魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はXVでのしないフォギア編第1話。取り合えずXV本編中では後回しにしていた諸々の問題を第一に解決していきます。


魔法絶唱しないフォギアXV編
多忙な錬金術師


その1:賢者の石の行方

 

 ワイズマンことカーバンクルファントムとの決戦が終わった後、颯人達魔法使いや装者は戦いの疲れを癒す為本部へと帰還し、そこから各々心安らげる場所へと帰っていった。思えば月遺跡に飛ばされたり地球に帰ってきたりと、宇宙空間を行ったり来たりで本当に忙しい時間を過ごしたのだから、彼らだって疲れて当然だ。

 

 だが彼らが戦いを終えた後も、S.O.N.G.と言う組織そのものは忙しかった。特に事後処理や後片付けには、アリスを始めとした技術班が忙しなく動き回る。

 

 そんな中でアリスが最優先で行ったのは、戦いの最中に砕けたと思しき賢者の石の回収であった。あれは錬金術師や魔法使いが手にすればどんな厄介な事態を引き起こすか分かったものではない。

 ヤマタノオロチが倒れた地点を中心に、決戦の地となった場所を隈なく捜索した結果、彼女は目的の賢者の石を複数個発見し回収する事が出来た。カーバンクルファントムが作り出した石が一つだったのに対して、見つかったのが複数事言う表現なのは、案の定響の一撃で石が砕けてしまったからであった。

 

 目に映る範囲で石を全て回収し、更には錬金術を用いた捜索を経て、回収された賢者の石はその後アリスの工房へと運び込まれ、そこで新たな力として生まれ変わる事となった。

 

 

 

 

「――――で、これがその?」

「えぇ。あなたの新しいファウストローブですよ、キャロルさん」

「ふむ……」

 

 アリスの工房には今、部屋の主であるアリス本人の他にはキャロルとハンスの2人が居た。アリスの前で、キャロルは先の決戦で失ったダウルダブラのファウストローブに代わる新たなファウストローブを身に纏っている。

 

 新たなキャロルのファウストローブは、当然だが以前のそれとは大分趣が変わっていた。

 濃い目の紫が基本カラーだったダウルダブラに比べて、新しいファウストローブは白を基調としている。肩から二の腕、腹、太腿部分は露出し、背中には裏地が赤の白いマント。頭には魔法使いのとんがり帽子を思わせる帽子を被っている。

 

 新しいファウストローブの着心地に、キャロルは体を捻ったりして具合を確かめていた。当然だが基本的にファウストローブもシンフォギアも、装着する者の体にジャストフィットするように出来ているので着心地が悪いなんて事はあり得ない。実際キャロルは不快感を感じる事無く、快適その物な着心地に満足そうに頷いた。

 

「うん、悪くない」

「それは良かったです」

「似合ってるじゃないかキャロル」

「ふふん、当然だ」

 

 ハンスからの称賛に、嬉しさを感じつつも当然と胸を張るキャロル。そこで工房の扉がノックされた。

 

「はい?」

『お~い、母さ~ん? 連れて来たぜ~』

 

 扉の向こうから聞こえてきたのは颯人の声だ。その声にアリスは、()()()()()()()()()()()()頷き扉を開いた。

 

「ありがとう。さ、こちらに」

 

 アリスが扉を開けると、部屋には颯人の後に続いて4体のオートスコアラー達が入ってきた。さらにその後ろには、錬金術師協会の長であるサンジェルマンまでもが居る。

 

 部屋に入ると、颯人は新たな装いとなったキャロルとその隣に立つハンスに目を瞬かせた。

 

「お? それが新しい……んん?」

「何だ、明星 颯人? 俺の顔に何かついてるか?」

 

 部屋に入るなり颯人は怪訝な顔でハンスとキャロルの事を見た。いきなり注目された事に不快さを滲ませるハンスだったが、颯人はそれを無視して彼を指差し訊ねた。

 

「キャロルはまだしも、何でお前は普通にデカくなってるんだ?」

 

 颯人が注目したのはハンスとキャロルの身長であった。普段この2人は子供の容姿であり、戦う為変身する時限定で大人の姿となる。キャロルはファウストローブを纏っている為大人の姿になっていても違和感はないが、ハンスがその姿に平時でなっている事には違和感を覚えたのだ。

