魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
セレナに続きキャロルまでもが命の危機に晒された。その事実にS.O.N.G.の主だった面々は今後の行動について慎重を喫すべきと言う事で、主だったメンバーを集めての対策会議を行っていた。
「さて……先日、セレナ君に続いてキャロル君までもがグレムリンに狙われ命の危機に瀕した訳だが……」
「すみません……ガルド君や、皆に迷惑を掛けて……」
「クソ……俺とした事が、とんだ失態だ」
改めて自分達が皆の足を引っ張ってしまったと、セレナは心底申し訳なさそうに肩を落としキャロルも屈辱に苦虫を嚙み潰したような顔になった。セレナなどは特にフロンティア事変でマリアやガルド達のお荷物となってしまっていた経験があるので、それを少しでも挽回すべく日々細々と努力しているのに結局は助けられてしまった事に不甲斐無さを感じずにはいられなかった。
一方キャロルも、魔法少女事変では颯人達と敵対し翻弄したと言う経験を持ちながら、今度は自分が翻弄され手の平の上で弄ばれてしまったと言う事実に屈辱を感じずにはいられない。彼女は自分が錬金術師として優れた技術を持ち、また戦闘力でも颯人達に決して引けを取っていないと言う自負がある。その自負と誇りを嘲笑われたような気になり、言いようのない不快感を感じていたのだ。
そんな2人を、それぞれのパートナーは慰める様にそっと抱き寄せたり背中を撫でる。そうされると、現金と思われるかもしれないが、それでも心は安心し幾分か表情も和らぐ。
セレナとキャロルが落ち着いたのを見て、会議を取り纏めている弦十郎は安堵したように小さく息を吐くと会議を再開した。
「恐らくだが、グレムリンは明確に俺達S.O.N.G.に狙いを絞ってきている。だがその目的が分からない。誰か、何か心当たりのある、若しくは予想出来る事はあるか?」
グレムリンが起こす騒動は決してS.O.N.G.を狙ったものだけには限らない。それら以外にも時折グールやファントムが騒ぎを起こす事はあり、その裏にはグレムリンの影がチラついていた。だがグレムリンが直接動かない場合に起こる騒動は大抵が小競り合い程度であり、グールの数は少ないしファントムも少し矛を交えるとすぐに引き下がってしまう。まるでおちょくられているような感覚に、弦十郎ら銃後の者達も対策を決めかねている状況だった。
「目的、と言われても……」
「私達、特別なお宝とか何も持ってはいないのデース」
「そうよね。前の事件の時ならともかく、もうグレムリンが欲しがるような物なんてここには何もない筈なのに」
切歌の言う通り、今のS.O.N.G.には特別な力を持つ聖遺物などは保管されていない。聖遺物絡みの物を保管していた深淵の竜宮は魔法少女事変で水没し、保管されていた多くの聖遺物他の危険物は全て海の底に沈んでいる。現在新たな深海保管庫として第二の深淵の竜宮の建設が行われ、完成次第水没した保管物は順次回収してそちらに移送する予定ではある。が、そちらに対して何らかのアクションが行われたと言う報告は無い。
念の為颯人達が使い魔を放って深淵の竜宮跡地の様子を探りもしたが、パヴァリアとの戦いの最中に愚者の石を回収する為に漁った時から何か変化があったようには見られなかった。
現状一番世界を騒がす恐れのある物がありそうな場所を放置しておいて、特別な何かがある訳ではないS.O.N.G.に狙いを定めて仕掛けてきている。これは明確にグレムリンが、S.O.N.G.に何かを求めているとしか考えられない。だが問題はそれが何なのかが分からない事であった。
早くも暗礁に乗り上げそうになる議論であったが、そこで迷いなく声を上げたのが颯人であった。
「目的そのものは分かんねえけど、次に誰が狙われるのかは大体予想出来るぜ」
「えっ!?」
「颯人、マジかッ!」
「あぁ、多分間違いは無いと思う」
「それで颯人君、そのグレムリンが次に狙うと言うのは?」
全員の視線が颯人1人に集中する。この至近距離で視線が集中すると、それだけで圧力が凄いのだが颯人は一切物怖じする事なく何も持っていなかった両手の間にトランプの束を出現させると、それをシャッフルして右手から左手にカードを飛ばす……所謂『スプリング』と呼ばれる技で右手に持っていたカードの束を左手に移動させると、一番上のカードを右手に持ちをそれを指で弾いた。
