魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
カーバンクルファントムが、自身の配下であったファントムや魔法使いを全て束ねて生み出した怪物ヤマタノオロチ。
それはその見た目に反する事なく、正に脅威としか言いようのない力を持っていた。
「さぁ、やれッ!」
「ッ! 来るぞ、避けろッ!」
8つある頭の一つの上に乗ったカーバンクルファントムが一声放つと、それぞれの口の中に周囲の空気が揺らいで景色が歪む程の熱量を持った焔が宿る。それを見た瞬間颯人は素早く周囲の仲間達に危険を知らせ、奏達がそれにただ事ではないと即座にその場を離れると直後8つの頭からそれぞれ超高温の火球が放たれ周囲を穿った。
「うぉぉぉぉっ!?」
「くそっ、滅茶苦茶な奴ッ!?」
「皆、無事かッ!」
「こ、こっちは大丈夫ですッ! 未来もッ!」
「あれ? でも颯人さんはッ!?」
颯人が一早く声を掛けた事もあって奏達は回避行動に移れたが、未来は周囲に散った者の中に颯人の姿がない事に気付く。自分で警告しておいて1人だけ逃げ遅れたのかと一瞬肝を冷やしたが、ヤマタノオロチを注視していた透はそうではない事に気付いた。
「違う、あそこっ!」
透が指さした先では、颯人が降り注ぐ火球と火球が炸裂して広がる炎の海の中を突っ切っていく姿が見えた。確かに、インフィニティースタイルの防御力を持ってすればあの火球も耐える事は出来ただろう。だが他の者達が距離を取った中で1人だけ敵に突っ込んでいけば、彼に攻撃が集中するのは自明の理。事実カーバンクルファントムは、迫る颯人に対し、全ての頭からの攻撃を雨霰とお見舞いした。
「フンッ、大した防御力だが……これに耐えられるかッ!」
カーバンクルファントムが言うが早いか、出し抜けにヤマタノオロチの目が妖しい光を放ち始めた。紫色を帯びた、あまり直視したくない不気味な光。それがあれに取り込まれたファントムであるメデューサの石化光線の光であると気付いた颯人は、光線が発射される寸前で敢えて前に飛び込み、ギリギリのところで四方から迫る石化光線を潜り抜ける。アダマントストーンの鎧であれば防げるかもしれなかったが、下手に反射してしまえば周囲、特に奏達に流れ弾が飛んでいってしまうかもしれない。それに今回は敵のサイズがサイズだ。下手に離れるよりは、近くに居た方が相手も攻撃を当てづらくなる。
颯人の意図に気付いた奏達もまた、彼の援護も含めてヤマタノオロチへと接近を試みる。クリス、マリア、セレナ、ガルドの4人が遠距離からの攻撃で奏達を援護し、その隙に奏達がヤマタノオロチへと殺到する。
「活路はアタシが切り開くッ! 透達はペテン師の援護だッ!」
「私達も手を貸すわ。セレナ、ガルドッ!」
「うんっ! マリア姉さんッ!」
「遠距離攻撃なら俺達に任せろッ!」
クリスの背後に浮かび上がった巨大なクリス自身の虚像が構えた拳銃から強烈な砲撃が放たれ、マリアが剣を振るえば長大な蛇腹剣となり遠距離からヤマタノオロチの首を薙ぎ払う。セレナが無数のビームダガーでエネルギーフィールドを形成すると、そこに飛び込ませる形でガルドが砲撃を叩き込みセレナのバックアップを受けた彼の砲撃は威力を増してヤマタノオロチとその上に居るカーバンクルファントムを消し飛ばそうとする。
普通の敵であればこれだけで十分に倒せたであろう。しかし今彼らが相手にしている相手は常識が通じる相手とは言い難いカーバンクルファントム。そんな希望的観測など鼻で笑う様にやり過ごしてしまった。
「フンッ……!」
「おっととッ!」
仲間達の攻撃の巻き添えにならないよう、咄嗟にヤマタノオロチのすぐ傍で伏せる颯人。何事も無ければ、クリス達の攻撃はヤマタノオロチを吹き飛ばしあわよくばカーバンクルファントムを振り落としてくれる筈であった。
しかし現実は彼の予想の斜め上を行った。何とヤマタノオロチはクリス達の攻撃が当たる瞬間、体を液状化させてその攻撃を無力化させてしまったのである。
この光景には攻撃したクリス達は勿論、間もなくヤマタノオロチに接敵しようとしていた奏達も驚愕に開いた口が塞がらなくなった。
「な、ぁ……!?」
「これってッ!?」
超高温の火球はともかく、先程颯人を迎撃しようとした石化光線に加え、この液状化能力。これらは何れも、ヤマタノオロチの元となったファントム達の能力に他ならなかった。