 

「あぁ、その事か。もう必要ないからな」

「必要ない?」

「あの姿はパパが受けた仕打ちを忘れない為の決意の表れだ。あの時の気持ちを、二度と忘れないようにとな」

「だが、もうその必要は無い。そうだろ、キャロル?」

「あぁ」

 

 謂わばあれは、キャロルの父イザークが不当に処刑された事への怒りを忘れない為の、時間を自ら停止させる為のものであった。だがキャロルは、父の真の願いを正しく理解した。ならばもう、あの時のまま時間を止めておく必要は無い。これからは明日に、未来に向けて歩むのだ。その為の第一歩として、2人は精神に相応した容姿に自らの肉体を成長させたのである。

 

「これでお前らにガキンチョ扱いされずに済むってもんだ」

「んな事に拘ってる時点でガキンチョだっての」

「あんだと?」

「んん?」

 

 得意げな顔をするハンスであったが、颯人はそんな彼を敢えて挑発し、彼もそれに乗りメンチを切ってきた。颯人もそれに応えようとしていると、それぞれをアリスとキャロルが宥めた。

 

「颯人、そこまでです」

「ハンスもだ。そいつは相手をするだけ思う壺だぞ」

 

「「……フン」」

 

 どうもこの2人は変に馬が合わないのか、顔を合わせればこうして互いに威嚇し合う。その事にアリスが軽く頭を抱えていると、連れて来られたオートスコアラーの1体であるレイアが口を開いた。

 

「ところで、私達がここに連れて来られた理由を地味に聞いていないのだが?」

「あぁ、そうでしたね」

「まぁマスターの元気そうな姿を拝めたのは素直に感謝しますけど、それだけの理由でガリィ達を呼んだ訳じゃないんでしょう?」

 

 ガリィがそう言ってサンジェルマンの方を見れば、彼女も頷きアリスに声を掛けた。

 

「頼まれていた処置は全て済んでいるわ。後は実際にテストしてみて、ね」

「ありがとうございます、サンジェルマン様。こちらはそのお礼です」

 

 そう言ってアリスが差し出したのは、最終決戦の場から回収した賢者の石の一部であった。サンジェルマンはその石を受け取り、満足そうに頷く。

 

「助かるわ」

「いえ、こちらこそ」

「な~な~、アタシ達は結局どうなったんだゾ? ただ直っただけじゃないのか?」

 

 チフォージュ・シャトーでの戦いで機能停止したオートスコアラー達は、あの戦いの後置き場所が無かったので一時的にサンジェルマンの下で預かってもらっていた。本来であればキャロルが直々に修理したかったのだが、状況がそうも言っていられなかった為已む無く修理と改修をサンジェルマン達錬金術師協会へと委託していたのだ。

 

 ミカが疑問に対し、アリスは頷くとキャロルへと視線を向けた。

 

「そうですね。先ずは早速実践してみましょう。キャロルさん、お願いします」

「分かった」

 

 アリスの言葉にキャロルは頷き、右手の指をパチンと鳴らした。すると4体のオートスコアラーの体が光ったかと思うと、次の瞬間オートスコアラー達はそれぞれ金色の台座に嵌った赤・青・緑・黄色の宝石へと姿を変えたではないか。

 その光景に傍から見ていた颯人と、体が変化したオートスコアラー達は驚きを露にする。

 

「おぉぉっ! 何だこりゃッ!」

『わわっ! 何だゾ何だゾッ!?』

『何これどうなってるのッ!?』

『これは、地味に予想外……』

『マスター、これは?』

 

 4つの宝石からはそれぞれオートスコアラー達の声が響き、キャロルが手を動かすとそれに合わせて4つの宝石も自在に動き回る。その光景にアリスとキャロルは笑みを浮かべた。

 

「どうやら、成功みたいですね」

「あぁ」

「母さん、キャロル、どう言う事?」

 

 オートスコアラー達を修復するに当たって、最大の問題は彼女達の動力であった。元々は想い出を燃料として動く彼女達は、ガリィが他者から奪い取った想い出を供給する事で動く事が出来る。だが今後、キャロル達はS.O.N.G.の仲間として活動する事となる。そうなると、他者を犠牲にする様な動力を何時までも使い続ける訳にはいかない。

 

