魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。先週は更新できずにすみませんでした。何分話が旨く纏まらなかったもので……

今回はしないフォギアXV編の4話目。シェム・ハにスポットを当てた話となります。彼女が未来の中に宿った、もう一つの目的をこなしていく感じになります。


シェム・ハの人間観察

 S.O.N.G.本部は、平時であれば当然平和そのものだ。響達学生組は学業に振り回されつつも、それを平和の証と享受している。とは言え、成績は彼女達の普段の戦いを加味してはくれないので、将来の事を考えて毎日苦労しているようではあるが。

 因みにだがその学生の中には、最近人間に戻れたミラアルクとエルザの姿もある。結社に囚われ改造され実験動物として過ごした日々がある為、他の者達に比べて特に勉学に苦労している様ではあるが、それでも長年望んだ普通の少女としての日常を手に入れられた事の方を喜び、必死に追いつこうと努力しているらしい。

 

 最近颯人が未来に聞いた話では、自分よりも出だしが遅い筈のミラアルクとエルザがメキメキと成績を上げてきている事に、響が何気に危機感を感じているらしく前に比べて勉強を頑張っているのだとか。

 

 一方颯人達成人組は、表の顔を持つ者はそちらの活動に精を出しつつ平和維持の為の活動にも力を入れていた。学業で縛られる響達に比べれば、颯人達は自由度が大分高い。無論、手品師やアーティストとしての活動を疎かにする訳ではないが。

 

 そんな感じで、平和を享受しつつも時折起こるトラブルに対処していた颯人と奏は、束の間の暇な時間を本部で2人で過ごしていた。

 

「行くぞ、颯人……」

「何時でもどうぞ?」

 

「ジ~……」

 

 何やら緊迫した雰囲気を纏い睨みらう2人。互いに拳を握り締め、構えていた2人は次の瞬間同時に拳を前に出す。

 

「「最初はグーッ! ジャンケンポンッ!」」

 

「ジ~……」

 

 そうして放たれた拳は、途中で何度か形を変えながらも奏がチョキ、颯人がパーの形となった。ジャンケンだ。結果は奏の勝ちとなり、奏は満面の笑みで伸ばした人差し指を中指を蟹の鋏の様に開閉させ、颯人は開かれた右手の手首を左手で掴み悔しそうに呻いた。

 

「へっへっへっ~、どんなもんだいッ!」

「ぐあぁぁぁぁぁ……!? く、そぉ……あれ? 奏お前最近ジャンケン強くなってないか?」

「颯人のパターンを見抜いてんだよ。分かったらちゃっちゃとジュース買ってきな」

「くぅ~~……」

 

「ジ~……」

 

 どうやら自販機でどちらが金を出すかで勝負になったらしい2人は、ジャンケンで勝負する事になり結果は奏が勝利を収めたらしい。颯人は悔しそうにしながらも、勝負は勝負だからと大人しく自販機でジュースを自分の分も含めて買い片方を奏に渡した。

 

「ほい」

「お~、サンキュ~……これ本物だよな?」

「疑うなら俺のと交換するか?」

「…………いや、いい」

 

「ジ~……」

 

 颯人がこのまま負けたままで終わるとは思えなかった奏は、彼が最後の抵抗にジュースの缶をビックリ箱か何かとすり替えているのではないかと警戒した。だがこの思考自体颯人に読まれているのではと考えると、ここで迂闊に交換に応じるのも下策な気がする。奏は1つ深呼吸をすると、何が起きても良いようにと覚悟を決めちょっと缶を自分から離し警戒しながらもプルタブを引いた。パキュッ、という音と共に空気が抜ける音がして、奏が恐る恐る缶口を覗き込めば、中身は普通のジュースである事が伺えた。

 

 おっかなびっくり缶ジュースを開ける奏の姿に、耐えきれなくなった颯人が思わず笑いだす。

 

「ぶははははははっ! 奏、お前、ビビり過ぎだろッ!」

 

「ジ~……」

 

「う、うるさいなっ! ついこの間も仕掛けてきた奴が何言ってんだッ!」

 

「ジ~……」

 

「いやワリィワリィ。とは言え俺も短期間でそんな何度も仕掛けねえって」

 

「ジ~……」

 

「ったくもう…………プッ!」

 

「ジ~……」

 

「はっはっはっはっはっ!」

「ぷっ、くっ! あはははは」

 

「ジ~……」

 

