魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第248話:思惑は巡って

 未来からシェム・ハを引き剥がせたことで、目下最大の懸念事項は解決した。まだジェネシスは健在だし、ワイズマンがこのまま諦めるとは思っていないがそれでも次にアクションを起こすまではまだ時間があるだろうと予想される。

 

 その間に颯人達は、事の後始末をどうするかで話し合う事となった。そう、残された腕輪の処分についてである。

 

「どう考えても残しといていい事なんてないんだし、さっさとぶっ壊す訳にはいかねえのか?」

 

 開口一番、そう口にしたのはクリスである。未来の腕から離れた腕輪は、アリスとキャロルの手により錬金術で厳重に保管された状態となっており間違っても勝手に動き出す様な事にはならない。そもそも起動後も誰かの腕に嵌められる事が無ければ、腕輪だけでは何の危険も無い代物だ。保管と監視さえ怠らなければ、大事になる可能性は限りなく低い。

 

 シェム・ハが再び腕輪の中に封じられ、何も出来ずにいる今の内に処分してワイズマンも何も出来ない状態にしてしまうのが最善だとクリスは声を大にし、奏や翼、ガルドなんかもそれに対し頷いていた。

 

「クリスに同感。ワイズマンがまた腕輪狙ってくる可能性がある以上、残すくらいなら壊した方が確実だろ」

「元はと言えばアダムも、腕輪の所在を調べていた。恐らくは腕輪を自分で回収した後、壊すなりして二度とシェム・ハが表に出てこないようにするつもりだったのだろう。であるなら、壊した方が手っ取り早いのは確かか」

「問題は壊せるかどうかだが……最悪の場合は宇宙の彼方に放り出すと言うのも一つの手か」

 

 一方で、腕輪の破壊に対して消極的なのは響とキャロルなどであった。尤もこの2人では消極的な事の理由が大きく違っていたが。

 

「いや、迂闊に破壊するのは待った方が良い。破壊してシェム・ハを消滅させられるならともかく、その確証がない以上下手をすると逆に封じられていたシェム・ハを無作為に解放する事に繋がりかねない。破壊するにしても、先ずは色々と調べてからにした方が良いだろう」

 

 厳密に言えばキャロルも腕輪の破壊そのものを反対している訳ではなく、その為に色々と準備をする必要があると考えているらしい。そこに知的好奇心が無いとは言わないだろうが、迂闊に藪を突いて蛇を出す様な真似をしたくないと言うのが本心だった。

 

 この様に大なり小なり腕輪共々シェム・ハを消し去る方向で話が向かいつつある中、唯一それに反対するのは響であった。

 

「その……本当に、腕輪ごと中のシェム・ハって人? を、消さなくちゃいけないんでしょうか……」

「響? あなたまさか……」

 

 控えめではあるがそれでも確かにシェム・ハの消滅に否を唱えた響に、マリアが険しい顔になる。彼女の為人を知っているが故に、マリア達は彼女が何を考えているかが分かってしまったのだ。

 

「だって私達、シェム・ハって人の事を何も知らないんですよ? それなのに、話も聞かずに消したりしちゃうのは、何だかちょっと可哀想かなって」

 

 何処までも他人に対して優しく、他者を思い遣り寄り添おうとする響。しかし周囲の者達は、今回ばかりは非常に険しい表情にならざるを得なかった。

 各々響の考えに色々と思うところがある中、クリスが代表して頭痛を堪える様に頭を押さえながら響の意見に反論した。

 

「お前なぁ……未来がアイツに乗っ取られてた時の様子を忘れたのかよッ! あの腕輪の中には、自分を神って自称してアタシら人間を見下す様なロクデナシが入ってるんだぞ? そもそも話なんて通じる訳ないだろうがッ!」

 

 傲岸にして不遜、人間を文字通り物としてしか認識していない事が容易に想像できるシェム・ハの言動は、それだけで危険だと思わせるには十分なものがあった。特に未来の中から追い出されそうになった時の暴れっぷりは、その物言いもあってその場にいた者達の大体はクリスと似たり寄ったりな意見である。

 

 それでも響は引き下がらなかった。例えロジックが違っていたとしても、言葉が交わせる以上そこには1%でも分かり合える可能性があると考えていたのだ。確かに未来の体を乗っ取っていた時の事に関しては思うところが無い訳でもない。しかし響はそれだけで一方的に決めつけるような真似をしたくはなかった。そしてこの場には、そんな彼女の意見に賛同する者も居た。

 

