魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回より本作のラストを飾るエクストラストーリーが始まります。完全オリジナルストーリー、あまり長くはならない予定ですが、どうか最後までお付き合いくださいませ。


最終編
第269話:胎動する悪意


 眼前に広がる、目を覆いたくなるような光景……それを奏は、目に涙を溜めながら瞼を閉ざす事が出来ずにいた。

 

 視界に映るのは2人の人物。1人は最愛の颯人。彼は今、血だらけの状態で倒れピクリとも動かずにいる。

 

 その彼の前に佇むのは、槍を携えた邪悪の化神とも言える悪の大魔法使い。そいつは颯人の血に塗れた槍の穂先を振り回しながら狂ったように嗤っている。楽しくて楽しくて仕方がないと言うような笑い声が鼓膜を揺さぶり脳に響く度に、奏は絶望に視界が暗くなっていくのを感じた。

 

 だが…………

 

「まだ、だ……」

 

 まだ……そう、まだ諦める訳にはいかない。奏は彼を、颯人を信じていた。彼はどんな絶望的な状況であろうとも、決して諦めず足掻き続けた。彼が今まで唯一諦めかけたのは、自身の魔力を制御できずファントムと化す寸前である。

 

 颯人だって絶望的な状況でギリギリまで諦めなかったのだ。ならば、自分だって諦める訳にはいかないと奏は折れそうになる心を奮い立たせる。

 

 そして彼女は、唄を歌った。最愛の男に捧げる、自身の全てを懸けた希望の唄を。希望を託すための唄を、心の底から、魂を震わせて歌い上げる。

 

 周囲に響く奏の唄に、悪の魔法使いは煩わしそうに彼女の事を見て…………その足元で、倒れ伏した颯人の指がピクリと動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワイズマンの企みを打ち砕き、一時は小さなゴタゴタ以外平和になった世界。だがそれも、長くは続かなかった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 突如として街に響き渡る人々の悲鳴。そこで起こっているのは、無辜の人々を襲う異形達による宴であった。

 

 逃げ惑う人々を追うのは、一見すると人間のようであるがよく見るとその姿は人間とは程遠い。体はまるで石の様な質感で、頭には小さいながらも角が二本生えている。手には槍を持ち、動きは何処か緩慢だが人に襲い掛かる動きは意外と俊敏で逃げ遅れた人々が異形の持つ槍の餌食となる。

 

 この異常事態に当然警察も動き出すが、警官が持つ拳銃では異形の体に傷一つ付けることは出来ず勇敢な警察官が命を散らせていった。

 

 正にこの世の地獄としか言いようのない光景。しかしそれを放置する程、神は無情ではなかった。

 

「ハァッ!」

 

 黒いコートの裾を翻して異形達の前に躍り出たのは、颯人が変身した魔法使いウィザード。彼は見た事の無い異形が人々を襲う姿に仮面の奥で怪訝な顔をしながらも、先ずは人命救助が最優先とガンモードのウィザーソードガンを構え次々と発砲していく。

 

 放たれた銃弾が異形の表皮で弾けると、警官の拳銃で撃たれた時とは違い異形は衝撃にひっくり返った。だが数発撃たれた程度ではすぐに立ち上がり、槍を構えて迫って来る。その頑丈さはこれまで彼らが戦ってきたノイズやアルカノイズとは明らかに一線を画していた。

 

「チッ、何だコイツ等? アルカノイズじゃなさそうだが……」

 

 颯人が戦いながら首をかしげていると、逃げ遅れたらしき1人の少女が異形の1体に狙いを付けられていた。電柱の影に隠れていたところを見つかったらしい。ゆっくりと槍を構えて迫ってくる異形に、少女は恐怖に戦き足が満足に動かずその場に尻餅をついてしまった。

 

「あ、あぁぁ……!? た、助け、助けて……!?」

 

 恐怖に慄いた少女の助けを求める声に、気付いた颯人がそちらに向かおうとするも他の異形達が邪魔で近付けない。その間に少女に接近した異形は手にした槍を突き立てようと振り被り…………

