魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回は筆のノリが悪かったので、前回などに比べると大分薄味かもしれませんがご了承ください。
颯人達がテレポートジェムで月へと転移していったのを見て、ワイズマンは即座に自身も含めて配下を撤収させた。本拠地である城へと辿り着き、玉座へと腰掛けた彼の前には先程のシャトル攻撃に参加した幹部達が居並び恭しく跪いている。
「さて、まずは全員ご苦労だった。諸君らの活躍もあって、邪魔な連中を纏めて地球から追い出す事が出来た。
「「ハッ!」」
先程のシャトルをめぐる戦いで、ワイズマンが颯人達の前でテレポートジェムを取り出したのは彼らを焦らせる為であった。颯人達はワイズマンの目的が月遺跡のバラルの呪詛を破壊する事が目的……だと思っている。だから敢えてその心理を逆手に取り行動を誘導したのだ。目論見通り、ワイズマンに先を越されないようにと焦りテレポートジェムを奪い取り、一足先に月遺跡へと向かってくれた。
地球に帰還する術も確立出来ていないと言うのに…………
「とは言え、油断は禁物では?」
「ん~?」
上機嫌なワイズマンであったが、そこにメデューサが意見する。水を差す様なメデューサの発言にワイズマンがそちらに視線を向け、見つめられている事に竦み上がりそうになるのを堪えながらメデューサは意見の根拠を述べた。
「これまで、連中は数々の事態を打開してきました。先のパヴァリアとの戦いで、明星颯人は絶対に助からなかった筈の状態から持ち直して……此度も何をするか分かりません」
恐怖を押し殺して意見するメデューサ。その言葉にワイズマンも暫し考える。確かに、最初に彼らと相対したルナアタック事変から始まり、これまで何度も敵対した装者と魔法使い達は状況を逆転し勝利をもぎ取っていった。今回も何らかの方法で地球に帰って来るかもしれない。実際颯人達は事件を解決する度に仲間を増やし、今ではサンジェルマン達とも協力関係にある。記憶を取り戻したキャロルに新進気鋭の天才とされるアリス、それに世界有数の聖遺物の専門家である了子まで居る。しかも今は力を奪い取られて出涸らしとなったとは言えシェム・ハまで居るのだ。ここまで面子が揃っていれば、何らかの形で地球に帰って来る方法を見つけるかもしれなかった。
メデューサの意見は確かに一理ある。颯人達を相手に、油断するのは禁物だ。であるならば…………
「ふむ……確かに。ならばメデューサ、月へ行って連中を月に閉じ込めてくれるか?」
そう言って差し出したワイズマンの手の中には、新たなテレポートジェムが幾つかある。色は何れも金色であり、月までの転移を可能としたものである事が伺える。しかも数は複数個、メデューサ達が部下と共に向かっても帰って来る事が出来るだけの数があった。
最悪の場合片道分だけで使い捨てられる事も覚悟していただけに、ちゃんと帰還分も用意されていた事にメデューサ達は密かに感激していた。
「お任せくださいッ! 必ずや私達が、邪魔な明星 颯人他S.O.N.G.の連中を二度と地球に帰れないようにしてやりますッ!」
「ウム。しかしケットシーがやられた今、メデューサとリヴァイアサンだけでは少し不安があるな」
先のシャトル防衛戦で、ケットシーはファウストローブを纏った未来の攻撃を喰らい大きく傷ついていた。死んだ訳ではないが、もう暫く戦いに出る事は出来ない。
因みにだが毎度の如くグレムリンはこの場に居ない。ワイズマンもその事に関しては何も言わない為、メデューサですら最早何も言う事は無かった。
「それは……ですが……」
本当であれば自分1人で……と言いたいところであったが、今の颯人達の相手を部下を連れてとは言え自分1人で相手をするのはリスクが大きい。最悪何も出来ぬままに倒された挙句、帰還用のテレポートジェムを奪われる危険があった。
メデューサの逡巡はワイズマンも想定していたのか、援軍となる新たな幹部を用意してくれた。
「心配するな。君らにはまだ紹介していなかったが、新しい仲間を用意している。入ってきたまえ」
そうワイズマンが手招きすると、扉を開けて1人の魔法使いが入って来た。くすんだ金色の鎧を身に纏った魔法使いソーサラーである。双子の姉妹だった方のメデューサならいざ知らず、今のメデューサはソーサラーとは初見であった為その姿に首を傾げこそすれそれ以上の感想を抱く事は無かった。
「その魔法使いが?」
「そうだ。君らの仲間である、ドレイクだ。仲良くしてくれ」
「よろしく頼むよ」
決して偉ぶっている訳ではないが、態度が大きなソーサラーことドレイク。とは言えグレムリンの様な癖が強いと言うレベルではない者に比べればまだ大人しい方のドレイクに、メデューサとリヴァイアサンはこれと言った悪印象を抱く事も無く受け入れた。
