魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
種子島宇宙センター……日本に唯一存在する、宇宙への出口とも言えるスペースシャトルの発射基地である。元々日米合同で月遺跡調査の為探索チームを送り込む為、シャトルの発射準備が行われていた。
そのシャトルは今、ジェネシスの暴挙を阻止するべくS.O.N.G.が月遺跡に向かう為に使われる事となり、シャトルも装者と魔法使いを月へと運ぶ為に準備が進められていた。
発射台に乗せられ、燃料が注入されていく。その様子を颯人達はシャトルが見える位置から見守っていた。
「うひょぉ~、分かっちゃいたがスペースシャトルってのはデッカイもんだ……!」
「これからあれに俺達が乗るって、正直な話ちょっと信じられないな」
颯人とガルドが遠目にも巨大に見えるシャトルを眺めながら感慨深そうに話している。実際人類が宇宙に行けるようになったとは言え、それは決して自由自在にと言う訳にはいかない。飛行機で海外に飛び立つのとは訳が違って、一機打ち上げるだけでも億単位の金額が必要になるし、搭乗員にも宇宙での活動に耐えられる訓練が課せられる。一度打ち上がってしまえばもう後戻りは出来なくなる為、健康状態に関しても厳しく管理された。もしシャトルが打ち上がった後でお腹が痛い、何て事になっても気軽にトイレに行く事も難しい。
しかし今回は本当に緊急事態でもある為、訓練などに悠長な時間を掛けてはいられないので颯人達はそう言った訓練は全てすっ飛ばしてシャトルに乗り月へと向かう切符が手渡された。発射の時間が迫る中、普段荒事に突っ込む颯人達も緊張を隠す事は難しかった。
そんな中で特に緊張しているのは、ある意味で今回のキーパーソンとなり得る未来である。正確には彼女の中に居るシェム・ハが重要なのだが、シェム・ハが月遺跡に降り立つ為には依り代である未来の同行が必要不可欠。普段響達が戦う様子を後ろから見ているしか出来なかった彼女だが、今回ばかりは響達と共にシャトルに乗り宇宙へと旅立つ事となっていた。
常々戦う響を後ろから見ているしか出来ない事に、歯痒さを感じずにはいられなかった未来。だがいざ彼女と並び立って危険が待ち受ける場所へと向かおうと言う時になると、不安と緊張で落ち着かなかった。
「ふぅ……」
思わず緊張から溜め息が零れる。そんな彼女を、響が隣で支えていた。
「大丈夫だよ未来! 何が起こっても未来は私が守るから!」
「響……ありがとう。でも大丈夫。今回は私も、ただ見てるだけじゃないから」
響からの激励にそう返す未来の腕には、シンプルなデザインの腕輪が嵌められていた。神獣鏡のファウストローブのスペルキャスターである。今回、どう足掻いても未来も荒事に巻き込まれざるを得ない。そんな時に身を守る物が無いといざと言う時に不安なので、急遽アリスが改めて未来が扱えるようにと組み直したのだ。基本的な機能はファウストローブであり、シェム・ハが彼女の精神を乗っ取りダイレクトフィードバックシステムに支配されていた時と大差はない。ただ今度のは未来への負担を可能な限り小さくする為、ファウストローブでありながら実態はシンフォギアに近い形で収めていた。そう、セレナに合わせたアガートラームに近い形だ。未来はセレナ程負担を気にする程でも無かったので、魔力によるサポートを必要としない分あちらよりも作り直すのは簡単であった。
(我も居ると言う事を忘れるな未来。お前の身に何かあれば、我だってただでは済まぬのだ。いざと言う時は我も戦う故、不安に思う必要などない)
未来が響とばかり話していると、除け者にされたような気分になって寂しくなったシェム・ハがアピールしてきた。言葉は尊大だが、確かに自分の事を心配して元気付けてくれるシェム・ハの存在に、未来は響に感じたのとは別種の安心感を感じ肩から力を抜いた。
(はい! 頼りにしてますね、シェム・ハさん!)