 そこで考えられたのが、回収した賢者の石を用いる事であった。想い出を必要としているのは、それを焼却する事で得られる魔力を動力源とするから。ならば、同じ魔力を得られるのであれば、魔法石の一種である賢者の石を使う事も可能であると考えたのである。

 

 とは言え、彼女達に使った賢者の石は謂わば端材に等しい。キャロルのファウストローブを作る際に出来た端材を加工し、それを動力源とする事で彼女達は再び動く事が出来るようになったわけだ。尚、その動力を動かす魔力の元はと言えば、キャロル経由でハンスから送られる魔力となる。

 

「つまり今後、あなた達は勝手な行動が出来なくなるという事よ」

『まだるっこしいわね~。そんな事しなくたって、ガリィ達はマスターの言う事に逆らわないってのに』

「外部から目に見えて分かる形で、あなた達が勝手な事をしないと見せつけないといけないのよ」

 

 キャロル一派は以前の魔法少女事変で多大な被害を出した。そんな彼女達を味方とする為には、第三者の目から見て分かりやすい首輪の存在が必要だったのである。これはその一つであり、他にはガリィ達は基本的に攻撃力を削がれる等の処置がとられていた。そうしないといざと言う時に反乱の可能性があると取られるからだ。

 

「唯一の例外は、今の状態です。今のあなた達は謂わばキャロルさんの武器みたいなもの。半自律機動型の浮遊砲台の様なものですね」

『私達の意思で攻撃も出来るけれど、基本的にはマスターの意思に従うという事ですね?』

「そんな感じです。あぁそれと、普段から使える力として障壁と転移は残してあります。理由は、言わなくても分かりますね?」

 

 防御と撤退の手段を残したのは、いざと言う時には彼女達にも非戦闘員の防衛や退避の手伝いをしてもらう為だ。抵抗の手段を何一つ持たないというのは、それはそれでいざと言う時に非常に困る。せめて自分の身はある程度自分で守り、可能であれば近くに居る逃げ遅れた人を守ったり連れて逃げて欲しい。それが結果的にキャロルの手助けとなるのであれば、オートスコアラー達にとって否は無かった。

 

『分かった、分かりましたよ。マスターの為です。精々頑張らせていただきます』

「そう不貞腐れないでください。その状態のあなた達は、キャロルさんの錬金術をサポートするのに最適な機能を携えているんです。今まで以上にキャロルさんの助けになれるのですから、寧ろ誇っても良いと思いますよ」

「そう言う事だ。今度は、一緒に戦うぞ」

「頼むぜ、お前ら」

 

 アリスの言う、純粋にキャロルの為の戦いが出来る。その言葉は、心がない筈の彼女達オートスコアラーの胸を震わせた。思えば元々は、呪いの魔剣に討たれて呪いの旋律を回収する為の、破壊される事が目的だった彼女達。だが今度は最後まで生きてキャロルの為に戦える。それは被造物冥利に尽きるというものであり、キャロルとハンスからの期待を込めた言葉により更に強く感じた。

 少なくとも終わりが定められていた前回の躯体よりは、遥かにマシな待遇であると言えた。

 

『承知しました。派手にご期待ください』

『今度こそ、最後まで……』

『マスターの為ならアタシ達は幾らでも』

『がんばるゾーッ!』

 

 キャロルとハンスの言葉に、オートスコアラー達が変化した宝石達は嬉しそうに彼女の周りをフヨフヨと飛び回る。その光景にアリスとサンジェルマンは、いい仕事をしたと言いたげに笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2:怪物から、人へ

 

「…………予想はしていましたが、やはりヴァネッサさんだけは少し骨が折れそうですね」

「え……?」

 

 ジェネシスとの決戦後、状況が落ち着くとアリスは早速ノーブルレッドの3人の治療に取り掛かった。

 

 アリスが生み出した技術を、結社により誤った使い方をされ人ならざるモノへと変えられてしまった悲しき3人。この内ヴァネッサに関して、アリスは1つの懸念を抱いていた。そしてそれは、落ち着いた状況になって詳しく調べた事で間違いではなかったと確信されたのである。

 

 そんなアリスの呟きに、検査を受けたヴァネッサは不安の声を上げる。

 

「ど、どう言う事ですか? 私、治せるんじゃ……」

「あぁ、すみません。不安にさせてしまいましたね、ごめんなさい」

 