「さて、では君ら3人で月へ向かい、S.O.N.G.の連中の相手を頼むよ。その間に私はこっちでやることを済ませておく」
「お任せください、ワイズマン様ッ!」
「S.O.N.G.の連中など、我らで捻り潰して見せます」
「吉報をお待ちください」
メデューサ、リヴァイアサン、ドレイクの3人がそう意気込みテレポートジェムで転移した。それを見送ったワイズマンは、ゆっくりと立ち上がるとこちらは魔法で何処かへと姿を消していく。
〈テレポート、ナーウ〉
ワイズマンが向かったのは、先日戦闘が行われた風鳴邸の地下深く。以前は捕らえた未来にダイレクトフィードバックシステムを取り付け、シェム・ハ共々操ろうとしていた設備があるそこで、ワイズマンはシェム・ハの首輪となっていた装置に腕輪を装着した右手を翳した。
「くくくっ……さぁ、お楽しみはこれからだ……!」
ワイズマンが翳した手に力を籠めると、まるでそこから根を張る様に赤い光が機材に逆流していき、その光を起点にするように木の根の様な物が出現し上へと向けて伸びていった。伸びた木の根の様な物は地上に向かいながら纏まっていき、巨大化して遂には赤い血管の様な光を放ちながら聳え立つ柱となって地表に姿を現した。
突如として風鳴宗家に姿を現した巨大な柱の存在に、S.O.N.G.も慌てふためきながらもその正体を探ろうと奔走していた。
「な、なんだあれはッ!?」
「分かりませんッ!」
当然だがあれに関する知識を持つ者はこの場に居ない。誰がどう考えてもあれはワイズマンの仕業に違いないが、魔法でも錬金術でもあんなものを作り出す様な物は存在しなかったので了子やエルフナインは勿論、魔法と錬金術の両方の知識を持つアリスでさえも何が起こっているのかを理解する事は出来なかった。
「参ったわね……コイツはかなり想定外の事態よ……」
「あれが何を目的としているのか、ここからでは見当もつきません」
「もしかしたらシェム・ハであれば理解できたかもしれませんが、その肝心のシェム・ハは今は月に居ますからね」
アリスはこちらを嘲笑うかのように聳え立つ柱を見て、してやられたかと下唇を噛んだ。ワイズマンが何か行動を起こすとすれば、月遺跡に対してだと思っていたが読みが外れた。まさか月遺跡には部下を送り込むだけ送り込んで、地球でも行動を起こすとは思っていなかったのだ。
「現在の戦闘状況は?」
「どうやら、こちらが優勢に進めているようです。通信内容から、敵幹部を撃退しつつあると」
「となると、こちらはこちらで何とかしなければならないか……輝彦、何とかならないか?」
月で仲間達が頑張ってくれているのに、地球に居る自分達が何もしない訳にはいかない。弦十郎は今この場で一番頼れる存在である輝彦に意見を仰ぐと、彼は迷わず風鳴宗家へと向かう旨を告げた。
「ここで見ているより、あそこに向かった方が早いだろう。確かあそこの地下には、風鳴 訃堂が隠していた研究施設か何かがあった筈だ。大方、ワイズマンがそれを利用して何かしたんだろうな」
「そう言う事なら俺達も向かうぞ。あの得体のしれない男のやる事、放置する訳にはいかない」
方針は決まった。颯人達の帰還方法についてはアリス達に任せ、輝彦とキャロル、ハンスの3人は風鳴宗家へと向かいそこに居るだろうワイズマンへの対処をする事となった。もし仮にワイズマンがその場に居なくても、宗家に存在する柱の調査が出来る。
そう思ったその時、突如として本部が大きく揺れ動く。水中にある筈の本部潜水艦が揺れたと言う事は、つまり…………
「うぉっ!?」
「何事だッ!?」
「外部からの攻撃に、左舷の一部が損傷ッ! 浸水が始まっていますッ!」
「鎌倉に出現したのと同じ、柱状の構造物があちこちにッ!?」
風鳴宗家が存在する鎌倉に出現した柱は、その一本で終わりではなかった。突如として世界各地に同様の者が出現したのである。
地球各地に出現した巨大な柱、その名はユグドラシル。元々はシェム・ハが地球を遊星神殿へと改造し、同胞の銀河に攻め入り侵略する為に用いる筈だった惑星環境改造装置であった。ワイズマンはそれを利用し、バラルの呪詛の破壊を待たずに地球規模でサバトを起こそうとしていたのである。
地球上に無数に出現したユグドラシル。その内の一本である鎌倉の柱の上に佇みながら、ワイズマンは腕輪を嵌めた右手に指輪を生成する。それは魔法でも錬金術でもない、神の力を用いて作り出した埒外物理による魔法の生成であった。
「さぁ、本当の絶望の始まりだッ!」
〈エロ―ジョン、ナーウ〉
という訳で第258話でした。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。