 くだらないやり取りだが、こんなやり取りも楽しくて愛おしい。その楽しさを共有できる幸せを笑いと共に噛みしめていた2人だったが、その笑い声も途中から尻すぼみになっていく。

 先程からず~~~~…………っと向けられていた視線を、とうとう無視できなくなったのだ。

 

「ははは、はは、は…………え~っと、未来ちゃん?」

「颯人、これ今は多分シェム・ハだよ」

「あぁ、そっか。それで、シェム・ハ?」

「む? 何だ?」

 

 ここで漸く名を呼ばれて反応したシェム・ハは、小首を傾げて颯人の声に応えた。その反応に颯人は奏と顔を見合わせると、改めて彼女が何をしているのかと問い掛ける。

 

「さっきからずっと俺達の事見てたけど、何か用かい?」

「アタシも颯人も、人に注目されてる事に慣れてるっちゃ慣れてるけど、そんな風に間近で一心不乱に見られ続けてると流石に落ち着かないんだけど?」

 

 発端は、何て事は無く颯人と奏が本部内を歩いていると何時の間にかシェム・ハが後ろからついて来ていたというものであった。

 最初、何か用事があるのかと思っていた2人だが特に何か話しかけてくるでもなく、だが未来であれば何かを聞きたいのであれば迷いや思いつめた様子がある筈なので、それが無いと言う事はシェム・ハであると2人は気付く。シェム・ハであれば何か聞きたい事があるのであれば遠慮なく声を掛けてくる筈なので、向こうから何かアクションを起こすまでは待ってみようとそのまま無視していたのだ。

 

 とは言え、特に話し掛けてくる訳でもなくずっと2人の行動を観察してくる彼女に、流石に無視できなくなりこうして話し掛けてしまったのだ。

 

「愚問である。我が未来の中に宿る事になった、その理由の一つを忘れたか?」

「未来ちゃんの中に宿った理由?」

「それって、確か……」

 

 言われて当時の事を思い出そうと腕組した2人に、シェム・ハはやれやれと言う様に溜め息を吐いた。若干こちらを見下してくるような視線に、颯人と奏も少しカチンときた。

 

「全く、仕方のない奴らだ」

「「何だと?」」

「未来と響が言っていたではないか。お前達今を生きるヒトを、もう少し見守ってみよと。それを実践しているだけに過ぎぬ」

 

 言われて2人は、そう言えば最初はそんな感じだったと思い出す。未来と響に交渉を任せた結果、シェム・ハは現代を生きる人間の様子に興味を抱き未来の中からそれを観察するのだと。正直2人にとってはそれよりも月遺跡への水先案内人としての活躍の方に期待したかったので、シェム・ハの人間観察とかはあまり関心が無かった。

 

「そう言う訳だ。今暫く観察させてもらうぞ」

 

 そう言って再び間近で颯人と奏の事を観察しようとし始めるシェム・ハだったが、それには流石の2人も待ったをかけた。そりゃ2人はそれぞれ舞台の上で多くの人々に注目される事に慣れているし、人目を向けられる事も別に嫌という訳ではない。だがそれにしたって、こうも間近で注目され続けると居心地が悪くなる。彼らにだってプライバシーは存在するのだ。

 

「待て待て待て待て、そんな近くで観察されたら落ち着かねえって」

「何事にも限度ってのはあるんだぞシェム・ハ」

「むぅ……だが……」

 

 奏の言う事も分からなくはないと言った様子のシェム・ハではあったが、だからと言って大人しく引き下がるつもりも無いらしい。ならばと颯人は、シェム・ハの標的を自分達から反らす為に誘導する方向で動き出した。

 

「よし、そう言う事なら俺達も協力しようじゃないか」

「ん?」

「はっ? 颯人、何言って……」

 

 いきなり何を言い出すのかと面食らった様子の奏でに向け、颯人は口に人差し指を当てて軽くウィンクするとシェム・ハに手招きしてその場から連れ出した。

 

「観察って言うからには、対象が一つじゃ不十分だろ? 来いよ、丁度いい観察対象が他にも居るから」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「つー訳で、あれ見てみな」

 

 そう言って颯人が指さしたのは、厨房の中で隣り合って調理の仕込みをしているガルドとセレナであった。息の合った動きで2人は淀みなく肉や野菜を捌き、鍋を火に掛け食材を煮て焼いていく。その際の2人のやりとりに、余計な言葉は必要ない。やるべき事とパートナーの動きを分かっている2人の間に、言葉など不要であった。最低限の声賭けだけで2人は次々と作業を進めていく。