 

「ヒィッ!?」

「させるかぁッ!」

 

 寸でのところで奏が割り込ませたアームドギアが振り下ろされた槍を弾いた。そのまま奏は蹴りを放って異形を下がらせると、へたり込んだ少女の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせ背中を押してこの場から逃がした。

 

「今の内だ、早く逃げろッ!」

「は、はいぃ……!」

 

 訳も分からないながら、必死に足を動かして逃げる少女。それを見送り束の間安堵した奏は、すぐさま表情を引き締めるとアームドギアの槍を構えて颯人と共に異形達と対峙する。

 

「颯人、コイツ等なんだと思う?」

「さぁて、初めて見る奴らだ。アルカノイズには見えないが、普通の生物とも思えねえ」

「って事は、魔法か錬金術の産物か?」

「多分な。取り合えず、コイツ等はさっさと始末するぞ」

 

 異形達は、数は多いしアルカノイズらに比べれば頑丈だが、決して強いと言える様な存在でも無かった。攻撃の瞬間は俊敏だがそれも普通の人間を相手にした場合の話であり、数々の事件で多くの敵と戦ってきた颯人や奏にとっては大した事のない相手でしかなかった。事実異形達は2人の姿を捉える事が出来ず、逆に2人は次々と異形を蹴散らし一撃も攻撃を喰らう事なく圧倒した。

 

「幾ら頑丈とは言っても、コイツを耐えられるか?」

〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ……フレイム! シューティングストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉

「貰ったぁッ!」

POWER∞SHINE

 

 颯人が体を回転させながら周囲の異形に狙いを定めて引き金を引けば、次々と放たれる炎の銃弾が異形を打ち抜き……

 

 奏が振るった槍からは、光る斬撃が放たれ周囲の異形を逃さず切り裂いた。

 

 通常攻撃では倒せなかった異形達も、2人がそれぞれ放つ必殺技には耐えられなかったらしい。撃ち抜かれた異形も切り裂かれた異形も、炎に包まれて爆散し消え去ってしまった。

 

 周囲から異形が消え去り、しかり颯人も奏も油断なく周囲を見渡して残った奴が居ないかを注意深く警戒した。あれに知性があるようには見えなかったが、他の仲間がやられているどさくさに紛れてこちらの隙を伺う程度の知恵が無いとも限らない。

 

 とは言えそれは杞憂であったらしい。暫く待って周囲に動く気配がない事を確信すると、2人はどちらからともなく警戒を緩め肩から力を抜き一息ついた。

 

「ふぃ~、何とかこの場は凌いだみたいだな?」

「それにしても、ありゃ本当に一体何だったんだ? あんな可笑しな奴初めて見るぞ」

 

 奏と話しながら、颯人は周囲の地面をざっと見渡す。周囲はあの異形が暴れた事と、2人がその異形を倒す為に戦った余波で建物や地面が罅割れ砕けた瓦礫などが散乱している。

 その中から颯人は、あの異形の欠片と思しきものを見つけるとそれを親指と人差し指で摘まみ上げた。一見すると石にしか見えないが、光に翳して角度を変えると金属などとは違う光沢を見せる。横からそれを覗き見た奏は、欠片が残った事にやはりあれはアルカノイズなどではない事を確信する。

 

「こんなのが残るって事は……やっぱりあれってアルカノイズとかじゃないって事だよな?」

「あぁ。ノイズだったら倒せば炭素の塵になるし、アルカノイズったらプリマなんちゃらって塵になる筈だ。こんな形で残る訳がない」

「これ、義母さんに見せるのか?」

「当然」

 

 颯人は異形の欠片を懐に仕舞うと、奏と共にその場を後にして本部へと帰還していった。

 

 その様子を物陰から覗く、先程のものとは異なる異形が居た事にも気付かずに…………

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 本部に戻った颯人は、早速回収した欠片をアリス達技術班に預け自分達は発令所で会議に参加していた。

 