「確かに……僕達はそのシェム・ハって人の事を何一つ知らない。第一印象が最悪なのは間違いないでしょうけど、それだけを理由に一方的に消そうとするのは……」

「透ッ! お前までこの馬鹿に感化されて何言ってんだッ!」

 

 ”許して忘れる”が信条の透にとって、一方的に敵視して排除しようとする事に対しては首を縦に振る事は出来なかった。

 

 結局、少数意見ではあるが腕輪の破壊とシェム・ハの消滅に反対する派と賛成する派で意見が合わず、議論は平行線を辿ろうとしていた。この事態に対し、議長を務める立場にある弦十郎はこの場でまだ意見を口にしていない颯人に視線を送った。

 

「颯人君、君はどう考える?」

「俺か?」

「現状、日本政府から特別指示は出ていない。というか、指示を出している余裕が無いと言うべきか。お陰で腕輪の処分はこちらに丸投げされているも同然だ。保管するにせよ破壊するにせよ、その裁量権はこちらに押し付けられている」

 

 訃堂の失脚とそれに伴う裏で暗躍していた者達の検挙により、日本政府は大忙しであった。新たな国防を担う担当者の選定や不正の後始末など、やる事が多く八紘はその処理に忙殺されていた。そんな状況下で、一応の鎮静化を果たした聖遺物の処分に頭を回している余裕は今の政府に無かったのだ。一応逐一状況の報告は怠っていないが、日本政府からは事実上腕輪の処分を丸投げされているに等しい。それはこれまで数々の聖遺物関連の事件を解決に導いてきたS.O.N.G.を信頼しての事でもあると言えたが、同時に危険や面倒を押し付けられているとも捉える事が出来た。

 

「今までは風鳴機関が曲がりなりにも聖遺物の管理などを行ってきたが、それもお爺様の不正と失脚で機能不全に陥っている」

「皮肉なものよねぇ。今まで好き勝手してきた人が居たからこそある意味円滑に進んできた事が、今になって滞るなんて」

 

 独裁政権は良くも悪くも1人の権力者の一言で全てが決まる。それ故物事の決定は時にスピーディーに進むし、お陰で早々に問題が解決する事もあった。決して認めたくはないだろうが、訃堂の様な強権を駆使する存在も時には役立つのである。

 

 一方で民主主義では多数の意見を纏める事が重要視される為、今回の様に意見が割れると次の行動まで時間が掛かってしまう。

 この状況では、一つでも多くの意見が必要であり、その為弦十郎は颯人にも積極的に意見を求めたのである。

 

「君は、こう言っては何だが独特の視点を持っている。是非君の意見も聞かせてほしいところだ」

 

 弦十郎にそう言われて、颯人も黙っている訳にはいかず自身の意見を纏めるとそれを言葉にして伝えた。

 

「俺としてはねぇ……賛成反対の二択で言うなら、どっちかって言うと反対かな」

「えっ!? 颯人、マジで?」

「おぅ、マジマジ」

 

 颯人に意見に奏が心底意外そうな声を上げた。彼であれば面倒を無くそうと早々に腕輪の破壊とシェム・ハの消滅に賛成すると思っていたのだ。奏だけでなく、クリスやマリア、翼なんかも何か言いたげな目で颯人の事を見ている。一方で響と透は、彼が自分達の味方となってくれた事に喜び笑みを浮かべた。

 

「颯人さんッ!」

「颯人さん、ありがとうございますッ!」

「ちょいちょい、言っとくけど俺は2人みたいに可哀想だからとかそんな理由で反対してる訳じゃないからね」

「では何故だ?」

 

 彼が腕輪の破壊に対して反対の立場に立つのは、目標を失ったワイズマンが次に何をするか分からなくなるのを危惧しての事であった。現状ではワイズマンの目標は腕輪に封印されているシェム・ハの力を手に入れる事であろう。であるならば、危険はあるが狙いが分かっている今ワイズマンの次の行動を予測する事は出来た。だが腕輪が無くなれば、次のワイズマンの行動を予測する事は困難になる。

 

 颯人の意見としては、腕輪を破壊するならせめてワイズマン達と決着をつけ、後顧の憂いを絶った上で始末をつけたいと言うものであった。これには輝彦も唸り声を上げた。

 

「確かに……腕輪とシェム・ハの力を餌にワイズマンを引き寄せ、決着をつければ後の安全は確保される。ワイズマンさえい無くなれば、ジェネシスは瓦解しこれ以上の犠牲者も防げるだろう」

 

 颯人の意見に賛同する輝彦であったが、この意見には当然だがリスクも付きまとう。もし何らかの方法で腕輪がワイズマンに奪われシェム・ハの力を利用されるか、逆にワイズマンが利用され取り返しのつかない事態になったりしたら…………

