魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回は先日がセレナの誕生日だったと言う事で、本編は一旦お休みしてセレナ誕生日記念話となります。
一応、時系列的には最終編の後位を意識しています。
「むう……ぬぬぬぅ……」
ある休日、ガルドは珍しく1人街に出て一軒の店のショーウィンドウの前で眉間に皺を寄せ唸り声を上げていた。基本的に本部潜水艦の食堂で鍋を振っているガルドだが、流石に休みなしで働いている訳ではなくこうして自由に過ごせる日もちゃんと用意されている。尤もその休日も、基本的には料理の研究などに費やされるのが何時ものパターンなのではあるが、この日は違った。
ガルドが佇んでいるのはあるアクセサリーショップの前だった。それもそんじょそこらの店ではなく、ちょっとお高いブランドのある店だ。そこの外部に面したショーウィンドウには店で売られているアクセサリーの一部が見本として値札と共に展示されているのだが、値札に書かれている値段はどれもゼロが幾つも並んだ明らかな高級品ばかり。これで一部というのだから、店の中にはどれだけ高価でデザインも優れた物があるかは容易に想像できた。
暫しその値段とにらめっこしながら唸り声を上げるガルド。日本人に比べて彫りの深い顔立ちをした彼が眉間に皺を寄せて唸ると、それだけで迫力がある為他の道行く人々は何事かと彼の様子を戦々恐々とした様子で眺めながら足早にその場を通り過ぎていく。が、当の本人は自分にそんな視線が向けられている事には微塵も気付く様子もなく、徐に財布を取り出すとその中身を見て肩を落としていた。
「はぁ……どうしたものか……」
落胆して肩を落とすガルド。先程まで唸っていた彼が今度は落ち込んだ姿に、ますます何が起こっているのかと周囲の人々は興味をそそられつつ藪を突かぬようにとその場を離れる。
そんな中で、彼に近付き声を掛ける者の姿があった。
「な~にやってんだガルド?」
「どわっ!?」
突然後ろから声を掛けられて飛び上るほど驚いたガルドが振り返ると、そこに居たのは軽く変装してはいるが奏と翼の姿であった。どうやら街を散策している時に偶然ガルドの姿を見つけ、何だか様子がおかしいので声を掛けてみたらしい。ガルドが飛び上るほど驚いている姿に、奏達の方も驚き思わず仰け反っていた。
「うぉ、おぉ……! そんなデカい声上げるなよ」
「え、あ、あぁ。カナデにツバサか」
「どうした? こんな所で考え事か?」
「あ、あぁ、まぁ……ちょっと、な」
取り合えず何時までもここで立ち話と言う訳にもいかないので、3人は少し離れたベンチまで行くとガルドが3人分の缶コーヒーを買ってそれに口を付けながら話始めた。
「それで? 何でまたあんな所に居たんだ?」
「あれは……高級アクセサリーショップだな」
一息つきながら奏と翼は改めてガルドが立ち尽くしていた店を見て、それがそこそこ名の知れた高価なアクセサリーショップである事を確認した。ガルドは2人が店で取り扱っている物が何であるかを知ると、ぽつりぽつりとあそこにいた理由を口にし始めた。
「あぁ……実は、そろそろセレナが誕生日なんだ」
「あぁ、そう言えばマリアがそんな事言ってたっけな」
「ふむ……とすると、察するにセレナへの誕生日プレゼントを考えていたのか」
時期と場所を考えればそれが妥当な所かと2人は考えていたが、ガルドの考えはそれよりも少し先に進んでいた。
「いや……まぁ、それはそうなんだが……その……」
「ん?」
「煮え切らないな。どうした?」
何だか様子がおかしなガルドに翼は首を傾げた。一方奏はもう一度店に目をやり、ショーウィンドウに展示されているアクセサリーを目を凝らして見た。
そこに並んでいたのは幾つもの指輪であった。それとガルドの様子を見て、奏は彼が何を考えているのかにピンときた。
「はは~ん、分かったぞ?」
「!!」
「え、奏? 分かったって何が?」
未だ理解が及ばない翼が首を傾げ、奏はガルドに視線で言い当ててもいいかと問い掛ける。奏からの視線にガルドは視線を激しく彷徨わせたが、最後には観念したのかゆっくりと頷き、それを見て奏は自身の考えを翼に話した。
「ガルドが買おうとしてるのは婚約指輪だな。大方、今度のセレナの誕生日にかこつけて告るつもりなんだろ?」
「えっ!? ガルド、それ本当ッ!?」
思わず腰を浮かせて翼が問い掛ければ、ガルドは顔を赤くして顔中に汗を浮かべながらも頷いて答えた。ガルドからの答えに翼は圧倒された様に腹の底から息を吐きながら腰を下ろし、口元を手で覆いながら来たるべき時が来たかと期待を僅かに含んだ呟きを漏らした。