「先ずはご苦労だった、颯人君、奏。2人のお陰で、被害は最小限に食い止められた」

「つっても、少なくない犠牲は出ちまったけどな」

 

 弦十郎からの激励に対し、颯人と奏の表情は決して明るいとは言い切れなかった。何分今回の事件はあまりにも唐突過ぎた為、出動が遅れてしまい結果犠牲者が出てしまった。仕方がない事ではあるが、それでも間に合わず助けられなかった一般人やその一般人を助ける為勇敢に立ち向かい犠牲となった警察官たちに対して、2人は申し訳ないと言う思いを抱かずにはいられない。

 

 肩を落とした2人に、響達は何と言葉を懸けるべきかと迷った。2人が手を尽くした事はこの場の誰もが認めている。しかしそれを今の2人に告げた所で、所詮は儚い慰めにしかならず逆に2人を追い詰めるのではないかと思うと迂闊な言葉を口にする事は出来なかった。

 

 そんな中で2人に声を掛けたのは、白衣を羽織り誂えられたコンソールに向かっていたキャロルであった。

 

「己惚れるな」

「ん?」

「お前達2人で出来る事等たかが知れている。全てを余さず逃さず助けたいと言う想いは立派だが、それは実際には不可能に近い。どう足掻いても指の間から零れる奴は必ず出てくる」

 

 厳しく辛辣なキャロルの言葉が2人の心に突き刺さる。流石に厳しすぎるのではないかと翼が抗議しようとするが、マリアはそれを敢えて宥めてキャロルの言いたいように言わせてやった。

 

「キャロル、それは……」

「まって翼」

「マリア?」

 

 何故止まるのかと翼が見れば、マリアは小さく首を振って颯人と奏、そしてキャロルの様子を見守った。

 

「そりゃその通りかもしれねえけどさ、でも力不足は痛感せずにはいられないぜ?」

「当然だ。この結果を当たり前と開き直るようでは、お前達はその程度と言う事になる。その結果に甘んじず、貪欲に手を伸ばし続けるのがお前達なのだろう?」

 

 そうでなければ、あの危険な状況で自分を助けるような事はせず、全てを失った自分を見捨てず支えてくれるような事もしなかった筈だとキャロルは言外に2人に告げた。確かに今回、少なくない数の犠牲者が出た。だがそれを仕方がない事と開き直るつもりは、颯人にも奏にも当然無かった。

 

「「当たり前だッ!」」

「なら、それでいいじゃないか。誰かを助ける為ならば何処までも貪欲に馬鹿になれるのがお前達だ。精々その気持ちを胸に、さっさとこの事件を解決してみせろ」

 

 言い方は乱暴だが、どうやらキャロルなりに落ち込んだ颯人達を励ましてくれたらしい。不器用なやり方に、しかし颯人も奏も先程よりは気分が楽になったのを感じて元気付けてくれたキャロルに素直に感謝した。

 

「言われるまでもねえよ」

「あぁ……ありがとな、キャロル」

「フンッ……」

 

 不器用ながらもキャロルからの気遣いを感じ、2人は彼女に感謝する。それに対して彼女は小さく鼻を鳴らすだけで応えたが、よく見ると耳の先が少し赤くなっている事は隠しきれておらずそれが何とも微笑ましくて颯人達は笑いを堪えるのの少し苦労するのだった。

 

 

 

 

 そんな感じに、2人を元気付けられたところで了子の元にアリスからの連絡が入った。内容は勿論、先程颯人が回収した異形の欠片に関してである。

 

「皆、アリスから検査の結果が届いたわ。今モニターに映すわね」

 

 了子がコンソールを操作すると、正面のモニターにアリスの顔が映った。彼女の背後ではエルフナインやヴァネッサ、キャロルから手伝いを言い渡されたのだろうオートスコアラー達が忙しそうに行ったり来たりしているのが見える。

 

『お待たせしました。先程颯人と奏さんが戦った相手について凡その事が分かりました』

「単刀直入に聞きたいんだが、あれは何だったんだ?」

『先に結論を述べておくと、あれはグールと呼ばれるファントムの一種です』

 