ここで彼らは、ヤマタノオロチがただ図体がデカいだけの怪物ではなく、厄介な能力を併せ持つとんでもなく面倒な相手である事を理解したのである。
「ど、どうするデスかっ!? あれじゃあ、こっちの攻撃が通じないデスッ!」
「あの大きさだと、熱攻撃も効きにくい……」
「かと言って無暗に切りつけても、攻撃はあの怪物の体を素通りするばかり」
「それじゃあ、ワイズマンさんの方を直接攻撃するしかないんじゃ……」
「難しいでしょうね。あの怪物は首が8つある。1つがワイズマンの特等席になっているのを差し置いても、残る首は7つ。その7つの首の攻撃を搔い潜って、ワイズマンに辿り着くのは恐らく容易ではありません」
透の分析の通りだった。ヤマタノオロチの首はそれぞれがそれぞれの判断で動く事が出来る。故に、一見すると怪物1体にカーバンクルファントムの計2体が敵に思える状況でも、実質的には敵が9体居る計算になった。そうでなくともあの見上げるような巨体は、1人2人で相手をするのは手に余る。ヤマタノオロチのサイズもあって、戦況は決して楽とは言い切れなかった。
「オォォォォォッ!」
そんな中でも、颯人は果敢にカーバンクルファントムに挑もうと奮闘していた。彼はヤマタノオロチの巨体を生かしてよじ登ると、カーバンクルファントムが陣取っている首を駆け上りカリバーモードのアックスカリバーを叩き込む。颯人の接近に気付いたカーバンクルファントムは、右腕の腕輪から光の剣を伸ばし振り下ろされたアックスカリバーを受け止めた。
「ハハッ! 今更インフィニティーとやらで、私に対抗できると思ったかッ!」
「さて、そいつはやってみないと分からねえぜッ!」
そのままヤマタノオロチの頭上で切り結ぶ颯人とカーバンクルファントム。技巧を活かした颯人の動きは相手を惑わし、視線を誘導して攻撃や回避を空振りさせる。時には別の頭の上に移動し、距離が離れた状態でアックスカリバーのハンドオーサーを5回タッチし必殺技をお見舞いした。
「コイツでどうだッ!」
〈ハイハイハイハイハイタッチ! プラズマシャイニングストライク!!〉
連続で5回タッチした颯人が、アックスカリバーをブーメランのように投擲した。放たれたアックスカリバーは彼の手の動きに連動して意のままに動き、1度はカーバンクルファントムに弾かれたがその後何度も迫り遂には防御を打ち破り、腕輪を身に着けた右腕を切り落とす事に成功する。
「ぐぉぉぉっ!?」
「さて、どうだ?」
神の力がカーバンクルファントムに力を与えているのであれば、その源である腕輪をつけている腕を落としてしまえば何とかなるのではと考えた上での颯人の攻撃。切り落とされた腕はそのまま重力に引かれて落下していき…………
しかし次の瞬間には光のフィルムとなって、再びカーバンクルファントムの右腕に戻ってしまった。
「チッ、そう上手くはいかねえか」
「残念だったね。これで君らの切り札は、名実ともに立花 響のみと言う事になった訳だ。尤も? だからと言って君らに私を下せるとは到底思えないけれどね」
勝ち誇るカーバンクルファントムを前に、颯人はさてどうしたものかと思案する。腕を切り落として神の力を引き剥がす作戦は失敗した。となると、やはりカーバンクルファントムの言う通り響がこの戦いの肝となる事は明白である。
問題は響をどうやって奴まで近付かせるか、そして奴に攻撃を当てさせるかであった。響の事はカーバンクルファントムだって警戒している。それをさせない為のヤマタノオロチだろう。現に今もヤマタノオロチは他の首が総出で主に響を狙って攻撃している。今は奏や翼が響をフォローしつつ、颯人の援護とカーバンクルファントムへの攻撃の為に前に進もうとしているが、苛烈な攻撃を前に思う様に動けていない。バーニングエクスドライブも何時まで持つかは分からない以上、あまり長々と時間を掛けてはいられなかった。
「いや……手がない訳じゃねえか」
颯人はカーバンクルファントムと睨み合いながら、頭の中で作戦を練っていく。彼は神の力で得られる恩恵とカーバンクルファントムの能力を頭の中で整理して、今自分達がとるべき攻略法を模索した。
そしてその中で、ある意味最も現実的な攻略手段を構築しそれを伝えるべく一旦奏達との合流を図った。
だが彼が行動を起こすよりも、ヤマタノオロチが動く方が早かった。ヤマタノオロチは颯人がカーバンクルファントムが乗っているのとは別の頭に乗っているのを見て、迷わずその頭に向けて2つの首が火球で彼を攻撃した。彼が乗っている頭に直撃する事もお構いなしにだ。