 咄嗟に出てきた呟きが、ヴァネッサを不安にさせてしまった事に自らの失言を恥じて頭を下げるアリス。これ以上彼女を不安にさせまいと、アリスはまず結論から先に述べた。

 

「まず最初に言っておきますけど、ヴァネッサさんの事を治せるかどうかと言われれば、確実に治せます。ただ、あなたの場合は他のお2人とは少し事情が違うので」

 

 3人の内ミラアルクとエルザに関して言えば、2人は元々人間には無かったモノを無理矢理付け加えられているという状態なので、その逆をすればいいという単純な話で済んだ。尤もその単純はアリスなど一部の天才にとっての単純であり、普通の錬金術師などからすればそう単純な話でも無かった訳だが。

 

 やる事が決まり切っている2人に対して、ヴァネッサの方は少々事情が異なったのである。

 

「ヴァネッサさんは、実験中の不慮の事故で損傷した体をファウストローブ技術で補っているという状態です。つまり、元々あったモノを別のモノに置き換えている。なので、ヴァネッサさんを元に戻す場合、置き換えているモノの代替となる存在が必要なのです」

 

 仮にヴァネッサに対してミラアルク達に行うのと同じ処置をした場合、彼女は体の臓器などがスカスカな状態となってしまう。それでは意味がない。かと言って彼女の元の体の大部分はとっくの昔に失われてしまっている。その事実にヴァネッサの表情が曇るが、それに対してアリスはある提案をした。

 

「ですので、ヴァネッサさん? いっその事、今ある体を全て捨てるというのはどうでしょうか?」

「へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ミラアルクとエルザの2人は本部潜水艦の廊下を響とクリス、透の3人に連れられて歩いていた。

 

「しっかし、ヴァネッサだけ随分と時間が掛かったんだゼ」

「仕方がないであります。アリス殿に言わせれば、ヴァネッサの治療には自分達以上の手間が掛かったようでありますし」

 

 この2人は前述したように処置自体はとても単純だったので、理論をアリスから教授されたキャロルとエルフナインにより一早く人間に戻っている。ミラアルクは耳の形状が普通になっているし、翼も無く爪は短く、魔眼なども使う事は出来ない。エルザだって髪の毛に隠れていた犬耳は無くなり、嗅覚は元に戻っているし腰の後ろのテールアタッチメントも無かった。

 以前に比べれば明らかな弱体化。だが2人はそれを不幸どころかこれ以上ない喜びとして受け入れ、念願の人間としての体に戻れたことを涙を流して喜んだ。本来であればこの喜びは共に苦楽を共にしたヴァネッサも共にしたかったのだが、その彼女は1人処置に時間が掛かるという事でなかなか対面する事が出来なかった。

 

 ヴァネッサの処置が終わるまでの間、2人は一応捕虜と言う立場でもあるので本部内の独房に収容されていた。収容と言っても殆ど形だけであり、出入りは半ば自由で食事も食堂でとる事が許されていた。彼女達は半ばジェネシスに脅されて加担させられていただけの、ほぼほぼ被害者も同然と言う経緯とチフォージュ・シャトーで奏と共闘した事が功を奏した結果である。

 

 そんな彼女達も、今では普通の人間としてS.O.N.G.の装者達なんかとはすっかり打ち解けていた。

 

「大丈夫だって! アリスさんは、喋れなかった透君の喉も治して見せたんだよ! ヴァネッサさんの体だって、きっと元に戻せるよッ!」

「そうだな。あの人の腕は確かだ。透がまた歌えるようになったんだからな」

「何より、こうして呼び出されたって事は、もう大丈夫だって事ですよ」

 

 ヴァネッサの治療の結果に若干の不安を感じるミラアルクとエルザを、響達3人が元気付ける。そうこうしていると5人はアリスの工房の前へと辿り着き、代表して響が扉をノックした。

 

「アリスさ~ん! ミラアルクちゃん達を連れてきました~!」

『どうぞ、入ってください』

 

 部屋からアリスの声がしたので、響が扉を開ける。5人が部屋の中に入ると、そこには佇むアリスの前で椅子に座り背を向けているヴァネッサの姿があった。

 

「ヴァネッサ……?」

「どうだったで、ありますか……?」

 

