魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第265話:吐き気を催す邪悪

「さぁ、タネも仕掛けも無いマジックショーの始まりだッ!」

「ドレイクッ!」

「ハッ!」

 

 颯人の宣言を合図にカーバンクルファントムがドレイクを差し向けた。主の命令を受け、ドレイクがハルバードを振り上げ斬りかかって来る。先程は一撃喰らっただけで動きが鈍るほどの攻撃であったが、インフィニティースタイルとなった今の颯人にはこの程度の攻撃通用しない。アダマントストーンの鎧でハルバードが弾かれ、体勢を崩している間に立ち上がった奏がアームドギアによる刺突で後退させた。

 

「ぐっ!?」

「ほら、よっ!」

 

 隙を晒したドレイクに、颯人が追い打ちとばかりにアックスモードのアックスカリバーを叩きつける。強烈な一撃を喰らったドレイクはその勢いに体を回転させてひっくり返った。目の前でドレイクがひっくり返るのを見て、カーバンクルファントムが慌てたように埒外物理による砲撃を行う。が、颯人はそれを自らの鎧で受け止め弾いて防いだ。

 

 颯人がカーバンクルファントムの攻撃を受け止めている間に、奏は振り返りアームドギアを回転させ穂先に炎を宿すと、それを気合と共に振り回し周囲のジェネシスの魔法使いに向け放った。

 

「はぁぁ…………だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「うぉっ! 何だッ!」

「奏ッ!」

 

 奏が放った炎は仲間の装者や魔法使い達とジェネシスの魔法使い達との間に壁を作り、束の間安全地帯を作り上げる。そしてその隙は、仲間達に体勢を整えるだけの時間的余裕を齎した。

 

「皆、今だぁっ!」

『『『!!』』』

 

 奏の声と、先程のエルフナイン達の話で響達は次に自分達がどうするべきなのかを察した。ドレイクによりバラルの呪詛が破壊されたという事は、響達は今絶唱を歌えば自らの歌で聖遺物の力を全て引き出したバーニングエクスドライブを発動できるという事になる。

 それはこの状況を打破する上で最高の希望となり得る奇跡の体現。

 

『『『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl……』』』

 

 一斉に絶唱を口にし始める装者達の歌声を聞いて、メデューサはマズいと炎の壁越しに魔法で妨害しようとした。だがそれはガルドにより防がれ、同様に透もリヴァイアサンの妨害を魔法で防いだ。

 

「やらせないッ!」

〈イエス! バニッシュストライク! アンダスタンドゥ?〉

「それは、こっちのセリフだッ!」

〈ディフェンス、プリーズ〉

 

「消えろッ!」

「ハァァッ!」

〈イエス! アーマースペシャル! アンダスタンドゥ?〉

 

 メデューサの魔法がガルドの障壁に阻まれる。本来であれば魔法の障壁程度で防ぎきれる威力ではないのだが、奏の炎に阻まれた事もあってその威力を大幅に落とし、防ぐ事を可能としていた。受け止めた瞬間多少後ろに下がらされたが、それでも何とか防ぎきる事に成功する。

 

 一方のリヴァイアサンもファントムとなり指輪を使わなくても水流を操る事が出来るようになった事で、それで炎の壁を突き抜けクリス達が絶唱を歌いきる事を妨害しようとした。だがそれは透が許さない。彼はアーマードメイジとなり、自身の防御力を底上げした状態で炎の壁を突き抜けてきた水流を受け止める。流石にインフィニティースタイルの颯人には及ばないが、それでもやはり奏の炎の壁を突き抜ける際に威力を削がれた水流であれば今の透であれば防ぐことは可能であった。

 

 魔法使い達が敵の攻撃を防いでいる間に、装者達は絶唱を最後まで歌いきる事に成功する。

 

『『『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl…………』』』

 

