魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第272話:悪意の種

 グレムリンによりセレナの中に植え付けられたファントムは、ガルドの活躍で何とか除去する事が出来た。かなり危うい状況ではあったが、最悪の事態は回避できたと言う事で誰もが安堵に胸を撫で下ろす。

 

「セレナ……! 良かった、本当に……!」

「ま、マリア姉さん、苦しいよ……」

 

 特に反応が著しかったのは言うまでの無くセレナを溺愛していたマリアであり、彼女の安全が確かなものとなると知るや喜びの感情を抑えきれず力の限り抱きしめてしまっていた。無事を喜んでもらえるのは素直に嬉しいセレナであったが、容赦の無いハグが予想以上に苦しくて思わずタップすると見兼ねた奏と翼により引き離されてしまう。

 

「ほれほれ、気持ちは分かるが落ち着けマリア」

「そのままだとセレナが窒息するぞ」

「あ、あぁっ!? ご、ごめんなさいセレナッ!?」

「けほっ……ううん、大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

 一先ず危機は去ったと言う事で、誰もが落ち着きを取り戻した。その頃合いを見計らって、ガルドは先程セレナのアンダーワールドで回収した欠片をアリスに手渡した。

 

「そうだ、アリス。そのセレナのアンダーワールドで生み出されたファントムについてなんだが……」

「どうしました?」

「どうも、こいつがその核とやらみたいなんだ」

 

 そう言ってガルドが手渡した欠片は、一見すると鉱石の欠片の様に見えた。倒されたファントム共々砕けたらしく元がどの様なものであったのかは判別が出来ない程小さくなってしまっているが、それでもアリスにはそれが何であるかある程度予想できたらしい。受け取った瞬間険しい表情となり、急いで自身の工房へと引っ込んでいってしまった。

 

「これは……! す、少し席を外しますッ!」

「あ、アリスッ!」

 

 思いのほか慌てた様子のアリスを呼び止めようとするガルドだったが、息子の颯人はそれを宥めた。確かにアリスのあの慌てようは少し気になるが、今はそれよりも優先して済ませなければならない事がある。

 

「気持ちは分かるが、今はあれに関しては母さんに任せよう。それよりも俺達は、逃がしたファントムの方を何とかするぞ」

 

 そうだ、セレナにファントムが植え付けられた事に関しては気になる事が山ほどあるが、今はそれよりも先に対処すべき問題があった。逃がしてしまったミノタウロスファントムを何とかしなければ、また何処かで暴れられて被害が出てしまう。それどころか、セレナと同じように誰かにファントムが植え付けられてしまう可能性も否定できなかった。

 

 その事を鑑みて、弦十郎は既にスタッフを動かし持ちうる情報網も総動員して逃げたファントムの行方を追っていた。

 

「その事だが、こっちで既に捜索の手を伸ばしている。現在キャロル君達にも手伝ってもらっているから、何か見付かればすぐに連絡がある筈だ」

 

 彼がそう告げた次の瞬間、件のキャロルから通信が入った。オペレーターの朔也とあおいが通信に応答すれば、案の定ファントムを見つけたと言う報告が入る。

 

「来たッ! こちら本部ッ!」

『俺だ、キャロルだッ! 今し方逃がしたと言うファントムを見つけたッ! 今ハンスが相手してるッ!』

 

 通信から今キャロル達が居る場所を割り出すと、そこは最初にファントムが確認された場所から大分離れた所になっていた。セレナにファントムを植え付けられてからまだそんなに時間は経っていないと思っていたが、彼らが思ってる以上に時間が経過していたのかそれともミノタウロスファントムの行動が予想を上回って軽快だったらしい。とは言え、居場所さえ分かればこちらのものである。

 

「俺と透で援護に向かう。ガルド、お前はここでセレナ達を守っててやんな」

「だが……」

「グレムリンの事です。僕らが全員で援護に向かって、その間に再びセレナさんに手を出そうとして来ないと言う保証はありません。キャロルさん達の方には僕と颯人さん、それとクリスで向かいます」

 

 確かに、グレムリンであれば一度は失敗したと思わせて再度襲撃を仕掛けてくる可能性もゼロではなかった。それに目的が分からない以上、今度はキャロルの方にちょっかいを掛けてこないとも限らない。どちらに対処すべきか悩むところではあるが、ここは一応の安全策として現場に颯人と透、グールが多数出現した時の為に広域殲滅に適したクリスを向かわせ、他は本部に待機とした方が確実だろう。少なくとも、別の場所で何か起きたら即座に戦力を割く事は出来る。

 

「分かった、頼んだぞ」

「よし。んじゃ、お2人さん。行くとするか?」

「はいッ!」

「任せなッ!」

 

 透は勿論、彼に必要と頼られて嬉しいのかクリスも気合十分と言った様子で頷いた。頼もしい2人の姿に颯人は微笑みながら、奏に無言で頷くと彼女も頷き返してきたので転移魔法を使って現場へと急行する。

 

〈テレポート、プリーズ〉

 