 治療の結果はどうだったのか? 未だ背を向けているヴァネッサに不安そうに2人が訊ねると、彼女は椅子を回転させて2人に向き合い立ち上がった。

 

「ミラアルクちゃん……エルザちゃん……」

 

 こちらを向いて立ち上がったヴァネッサは、薄手の手術衣だけを身に着けた状態で手を広げた。迎え入れる様なその仕草に、引き寄せられるように2人が近付くとヴァネッサは彼女達を思いっ切り抱きしめた。

 その瞬間2人を包むのは、以前までの冷たく硬さを感じさせる感触ではなく、柔らかい人の温もりを感じさせる感触であった。

 

「「あ……」」

「う……ぐすっ……!」

 

 2人はすぐに分った。ヴァネッサの治療も成功したのだ。彼女はあの硬く冷たい機械の体から、元の人間の体に戻れたのである。その事を理解した瞬間、ヴァネッサだけでなく2人の目にも涙が浮かんだ。

 

「ヴァネッサ……! ヴァネッサぁぁぁぁぁぁっ!」

「あぁぁ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」

「良かった……! 本当に、戻れた……!」

 

 苦楽を共にした3人が、念願叶い得難い普通を手に入れ喜び合う。その光景にアリスと響は温かく微笑み、クリスはちょっぴり感化されてもらい泣きし透がそんな彼女を優しく抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 それからたっぷり数分泣き、3人が落ち着いたところで透が疑問を口にした。

 

「あの、アリスさん? 一つ聞いても良いですか?」

「ヴァネッサさんをどうやって治したか、ですね?」

「はい。聞くところによると、あの人を治すのは簡単ではなかったと思うんですけど……」

 

 確かに普通に考えて、失われた部位を元に戻すのは簡単ではない。極一部分が足りないという程度ならともかく、ヴァネッサの場合は体の半分以上が損失し、その部分を機械で補っていたのである。それを元の人間に戻すなど、普通に考えれば不可能だ。

 

「発想の逆転です。今ある体を元に戻せないなら、新しい体を用意すればいいのです」

「新しい、体?」

「はい」

 

 なのでアリスは考え方を変えた。以前までのヴァネッサの体を元の人間に戻そうとすれば、失われた臓器だけでなくそれを包む体も用意しなくてはならない。それを一つ一つ組み上げて治すくらいならば、いっその事ヴァネッサに新しい体を用意してそこに彼女の魂と言うべき意識を移し替えてしまえばいい。奇しくもそれは魔法少女事変において、キャロルが本来行おうとしていた事でもあった。

 

「エルフナインさんも、元々はキャロルさんが計画完遂の為に用意した予備の体とする為に作り出されたホムンクルス。その技術を応用して、ヴァネッサさんにホムンクルス技術で作り上げた新しい体を用意し、意識をそちらに移し替えたんです」

「ちょっと待てよ? 確かホムンクルスって、性別とかが無いんじゃなかったか?」

「よく覚えてましたね。そこはご心配なく。ホムンクルス化によって欠如している部分程度であれば、透さんに施した施術と似た要領で補う事は可能です。今のヴァネッサさんは正真正銘、1人の人間であり子供を作る事も可能です」

 

 因みにこの施術は既にエルフナインでも実践済みである。元々はホムンクルスであり、寿命も短かった彼女が未だに生き永らえているのはアリスにより処置が施されていたからだ。

 

 ともあれ、これでノーブルレッドの3人は約束通り人間としての体を取り戻せた。その事に3人はアリスに対して深く感謝する。

 

「あの、ありがとうございます、アリスさん。私達みたいな道を踏み外した者に、チャンスを与えてくれて……」

「その……色々と迷惑を掛けたんだゼ。お前らにも……悪かった」

「本当に申し訳ないであります。それで……ありがとう」

 

 感謝と謝罪に頭を下げるヴァネッサ達に、響は笑顔で応えながら顔を上げさせた。

 

「良いんですよ、そんなの! ヴァネッサさん達とこうして普通に話せるようになっただけでも!」

「道なんて誰だって踏み外すもんだ。アタシらだってな……」

「でも、やり直す事は出来ます。僕達も、そして……あなた達も」

 

