魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回でXV編は完結です。
ワイズマンことカーバンクルファントムを太陽に放り込んだ颯人と奏は、2人揃って地球へと帰還した。大気圏突入の際の摩擦熱は、今の2人にとって最早気にする程の事も無く全身を摩擦熱で熱せられながらも2人は涼しい顔をして仲間達が待つ鎌倉へと降り立った。
「お、颯人、周り見てみろ」
「ん? おぉ……!」
大気圏を抜け、熱せられた空気で赤く染まっていた周囲が元に戻る際、奏に言われて周囲を見渡した颯人は世界各地に屹立していたユグドラシルが崩壊し空の色が元に戻りつつあるのを確認して安堵の声を上げた。どうやらカーバンクルファントムが太陽まで飛ばされた事で地球のユグドラシルシステムとの接続が切れたのか、機能を停止したユグドラシルが崩壊し始めたらしい。
そう思い大地に降り立った2人を、響や翼を始めとした仲間達は安堵の笑みで出迎えた。
「颯人さんッ! 奏さんッ!」
「やったんですねッ!」
「へっ、アイツ等なら当然だろ」
「ともあれ、これで一件落着ですね」
2人の帰還とユグドラシルの消失で、響達は2人が勝ったことを確信。そんな彼女らに出迎えられてこちらも安堵する颯人達に、未来と入れ替わったシェム・ハがどこか面白くなさそうな声色で割り込んできた。
「何を言う、ユグドラシルを止めたのは我の方ぞ」
「え? そうなの?」
「まぁ、お前達が奴をこの星から追い出してくれたからでもあるがな」
ヤマタノオロチを倒し、颯人と奏がカーバンクルファントムを地球外へと放り出し始めたのを見たシェム・ハは、未来と交代して表に出るとユグドラシルシステムの基部へと向かいシステムを操作して停止させたのだ。神の力を奪い取られたシェム・ハではあったが、操作用に機械に接続されていたことが幸いした。干渉する事が出来ればこちらのものと、シェム・ハはユグドラシルシステムを強制停止させ、今後二度と起動する事が無いようにとシステムそのものを破壊したのだ。これでもう二度とユグドラシルシステムが動き出す事はない。
人知れず行動して地球と地球上の全生命の為に動いてくれていたシェム・ハに、その活動に気付かなかった事への謝罪と感謝を交えて響が彼女の手を握り締めた。
「ありがとうございます、シェム・ハさんッ!」
「む……ふん、気にするな。どの道もう我には必要のない存在だ」
素直に感謝される事に慣れていないのか、シェム・ハが表に出た未来はそっぽを向いてしまう。そんな姿に微笑ましいものを感じながら、ガルドは朝焼けに染まり赤くなった空を見上げながら胸いっぱいに空気を吸いながら全身を解す様に体を伸ばした。
「ふぅ、くぅ~~……はぁ。ともあれ、これで一件落着か」
「そうね。ジェネシスも終わり。やっと平和がやって来たって感じかしら」
「もう、戦わなくていいんだね」
「疲れた……」
「デ~ス」
今最も世界を騒がせていた組織の首魁が倒れた事に、若者達は多くが肩から力を抜いていた。
そこに声を掛けたのは、巻き込まれないようにと離れていた輝彦、キャロル、ハンスの3人だった。
「安心するのはまだ早い」
「え?」
水を差す様な輝彦の声に、キャロルが言葉を続けた。
「そうだな。まだ火種が消えたとは言い切れない」
「でもジェネシスのボスはもう居なくなっちゃった訳デスし……」
「馬鹿、あれで全部とは限らねえだろうが」
キャロルの言葉に反論しようとした切歌の言葉をハンスが遮る。それを言われて翼は気付いたようにハッとなった。
「まさか、残った魔法使いが騒ぎを起こすと?」
「でも確か、ジェネシスの魔法使いってワイズマンに洗脳されてるんでしょ? その洗脳してるワイズマンが居無くなれば、それも解けるんじゃないの?」
「洗脳されてるならな? だが実際問題、本当にあのワイズマンに心から従ってる奴がいないって保証は無いだろうが。幹部連中は自分の判断で動けるし、場合によっちゃワイズマンの敵討ちを考える奴と書いてもおかしくない」
言われて確かにと頷く翼達。ワイズマンの非道な行いが真っ先に思い浮かぶので意識していなかったが、ジェネシスの中には嘗てのガルドの様に何らかの理由で従っている者も存在した。ガルドの場合は無理矢理従わされていたパターンだったが、その逆で洗脳されずともワイズマンに従っていた者が居ても不思議ではない。
そして奏は、その魔法使いに1人だけ心当たり……と言うか、他と明らかに雰囲気が違う魔法使いの存在に気付いた。
「……そう言えば、グレムリンって誰か倒したか?」
『『『!?』』』
奏の一言に、その場に居た全員の脳裏に衝撃が走った。
…………ただ1人、颯人を除いて。
「言われてみれば、先程も遺跡でも、ロケット発射台でも奴を見かけていない……!」
「クソッ! よりにもよってあの野郎だけ生き残ってやがるのかよッ!」
「マズいですね……グレムリン、彼だけは今思い返しても他の幹部とも違ってました。恐らく、彼は洗脳されていないのかも……」
