魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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どうも、黒井です。

前回に引き続き、今回も颯人達が戦わないほのぼの回となります。


第279話:戦士達の休息

 色々と騒ぎつつも、温泉をしっかり堪能して汚れと共に疲れを流した颯人達。

 

 そして温泉宿とくれば必ずあるものがある。そう、卓球台だ。宿泊客が適度に体を動かして楽しめる様にと置かれた卓球台を前に、黙ってはいられないのが颯人と奏であり2人は早速台を挟んで対面してラケットを手にピンポン玉を交互に打ち合った。

 

「オラオラオラオラオラッ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」

 

 最初の内こそ普通に目で追える速度での打ち合いでしかなかったが、勝負事になると互いに譲らないのがこの2人。次第にヒートアップした結果、戦いの中で培われた動体視力も手伝ってプロも顔負けのラリーが展開される事となった。そのあまりの速度に、ギャラリーとなっている響達は目が回りそうになっていた。

 

「うわわわわ……奏さんも颯人さんも凄い速い……!」

「これ、卓球……だよね? 私が知ってる卓球と音が全然違うんだけど」

「打ち合いの音が最早機関銃レベルだな」

 

 翼までもがハッスルした奏の姿に呆れている一方で、クリスなどは純粋に激しいラリーに興奮し応援までしていた。

 

「行け行け先輩ッ! ペテン師なんかに負けんなぁッ!」

「クリス、あまり煽らない方が……」

「煽らなくても、あの2人なら勝手にテンション上げるでしょ。放っておきなさいよ」

 

 クリスを落ち着かせる透だったが、マリアの言う通りあの2人であれば例え煽ったりせずとも勝手にテンションを上げていくだろう事は容易に想像がついた。事実2人は一歩も譲らず、それでいて互いに相手の隙を虎視眈々と伺い決め手となる一発をお見舞いする構えをしていた。

 

「そこだ貰ったッ! 喰らえ颯人ッ!!」

「させるかっ! トリックショット!」

「なぁぁっ!?」

 

 一瞬の隙をつくつもりで放たれた奏のスマッシュ。いい音を響かせた奏の一発は、しかし颯人によりバックハンドで受け止められるどころか、返ってきた弾は台に当たった瞬間あり得ない角度でカーブした。何とか打ち返そうと手を伸ばす奏であったが、曲がった角度が急すぎた事と先程のスマッシュに全力を出していた結果反応が間に合わず、ピンポン玉は奏のラケットの先端を掠めて床に落ちた。結果奏は台の上に突っ伏する事となり、床にピンポン玉が落ちた音に自身の敗北を認めざるを得なかった。

 

「だぁぁぁぁ、くそっ! 何だよあの曲がり方は……」

「はっはっはっ! 手品も卓球も手首が命なのさ」

 

 得意げに胸を張る颯人が手を上げるとその手の中に幾つものピンポン玉が現れては消えていった。余裕たっぷりに勝ち誇る颯人の姿に、奏は悔しそうに呻きながら台から体を起こし、激しいラリーで少しはだけた浴衣を直し手拭いで汗を拭いながらクリスにバトンを渡した。

 

「クリス、次頼んだ」

「おっしゃ任せろッ! 今日こそはあのペテン師をギャフンと言わせてやる!」

「カモ~ン、クリスちゃ~ん。君も奏みたいに台の上に突っ伏させたげるよ」

「言ったな!」

 

 果たして奏からクリスに交代しての第2ラウンド。だがクリスの奮闘虚しく、彼女も颯人のテクニカルなショットを前に玉を逃してしまった。

 

「くっそぉぉぉっ!?」

「残念でした~」

「って言うか、ハヤト強いな? お前卓球とかやってたのか?」

「言っただろ? 手品も卓球も手首が肝心なんだよ」

 

 得意げになる颯人を横目で睨みながら、クリスは次に交代すべく台から離れようとした。だがそこで、彼女の足が浴衣の裾を踏んでバランスを崩してしまった。

 

