魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回も閑話的なしないフォギアXV編。残暑と言うには暑すぎるこんな時期ですが、作品時間内ではバリバリ寒い冬なのでそれっぽい感じの話となります。
最初にその異変に気付いたのは奏であった。
「んん? 響、どうした?」
「うぇ? 何ですか?」
「何か顔色悪くないか?」
休憩スペースで颯人と奏、クリスに透が駄弁っていると、そこに未来と共に響がやって来た。彼女らの存在に気付いた奏が手を上げて挨拶しようとしたその時、奏は真っ先に響の顔色が何時もより悪くなっている事に気付いたのだ。
奏が響の異常に気付くと、未来もそれに同調して心配の声を上げる。
「やっぱりそうですよね? 奏さんも響の顔色悪いと思いますよね?」
「え~? 大丈夫だよ~、気の所為だって」
奏に続き未来にまで心配された響だったが、普段元気が取り柄と言っても過言ではない彼女はそれを否定。飽く迄自分は何時も通りだと言い張るが、奏は構わず響に近付くと自分の額を彼女の額を触って体温を比べた。結果、奏は響の体温が明らかに自分よりも高い事を確信した。
「うん、やっぱり。響ちょっと熱あるな」
「ほらやっぱり! 朝からなんか様子可笑しかったんだからねッ!」
「うぅ~、そんな~……」
まさか自分が体調を崩すなんて思っても見なかったのか、響はショックを受けた様に肩を落とした。だがそれ以上に衝撃を受けたのは、その場に居たクリスであった。
「ば、馬鹿が風邪を引いたぞぉぉぉぉッ!?」
「あぅ~~、酷いよクリスちゃ~ん」
俗に馬鹿は風邪を引かない等と言うが、彼女の中で馬鹿の筆頭とも言える響が風邪を引いているというのはとんでもなく衝撃的な事態であったらしい。風邪を移されないようにと透の腕を引き彼と共に響から距離を取りながら周囲に警戒を促す様に声を上げ、それを聞かされて響は涙目になってクリス達に近寄ろうとする。
颯人はそんな彼女を引き留めると、コネクトの魔法でマスクを取り出し響に着けさせた。
「はいはい、取り合えず響ちゃんこれ着けなさいって」
「はぅぅ~……何で風邪引いちゃったんだろ~……」
「まぁ体調なんて崩す時は崩すもんだ。馬鹿とかそう言うのは関係ないから気にすんな」
何気にクリスの言葉にショックを受けた様子の響をフォローしつつ、颯人は彼女の手を引いて医務室へと向かった。
「ま、母さんに診せれば何とかなるだろ」
錬金術を医術に活かす事を目指していたアリスは、当然だが医術に関しても知識が深い。殆ど錬金術師と医師を兼任していると言っても過言ではない彼女に診せれば、響の体調もたちどころに何とかしてしまうだろう。
そう期待を込めて颯人達が医務室に入った。
「お~い、母さ~ん。ちょっと響ちゃんがさぁ――――」
果たして医務室の中では、輝彦に看病されてベッドに横になり頭に氷嚢を乗せたアリスの姿があった。その光景に颯人達は一斉にズッコケる。
「ゲホッ……ゲホッ、ゲホッ……」
「大丈夫か?」
「う゛ぅ゛……はい゛……」
「「「だぁぁぁぁっ!?」」」
「ん? どうした皆揃って?」
医務室に入って来るなりズッコケた颯人達の姿に輝彦が目を丸くしていると、いち早く起き上がった颯人がツッコんだ。
「ちょ、ま、母さんも風邪引いてんの?」
「面゛目゛な゛い゛です……ゲホッ」
「頑張り過ぎたんだな。いい機会だ、暫くは大人しくしておけ。で、颯人達はどうした?」
「あぁ、実は……」
颯人は響が風邪を引いたらしい事を輝彦達に伝えた。その間に響は未来と奏の手によりベッドに寝かされ、アリス同様頭に額に氷嚢を乗せられながら毛布を被せられる。途中体温を測ってみれば、案の定響の体温は38℃を超えていた。立派な風邪である。
「まさか響さんだけでなくアリスさんまで風邪だったとは……」
「この馬鹿の風邪を移されたんじゃないだろうな?」
「最近は風邪が流行ってるから……私のクラスでも何人か風邪引いちゃってるし」
ともあれ、これで当てが外れた。当初はアリスに錬金術を活かした医術でさっさと風邪を治してもらおうと思っていたのだが、この分だとそれも期待でき無さそうだ。
と思っていたら、アリスは徐に体を起き上がらせ頭に氷嚢を乗せた状態でフラフラと机へと向かっていった。
「ご心配なく……この程度の風邪、さっさと治してみせますから……」
「おいおい、母さん無茶するなって」
「いえ、大丈夫です。こんな風邪程度であれば治す薬も直ぐに…………う゛ッ」
どうやら得意の錬金術で薬を調合しようとしたらしいが、流石に体力が消耗している状態ではそれも儘ならないのか席に着く前に力尽きて崩れるように倒れそうになる。輝彦はそれを支えると、そのままUターンして再び彼女をベッドに寝かせた。
「だから無茶をするな馬鹿者。そんな状態でまともに動ける訳がない。病人は病人らしく寝ていろ。それが今できる事だ」
「う゛ぅ゛~~~~……」
辛辣ではあるが純粋に病人であるアリスを心配した輝彦の言葉に、アリスも不服そうにしながらも大人しく従った。やっと大人しくなった彼女に輝彦はやれやれと溜め息を吐くと、丁度いいと言わんばかりに颯人達に手伝わせた。
「このままだと何をしでかすか分からんな。颯人、手伝え」
「へいへい……って、父さんはどうするの?」