 響達の言葉に、ヴァネッサ達は本当に救われた気持ちになった。脅されていたとは言え悪事に加担した事は、彼女達の心に棘として突き刺さり苛んでいた。その痛みが、彼女達の言葉で和らいだ気がした。人としての体を取り戻せたことに加えて、心も救われた事に3人は改めて自分達の幸運と救ってくれた響達に感謝するのだった。

 

 そうして一頻り落ち着いたところで、クリスがふとある事に気付いた。

 

「ん? ちょっと待てよ? ヴァネッサって前の体から新しい体に精神移し替えたんだよな?」

「えぇ、そうよ」

「それじゃあ……前の体って今どうなってんだ?」

 

 それは別に他意がある訳でもない、純粋な疑問であった。だがそれを聞いた瞬間、アリスとヴァネッサの顔に何やら含みを感じさせる笑みが浮かんだ。

 

「ふっふっふっ……よくぞ聞いてくれました。ヴァネッサさん、準備は?」

「何時でも!」

「え? え?」

「ヴァネッサ?」

 

 突然テンションが変わった2人に、ミラアルクとエルザだけでなく響達まで困惑してしまう。それに構わず、アリスは取り出したヘッドギアの様な物をヴァネッサに渡すと、ヴァネッサはそれを被り側面にあるスイッチを押した。

 

 ヘッドギアから響く小さな起動音。すると次の瞬間、それまで誰も見向きもしていなかったシーツが被せられたベッドから何かがムクリと起き上がった。

 

「「「「「ッ!!」」」」」

 

 ヴァネッサにばかり意識が向いていたので響達は誰も気付かなかった。そのベッドが人型に膨らんでいた事に。そしてそのベッドの上に寝ていた何者かは、起き上がると自身の被さっているシーツを手で引いて引っぺがした。

 

 そこに居たのは、今目の前に居るヴァネッサと瓜二つの女性の姿であった。

 

「えぇっ!? ヴァネッサが2人!?」

「あ、イヤ、違うっ! これさっき言ってた古い方の体かッ!」

「あ、アリスさん? これ、どう言う……」

 

 ベッドから起き上がったヴァネッサは、軽やかな足取りで人間としての体を取り戻したヴァネッサの隣へと移動した。ヴァネッサは自身の隣に立つ、嘗ての機会の体の自分に微笑み掛けながらアリスに代わって答えた。

 

「この体、ファウストローブ技術を応用して作られてるから、結構頑丈だし力も強いのよね。それをただ棄てるのは勿体ないって事で、こうして遠隔操作で動かせるようにしたのよ」

「こうすればいざと言う時には皆さんの助けになりますし、何なら危険な場所に単身潜り込む事も容易です」

 

 まぁ確かに、元々はヴァネッサ自身の体だったのだから、動かすのにそんな苦労は無いだろう。遠隔操作出来る機械の体ならば、普通の人間が立ち入れないような場所に入り込む事もそこでの作業も容易と言うのも理解できる。

 

 出来るのだが……それを成し遂げたアリスのテンションが何だかおかしな事に、クリスは薄ら寒いものを感じずにはいられなかった。

 

「……技術者とかの連中ってのは、皆頭のネジがどっか緩んでんのか?」

 

 常識人だと思っていたアリスの奇妙な一面に、そんな事を呟いてしまうクリスの言葉を否定できる者はこの場に居ないのであった。




と言う訳でXVしないフォギア編第1話でした。

今回はどちらかと言えば真面目な感じでしたね。

XVの最終決戦でダウルダブラをキャロルが失ったのには、この展開を描きたかったという理由もあったりします。新たに賢者の石のファウストローブを手に入れたキャロル。見た目は大人用に変化したXDUのラピスver.ローブと言った感じです。出来ればゲームでも大人バージョンになったラピスローブを見てみたかった。

キャロルとハンスは今後大人の姿がデフォルトとなります。賛否はあるかもしれませんが、私もキャロルは大人の姿の方が好みですので。

一方ノーブルレッドの3人は晴れて人間としての体を手に入れました。XV本編中では彼女達を治療している時間が無かったので。普通に人間の体に戻ったミラアルクとエルザに対して、ヴァネッサは体そのものを新しくして意識を入れ替える形で人間に戻りました。その副産物として出来た機械の体は、今後遠隔操作型のヴァネッサの体として活躍していく事でしょう。感覚的には漫画トリコのGTロボみたいな感じになると思います。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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