 絶唱を歌い切った瞬間、装者達のシンフォギアが眩い光を放つ。炎のようにも見えるその光は、命を燃やすと形容する事も出来るほどの幻想的な光景であった。その光の中で、装者達のシンフォギアは全て余計な装備を無くしたシンプルな姿となる。アーマーが最小限になり一見するとインナーのみにも見えなくはないが、しかしその体を包むバリアフィールドは通常状態の比ではない。生半可な攻撃は通用しない鉄壁となり、装者達の柔肌を守護する鎧となった。

 

 装者達がバーニングエクスドライブを発動させると、それに合わせて炎の壁が消え去った。視界を遮る壁が無くなり装者達を視認できるようになったジェネシスの魔法使いやファントムは、例外なく頭髪の毛先が燃え上がる炎の様に変化し光る装備を身に着けた装者達の姿に、思わず圧倒され僅かに後退る。

 

 しかし逃げるなどと言う無様を晒す事は許されない。何しろここには彼らの首魁であるワイズマンだったカーバンクルファントムが居るのだから。

 

「ひ、怯むなッ! やれッ!」

 

 動揺を押し殺したメデューサの一喝にメイジ達が一斉に攻撃を開始する。

 

 しかし今やメイジ達では完全に装者達の相手にはならなかった。

 

 響が拳を振るえば、その衝撃波だけでメイジは木っ端の様に吹き飛び……

 

「だぁぁぁっ!」

 

 未来は無数の丸鏡を射出し、敵の攻撃を反射しつつ光線で撃ち落としていく。

 

「えぇいっ!」

 

 翼が手にした剣を振るえば、目にも留まらぬ斬撃が次々とメイジを切り裂き……

 

「ぜやぁぁっ!」

 

 クリスが手にした拳銃の引き金を引けば、放たれた光線は途中で枝分かれし全てがそれぞれ別々のメイジを狙い逃がす事なく追尾し直撃して撃ち落とした。

 

「そこだっ!」

 

 マリアはセレナと共に短剣をビームダガーを無数に投擲し、放たれた刃は全てが意志を持つ様に動きメデューサに襲い掛かる。

 

「「やぁぁっ!」」

「くっ!? ちっ、このっ!?」

 

 メデューサは四方八方から飛んでくる刃を魔力を纏わせた杖で弾くが、とてもではないが間に合うものではなく対応しきれない刃が切り裂き全身をズタボロにしていく。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 切歌と調はリヴァイアサンに同時に攻撃を仕掛けた。調は両手に持ったチャクラムのような丸鋸を、切歌は形状が変化した大鎌を、それぞれ振るって光の刃を飛ばした。リヴァイアサンは体を液状化させて2人の放つ斬撃を無力化するが、バーニングエクスドライブしている影響か放たれた斬撃は熱波を持っており液状化したリヴァイアサンは無力化できない灼熱によりダメージを受ける。

 

「はぁっ!」

「デースッ!」

「その程度、ぐっ!? あぁぁぁぁぁっ!?」

 

 装者達がそれぞれメイジや敵の幹部を相手取っている間に、ガルドと透の2人は颯人と奏により傷付けられたドレイクを追い詰めに向かっていた。

 

「おぉぉぉぉっ!」

「くっ!」

 

 ガルドはコスモスタイルとなると、手にしたマイティガンランスで斬りかかる。嘗ての自分の愚かさの象徴とも言えるソーサラーに変身したドレイクに対し、彼の攻撃は苛烈を極め振り下ろされた刃は地面を抉り足場を崩すほどの威力となって襲い掛かる。こんなのをまともに喰らっては敵わないとドレイクは何とかガルドの一撃を横薙ぎに弾く形で受け流す。とは言え一撃が非常に重い為、攻撃を弾こうとしたドレイクの手には城塞を殴りつけたような衝撃が走り僅かな時間だが腕に痺れが走る。

 

「ぐ、う……!?」

「ハァァァッ!」

「ッ!? し、しま……!?」

 

 事前に颯人と戦い、地球に帰還した彼と奏によりダメージを受けていた事も関係しているのだろうが、ガルドの攻撃を弾いて動きを止めてしまうドレイク。透はその隙を見逃さず、デュラハンの剣を抜き力の限り振り下ろす。立て続けに迫る攻撃に、ドレイクは対応が間に合わず回避も防御も出来ず唐竹に切り裂かれた。