 ファントムと言う単語に颯人達は険しい表情になって互いに顔を見合わせた。ファントムと言えば、これまでに何度か対峙してきた魔法使いが魔力の制御を失い堕ちた姿として印象に残っていたからだ。特に颯人は一歩間違っていれば自身もそうなっていたかもしれないので、先程戦った無数の存在がファントムであると聞かされて心穏やかではいられなかった。

 

「ファントムって、つまりあれだけの数の魔法使いが死んだって事か?」

『それは違うわ颯人。あれは飽く迄もファントムの一種であって、ファントムとはまた少し違う存在よ。言うなればファントムの眷属としてのファントムと言ったところかしら』

「つまり、魔法使いと言う器を必要としない、ファントムから生み出されたファントムの切れ端とでも言うべき存在と言う事か?」

『その認識で概ね間違いないでしょう』

 

 アリスの言わんとしている事を、キャロルが端的に纏めて表現すれば颯人達も納得したように頷く。確かにそう言われれば、アルカノイズなどよりも頑丈だが本物のファントムに比べて弱いと言うスペックも理解できる。

 尚より正確に述べるとすれば、グールの元となるのは特殊な鉱石である魔石であり、これはサバトを行った際に生み出されるらしい。魔法使いになりそこない砕け散った人間の想いの結晶が賢者の石であるならば、魔石は賢者の石になれず吹き零れた灰汁の様な存在であると言うのがアリスの見解であった。

 

「って事は、少なくともそのグールって化け物は自然発生する事は無いんだな?」

『そうです。文献によれば、グールはファントムにより生み出されるとあります』

「それじゃあ、あそこにはあの数のグールを使役していたファントムが居るって事?」

 

 アリスの話を聞いてクリスと透がその結論に至る。確かにそう考えれば辻褄は合う。ジェネシスも壊滅したとは言え所属していた魔法使いの全てを倒した訳ではなく、明確に取り逃がした者が居る事はこの場の誰もが理解していたからだ。

 

 その取り逃がした魔法使いの名を、颯人は腹の底から吐き出す様に呟く。

 

「グレムリン……あの野郎、今度は何考えてやがる?」

「あの決戦でも姿を見せなかった。自分のボスをも見捨てて、ロクでもない事を企んでるのは間違いないだろうな」

「でも、奴は危険よ。何を考えてるか分からない分、次の行動が予想出来ない」

「あぁ、その通りだ。奴は異常だ。こちらの常識が通用するとは思わない方がいい」

 

 颯人に続き、奏にマリア、ガルドまでもが口々に不安を口にする。それほどにグレムリンは先が読めない相手であり、これまでに彼らが相対してきた存在とは根本的な部分で何かが違う存在だったのだ。

 

 だが何よりももどかしいのは、敵の狙いが現時点では全く読めない事だ。突然グールを使って人々を襲わせたのだって、何を目的にしているのか全く分からない。その不可解さが余計に彼らの不安感を掻き立て、焦りを生み出す要因でもあった。

 

「旦那、これからどうする?」

 

 堪らず奏がこの場の責任者である弦十郎に指示を仰げば、彼も明確な方針は決められないながらも何とかすべきと言う意識はあるのか神妙な面持ちで眉間に皺を寄せながら口を開いた。

 

「現状、敵の狙いが読めない以上我々は後手に回らざるを得ない。とは言え、何も出来ない訳ではない。目下錬金術師協会とも協力して、敵の早期発見を目指す。暫くの間は、装者と魔法使いの諸君にも警戒態勢に入ってもらう。大変だとは思うが、頼むぞ」

 

 弦十郎からの指示に、颯人達は力強く頷く。

 

 特に颯人は、表には出さないが内心での気合の入り方が違った。今度こそグレムリンと完全に決着をつける。奏に対し、異様に執着を見せるあのイカれた魔法使いに、今度こそ目に物を見せてやると彼は1人意気込むのだった。




という訳で第269話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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