魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今回は本編の続きではなく、クリス誕生日特別編となります。今年最後の更新、よろしくお願いします。
来たる年末近くの12月28日。クリスマスを明けてすぐにやって来る年末年始に向けて、街は一気に雰囲気を変え仕事納めなどの準備に追われる事となる。
とは言えそれはほぼ年中無休で世の平穏の為に戦うS.O.N.G.にはあまり関係の無い事。流石に年末年始を祝ったりはするが、何処かの馬鹿が騒動を起こした場合に備えて最低限の警戒は怠らない。なので新年を祝う準備こそすれど、休暇だ何だと気を抜く輩は居ないが同時に仕事に追われててんやわんやと言う事とも無縁に近かった。
そんな中で、透だけは12月28日が近付くにつれて1人表情を険しくしながら唸る姿が頻繁に目撃されるようになっていた。しかもそういう時、彼は大抵1人で行動しておりクリスは何かしらの理由で一緒に居ない。
自身の様子から周囲を不安にさせないようにと普段滅多な事では表情を変えず穏やかな姿勢を崩さない彼にしては珍しい姿に、しかし過度に心配する者はS.O.N.G.の中には居なかった。それは別段、周囲が彼に対して薄情だとか無関心だとか言う訳ではない。周囲の者達には、彼が思い悩む理由が分かっていたからだ。
近付いて来る12月28日……それはクリスの誕生日なのである。一般家庭だとクリスマス近くの誕生日は、クリスマスと同時に祝われる事も多いがクリスに対してはその様な事は無く、クリスマスパーティーを楽しんだ後に別個でクリスの誕生日も祝われていた。
透が悩んでいるのは正にそれが理由であり、彼の悩みの種はクリスに何をプレゼントするかと言う事であった。
正直に言えば、クリスに送りたいと思っている物は山ほどある。つい数年前までは捕虜として辛く厳しい日々を過ごし、そして漸く解放され人並みの自由を手に入れたのだ。そんな彼女の人生を彩る為に、透は出来る限りの事がしたかった。
とは言え、何でもかんでも送っていてはクリスが大変なので、送る物は一つに絞らなければならない。さてどうしたものかと言う事で、透はクリスが居ないタイミングを見計らっては1人悩み続けていたのである。
本部の中だろうと外だろうと関係なく悩み唸るので、当然だがクリス以外の面々には彼が悩む姿が頻繁に目撃される。そしてそうなると、何時までも放ってはおけないのが響を始めとしたS.O.N.G.の仲間達であった。そしてこういう時、真っ先に頼られるのはこの男であった。
「そう言う訳で颯人さん、透君の悩みを何とか解決してあげる事って出来ませんか?」
響を始め、切歌や調と言った年少組に加えて翼やマリアまでもが颯人に縋るような視線を向けている。少し視線を遠くに向ければ、面と向かってはいないがガルドやセレナまでもが何か言いたげな様子で見ている。キャロルやハンスはあまり関心が無さそうではあるが、キャロルは少し気になるのか時折視線をチラチラと向けてきていた。
自身に集中する視線とそこに込められた思いに、颯人は何とも言えない顔になり奏はその様子を何処か楽しげに眺めている。
「……最近思うんだけど、皆俺の事を便利屋か若しくはランプの魔人か何かと勘違いしてない?」
魔法使いとして世を騒がす者と戦っているのは事実だが、彼の本業はマジシャンであって悩み相談を受け付けている訳ではないのである。にも拘らず皆事ある毎に最終的に颯人の事を頼って来る。別に相談に乗る事自体は構わないし、それで助けになると言うのであれば手助けや助言も吝かではないのだが、それはそれとしてご意見番か何かの様に扱われると色々と言いたくなる事もあった。
「これに関しては俺がアドバイスできる事なんてそんなに無いだろう? ガルドの時みたいにプロポーズを兼ねて婚約指輪を送るってんならいいけど、あの2人はまだそこまで行ってない訳だし」
「それは確かにそうですが……とは言え、雪音の誕生日が刻一刻と近付いてきているのも事実。北上が何を送るかを決めてもらわないと、私達も決めあぐねてしまいます」
大切なクリスの誕生日である。出来る事なら、透とプレゼントが被る様な事にはなりたくない。そんな翼の気持ちも分かるのか、颯人はどうしたものかと呻き声を上げる。
「ん~……とは言えなぁ? 俺がアドバイスしたとして、それで透が決めたプレゼントがクリスちゃんにとって何処までの価値になるかって気持ちもな~」
「そんなケチ臭い事言わないで、お願いするデスよぉ!」
「クリス先輩なら、透先輩から貰えた物ならきっと何でも嬉しい」
「調の言い方は極端かもしれないけど、実際あの子なら透からプレゼントされれば大抵の物なら喜んでくれるんじゃない?」
それは確かにそうだし、何なら例え何も貰えなくても透が一緒に居てさえくれればクリスにとってはそれ以上を望む事もないだろう。だがそれとこれとは別問題だ。大切な誰かに形ある何かを送ってもらう……それにこそ価値があり、クリスにとっての掛け替えのない思い出となるのである。