「うぉっと!?」
咄嗟に上に飛んで回避した颯人だったが、そこに2つの頭からの火球を液状化して逃れた頭が襲い掛かる。大きく口を開けて颯人の事を飲み込もうとしている首に対し、彼はアックスモードにしたアックスカリバーを振り下ろした。
「こなくそっ!」
自身が攻撃する瞬間は液状化出来ないのか、ヤマタノオロチの口にアックスカリバーの斧部分が直撃する。この攻撃で颯人の体は逆に浮かび上がり、ヤマタノオロチが口を閉じるがそこに彼の体はなく逆に足場を提供するだけになった。
「一旦あばよっ!」
〈ライト、プリーズ〉
颯人はヤマタノオロチの口を足場にジャンプすると、同時にライトの魔法で眩い光を放ちカーバンクルファントムとヤマタノオロチの目を眩ませた。光は彼が足場にした首だけでなく、他の首をも怯ませこの瞬間装者達への攻撃が一時的にだが止んだ。その隙に颯人は一旦ヤマタノオロチから距離を取り、奏と合流し素早く作戦会議を行った。
「ふぃ~、あぶねぇあぶねぇ。なかなかに厄介だな」
「ハヤト、大丈夫かッ!」
「ん? あぁ、問題ない問題ない。それより皆、一つ策を思い付いた」
「策? ワイズマンを倒す為の?」
「あぁ、そうさ。時に未来ちゃん、ちょっとシェム・ハに取り次いでほしいんだけど?」
「は、はい? 何ですか?」
颯人がシェム・ハにある確認をする為未来に話し掛ける。その間にカーバンクルファントムとヤマタノオロチは体勢を立て直し、颯人が何やら悪だくみをしているのを見てそれを妨害しようとヤマタノオロチに攻撃をさせた。だがそれはガルドに透、そしてクリスと切歌、調らが迎え撃ち邪魔されるのを防いだ。
「俺達には後で説明してくれッ! 透、奴の攻撃を通すなッ!」
「はいッ!」
「透だけに任せておけるかッ! お前らも行くぞッ!」
「はいデスッ!」
「切り刻むッ!」
放たれる火球を透とガルドが防ぎ、クリスが反撃をお見舞いする。案の定彼女の攻撃は全て液状化で無力化され、お返しとばかりに石化光線の発射体勢に移る首が幾つかあった。それを切歌と調は許さず、魔力を溜めた眼光を確認するとその首を優先的に切り落としに掛かった。体を液状化出来てしまう為2人の斬撃も意味をなさないが、切断される瞬間石化光線を放つ為に充填されていた魔力が液状化に回され霧散する。彼女らはこれを繰り返して、一番危険な石化光線だけは防ごうとしていた。
「おいペテン師ッ! 何か考えがあるならさっさとやれッ! こっちもそんなに長くは持たないぞッ!」
「分~かってるって! ちょいと待っててくれッ! それで未来ちゃん、どうだって?」
クリスからの要請に答えつつ颯人が未来に確認を取ると、彼女は内面のシェム・ハとの会話を終え颯人の問い掛けに答えた。
「あ、えっと、少なくとも颯人さんが考えてる程危険な事にはならないだろうって」
【ウム。あの再生能力は飽く迄もダメージを追う前の状態に戻す事が目的であり、再生を重ねて何か変化が起こると言う事はまずない】
未来の答えにシェム・ハが補足を加える。それも込みで颯人に伝わると、彼は顎に手を当てて何度か頷いた。
「なるほどなるほど……となると、何とかなるかもしれねえな」
「颯人、何かいい作戦でも考え付いたの?」
「あぁ。上手く行けば、あのデカブツとワイズマンを纏めて始末できるかもな」
「颯人、それマジかッ!」
「あぁ、マジマジ。ま、上手く行けばだけどな」
その時、颯人達の作戦会議を邪魔しようとしたのか、カーバンクルファントムが直々に埒外物理の攻撃を放ってきた。銀色の光線が彼らを凍てつかせようと放たれたが、間一髪それに気付いた颯人がアダマントストーンの鎧でそれを受け止め周囲に拡散させる形で弾いた。結果銀色の光線は颯人を起点に無数に枝分かれし、奏達を避けて後方に降り注ぎそこを一瞬で極超低温の氷の結晶を無数に作り出す。
「あっぶね、油断も隙もねえな」
「すみません、私がもう少し警戒しておけば……」
「セレナの責任じゃないから心配するな。それじゃ、颯人?」
「あぁ…………
いい加減そろそろ、このショーもお開きにするぞ」
と言う訳で第266話でした。
展開がちょっと遅くてすみません。でも流石にそろそろXV編も終わりが見えてきました。あと数話もしない内にXV編完結となる予定ですので、どうかお付き合いくださいますようよろしくお願いします。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。