 

「セレナ」

「はい、これ」

「ん……」

 

 まるで意識が繋がり合っているかのような2人の動きに、シェム・ハも興味深そうに2人の事を観察していた。

 

「ほぉ……」

 

 一心不乱に2人の様子を観察し続けるシェム・ハの姿に、颯人は奏と目配せしてこの場を離れようとした。ガルドとセレナには申し訳ないが、ここは1つシェム・ハの興味を引く人柱となってもらおう。

 

 そう思った矢先、不意にガルドとセレナの手が重なり合った。二人同時に同じものを手に取ろうとして偶発的にそうなってしまったのだ。

 セレナの方が一足早くに手を伸ばし、遅れて手を伸ばしたガルドの手が彼女に重なる。互いの手が重なり合い体温を感じた瞬間、2人は弾かれた様に手を引き驚いた顔で互いを見た。

 

「あ、ごめ……!」

「う、ううん、私こそ……」

 

 互いに意識していないタイミングでの触れ合いだった為、揃って驚き一旦は距離を取ってしまう。先程まで順調だったのに突然よそよそしくなった2人に、シェム・ハは何事かと首を傾げ颯人達に問い掛けてくる。

 

「むむ? 颯人、奏、何故あの2人はいきなり動きがぎこちなくなったのだ?」

 

 シェム・ハからの問いに、2人は揃って額に手を置き俯いてしまった。

 

「何やってんだあの2人は……あの程度今更気にするような間柄じゃねえだろうが」

「仕方がないよ、ガルドはともかくセレナは元々淑やかな性格だし」

「その割にはセレナの方がグイグイ攻めてる時ねえか?」

「思い切りが良いんだよ」

 

 呆れたようにガルド達を見る颯人と奏に、シェム・ハは頭にハテナマークを浮かべながら今一度ガルド達の方を見た。すると先程まで顔を赤くしてガルドの手と触れた自分の手を胸に抱くようにしていたセレナが、徐にガルドに近寄り肩を触れ合わせる。先程よりも濃厚に感じるセレナの体温にガルドがそちらを見ると、彼女はハニカミながらも笑みを浮かべていた。

 

「えへへ……!」

「!!」

 

 時々大胆に、積極的になるセレナの姿に、ガルドは顔を赤くして片手で口元を一度抑えつつ、調理の続きをしなければと再び手を動かす。セレナもそれに倣う様に調理を再開するが、2人の肩は触れ合ったままであった。

 

 その様子をシェム・ハは不可解なものを見るように眺め続ける。

 

「むぅ~? 何なのだあの2人は? 何故ああも……」

 

 そのまま2人の様子を観察し続けようとするシェム・ハであったが、これ以上は何だか邪魔するのもあれだったので颯人と奏は左右からシェム・ハの両腕を掴んで強制的にその場から引き摺って移動させた。

 

「あ~、はいはい。次行こ次」

「待て待て、まだあの2人を……!?」

「いいからいいから、次行くよ~」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 そうして次にシェム・ハが連れて行かれたのは、颯人と奏のカップルに次いで名物となっている透とクリスの元へと向かった。普段から仲睦まじいあの2人であれば、程良くシェム・ハの関心を引いてくれるだろうと思っていたのだが…………

 

「スゥ……スゥ……」

「!!!!」

 

 颯人達が辿り着いた時には、透はベンチでクリスに寄りかかった状態で居眠りしていた。いや、あれは寄りかかるなんてレベルではない。透はクリスの首筋に顔を埋めるように抱き着くような態勢で眠っていたのだ。恐らくは最初疲れて居眠りをした透をクリスが優しく支えていたのだが、不意に透が体をズラして横に倒れそうになったのをクリスが受け止めようとしたら、透の眠りが思っていた以上に深くて抱き着くような形になってしまったらしい。愛しい透に眠っているとは言え首筋に顔を埋められて、クリスも恥ずかしさと彼を起こす訳にはいかないと言う気持ちで動くに動けなくなってしまったのだ。

 

 片や眠り、肩や顔を茹蛸の様に真っ赤にして目をギンギンに光らせるように見開きながら微動だにしないクリス。その様子をシェム・ハは興味津々と言った様子で見つめ、颯人と奏はまたしても頭を抱えた。