こう言われると颯人としても納得しない訳にはいかず、透に対して何かしらアドバイスしようと言う気にもなるが、問題は何をアドバイスするかであった。単純にプレゼント選びのコツを教えればいいのか、はたまた別の解決策を提示すればいいのか。
今度は颯人が悩みだしそうになったところで、助け船を出していたのはそれまで静観していた奏であった。
「随分と珍しく悩むじゃないか颯人?」
「何だよ奏、俺が悩んだら何かおかしいか?」
ちょっぴり小馬鹿にされたような感じになり颯人が唇を尖らせると、奏は軽く笑いながら手を振った。
「違う違う、らしくないって話だよ」
「はぁ?」
「颯人も颯人で疲れてるよな? クリスマスパーティーとかで披露する為の新作手品、夜遅くまで考えて寝る時間削ってるんだろ?」
奏の言葉に響達はあっ、と言う顔で颯人の事を見た。指摘された颯人は難しい表情になる。それは奏の指摘が事実であり、彼は彼で大変だと言う事をすっかり失念していた響達は申し訳なさそうに肩を落とした。
「す、すみません颯人さん……私達、颯人さんに頼る事ばかり考えてて……」
「そうですね。思えば颯人さんは、立花の誕生日の時とかも新作の手品を披露したりしてくれてた。颯人さんなりに苦労をしてるのに、その事を私達はすっかり失念して……」
場がお通夜ムードになりかけたのを見て、颯人は慌てて宥めながら肝心な事を暴露してくれた奏の事を睨み付ける。
「ちょちょっ!? 止めろってそんな、俺にそんな頭下げる必要ないってのッ! おい奏、何バラしてくれてんだッ!」
「こうでも言わないと、皆颯人の頑張りに気付かないからだよ。颯人も颯人だ。変にカッコつけてポーカーフェイスで気取ってばかりじゃ、いざって時が大変だっての」
そう言って双方を窘めた奏は、最後に現状への解決策……即ち透の悩みの払拭に繋がるだろう意見を口にした。
「大体、難しく考えすぎなんだって。別に明確な形あるものばかりがアドバイスじゃないだろ?」
「どういう事だよ?」
「そのままの意味だよ。颯人には颯人なりの、特技を活かしたアドバイスがあるだろ? それを透にしてやれって話だよ」
言われて颯人は顎に手を当て……そして奏が言わんとしている事を理解した。なるほど確かにこれは颯人だからこそできるアドバイスだ。
得心した様子で頷いた颯人は、奏に感謝しながら透の元へと向かっていった。
「なるほど、そう言う事か……サンキュー奏、助かったぜ!」
「良いから早く行ってこい。そんで、それ終わったらちょっと休め」
奏に送り出されるようにして意気揚々と透の元へと向かう颯人の後ろ姿を見送り、やれやれと言いたげに溜め息を吐いた奏は続いて場に集まっていた響達を手を叩いて解散させるのだった。
***
そうしてクリスマスも過ぎ、直ぐに迎えたクリスの誕生日。つい先日もクリスマスパーティーで盛大に騒いだばかりだと言うのに、響や切歌は我が事の様にクリスの誕生日を祝い騒ぎ、祝われる側のクリスが呆れるほどの賑やかさとなった。とは言えそんな風に賑やかに祝ってもらえる事も何だかんだ嬉しくて、ハッキリと言葉にする事はしなかったがクリスなりに自身の誕生日を楽しんでいた。
パーティーが進む中、途中颯人が余興として新作の手品を披露したりしつつやってきたプレゼントの贈呈。皆思い思いの物をクリスに送る中、透がクリスに送ったのはシンプルながらも作りがしっかりとした赤いマフラーであった。これから先もまだ寒さが続く中、響と未来が送ってくれた手袋同様素直にありがたい代物である。
子供の頃以来久し振りとなる誕生日プレゼントにクリスが目を輝かせていると、透は自身が送ったマフラーを優しく手に取り、そっとクリスの首周りに巻いてみせた。
「うん、やっぱり似合ってる」
「あ、ありがとう、透……!」
「でもゴメンね? 本当は手編みのマフラーを送りたかったんだけど、なかなか上手くいかなくってさ……」
「そんなの……透から貰えたんだ! 手作りかどうかなんて関係ない。これだって、凄く温かいし、とっても嬉しい……ありがとう、透!」
赤いマフラーを首に巻いて、頬を赤く染めながら笑みを浮かべるクリスの姿に透も釣られた様に笑みを浮かべる。周囲はそんな2人の姿を微笑ましく見守っていた。
そして、誕生日パーティーも終わり、片付けを終えた颯人達は解散し帰っていく。
その最中、颯人はさり気無く透に近付きクリスに気付かれないよう気を付けながら小声で話した。
「で、どうだ?」
「大丈夫です。颯人さん、ありがとうございます」
「気にすんなって。上手くやれよ?」
「はい……!」
透の返事に颯人は満足そうに頷くと、彼にエールを送る様に肩を軽く叩き2人の部屋を後にした。
パーティーも終わり、その余韻に浸る様にソファーに腰掛け心地良い疲れに身を委ねるクリス。その隣に、少し緊張気味に透が腰掛けた。