(フン……当然だ)
来たる宇宙への旅立ちの瞬間を前に、誰もが期待と不安を感じていた。だがそんな中でも、透は警戒を怠らなかった。
「ですが皆さん、注意してください。これだけ大々的に動けば、ジェネシスもこちらの動きには気付きます。僕らの月遺跡入りを阻止するべく、ワイズマン達が邪魔をしに来ることは間違いありません」
「透の言う通りだ。暢気に構えてる暇はねえぞお前ら」
「勿論デース!」
「はい」
透とクリスの指摘に、気を引き締め直す装者と魔法使い達。ジェネシスの連中だって馬鹿ではない。こちらがあちらの動きを予想したように、あちらもこちらの動きは予想している筈だ。ましてやシャトルの打ち上げなんて派手な動きをしていれば、嫌でも連中は気付く。そうなれば、S.O.N.G.を地球に封じ込める為、シャトルの破壊の為に襲撃を掛けてくるのは簡単に予想出来る事であった。
だからこそ颯人達は、発射時間ぎりぎりまでシャトルが見える位置で待機していたのだ。予定では発射時間になったら地球に待機するキャロルとハンス、輝彦らが周辺の警戒を引き継ぎ颯人達はシャトルに乗って宇宙へと旅立つ事になっていた。
もし一番襲撃される危険があるとすればそのタイミングだ。だが颯人達がシャトルに乗り込むことそのものを阻止しつつシャトルの破壊も狙ってくる可能性もあった。故に彼らはこうして警戒しているのだ。
刻一刻と時間が過ぎていき、もう間もなく颯人達がシャトルに乗り込む時間が近付いてきた。そろそろ移動し搭乗しようと颯人達が動き出したその時、彼らが耳につけている通信機に慌てた様子のあおいの声が響いた。
『皆大変よッ! センサーにジェネシスの魔法使いと思しき反応が多数検知、真っ直ぐシャトルに向かってるわッ!』
あおいは迅速に知らせてくれたようだが、彼女の警告が無くても颯人達には敵が来た事が分かった。彼らが居る場所からでも、空を飛んでくる多数の魔法使いの姿が見える。
あれだけの数の魔法使いが入れば、シャトル一機を破壊する等造作もない。そうはさせて堪るかと、彼らもシャトルを守る為戦い始める。
「悪いが、俺らも宇宙に行かせてもらうぜ……変身ッ!」
〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉
颯人が変身したのを皮切りに、ガルドと透、そして奏達も鎧やギアを纏い戦いに臨んだ。その中には当然未来も居る。
「私も、今度は見てるばかりじゃないんだから……!」
「Rei shen shou jing rei zizzl」
響達に続くように未来も聖詠を口にし神獣鏡のファウストローブを纏う。ファウストローブなので別に聖詠を口にする必要はないのだが、響達に合わせてか彼女も口に馴染んだ聖詠を紡ぐ。
そうしてファウストローブを身に纏った未来の姿は、大体は操られていた時のそれと同じであった。ただ頭に被っている物は、シェム・ハが乗っ取っていた時は王冠を思わせる装飾であったのに対して今は花嫁のベールのようであった。
戦う準備が整った颯人達は、転移魔法で即座にシャトルの周辺に展開。迫るジェネシスの魔法使いを迎え撃つ用意を整えた。
「さ~て、おいでなさったぜ。クリスちゃん、景気いいの一発頼むッ!」
「任せろッ!」
まだジェネシスの魔法使い達までは距離がある。離れている間に可能な限り数を減らして、シャトルに被害が及ぶのを防がなければならない。もし敵の攻撃が一発でもシャトルに命中しようものなら、その時点で発射は取りやめになり次に発射できるようになるまで長い時間が掛かってしまう。その間にワイズマンは月遺跡に入り、バラルの呪詛を破壊してしまうだろう。そうなっては全てがお終いだ。
「吹っ飛べぇぇぇぇッ!」
MEGA DETH QUARTET
クリスお得意の全弾一斉発射。ガトリングに大小様々なミサイルを一斉に発射する攻撃が、迫りつつあったジェネシスの魔法使い達に殺到する。飛来する銃弾とミサイルを回避しようとするメイジ達だったが、文字通りの弾幕の中を突っ切るのは非常に難しくミサイルが弾ける度に巻き込まれたメイジが次々と落下していった。中には障壁を張って攻撃を防ぐ者も居たが、そんな奴にはミサイルを回避しようと動いた別のメイジが衝突しバランスを崩してやはり落下していく。