 

「がはぁぁぁぁぁっ!? くっ、おぉぉっ!」

 

 ドレイクは透の攻撃に膝をつきながらもまだ諦めるつもりはないのか、右手の指輪を交換して魔法で分身を作り出す。

 

〈デュープ、ナーウ〉

 

 5人に分身したドレイクは一斉に魔法の矢を乱射し、ガルドと透の2人を絨毯爆撃で粉砕しようとした。だがドレイクが放った魔法の矢は、透から分離したデュラハンが全て切り払い無力化すると同時に突撃した透とガルドが振るう剣と槍によって分身が全て倒されてしまう。

 

 各所で仲間達が他のジェネシスの者を相手取っている間に、颯人と奏は2人でカーバンクルファントムに挑みかかる。

 

「ここで勝負を決めるぜ、ワイズマンッ!」

「お前らの企みも、ここで終わりだッ!」

 

 颯人のアックスカリバーと奏のアームドギアが同時にカーバンクルファントムに振り下ろされる。2人が同時に放った攻撃を、カーバンクルファントムは片手で受け止めるどころか逆に弾き返した。

 

「舐めてもらっては、困るねッ!」

「「くっ!」」

 

 勢いに乗った颯人の攻撃と聖遺物の力全てを発揮した奏の攻撃を同時に弾き返すカーバンクルファントムの膂力に、2人は空中で体勢を立て直しながら後ろに後退する。2人が離れるとカーバンクルファントムは今度は埒外物理による攻撃に頼らず直接前に出て颯人に狙いを定めて光の刃を振り下ろす。

 

「ぬぇいっ!」

「おっと!」

 

 カーバンクルファントムの膂力は大したものだ。ファントムとしての力を発揮した事と神の力を得た事が相乗効果となり、想像を絶するパワーを発揮した。だがそれも最強の防御力を持つインフィニティースタイルには通用しない。颯人もまたカーバンクルファントムの一撃を容易く受け止めてみせた。

 

 その瞬間、カーバンクルファントムは颯人に向けて手を伸ばした。彼の体に触れようとしているカーバンクルファントムの動きに、奏は奴が何をしようとしているかを察してそれを妨害する。

 

「させるかッ!」

「チッ……!」

 

 カーバンクルファントムの能力は魔力の強奪だ。相手の魔力を強制的に奪い取り、自分の力へと変えてしまう。先程はその力でキャロルの策を破って見せたのである。そして無敵に見えるインフィニティースタイルの唯一の弱点こそ、魔力を強制的に奪われる事であった。

 今颯人から魔力を奪われ弱体化される事は、希望が途絶える事に繋がってしまう。一方今の奏での戦いの糧はフォニックゲインであり、魔力は少しも消耗しない。今のカーバンクルファントムの攻撃を受け止めるのに、彼女以上の適任は居なかった。

 

 狙いが読まれ颯人への攻撃を妨害されたカーバンクルファントム。颯人はそこに滑り込む様に背後に回り込むと、アックスモードのアックスカリバーを叩き付け背中を大きく切り裂いた。

 

「隙ありぃッ!!」

「ぐぅっ!? えぇいっ!」

 

 背中を大きく切り裂かれ蹈鞴を踏んだカーバンクルファントム。破れかぶれになった様に光る剣を振るい颯人を切り裂こうとするが、その時には颯人はアックスカリバーをカリバーモードにして超高速移動でカーバンクルファントムの攻撃範囲から離れていた。

 

〈インフィニティー!〉

「くっ、ちょこまかと……!」

 

 カーバンクルファントムの攻撃を回避した颯人は、そのまま超高速移動で奏を回収し一旦距離を取る。その間にカーバンクルファントムが受けた傷は神の力により無効化され、傷一つない姿となったカーバンクルファントムに颯人は面倒くさそうに溜め息をつかずにはいられなかった。

 

「だぁぁ、もう。ああも直ぐに回復されると面倒だな。神の力って事は限界はないと思った方が良いだろうし……」

「一番有効なのは響の一撃だね。アタシのガングニールには神殺しの力は宿ってないし」

 