「楽しかったね、クリス?」
「あぁ……こんな風に祝われたの、本当に久し振りだ。透も、ありがとうな?」
「いいんだよ。それに……まだ終わりじゃないし」
「え?」
透の言葉に違和感を感じたクリスがソファーの背凭れから体を起こすと、透はコネクトの魔法で何かを取り出した。
「さっきクリスに送ったマフラー……あれ、実は一つじゃないんだ」
そう言って透が取り出したのは、クリスが今身に着けているマフラーと色以外全く同じ造形のもう一つのマフラーだった。違うのは色が緑色と言う点だけである。
色が違うだけで、造形が全く同じ。そして一つではないと言う言葉から導き出されるのは、ペアルックという言葉であった。それに気付きクリスは心臓が嬉しさに跳ねるのを感じた。
「透、それって……!」
「そう、ペアルックってやつ。でも、ただ単純にペアルックを選んだ訳じゃないんだ。ほら、これをこうして……」
徐に透は自身の首に緑色のマフラーを巻いたかと思ったら、彼は自身の首から垂れるマフラーの端とクリスのマフラーの端を優しく結んで一つにしたのだ。
「あ……!」
「ね? こうすれば、僕とクリスは一緒だよ。これまでも、これからも……」
一般に異様に長いマフラーを2人で共有する、所謂二人マフラーや恋人マフラーと言うものは存在する。だがこのように二つのマフラーを繋いで一つにすると言うのは珍しい。その珍しさと、透と繋がれた・何度でも繋がれると言うパフォーマンスにクリスも胸をときめかせた。
言うまでも無い事だが、これは颯人からの入れ知恵である。プレゼントに悩む透に対し、奏からある事に気付かされた颯人は贈る物ではなく贈った物でのパフォーマンスでクリスを喜ばせる事をアドバイスしたのである。確かにこの手の、パフォーマンス関係は颯人の得意分野だ。プレゼントを贈ると言う話で、こんな事を考え付くのは彼以外に居ない。
クリスもこれが颯人の入れ知恵であると言う事には気付いたが、敢えてその事を口にはせず心の中でのみ颯人に対してグッジョブとサムズアップをした。
「透、ありがとう……! 本当に、本当に大好き!」
「僕も……大好きだよ、クリス」
結んで一つに繋げたマフラーに繋がれながら見つめ合う2人。透は自然とクリスの体を抱き寄せ、近付く彼の顔にクリスはそっと目を瞑った。全てを委ねる姿勢を見せたクリスに対し、透は溢れ出す愛しさをそっと抑えた。
――今はまだ……でも、これ位なら……――
大人として一線を越えた颯人と奏の事を羨ましく思いつつ、互いに責任が持てる時まで待とうと透は自身の欲望を静かに抑えた。それでもクリスと触れ合いたいと言う想いと、彼女への気持ちを表現する為、透は彼女の唇に優しくキスをした。
「ん……!」
唇が触れ合った瞬間、クリスは僅かに吐息を漏らす。そして時間にして数秒ほど、2人は唇で互いの体温を感じあい、どちらからともなく名残惜しそうに離れた。クリスは頬を真っ赤に染めながらも、透と触れ合った唇を愛おしそうに優しく撫でた。
「へへっ……そう言えば、キス、初めてだったかも」
「僕もだよ、クリス」
「ねぇ、もう一回……」
「いいよ。ん……」
「ぁ、んむ……!」
再びのキス。今度はクリスも彼の首に腕を回し、互いにしっかりと抱き合いながら体温を交換する様に彼の唇の感触を堪能した。
最初目を瞑っていたクリスが薄く目を開ければ、そこには自身の事を慈しむように優しく見つめてくる透と目があった。互いに唇が塞がっている為言葉を口にする事は出来ないが、この2人はそんなものに頼らなくとも想いを伝え合わせる事が出来る。
愛している……お互いに同じ事を考えつつ、クリスは今暫くこの安らかな時間を一秒でも長く堪能しようと再び目を瞑るのであった。
と言う訳でクリス誕生日特別編でした。
時系列的にはXV編の少し前位。本編でも語られていたクリスと透のペアルックマフラーに焦点を当てた話となりました。ただ半分以上はそこに漕ぎ着ける為に悩む颯人達の話となってしまいましたが、その分2人にスポットを当てた部分は飛び切り甘くしたつもりです。
地味にこれがファーストキスのクリスと透。抱き合う姿は頻繁に見せていましたが、何気にキスをした事はありませんでした。普段は愛おしさに負けてクリスを押し倒す事が無いようにと自制しまくっている透でしたが、今回ばかりは少し自分にも甘くして気持ちを伝える意味でもキスに踏み切りました。
因みにキスまでです。フェードアウトした後に……と言う事はありませんでした。そこは透もきっちり自分を抑えています。一線を越えるのは高校を卒業するまでと決めているので。
今回が今年最後の更新となります。私のオリライ小説を読んでくださっている方にとっては違うでしょうが、本作をメインにしてくださっている方達は今年1年もありがとうございました!
また来年もよろしくお願いいたします!どうかよいお年を!
それでは。