 

「何故あの2人はあの状態で動かずにいられる?」

「だぁぁ~~、もう、あの2人は……」

「クリスの奴、ホントこういうところで素の性格が出るんだから……」

 

 もし仮に透のポジションに居るのが響であれば、クリスは容赦なく叩き起こすかさもなくば膝を枕に提供するかのどちらかだっただろう。相手が透だからこそ、クリスは彼を想いやって動けずにいるのだ。

 

 シェム・ハはそんな2人の様子を興味深そうに見ているが、あれはもう放っておいた方がいいとまたしても颯人と奏はシェム・ハをその場から引き摺って移動させた。

 

「待て、まだ来たばかりだぞ?」

「あれはもう暫くあのまま動かないだろうから、見てるだけ時間の無駄だよ」

「人間について学びたいなら、エチケットって言葉も学びな」

 

 訳も分からぬまま2人に引き摺られていくシェム・ハは、もう一度透とクリスの方を見た。

 

 そこではクリスが耐えきれずバランスを崩したのか、透に押し倒されるようにベンチに横になり更に動けなくなっている様子があったのだが、背を向けている颯人と奏はその事に気付かずにいた。

 一方のクリスは、透に押し倒される形となり頭の中がパニックになりながらも、ふと視線を向けた先で颯人達の背中が見え神にも祈る気持ちで助けを求めて手を伸ばした。

 

「(ちょ、ペテン師ッ! 先輩ッ! 未来ッ! た、助け、助けてくれッ!?)」

 

 下手に声を出すと透を起こしてしまうので目線と手の動きだけで助けを求める。唯一クリスの事を見ていたシェム・ハがその事を2人に伝えようとするも、颯人達はこれ以上干渉しないようにとシェム・ハの声には耳を傾けない。

 

「颯人、奏、クリスが……」

「はいはい、邪魔しないでおいてあげようぜ」

「颯人、次どこ行く?」

「どうすっかな~……」

 

「(おぉぉぉぉぉぉぉいッ!?)」

 

 結局、クリスは誰にも気付いてもらえず、透が自発的に目覚めるまで彼の抱き枕となってしまうのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その後も本部内を色々と回ったが、結局シェム・ハの観察対象を押し付けられるような相手はいなかった。弦十郎と了子は忙しい上に弦十郎の方が気配に気付きそうだし、輝彦とアリスはそもそも別行動が多い。キャロルとハンスに至っては何が起こるか分からない為除外せざるを得ず、結局はシェム・ハをあちこち連れ回すだけで時間が経ってしまった。

 

 いい加減疲れた颯人と奏は、結局最初の場所に戻りシェム・ハを交えてベンチに腰掛けていた。

 

「結局、あちこち連れ回すだけに終わっちまったな……」

「他人の事言えた義理じゃないかもしれないけど、皆色々あるんだよなぁ」

 

 颯人と奏はしみじみ言いながら、自販機で買った缶コーヒーを一口飲む。一方のシェム・ハも、颯人に渡されたお茶の缶に口を付け一息つく。忙しなかったと言えば忙しなかったが、それでも有意義な時間だったとシェム・ハは思っていた。彼女が知る過去の人類とは、やはり大分違った様子であったからだ。

 

 だがその中でもとりわけ彼女の興味を引いたのは、何だかんだでやはり颯人と奏であった。

 

「なかなかに興味深かった。だがやはり面白いのはお前達2人だな」

「え? 何で?」

「お前達は不思議だ。争い、いがみ合ったかと思えば次の瞬間には親密になる。まるで荒れ狂う天気の様にコロコロと雰囲気を変えつつも、最終的には互いを想い合う形に収まる。一体どれが本当のお前達の気持ちなのだ?」

「どれって言われたって……なぁ、颯人?」

「ふぅむ……」

 

 改めてシェム・ハに言われて、さて2人はどう答えたものかと互いに顔を見合わせる。どれが本当の気持ちと言われても、どれも本当の気持ちなのだから答えようがない。強いて言うならば想い合う気持ちは本物だが、それ以外の感情も決して嘘と言う訳ではないのだ。

 

 そこまで考えて、颯人はピンときた。シェム・ハの中には喧嘩という概念が無いのだ。争いは偏に相手を排除するだけのものであり、ぶつかり合いから始まる争いをする間柄であれば決して相容れる事は無いと思っているのだろう。そこに考えが至ると、なるほどシェム・ハの疑問にも答えが出せた。