「そうか……いや、そうなってもおかしくはなかったな。何しろ2人はもう同棲してる訳だし……しかしそうなるとマリアは大丈夫か?」
1人ブツブツと呟く翼をそのままに、奏はガルドと話しを進めた。
「で、肝心の指輪は思ってた以上に高くてどうしようかと思ってたってところか?」
「あ~……まぁな。S.O.N.G.の給料も悪くは無いから何とかなるかと思ってたんだが、やはり本物となると値段が桁違いで……」
確かにS.O.N.G.はそこらの職業に比べれば圧倒的に良い給料が支払われる。何しろ命の危険と隣り合わせの仕事をこなしているのだから、それ位の給料をもらわなければ割に合わない。だがかと言って贅沢が出来るほどの給料かと言われればそう言う訳でもなく、高級品がむやみやたらに買えるかと言われれば決してそんな事は無かったのだ。
かと言って、妥協は絶対にしたくはなかった。折角セレナに渡すのだから、出来る事なら良い物の方がいい。故に少しでも高価な指輪を彼女にプレゼントしたかったのだが、それが難しいとなってガルドも悩んでいたのである。
そんな彼の悩みに、奏は飲み干したコーヒーの空き缶をゴミ箱に放り込みながら立ち上がって答えた。
「全く……頭硬いねぇ、ガルドは」
「何?」
「奏?」
突然立ち上がった奏に、ガルドだけでなく翼も彼女に注目する。2人の視線に、奏は肩を竦めつつ笑みを浮かべた。
「大事なのは値段じゃなくて、気持ちの話だっての」
「それは分かるんだが……でもな……」
尚も煮え切らないガルドの様子に、奏は彼の背中を強めに叩いてもう一つの道を指示した。
「こういう時こそ、頼りになる奴がアタシらの身近には居るだろ?」
そう言って奏は自身の左手を軽く上げてみせた。その薬指には、作りのしっかりした指輪が太陽の光を反射して輝いている。それを見てガルドも漸く彼女の言いたい事に気付いた。
「あ、そうかっ! ハヤトッ!……いやだが、こんな個人的な事に……」
奏の婚約指輪は颯人の手製である。素人目に見ても先程の店の店頭に並んでも遜色ない出来栄えの指輪を作れる颯人であれば、確かにセレナを喜ばせるだけの物を作ってくれそうだとガルドも一瞬目を輝かせた。
だがすぐに自分の個人的理由で彼に苦労を掛けさせるのはいかがなものかと悩むガルドに、今度は翼が彼の背を叩いて押した。
「心配するなガルド。颯人さんはそんな心の狭い人じゃない」
「そ、そうか?」
「そうだよ。寧ろ颯人の奴なら、そう言う事習って喜んで手を貸してくれると思うぞ」
奏と翼の2人に背を押されて、ガルドは意を決して颯人の元を訪れた。ちょうど本部で暇を持て余していそうな彼を見つけて、意を決して事の次第を告げてみれば返ってきたのは驚くほどあっさりとした了承の言葉であった。
「あぁ、指輪? 良いぞ、任せとけよ」
「い、いいのか? 本当に? お前自身にメリットなんて何もないぞ?」
払える謝礼も出来栄えに見合うか分からないと告げれば、颯人はあっけらかんとした様子で持っていた知恵の輪を指に引っ掛けてクルクルと回しながら笑って答えた。
「俺そんなにケチ臭い方じゃねえつもりだぜ? それに折角の仲間からの頼み事だ。ここで応えなけりゃ男が廃るってもんだ」
奏にも愛想を尽かれちまうしなと付け加えれば、感極まったガルドは目を潤ませて颯人の両手を掴んで感謝した。
「あ、ありがとう……! 本当に、本当にありがとうッ!!」
「お前、早えよ。まだ物も出来てねえんだから」
「そ、そうだったな。スマン、つい……」
そうは言うが、実は颯人は颯人でこんな時が来るんじゃないかと思って彼なりに準備はしていた。具体的には、手品にかこつけてセレナの左手薬指のサイズを事前に測っていたのだ。
と言うか、セレナに限らず実はS.O.N.G.の女性陣全員こういう事になっても良いようにと、全員の左手薬指のサイズは把握済みだったりする。準備が良すぎてちょっぴり怖い気もするが、颯人曰く物事の仕込みはそれが必要になる前に済ませておくのが成功の秘訣との事。これも彼にとっては必要な準備だったと言う事である。
こうして指輪に関しては問題が無くなり、後は当日を待つのみとなった。その間にセレナの誕生日を祝う準備は着々と進められ、当日は食堂で元F.I.S.組を中心にS.O.N.G.の仲間達が盛大にセレナの誕生日を祝った。
「「「「セレナ! 誕生日おめでとうッ!!」」」」
「わぁッ! ありがとう、ガルド君! マリア姉さん! 皆!」