 神殺しの力が使えるのは響だからであり、同じガングニールでも奏はその力を使えない。彼女の言う通り今のカーバンクルファントムを確実に仕留めるなら、響に殴らせるのが一番だ。カーバンクルファントムが相手であれば響も拳を叩きつける事に躊躇はない筈。

 

 しかし響が自身にとっての天敵となる事はカーバンクルファントムも理解していた。そして今彼女の相手をしているのはごく僅かな数のメイジと装者達に追い詰められているリヴァイアサンファントムにメデューサ、ドレイクのみ。この状況に、カーバンクルファントムは一気に勝負を決めようと先程生成した賢者の石を取り出し魔力と神の力を流し込む。

 

「仕方がない、勿体ないがコイツを使わせてもらうか…………ムンッ!」

「ん?」

「何だ?」

 

 突然賢者の石を掲げて力を籠め始めたカーバンクルファントムに、何をするつもりなのか分からない颯人と奏は警戒して足を止める。すると賢者の石から触手の様な光が無数に伸び、それぞれが周辺で倒れているメイジやまだ戦っているメイジ、そして幹部達に絡みつき引き寄せていく。

 

「っ!? ワ、ワイズマン様、何をッ!?」

「ひ、引き摺られて……!?」

 

 突然の事に狼狽えるリヴァイアサンファントムとメデューサ。そんな中でドレイクだけは慌てるどころか寧ろ待ってましたと言わんばかりに抵抗する事なく引き摺られていった。

 

「……分かりました。この身、この命、全て貴方様に捧げましょうッ!」

 

 声高に叫びながらドレイクは変身を解くと、その姿をファントムのものへと変えた。ドレイクファントムは更に一緒に賢者の石に引き寄せられるメデューサに魔法を放ち、彼女の変身も解除させるとその姿をファントムへと変えさせた。

 

「ド、ドレイクッ!?」

「ワイズマン様は我らの力を欲しておられる。光栄に思えッ!」

「なっ!? そ、そんな……!?」

「お待ちくださいワイズマン様ッ!? 私は、私はまだ戦えますッ!」

 

 カーバンクルファントムが何をするつもりなのかに気付いたメデューサファントムとリヴァイアサンファントムが光の触手から逃れようとするが、カーバンクルファントムは2体の言葉を聞かずこの場に居る配下を全て賢者の石に集め神の力も利用して一つに纏めて再構成した。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「はっはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 リヴァイアサンとメデューサの断末魔の叫びが上がる中、ドレイクが高笑いしながら一つに纏められていく。賢者の石に集められたジェネシスの魔法使いとファントムはその存在と力を分解・再構築され新たな存在として新生させられた。

 

「グギャオォォォォォォッ!!」

 

「お、おいおい、アイツマジか……」

「自分の仲間を、あんな……!」

「外道め……!」

 

 この場にいるカーバンクルファントム以外の全ての魔法使いとファントムが一つに再構築されたのは、無数の頭を持つ蛇の様な存在であった。蛇は頭一つ一つがドラゴンの様であり、背中には大きな翼、尾にはヒレがついている。一つに纏められたファントム3体の特徴を有するそれは、しいて名前を付けるのであれば嘗て日本神話に登場したヤマタノオロチとでも言える存在であった。

 

 カーバンクルファントムは自身が作り上げた怪物ヤマタノオロチの頭の一つに飛び乗り、眼下の颯人達を見下ろした。

 

「ふ、ははは……! 死に掛けの連中でもこうすれば使い様があるという事だ。さて、覚悟は良いかね?」

 

 正に邪悪の権化とも言えるカーバンクルファントムの行いに、響でさえ嫌悪感を感じずにはいられない。身勝手にも程があるカーバンクルファントムは、この場で確実に倒さなければならないと思わせるには十分な凶行を見せた。

 

 そんな自分達を見下してくるカーバンクルファントムに、颯人は仮面の下から鋭い視線を向けるのであった。




と言う訳で第265話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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