颯人にアリスの事を任せた輝彦はと言うと、徐に立ち上がりコートと帽子を被り出掛ける用意を始めた。最初風邪薬でも買いに行くのかと思った颯人達だったが、輝彦の口から出たのは思いもよらぬ言葉であった。
「幸いな事に、風邪に効く薬の調合リストはあるからな。キャロルに手伝わせて、さっさと用意してくる。戻って来るまでアリス達の事を頼んだぞ」
輝彦はそう告げると、医務室を後にしてしまった。残されたのは風邪でダウンしたアリスと響、そして響を連れてきた颯人達だけである。輝彦が出て行った扉を暫し見つめた颯人達は、互いに顔を見合わせると小さく肩を竦めると手分けしてアリスと響の看病に取り掛かった。
「まさかいきなり病人の看病をする事になるとはね」
「ずびばぜん皆ざん゛……」
「ごべんね、未゛来゛~……」
「はいはい、いいから大人しくしてようね?」
「う゛ん゛……」
まぁ、少し時間は掛かるかもしれないがそれも暫くの辛抱だ。その間に何か起こったとしてもまだ動ける者は居るのだし問題は無い。
そう思っていた時もこの場の者達にはあった。
数分後、使われるベッドは二つから四つに増えていた。新たに医務室の住人となったのはマリアと切歌の2人である。アリスと響が漸く落ち着き寝息を立て始め、少しは休めるかと颯人達が一息ついた瞬間、扉を開けて入って来たのはセレナと調に肩を貸してもらった状態の顔色が悪い2人であった。
「すみません、アリスさん居ますか?」
「切ちゃんとマリアが風邪引いたみたいで……」
「ごめんなさい……油断したわ……」
「う゛ぅ゛~、頭痛いデ~ス」
まさかの病人の追加に颯人達は顔を引き攣らせながらも、ベッドの用意をしてそこに2人を寝かせた。並んで頭に氷嚢を乗せる4人の姿に、颯人は嫌な予感を感じながらも輝彦に病人の増加を知らせた。
「あ~、父さん? 悪い報せがある。風邪引きが4人に増えた」
『何だと?』
「マリアと切歌ちゃんだ。薬用意するなら少し多めに……」
そこでまたしても扉が開く。まさかと思いながら颯人達が扉を見れば、そこに居たのは顔を赤くしてマスクを付けたあおいが壁に寄りかかって体を支えている姿があった。まさかの光景に奏達が顔を青褪めさせる中、あおいは辛そうな様子で体を引き摺る様に入って来る。
「アリスさん、すみません……ちょっと体調が……」
事ここに至り、颯人はまだまだ病人が増える事を予想し輝彦には風邪薬の増産を要望した。
「悪い父さん、多めなんてレベルじゃないわ。兎に角用意できるだけ用意しといて」
颯人のこの予想は当たった。どうやら本部内で風邪が大流行したらしく、あおいを皮切りに次から次へと患者が来訪。当然医務室のキャパシティはあっという間に限界を超え、症状が軽い者はそうそうに帰宅させられた。
物事忙しい時、大変な時に限って面倒ごととは重なるものであり、このタイミングでまだ元気だった朔也から事件発生の連絡が入った。
『すまない、今誰か動けるかッ!』
「はいはい藤尭さんッ! 何があったのッ?」
『逸れ錬金術師による事件だ、誰かすぐに向かってくれッ!』
「俺が行くッ! 奏達は母さん達の看病を頼むッ!」
「颯人さん1人で大丈夫ですか? 何なら僕も……」
「いや、もしもって時の為に透とガルドはここに居てくれ」
そう言うと颯人は早々に医務室を後にし、朔也に指示された場所でアルカノイズをバラ撒き暴れている逸れ錬金術師を早々に懲らしめた。遅れてサンジェルマンの指示を受けてやってきた協会の錬金術師に暴れていた逸れ錬金術師を引き渡し、本部に帰ろうとした颯人だったが今度は事故が発生したという事でそちらへの対処へも向かわざるを得なくなる。
その後も、こういう時に限ってと言いたくなるくらい次から次へとトラブルが発生。颯人だけでは手が足りなくなり、透とガルドも駆り出されてあちこちで起こった事件の解決に奔走させられる。
忙しない1日を終え、やっとの思いで颯人達が本部に戻ると丁度そこで輝彦がキャロルと共に帰還し、アリスのレシピを元に風邪薬を調合。
それを医務室に居る4人を始め風邪でダウンした者達に投与した事でS.O.N.G.本部での風邪の流行も収まる事となるのだった。
そして…………
「う゛~~~~…………」
「颯人~? 大丈夫か~?」
「何゛どが……」
本部での風邪の流行が収まったと思った矢先、今度は颯人が風邪で動けなくなってしまった。どうやらあの流行の最中に誰かに移された事に加えて、あちらこちらを奔走している間に溜まった疲れで体の方が参ってしまったらしい。同じくあちこちを駆けずり回った透はピンピンしているが、これは恐らくフィジカルの差だろう。
本来であれば颯人もアリス手製の薬で治せる筈だったのだが、あの時キャロルが作った薬は当時風邪を引いていた者達に使った分で全て使い切ってしまい、更に使う材料の中には手に入りにくい物もあった為新しく作る事も出来なかった。
結局あの時かなり頑張った方の颯人は、1人自宅のベッドの上で熱と咳に悩まされる事となり、奏の看病の元暫くの療養を余儀なくされるのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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