クリスによる先制攻撃は見事に成功し、敵の第一波はその大半が撃墜され数を減らした。だが颯人達はそれで安心したりはしない。敵だってこの展開は予想していた筈なのだ。となると、先程飛来してきたメイジ達はクリスに大技を使わせる為の囮であり、第二波がすぐに来るはずであった。それも今度は実力のある精鋭、幹部クラスがやって来る可能性が高い。
それは案の定すぐにやって来た。身構えた颯人達の前に次々とジェネシスの魔法使いが転移してくる。しかもやって来たのはどれも色とりどりの仮面をした幹部である。強敵の登場に、自然と颯人の手にも力が籠る。
現れた魔法使いの先頭に立つのは、颯人達にとって最早馴染み深いと言っても過言ではないメデューサであった。彼女は自分達の前に立ち塞がる颯人達の姿を見て、手にした杖の石突で一度地面をついてから杖の先端を彼らに向け振るった。
「行くぞ、シャトルを潰して奴らを月に行かせるなッ!」
メデューサのその言葉を合図に、幹部や準幹部のメイジ達が一斉に攻撃を開始してきた。颯人達もそれを迎え撃つべく、迫るメイジ達へと攻撃する。
「させっかよぉぉっ!」
LAST∞METEOR
迫る敵の出鼻を挫こうと、奏が得意技の『LAST∞METEOR』を放つ。槍の穂先から放たれる竜巻が、迫るメイジの先頭を抉ろうとうねりを上げる。
それを迎え撃ったのは、以前シェム・ハの腕輪を強奪したグレムリンを回収に来た群青色の仮面をしたメイジであった。先を行く白メイジ達が奏の竜巻に撥ね飛ばされるのを見たそのメイジは、慌てず立ち止まると右手の指輪を付け替えてハンドオーサーに翳した。
〈ツイスター、ナーウ〉
奏の『LAST∞METEOR』に対し、そのメイジ……幹部名リヴァイアサンは、こちらも竜巻で対抗した。黒々とした竜巻が奏の放った竜巻とぶつかり合い、打ち消し合って周囲に衝撃と突風を撒き散らす。リヴァイアサンの魔法は奏の必殺技を受け止めるだけに留まらず、そのまま押し返して逆に彼女を吹き飛ばそうとしてきた。
「ぐ、ぐぐぐ……!?」
「フフッ、その程度かしら?」
次第に奏が押し負けそうになり、踏ん張るも体ごと徐々に後ろに押され始めた。このままでは奏はリヴァイアサンの放つ竜巻に飲み込まれて、全身をズタズタに引き裂かれるどころかその後ろのシャトルまでもが破壊されてしまう。
そうはさせじと颯人がリヴァイアサンに横から飛び掛かった。
「ハァッ!」
「ッ! くっ!」
出し抜けに横からソードモードのウィザーソードガンで斬りかかられたリヴァイアサンは、奏への攻撃を中断して横に転がる様に回避。それと同時に銛の様な槍を取り出すと、それを振り回して颯人に反撃した。
「ウィザードッ!」
「おっと! この間グレムリンを連れてった奴だなッ!」
「私の名はリヴァイアサンッ! 明星 颯人、ワイズマン様の為にここで始末するッ!」
「それをアタシが許すと思ってんのかッ!」
颯人とリヴァイアサンが切り結び始めると、そこに今度は奏も参加し2人でリヴァイアサンを攻めた。派手な動きが目を引く奏に、変幻自在な攻撃を繰り出してくる颯人はなかなかに厄介な組み合わせであり、リヴァイアサンも防戦一方に追い込まれる。
それとは別の場所で、響が透と共に素早く動き回る魔法使いのケットシーに翻弄されていた。
「うわっ!? くっ! このっ!」
「ホレホレ、こっちこっち!」
「くぅ、何て早い……!」
素早さには自身のある透であったが、ケットシーの素早さはそれを上回っていた。グレムリンとはまた違うが、こちらもかなり素早さが自慢なのか攻撃を当てる事が非常に難しい。響と透の攻撃はどれも空を切り、逆にケットシーの攻撃は着実に2人にダメージを与えていた。
こんな時頼りにしたいのはインフィニティースタイルとなった颯人か、若しくはどれだけ素早く動こうと関係なく吹き飛ばすクリスの絨毯爆撃であった。だが肝心の颯人は奏と共にリヴァイアサンの相手で忙しいらしくこちらには来れそうもない。
ならばとクリスの方を見れば、あちらはメデューサ率いるメイジの集団をガルド、セレナと共に迎え撃つのに夢中であった。時折透達の方に視線を向けているので、彼らの状況は理解しているらしいが、シャトルを守る為には集団を相手に出来るクリスの活躍が必要だった為援護は期待できない。
この状況に流石に危機感を覚えた透であったが、そこに突如として上空から無数の光線が降り注いだ。
「響ッ! 透君ッ! 動かないでッ!」
「「ッ!!」」
光線と共に頭上から聞こえてきた声に2人が従ってその場で動きを止めると、雨霰と降り注いだ光線が素早く動き回るケットシーに次々と命中した。