弾かれたカードの絵柄は、ハートのクイーン。そのカードは真っ直ぐある1人の少女……クリスの元へと飛んでいき、彼女の制服の胸ポケットに収まった。突然目の前で行われたパフォーマンスに、目を瞬かせていたクリスは胸ポケットにカードが収まった意味に気付き息を飲んだ。
「え、まさか……次に狙われるのが、アタシだって言いたいのかッ!?」
「あぁ」
「颯人さん、その根拠は何です? 何でクリスがグレムリンに?」
まさかクリスが狙われるとは思っていなかったのか、透が彼女の肩を抱き寄せながら険しい表情で問い詰める。最愛のクリスにグレムリンの魔の手が伸びると想像すると、それだけで穏やかな彼の心も波打ちザワつかせずにはいられない。思わずクリスの肩を抱く手に力が籠ってしまい、痛みにクリスが小さく声を上げてしまう程であった。
「んっ……!」
「あ、ゴメン、クリス」
「いや、大丈夫。それよりペテン師、何でアタシが狙われるって言えるんだ?」
「私もそれが気になります。いえ、雪音が狙われる理由がと言うより、セレナとキャロルが狙われた事の因果関係も……」
一見すると因果関係が無いように見えるクリスとセレナ、キャロル。ただ単にS.O.N.G.に所属する女性が狙われると言うのであれば、極端な話あおい辺りが狙われてもおかしくは無い。
だが実は、この3人にはこれまでの事件で明確にグレムリンと接点を持つという共通点があったのだ。
「まずセレナだが、聞いた話だとフロンティアでガルドが正体バレた時にグレムリンに精神的に追い打ちを掛けられたそうだな?」
「あっ! は、はい、そうです。私、あの時確かに……」
フロンティア事変に於いて、ガルドは当初魔法使いソーサラーとして正体を隠しつつセレナ達を守りサポートしていた。だが彼がジェネシスに反旗を翻す最中、彼の正体に気付いてしまったセレナによりガルドは呪いが発動して逆に追い詰められてしまう。グレムリンはそんな彼女を殊更に責め立て、彼女を精神的に追い詰めていた。
「次にキャロル。お前、確かシャトーでの戦いの時にハンスがまだ生きてるのにグレムリンの奴に死んだって誑かされて自暴自棄にさせられてたよな」
「……あぁ、確かに。俺はあの時、まだ確認が取れていないのに奴の口車に乗せられて……!」
魔法少女事変の最終決戦の最中、ガルドに敗れて連絡が取れなくなったハンスを、グレムリンは死んだと偽って伝えてキャロルの心の支えを奪った。結果キャロルは後先考えない自暴自棄な攻撃に移り、最終的にはハンスは昏睡状態、自身も記憶の大部分を失うと言う被害を被る事となった。
こうして並べられると、確かにこの2人はグレムリンと接点を持っている。それも弄ばれ、追い詰められると言う点においてだ。他者が精神的の追い詰められる様を見て楽しむ、享楽主義者らしい接点に誰もが大なり小なり嫌なものを感じていた。
「そう言われると……確かに私や切歌、調はグレムリンに狙われるほどの接点は無いかもしれないわね」
「私、顔は見た事あっても直接話した事は無いかも……?」
「マムやドクターが一緒だった頃は、大体あの2人と話す事が殆どで私達にはあんまり見向きしなかったのデス」
「そう言われると……私や未来も、かなぁ?」
「うん」
S.O.N.G.に所属する装者の中で、グレムリンとそこまで大きな接点を持っていないのは響に未来、マリア、調、切歌の5人。一方既に仕掛けられた2人を除く3人の内、翼に関しては颯人はあまり心配する必要は無いと考えていた。
「あの、颯人さん? グレムリンと相対した者が狙われるのなら、私が候補に入らないのは何故ですか?」
「多分だけど、翼ちゃんに関してはアイツ興味持たないと思うんだよ。翼ちゃんはアイツと少し戦った程度で、興味を引かれるほどの何かを見せた訳じゃない」
無論、絶対とは言い切れなかった。もしかするとこれから先、颯人達を追い詰める為に翼だけでなくそれまで大した接点を持ってこなかった響達にも何らかのアクションを仕掛けてくる可能性はある。だが、立て続けにセレナ、キャロルと明確に仕掛けてきておいて、今更翼達接点が少ない者を狙うとは考え辛かった。グレムリンは享楽主義者で嗜虐嗜好の持ち主であり、同時に面倒を嫌う子供っぽさも併せ持っている。そこから考えると、彼が次に狙うのは明確に興味を持っている奏かクリスのどちらかと言う事になる。