 

 こう考えたガルドが2人の意見に異を唱える。

 

「それはとても危険じゃないか? 確かにワイズマンの狙いが分からなくなるのはそれはそれで厄介だが、明らかに危険と分かっている物を利用される危険を冒すくらいなら……」

「そりゃそうだ。だからこそ、こっちはこっちで対策を練るんだよ。つー訳で母さん」

「何?」

 

 

 

 

 

「腕輪に封じられてるシェム・ハって奴と話をしたいんだが、何とかならねえか?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方その頃、風鳴宗家での戦いで未来共々腕輪を奪還されたワイズマンは、元々の拠点に戻り玉座に腰掛け思案していた。階段を上った先に鎮座する玉座に腰掛けているワイズマンの眼下では、メデューサに加えて先の作戦でワイズマンに化けていた幹部である「ケットシー」が静かに跪き主の次の言葉を待っていた。

 

「今回は、まんまとしてやられたな」

「も、申し訳ありませんワイズマン様ッ!? 俺が、連中にあっさり偽装を見破られたばかりに……」

 

 ケットシーは既にファントム化した魔法使いであった。それ故彼は指輪に頼らず能力である高速移動を使う事が出来る。当初はその高速移動を活かしてワイズマンと思わせる事によりS.O.N.G.の油断を誘う算段だったのだが、颯人と奏によりこの計画はご破算となり結果としてワイズマンは戦略的に敗北を喫してしまった。

 

 必ずしもケットシーに全ての責任があるとは言えない状況ではあるが、気分屋でもあるワイズマンにそんな理屈は通用しない事は幹部である彼らが良く知っている。敗北の責任を押し付けられ死ぬよりも恐ろしい折檻を受けるのではないかと恐怖に震えるケットシーと、とばっちりを受けないようにとだんまりを決め込むメデューサをワイズマンは仮面越しにジロリと見つめていた。

 

 嫌でも感じる視線にケットシーが震えていると、不意にワイズマンは背凭れに体重を預けながら虚空を見つめそれ以上の追及をする事はしなかった。

 

「まぁ、いいさ。連中の鼻っ柱を叩き折ってやると言う楽しみが出来たと思えばね」

「は……ハッ! 次こそは必ずご期待に応えてみせますッ!」

「ではこの後は、再びS.O.N.G.に襲撃を?」

 

 当然だがワイズマンはまだ腕輪とシェム・ハの力を諦めてはいなかった。奪い返されたのならまた奪い取ればいい。しかも見方を変えれば、持ち運びやすい腕輪になってくれた今奪取はある意味で容易になったとも言えた。

 

 しかしワイズマンは、今すぐに腕輪の奪取の為S.O.N.G.の本部に襲撃を掛ける様な事はしなかった。流石に今はまだ早すぎる。先の戦いでS.O.N.G.はあまり消耗していない。今下手に襲撃を仕掛けても、また防がれて返り討ちに遭うのがオチだ。尤もワイズマン自身は、颯人達に自分が単純な力で負けるとは毛ほども思っていなかったが。

 

「いや……暫くは待つ。私が本当に欲しいのは、単純な神の力などではないしね」

「? では一体……?」

 

 目的が神の力そのものではないと言うワイズマンに、主の狙いが分からず首を傾げるメデューサ。だが彼は彼女の疑問に答える事無く、ただ虚空を見つめて笑みを浮かべるだけであった。

 

――やっとだ……やっとここまで来れた。長かった、待ちくたびれたよ…………シェム・ハ、様…………――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今に見ていろ…………




と言う訳で第248話でした。

腕輪の中に再度封印されたシェム・ハへの意見は大きく二つに分かれました。さっさと腕輪を壊してシェム・ハを消してしまおうと言う意見と、シェム・ハとも対話して和解を図ろうと言う意見です。後者は言うまでもなく響と透で、この2人は性格的にロクに知りもしていない相手を問答無用で消滅させる事には否定的なタイプなので当然の反応ですね。
颯人が反対意見側につくのは意外かもしれませんが、色々なリスクを天秤に掛けた結果の意見です。このままシェム・ハを消すと、次にワイズマンが何をするのか分からなくなる方が厄介だと考えた訳です。

そのワイズマンですが、ここに来て少しずつ彼の真の目的が薄っすらと明らかになりつつあります。少なくともシェム・ハとワイズマンは全くの無関係ではない……というのがラストに少しだけ臭わされてきました。両者の関係性は完全に明らかとなってはいませんが、少なくとも穏やかではない事だけは確かです。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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