「イテッ!? うおっ!? どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
逃げ場がない程降り注ぐ光線の雨は流石に避けられなかったのか、次々と飛来する光線に撃ち抜かれてケットシーがその場に崩れ落ちる。それと同時に光線の雨が止み、2人は頭上を見上げそこに居る少女に笑みを向けた。
「未来ッ!」
「未来さん、助かりましたッ!」
先程の光線の雨は未来の神獣鏡によるものだった。元々神獣鏡はシンフォギアの中で唯一ホバーによる移動が可能であり、その気になれば飛行すら可能としていた。ファウストローブになってもその機能は健在であり、単体での飛行能力とイチイバルには及ばないながらも高い制圧力は戦闘経験の少ない未来であっても素早く動き回るケットシーを圧倒する事が出来たのだ。
今回が本当の未来自身の意志による戦いである事を考えると大金星である。
初の戦闘で響達の足を引っ張ってしまわないかと不安を抱いていた未来は、親友の窮地を救えた事と話に聞いた強敵を自分で倒せた事の興奮に頬を僅かに紅潮させながら降下した。
「良かった、2人共大丈夫そうで」
「未来のお陰だよッ!」
「ですが、まだ安心するには早いです。このまま――」
このまま敵を撃退し、シャトルで月へと向かおうと透が言おうとした。
その時、突如としてシャトルが内部から爆発した。誰もが背後を振り返り、シャトルが燃え上がるのを見上げている。
「なぁっ……!?」
「そんな、シャトルが……!?」
一体何時攻撃されたのか? 愕然と燃え上がるシャトルを見上げていると、その燃えるシャトルから出てくる人影があった。
赤々と燃え上がる炎を背に、炎など物ともしない様子で出てきたのは、黒衣の魔法使い……ワイズマン。右腕に金色の腕輪を嵌めたワイズマンが、悠々とした様子でシャトルから姿を現した。
「ワイズマン……!?」
「クソ、あいつッ! 他の連中を囮に自分でシャトルをぶっ壊しに来やがったかッ!」
正直、ここで戦っている魔法使い達が囮と言う可能性は考えていた。だがシャトルには直接転移してくる事が出来ないようにと予め結界を張ってあったのだ。にも拘らず、ワイズマンはシャトルを内部から破壊した。それはつまり、ワイズマンはこの乱戦の最中に誰の目にも留まる事無くシャトルに侵入して破壊活動を成し遂げたと言う事だ。
まんまとしてやられた事に歯噛みする颯人達。そんな彼らを前に、ワイズマンは悠々と懐から一つの小瓶を取り出した。一見するとそれはテレポートジェムに見えるが、普通のテレポートジェムがピンク色であるのに対してワイズマンが持っているのは金色であった。
それを見て未来の中のシェム・ハが表に出て焦った声を上げた。
「マズイッ! 奴にあれを使わせるなッ!」
「えっ!? シェム・ハさん?」
「あれは奪った我の力で月遺跡に繋がるよう調整をしたテレポートジェムだッ! このままでは奴が我らより先に遺跡に入ってしまうッ!」
シェム・ハのその言葉を聞いた瞬間、颯人は行動を起こしていた。
「チィッ!」
颯人はワイズマンが持つ金色のテレポートジェムに向け発砲した。銃弾は不規則な軌道を描いてワイズマンの手元に飛んでいき、今正にワイズマンが地面に叩き落そうとしていた小瓶を取り落とさせた。
「ぬっ!?」
ワイズマンが落ちた小瓶を素早くキャッチしようとするが、それをシェム・ハが妨害する。遠距離からの光線でワイズマンを下がらせると、それと同時に魔法で小瓶を颯人がキャッチし手元に引き寄せた。
〈コネクト、プリーズ〉
「よしっ! 皆、こっちだッ!」
「ッ! 颯人の所に集まれッ!」
これが月遺跡に繋がる物であるならば、シャトルが無くても月遺跡に入ってバラルの呪詛を守れる。颯人の行動に迷いはなく、彼の意図を読んだ奏達は敵の魔法使い達を牽制しつつ颯人の元に集まった。
そして…………
「行くぞッ!」
颯人が地面に小瓶を叩き付け、予め教えられた通りに術を発動。彼らの周囲を光が包み、それが消えた時そこに颯人達の姿は無かった。
ワイズマンが使って月遺跡へ向かう筈のテレポートジェムを奪われ、逆に颯人達が月遺跡に向かってしまった。
だが、肝心のワイズマンは颯人達に出し抜かれた事に対して取り乱したりする事なく彼らが居た場所を静かに見つめているのだった。
と言う訳で第253話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。