思えばF.I.S.に囚われてからと言うもの、満足に祝われたことの無い誕生日だ。まともな少女時代を過ごせず、事故で後遺症を患ってからは殆ど生かされているだけと言う乾いた日々を送って来たセレナにとって、こうして誰かに誕生日を祝ってもらえると言うのはこの上なく嬉しい事であった。無論F.I.S.時代も誕生日が来れば祝われはしたがそれは身内同士のささやかなものでしかなく、こうして料理が並べられプレゼントを渡されるほどの催しは彼女の心に沁み込む程に嬉しいものであった。あまりの嬉しさに思わず涙を浮かべるほどである。
「えへ、えへへ……! ぐすっ、本当に、本当にありがとう!」
嬉しさのあまり流れる涙を拭いながら、笑みを浮かべて祝ってくれる家族や仲間達に感謝するセレナ。そんな彼女の涙を吹き飛ばす様にパーティーは盛り上がり、料理はガルドが腕によりをかけて何時も以上に張り切り、余興で颯人が手品を披露したりした。
久方振りに過ごす祝いの席を楽しむセレナの姿に、ガルドも満足そうに彼女の姿を眺める。そこで颯人がこっそりと彼に近付き一つの小箱を周囲に見られない様に手渡した。
「おい、ガルド」
「ん?」
「待たせたな、ほれ」
手渡された小箱にガルドはハッとなって周囲に視線を配り、他に見ている者が居ない事を確認すると渡された小箱をそっと開けて中身を確かめた。その出来栄えに思わずほぅと息を吐くと、颯人に脇腹を小突かれ急いで小箱を懐に仕舞った。
「おいおい、お前が見惚れてどうすんだよ」
「ととっ、そうだったな。ありがとう颯人」
「礼はいらねえよ。その代わり、後で結果と感想聞かせろよな?」
「無論だ」
颯人とガルドがそんなやり取りをしているとは露知らず、セレナの誕生日パーティーは恙無く進み気付けば解散の時間となっていた。
主役のセレナとガルドは一足先に解放され、2人で同棲している部屋へと帰宅するとセレナはまだ興奮冷めやらない様子でソファーに腰掛けた。
「はふぅ……」
「疲れたか?」
胸の奥から絞り出す様な息を吐くセレナに、ガルドが温かい紅茶を淹れて手渡した。紅茶の入ったカップを受け取ったセレナは、彼に一言感謝しながらカップに口を付け満足そうに息を吐くと彼の言葉に否と答えた。
「ふぅ……ううん。楽しかった。あんなに楽しかったのは、久し振り……」
「そうだな……」
セレナの答えに頷くガルドだったが、その様子に彼女は違和感を感じた。何と言うか、普段の彼に比べて様子がおかしい。言葉で言い表すのであれば、硬いと言うのが相応しいだろうか。
「ガルド君? どうかした?」
違和感を感じ取られた事に一瞬動揺しそうになったガルドだったが、ここまで来たら覚悟を決めろと己を奮い立たせると彼女の前で膝をつき懐から小箱を取り出した。
「セレナ……渡したい物がある」
「う、うん…………!」
ガルドの改まった様子と張り詰めた雰囲気、そして彼が手にする小箱の存在に、セレナは一度静まりかけた興奮が再び胸を満たしていくのを感じた。いや、それ以上だ。
期待に胸を膨らませ、目を潤ませるセレナの前で、ガルドは小箱を開けながらその言葉を口にした。
「そ、その、セレナ…………俺と、け、結婚……して、くれないか?」
その言葉と共に開かれた小箱の中には、一つの指輪が収まっていた。プラチナのリングに、セレナの髪飾りと同じくピンク色の蝶の様な形をしたピンクサファイアが嵌められている。下手な店で売られている物よりもずっと綺麗で出来の良い指輪と、何よりガルドからのプロポーズにセレナは感極まって涙を流しながら指輪を差し出す彼の手を取って頷いた。
「うん……うんッ! よ、喜んで……! ガルド君、大好きッ!」
「セレナッ!!」
セレナからもらった答えに、ガルドは辛抱堪らず彼女を抱きしめる。暫く抱き合っていた2人だったが、思い出したかのように体を離すとガルドは小箱から指輪を取り出してセレナの左手薬指に優しく嵌めた。サイズは彼女の指にぴったりで、薬指に指輪を嵌めた左手をセレナは愛おしそうに眺めてもう一度ガルドを見上げた。
「ガルド君……ありがとう! 本当に、大好きだよッ!」
「俺もだ、セレナ。絶対、絶対に幸せにするからなッ!」
「うんッ!」
互いの将来を誓い合い、2人はもう一度互いに抱きしめ合った。
後日、奏に続き二人目となる薬指に指輪を嵌めたセレナの姿に、S.O.N.G.は軽く騒ぎとなり特にマリアは感情が色々とグチャグチャになり、夜には再び颯人と奏を引っ張って居酒屋で潰れるまで飲んだのはまた別の話である。
と言う訳で今回はセレナ誕生日記念回でした。
折角奏とキャロルでやったのに、同じく本作では相手のいるセレナで何もやらないのは可哀そうだと思い今回この話を書きました。勿論、残り一組のカップルであるクリスも忘れるつもりはありませんので年末をお楽しみに。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。