「ん? 颯人、アタシは?」
現状、グレムリンと最も濃密な接触があるのは奏である。その奏を差し置いてセレナ、キャロルと続きクリスが狙われると断言する颯人に彼女が首を傾げると、彼は真剣な表情で彼女の肩を抱き寄せた。
「奏は間違いなくメインディッシュだ。だから仕掛けられるとしたら一番最後、それも奴が一番愉しめるやり方で来るに違いない」
つまりそれは、奏に仕掛けてくる時は一際大きな何かが行われる時と言う事。それが何かまでは分からないが、兎に角奏がクリスの次と言うのは間違いないと颯人は睨んでいた。
ここまでの颯人の推測に、明確な保証がある訳ではなかった。だが納得できる点は数多くあり、であるならば次に仕掛けられるのはクリスであると言う前提で動くのが最善であると言えた。
自分が次のターゲットにされると理解し、クリスは上等だと左の手の平に右の拳をぶつけて気合を入れる。
「そう言う事なら……来るなら来いってんだ! 返り討ちにしてやるよッ!」
「クリス、無理はしないで。グレムリンは、彼はとても危険だ。それこそ、ワイズマン並みに……」
意気込むクリスに対し、透は気が気ではなかった。グレムリンの不可解さは以前刃を交えた時でも嫌と言うほど感じ取った。得体の知れないあの男の毒牙がクリスに迫ると考えると、それだけで彼の心に不安が広がる。
それを見ていた弦十郎は、彼の表情から不安を読み取るとある事を提案した。
「よし! そう言う事なら、ここは1つ敵の目を欺くとしようじゃないか」
「欺くって……どうするんですか師匠?」
「オッサン、また何かロクでもない事考えてないか?」
自信満々に笑みを浮かべつつ腕を組む弦十郎の姿に、クリスを始め何人かは不安に表情を引き攣らせた。だが彼は向けられる不安混じりの視線を物ともせず、颯人達に向け己の案を披露する。
「なに、そう不安がるな。お前達にとっても悪い話じゃない筈だ」
「どういう事だ風鳴司令?」
「思えばこれまで、お前達には頑張ってもらっていたのに事件が立て続けに起こるものだからとロクに労いも出来ていなかったからな」
「ここらで一つ、英気を養う為の慰労と同時に敵の目を欺く、一石二鳥の慰安旅行と洒落込もうじゃないか」
そう、弦十郎が考えたのは、次に狙われるクリスをグレムリンの目から隠す為に装者と魔法使い、錬金術師達を慰安旅行に連れて行くと言うものであった。勿論向かうのは戦闘メンバーのみであり、弦十郎達は本部に残って引き続きグレムリンの動向を探る。
そうなるといざグレムリンが騒ぎを起こした時に誰も対処できないのではと翼が疑問の声を上げれば、壁際で話を聞いていた輝彦がその不安を払拭する案を提示した。
「ですが、またグレムリンが街や人を襲ったら……」
「その点に関しては心配するな。何か起これば私が対処するし、サンジェルマン達にも協力してもらう」
「先日お渡しした賢者の石の欠片で、サンジェルマン様達も再びファウストローブを作成する事に成功しています。戦力的には問題無いかと」
現錬金術師協会のトップ3人の実力は折り紙付きだ。この上歴戦の猛者である輝彦、更にはいざと言う時のリーサルウェポンと言える弦十郎が居れば、余程の事が無い限り対処は可能と言える。それにもしもと言う時にはアリスに、ヴァネッサも戦えるのだ。普段の戦力と比べても決して見劣りはしない。
「そう言う訳だ。遠慮せず、ここらで一丁骨休めでもしてこい」
こうして、S.O.N.G.の若き戦闘メンバー達による慰安旅行が行われる事となったのであった。
と言う訳で第277話でした。
今回はグレムリンの狙いが少し分かる話となりました。これまでの話の中で、グレムリンが積極的に接触を図ったのは奏とクリス、セレナ、キャロルの4人。クリスに関してはフロンティア事変で直接対決した時に目を付けられた感じですね。加えて透と言う元ジェネシスと言う存在との接点もありますし。
そんなこんなで次回は本編中のささやかなほのぼの回となる予定です。ここ最近は穏やかではない話が続いたので、和やかな話に出来るようにしたいと思います。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。