 颯人達が向かった現場は最初にミノタウロスファントムが出た場所から離れた住宅街であった。場所が場所な為周囲にはまだ逃げ遅れた人々がおり、そう言った人々をキャロルと彼女の配下であるオートスコアラー達が必死に守りながら逃がしている。

 

「チッ! こんな所で騒ぎを起こすなんて……!」

「マスター! 逃げ遅れた者達の誘導は我々で地味に行っておきますので、マスターはハンスの援護をッ!」

「不肖我々、直接戦う術を取り上げられたとはいえ、与えられた使命は果たしてみせます」

「心配しなくても、誰1人傷付けさせはしませんから、マスターは大船に乗った気でハンスの手伝いに回ってくださいな」

「頑張るゾ~ッ!」

 

 キャロルがミノタウロスファントムだけでなくグールによる攻撃の余波から逃げ遅れた人々を必死に守っていると、レイア達オートスコアラーがそう言って彼女の背を押してくれる。

 

 現状、ミノタウロスファントムとハンスが変身したビーストの戦況は五部五部と言った感じではあるが、彼は彼で周囲への被害を気にして戦っているからか満足に動けていない印象がある。余計な被害を出さない為か、相手に強引な手段に出られないようカメレオンマントなどは使えず、殆ど素の状態での戦いばかりしている。それでも彼が早々負けるとは思っていないが、同時に彼を助けたいと言う気持ちもありそれがキャロルを焦らせる要因となっていたのだ。

 その焦りを見抜いたオートスコアラーの言葉に、キャロルは情けない姿を見せてしまったと嘆息しつつ同時に感謝してレイア達に民間人の避難を任せて自身はハンスの援護へと向かった。

 

「分かった。任せたぞ、お前達ッ!」

 

 言うが早いか、キャロルはピアス型のスペルキャスターを軽く指で弾く。それが合図となり、キャロルの全身を光が包んだかと思うと次の瞬間には新調した賢者の石のファウストローブを身に纏い、ミノタウロスファントムを相手にサーベル一本で相対しているハンスを援護すべく錬金術による攻撃を放った。

 

「ハンスッ!」

「ぐおっ!?」

「キャロルッ!」

 

 本来キャロルのファウストローブはオートスコアラーを変形させた浮遊砲台とセットで運用する事を基本としてはいたが、例えオートスコアラー達が別行動中でも戦いに参加する事自体は可能であった。キャロルはオートスコアラーのサポート無しで錬金術を駆使し、ミノタウロスファントムをハンスから引き剥がすと彼の傍に佇んだ。

 ハンスは彼女が傍に来てくれた事を純粋に嬉しく思う反面、彼女が離れればその分民間人の避難に支障が出るのではないかと危惧してしまった。

 

「キャロル、避難の方は……」

「それならレイア達に任せてきた。アイツ等なら大丈夫だ。それに、本部にも連絡済みだから、そう遠くない内に援軍が来る。心配いらない」

 

 その言葉は本当に間も無く現実となった。出し抜けに上空から無数のミサイルが降り注ぎ、周囲を破壊しようとしていたグール達の動きを次々と動きを止め、時には粉砕してしまった。

 

「チッ! やっぱノイズなんかとは違うな。残ってる奴が結構居やがる」

「うんにゃ、動きが止まっただけで上等さ。それにちょっと硬いってだけで、倒せない程じゃないんだ。やるぜ、2人共」

「はいッ!」

 

 キャロルからの通信を終え、転移魔法で現場に急行した颯人達は手始めにクリスのイチイバルによる広範囲へのミサイル攻撃でグール達の動きを阻害した。ノイズやアルカノイズに比べて頑丈な為元からダメージを負っていた個体を幾つか倒せただけで残った奴も少なくなかったが、動きの鈍重さもあって決して苦戦するような相手ではなかった。

 

 そして颯人達が援軍に来てくれれば、その分オートスコアラー達にも余裕が生まれる。キャロルのファウストローブのオプションとしても機能するレイア達に、颯人はグールの相手を自分達が引き継ぎオートスコアラー達はキャロルの援護に向かわせた。

 

「後はこっちで何とかする。お前らはキャロルの方に行けッ!」

「助かる」

 

 颯人達がグールの相手をしてくれている間に、レイア達4体のオートスコアラーはハンスと共にミノタウロスファントムと戦っているキャロルの元へと向かうと、その姿を台座に乗った結晶に変化させてそれぞれの属性の錬金術による攻撃で牽制しながらキャロルの周りを浮遊した。

 

『地味にお待たせしましたマスター』

『ここからは私達も共にッ!』

「よしっ!」

 

 オートスコアラー達が変化したオプションがあれば、キャロルのファウストローブは100%の力を発揮できる。周囲を浮遊する結晶からそれぞれの属性の錬金術の砲撃を行う事で、キャロルはミノタウロスファントムを着実に追い詰めていった。

 

「ぬぉっ!? くっ!」

「逃がすかッ!」

 

 当然ミノタウロスファントムもこれ以上は自身が不利になると撤退しようとするが、ここで逃がせばまた何処かで騒ぎを起こすとキャロルはミノタウロスファントムの逃走ルート上に水と炎の属性の結晶を配置し水流と火炎の砲撃を放ち押し戻した。

