翼の言う通り傲慢さの表れであるのかもしれない。

 

 それを理解したように、透の変身が解かれ素顔が露わになる。仮面の下に隠れていた透の顔は、申し訳なさと後悔に歪んでいた。

 

「僕は……ただ、クリスに笑っていてほしかっただけなのに……」

「その考え自体は間違いではないが、ならば尚の事もっと広い視野を持て。雪音を守りたいと思うのは、お前1人ではないんだ。少なくとも、ここに2人居る」

 

 翼の言葉に透が顔を上げれば、翼と奏が穏やかな笑みを浮かべながら頷いた。そしてそれに続くように、透の脳裏には響を始め仲間の装者や魔法使い達の顔が次々に浮かんでいった。クリスを守ろうとしているのは自分1人ではなく、そしてクリスもまた彼の事を守りたいと思っている。それを自覚した時、透は先程までの自分が如何に傲慢でクリスを傷付けてしまったのかを理解した。

 

 透は胸に溜まったものを吐き出す様に深く息を吐き出すと、翼の手を借りて立ち上がった。そして、憑き物が落ちたような顔でクリスに近付き彼女に頭を下げた。

 

「クリス……ゴメン。ちょっと、神経質になってたみたい。シャトーの上でクリスが危ない目に合ってるのを見て、凄く怖くて……肝心のクリスの事を考えてなかった。ゴメン……」

 

 心の底からクリスに対し申し訳ないと、真摯に謝る透の姿にクリスは奏から離れると彼の顔を上げさせそのまま彼に抱き着いた。

 

「……分かればいいんだよ。もう、無茶すんなよな」

「うん……ありがとう」

 

 互いに強く抱きしめ合う透とクリスの姿に、これにて一件落着と奏と翼は一安心していた。

 

「ふぃ~、これ以上の厄介毎にならないようで何よりだな」

「あぁ。これでもう大丈夫だろう」

 

 最悪、透がクリスを守ることに固執するあまり暴走する危険もあった。それを事前に防げたのは、翼のファインプレーであったと言えるかもしれない。立派に先輩をやれている翼に、奏も嬉しくなりついつい彼女の肩を抱いてしまった。

 

「翼も大分先輩肌が板についてきたじゃないか、えぇおい?」

「奏、揶揄わないでッ!」

「ハハハッ!」

 

 互いを思い合う透とクリスに、じゃれ合う奏と翼。それぞれの姿を見ながら輝彦は小さく息を吐き、もう自分の役目は無いとこの場を後にしようとした。

 

 その時、彼に渡された通信機が着信を知らせ、何事かと取り出すとディスプレイには発令所へ来るようにと言う内容が書かれているのだった。




と言う訳で第240話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。