「つまり、洗脳されてない幹部が今も野放しにされてるって事ッ!?」
「ガルド君……!?」
「大丈夫だ、心配するな」
他人を弄び、貶める事に悦びを感じる様な、ある意味で本当のロクデナシが生き残っていると言う事実に動揺する装者達。ガルドは不安を露にするセレナを安心させるように抱き寄せ、透は今この瞬間にもグレムリンがこちらを狙っているのではないかと周囲を警戒する。
その彼らの耳に、本部から飛び立ったヘリのローター音が響く。颯人がそちらを見上げれば、見慣れたヘリが2機こちらに向かって飛んでくる様子に肩を竦めながら一息つく。
「ま、難しい事はまた今度考えよう。何であれ、ワイズマンを始め幹部の殆どは倒せたんだ。生き残りに関してはオイオイ倒すかとっ捕まえるかするとして、今日の所は一旦帰ろう。流石に疲れたし」
「……そうだな、颯人の言う通りだ。奏ちゃんも皆も、今日は疲れただろう? 一度戻って、ゆっくり休むといい」
颯人と輝彦の言葉に、奏達は一抹の不安を感じながらもその通りだと警戒を解いた。幾らグレムリンが生き残っていたとしても、流石に今この場で仕掛けてくるほど愚かではないだろう。そんな事をすれば返り討ちに遭うのは目に見えている。無論、彼にある程度の常識があって、リスクとリターンを天秤に掛けられるだけの分別があればの話だが。
着陸した迎えのヘリに、奏達が次々と乗り込んでいく。機内に入った奏達は、シートに腰掛ける成りドッと疲れが押し寄せたのか瞼が重くなるのを感じ次々と沈む様に機内で眠りについていく。まだ離陸前だというのに機内のシートに腰掛けた状態で互いに肩を寄せ合い眠る装者や魔法使いを見ながら、最後にヘリに乗り込もうとする颯人。
だが彼はヘリに片足を掛けた所で動きを止めると、明後日の方を睨み付けるように見た。
「…………」
「颯人? どうした?」
「ん?……いや、何でも」
何時まで経っても乗り込んでこない颯人を不思議に思った奏が彼に声を掛けると、彼は思い出したように返事をしてから乗り込み扉を閉めた。彼が乗ったのを確認してからヘリは飛び立ち始め、その場を離れ本部潜水艦へと向かっていった。
離れていくヘリの姿を、遠く離れた所から見つめる一つの視線があった。颯人とはデザインの違う帽子を被ったその者の視線は、米粒の様に小さくなるヘリを暫くジッと見つめ、流石に肉眼で見るのが難しくなるほど小さくなると口元に小さく笑みを浮かべながら口を開いた。
「ま、今回は勝ちを譲ってあげるよ。最後に勝てば良いんだし」
「それまで、彼女はもう暫く預けておくからね♪」
そう呟いた帽子の男……グレムリンことソラの手には、ほんのり赤く輝く宝石の様な物と、同じく赤黒い枝の様な物が握られているのだった。
***
ジェネシスとの決戦を終えて、世界は一応の平和を取り戻していた。
首魁であるワイズマンを失ったからかジェネシスの生き残りと思しき魔法使いは世界中で活動を止め、中には洗脳が解けて正気に戻る者も少なくない。そんな正気に戻った魔法使いの中には、魔法と言う技術や力を解析しようとアメリカやロシアの研究機関が捕らえようと動く事もあった。
ジェネシスとの戦いを終えた颯人達は、魔法の悪用や生き残った魔法使いへの非人道的実験を防ぐ為世界中を駆け回る事になり、戦いを終えたというのに尚忙しい日々を送る事となった。
そんな中でも奏は翼と共に歌姫として、ジェネシスの起こした騒動により疲弊した人々を癒す為歌を歌い続け、その中で行動がかち合ったら颯人と共に事態の収拾の為戦いに赴いていた。
大きな山場を越えた事で余裕が出来たアリスは、改めてヴァネッサ達ノーブルレッドの治療を開始。培った技術を総動員して、見事に3人を元の人間に戻して見せた。念願の人間に戻れたことに3人は涙を流して互いに喜びを分かち合い、今は取り戻せた日常を噛みしめていた。
記憶を取り戻したキャロルは、ハンスと共にその後もS.O.N.G.に身を置き続けた。自身の記憶と、ハンスを助けてもらった事への彼女なりの感謝の印であった。S.O.N.G.としても、錬金術師として優れた彼女の存在は非常にありがたかった為、新たな協力者として彼女を迎え入れた。
尚その事に誰よりも喜んだのは響だったのだとか。
漸く取り戻せた平和を、誰もが思い思いに享受している。何事も問題がないとは言わないし、未だ火種は消えていないので決して油断はできないが、それでも今この瞬間は世界は平和だった。
だが颯人はある確信を持っていた。きっと近い内にまた大きな戦いが起こる事を。
そしてそれが、ある一つの決着となるだろう事を…………
と言う訳で第268話でした。
宣言通り今回でXV編は終了です。
次回以降はまた数話ほどしないフォギア編を更新して、然る後に本作の完結編となるエクストラストーリーを描いて終了とさせていただきます。
それまでどうかお付き合いくださるよう、よろしくお願いします。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。