 

「ぐぉぉっ!?」

「そこっ!」

「ぬぐっ!? ぐぁぁっ!?」

 

 更にキャロルは追い打ちで土属性と風属性、そして自身が放つ複合属性による攻撃でミノタウロスファントムを追い込み、そこにハンスがトドメを刺す形でストライクビーストを叩き込んだ。

 

「ハンスッ!」

「サンキューッ!」

〈キックストライク! ゴーッ!!〉

「オラァァァァッ!」

 

 放たれた飛び蹴りは狙い違わずミノタウロスファントムへと直撃し、ライオンの頭部を模った魔力がファントムの体を食い千切る様に炸裂した。度重なるキャロルによる攻撃で既にボロボロだったミノタウロスファントムは、これに耐えきれず爆散する。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 爆散したミノタウロスファントムは魔力の塵となって霧散しそうになるが、その魔力はビーストの魔法陣の形に固まるとそのままビーストドライバーへと吸収されていた。吸収された魔力はそのままキャロルへも流れ込んでいき、戦闘で消耗した2人の体にファントム1体分の魔力が行き渡る。

 

「ふぅ……終わったか」

「みたいだな。あっちは……」

 

 ファントムは難なく倒し、残るは周囲で暴れるグールのみ。そのグール達も、颯人達の手に掛かれば脅威となる事は無くハンスがミノタウロスファントムを倒したのとほぼ同時に全て殲滅されていた。

 

 颯人の方もキャロル達がミノタウロスファントムを倒したところは確認していた為、グールの姿が見えなくなると凝った肩を解す様に回しながら声を掛けてきた。

 

「よ、お疲れ」

「互いにな」

「お2人が迅速に動いてくれたおかげで、被害も少なくて済みました」

「随分丸くなったじゃねえか」

「うるせえ」

 

 戦いが終わった事に安堵し軽口を叩き合いながら、颯人の転移魔法で5人は本部へと帰還していった。

 

 その様子をグレムリンが物陰から見ていた事にも気付かずに…………

 

 

 

 

 帰還した5人を迎えたのは、颯人達が出動する前に工房へと引っ込んでいったアリスであった。彼女はこの決して長くはない時間でガルドが回収した欠片に関して細かく調べ上げ、それが何であるかを理解しその情報を共有しようと装者と魔法使い達を全員発令所に集めていたのである。

 

「お疲れさまです、颯人。皆さんも」

「母さんがここに居る……って事は、もう?」

「えぇ。これが何なのか、大体わかりました」

 

 アリスはそう言うとコンソールに近付き、キーボードを操作して正面のモニターに拡大した欠片を映しながら話し始めた。

 

「まずガルドが回収した欠片ですが……これは端的に言ってしまえば賢者の石の欠片でした」

「賢者の石ッ!?」

「それって、あの戦いの後に回収してた筈じゃ……」

「えぇ。ですが、恐れていた事ですが、やはり砕けた破片のいくつかはグレムリンに回収されていたようです」

 

 あの戦いの最後、颯人と奏がカーバンクルファントムを宇宙に追放し響によりヤマタノオロチが倒された。そのゴタゴタの最中、砕けた賢者の石はグレムリンによって素早く回収されていたのだ。アリス自身砕けた欠片が全てかどうか自信が無かった為、錬金術も用いて回収し忘れが無いか確認していた為グレムリンは彼女が動くよりも先に僅かながらでも欠片を回収していたのだろう。そうとしか思えない。

 

 その手癖の悪さと手際の良さ、そして抜け目なさにキャロルは忌々しそうに舌打ちをした。

 

「チッ、相変わらず手癖の悪い奴だ」

「しかし、賢者の石でファントムが生まれるのか?」

「普通は無理でしょう。この賢者の石の欠片には、明らかに加工された形跡があります。恐らく回収された後、人間の命を魔力に変換してファントムを生み出す核となるように加工されたのでしょう。そう、魔法の指輪を作るのと同じような要領で」

「そう言えばワイズマンの奴も、ジェネシスにも指輪を作る奴が居るって言ってたな」

 

 颯人がふと最終決戦の最中のワイズマンのセリフを思い出しながら呟き、改めてジェネシスにもまだ指輪を作れる者が居ると確認して危機感に近いものを抱く。首魁は居なくなった筈だが、それでも尚グレムリンが動けるくらいにはその敵方の職人の存在は大きいらしい。これはうかうかしていられない。

 

「旦那、ジェネシスの本拠地ってのはまだ分からないのか?」

「あぁ。錬金術師協会とも協力して、何とか位置を割り出そうとしては居るんだがな」

 

 あれだけの組織だ、拠点の無い根無し草の集まりと言う事は絶対にあり得ない。何処かに根城となる場所がある筈だとあの手この手で探してはいるのだが、現状その場所の特定に至ってはいないのが厳しい所であった。

 

 颯人はまだまだ戦いが終わりそうにない事に、僅かに苦い顔になりながら正面モニターに映る加工された賢者の石……ファントムの種を睨み付けるのであった。




と言う訳で第272話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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