 

「……全部だな」

「何?」

「全部だよ。全部が全部、本当の気持ちさ。奏に対して、俺は何時だってありのままで接してる。奏だってそうだろ?」

「当然」

「だからこそ、時には意見がぶつかり合う事もある。でもそれは否定したいからじゃない。相手の全部を受け止めたいから、敢えてぶつかり合うのさ」

 

 そう言うと颯人は徐に奏を抱き寄せた。唐突な抱擁に奏は頬を赤くしながらも、照れ隠しの様に彼の胸板に軽く拳を押し付けるように突いた。

 

「ちょ、いきなりこういう事するなっての。調子に乗り過ぎ」

「うぐっ……ははっ。でもいう程嫌じゃないんだろ?」

「それはそう。だからって調子に乗るなって言ってんの」

「はいはい。ま、こんな感じだ。人間ってのはお前が思ってる程単純な生き物じゃない。人間は機械じゃないからな。決まった反応なんてしないのさ」

 

 嘗てのシェム・ハは、人間をただの端末と考え支配する事しか考えていなかった。だがこうして未来の中に宿り、颯人達を始め多くの者達を見ていてそれが間違いである事を理解させられた。心を持った人間は、決して単純な存在ではないのである。

 

 ちょっとずつだがそれを理解したシェム・ハ。颯人もそれを雰囲気で感じ取ったのか、奏と共に立ち上がった。

 

「とりあえず、これからもじっくり観察を続けてみろよ。そうすればお望みの答えも手に入るかもしれないぜ?」

「だからってまたこんな間近で観察されるのだけは御免だけどな」

「む……うむ、分かった」

 

 頷くシェム・ハに、颯人と奏は本当に分ったのかと少し不安になりながらもその場を離れた。少しは1人で考える時間も必要だろう。離れていく2人の背をシェム・ハは変わらず興味深そうに見つめていたが、今度は後を付けて回るような真似はしなかった。

 

 そうして颯人達が別れると、入れ違いになる様に響がシェム・ハに近付いていった。

 

「あ、居た居たッ! 未来~、どこ行ってたの?」

「響か?」

「ありゃ? もしかして今はシェム・ハさん?」

「うむ。すまぬな、少し未来の体を借りていた。今返す」

 

 流石に未来の体を長く借り続けてしまった事に罪悪感でも感じたのか、シェム・ハは大人しく引っ込み体の主導権を未来へと返した。そのままシェム・ハの意識は未来の内面で1人思考に没頭し始め、響は未来の雰囲気が元に戻った事に安堵する。

 

「ッ!」

「あ、未来? 良かった~……ん? 未来?」

 

 雰囲気が未来のそれに戻った事に一瞬安堵した響であったが、段々と未来の顔が赤くなり体が震え始めているのに気付き心配そうに声を掛けた。

 

 次の瞬間、未来は糸が切れたかのように顔を赤くしてその場に倒れてしまった。

 

「はぅ…………!?」

「えっ!? ちょ、未来ッ! どうしたのッ!?」

 

 言うまでもない事だが、シェム・ハが見ている景色は未来も見ている。未来はこれまで幾つものカップルの姿をまざまざと見せつけられ、恥ずかしさに耐えきれなくなり思考回路が軽くショートを起こしてしまった。途中でシェム・ハを引っ込めて中断させればよかったのかもしれないが、特別悪い事をしている訳でもない手前それも悪いかと思い堪えてしまったのが仇となったのだ。

 

 顔を真っ赤にしてぶっ倒れた未来を響が慌てて受け止め、揺すり起こそうとするが顔を赤くした未来は一向に起きる気配がない。かと言ってシェム・ハは思考に没頭して表で何が起きているかも気付かず、響が1人で事態に対処しなくてはならなくなっていた。

 

「ちょっと未来ッ! しっかりして未来ッ! シェム・ハさん何があったんですかッ! ちょ、誰かぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 人の居なくなった本部の廊下に、響の虚しい叫び声が響き渡るのであった。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

取り合えずしないフォギアとしてやりたい事は今回で大体終わらせたと思うので、次回からはエクストラストーリー的な最終章を描いていきたいと思います。

ベース無しの完全オリジナルストーリーとなりますので、場合によっては執筆が間に合わず不定期な更新になってしまうかもしれませんが、どうかご了承ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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