「っとと!? わぁっ!?」

「クリスッ!」

 

 クリスが転びそうになったのに気付いて、咄嗟に透が駆け寄り彼女を支えようとした。だが思いの外クリスが転倒する勢いが強く、彼女を傷付けないように支える為力を押さえていた事もあり、透はそのまま彼女に押し倒される形で後ろに転倒してしまった。

 

 その際、反射的に彼女の事を持ち上げようとした事が仇となり、床に倒れてクリスが圧し掛かった際彼の顔をクリスの乳房が圧し潰す形となってしまったのだった。

 

「うぉっ!?」

「むぐっ!?」

「い、つつ……悪い透、大丈夫…………って、きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 颯人との卓球のラリーで激しく動いた結果、クリスの浴衣も胸元がはだけてしまっていた。その状態で透の顔の上に覆い被さったものだから、彼の顔は下着に包まれただけのクリスの乳房に埋められる事となる。しかもクリスは胸のサイズが大きいので、谷間の部分が透の顔にジャストフィットしてしまいほぼ生の乳房が彼の顔を覆う形となった。その事に気付いたクリスは、羞恥心と申し訳なさに顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げて彼の上から飛び退いた。

 

「わわわわわわ、悪い透ッ!? えと、えとえとえと、今の、今のは……」

「はいはい、先ずは落ち着きなさい。気持ちは分かるけど、女の子が何時までもそんなはしたない恰好をするものじゃないの」

 

 慌てふためくクリスを宥めながら、マリアが乱れたクリスの浴衣を元に戻す。一方押し倒される形で倒れた透は、切歌と調により助け起こされる。調は純粋に透の事を心配しての事であったが、切歌は彼の体の心配よりもクリスの胸に顔を包まれた事への感想の方が気になっていたらしく助け起こしながらその事について訊ねた。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう調ちゃん」

「それでそれで? 透先輩、クリス先輩のオッパイの感想は?」

「切ちゃん……」

 

 ド直球にとんでもない事を訊ねる切歌に、調が呆れてジトッとした目を向ける。一方の透はと言うと、一瞬キョトンとした顔になりながらも直ぐに朗らかな笑みを浮かべて自身の口元に右手の人差し指を当てた。

 

「それは、ここで言う訳にはいかないよ。クリスだって恥ずかしいだろうしね」

「むぅぅ~、流石気遣いの出来る先輩なのデス。紳士デスね」

「それほどでも」

「って言うか切ちゃん、こんな所でそんな事聞いたら……」

 

 言うまでもなく、透の顔に生の乳房を押し付けてしまった事を、誰よりも気にしているのはやらかした張本人であるクリス自身だ。本人は一刻も早くに忘れてしまいたいだろうに、それを蒸し返す様な事を口にすればどうなるかなど火を見るよりも明らかであった。

 

 案の定、切歌が透にとんでもない事を訊ねた事が耳に入ったクリスは、先程とは違い怒りで顔を赤くして切歌の首にチョークスリーパーを掛けながら透から引き剥がした。

 

「切歌、テメェッ! 透に何てこと聞いてやがんだッ!」

「ぐぇぇっ!? ぎ、ギブギブッ!? 先輩、ギブデスッ! 調、マリア、助けてぇぇぇッ!」

「切ちゃんったら、全く……」

「今回は少し反省しなさい」

「デェェェェェェスッ!?」

 

 

 

 

 一方その頃、キャロルとハンスは浴衣の上に半纏を羽織り、宿から出て温泉街をゆったりと歩いていた。彼女達が宿泊している宿は政府管轄である為他に宿泊している客は居ないが、この街にある温泉宿はあそこだけではない為他の宿の客は当然居る。そしてその宿の客の中には家族連れも居て、2人の傍をそんな観光客がすれ違う様に歩いていった。

 

 異国の地の平和な景色を眺めながら、キャロルは何とはなしに周囲の人々を観察する。その中に、比較的若い夫婦とそれに手を引かれて歩く女の子の家族を目にした。

 

「ぁ……」

 

 意識せずキャロルの口から小さな声が上がった。笑顔で両手を両親に引かれながら歩く女の子と、女の子に笑いかける父親の姿に不意に自分とイザークの姿を重ねてしまったのである。生憎と母親の顔は覚えていなかったキャロルだが、それでも家族が揃えばあんな感じだったのかと思わずにはいられない。

 そして、怒りと憎しみに身を任せて、自分はあの何気ない笑顔を壊そうとしていたのかと実感すると己の愚かさに気分が沈みそうになる。

 

 そんなキャロルの心の機微を、ハンスは敏感に感じ取りそっと彼女の肩に手を置いて抱き寄せた。

 

「キャロル……」

「ハンス?」

「キャロルが今何を考えてるかは、大体分かる。俺も似たような気持ちだ。だけど、今更過去は変えられない」

「あぁ……分かってる」

 

 意外と厳しい事を言ってくるハンスに、キャロルは少し驚きつつも今この瞬間は感謝した。彼の言う通り、今更過去は変えられない。その事を改めて認識させてくれた、彼にキャロルは感謝していた。

 

「だけど……」

「うん?」

「だけど、イザークさんはきっと今でも……天国から、キャロルの幸せも願ってくれてると思う」

 

 その一方で、ハンスはキャロルに優しい言葉も掛けた。罪と向き合い、償いの為に人生の全てを投げ打つ覚悟をしていたキャロルであるが、そんな彼女を思い留まらせるようにハンスは彼女を優しく諭した。

 

「償いは大事だ。だがそれに全てを捧げてばかりじゃ、何時かキャロルが潰れちまう。キャロルの罪は俺の罪でもある。俺が一緒に背負うからさ。だから……少しは人並みの幸せを考えても、良いんじゃないか?」

 

 優しいハンスの言葉に、キャロルは目頭が熱くなりそうになるのを堪えた。本当は誤った道を歩んでしまった事を父に謝りたかったが、その父はもうこの世には居ない。きっと一人ぼっちだったら、その虚しさを胸に我武者羅に償いの為だけに生きていたに違いない。そんな彼女を人間に留めてくれる、ハンスの優しさが心地良かった。

 

「俺に……そんな贅沢が許されるのかな?」

「少なくとも、あの連中はきっと許してくれるさ。キャロルも知ってるだろ、アイツ等のお人好しっぷりを」

「あぁ……そうだな」

 

 許してくれる人が居て、共に歩んでくれる人が居る。そう思うとそれだけで何だか心が軽くなったような気になって、キャロルは先程よりは清々しい気持ちで前を向く事が出来た。

 元気を取り戻してくれたキャロルの姿に、ハンスは安心したように笑みを浮かべると、今度は少し恥ずかしそうにしながらも先程より彼女を抱き寄せる腕に力を込めながら言葉を続けた。

 

「俺が、何時かきっとキャロルを今よりもっと幸せにしてみせる。天国のイザークさんに、孫の顔を見せてやれるくらいには……」

「……!! ハンス、それ……!」

 

 彼の言わんとしている事を察したキャロルが、顔を赤くしながら彼の事を見る。見上げたキャロルの目には、明後日の方を向きながらも耳まで赤くなったハンスの顔がハッキリ見え、自身の想像が間違いではなかった事に胸がはちきれそうになった。

 

「~~~~、悪いキャロル! 流石に今のは――」

 

 言っておいてなんだが、流石に話が飛躍しすぎかと若干後悔してハンスは先程の発言を訂正しようと口を開く。だがキャロルはそんな彼の口に軽く手を当てて言葉を遮ると、嬉しさに目に涙を滲ませながら笑みを浮かべて答えた。

 

「……期待してる」

「キャロル…………あぁ」

 

 2人は互いに微笑み合うと、より強く体を密着させた。そして先程すれ違った親子に視線を向ける。父と母に手を引かれる女の子……その姿に、自分達と何時か生まれる新しい命を重ね合わせ、それが現実になる事を願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も、一行は戦いとは無縁な温泉街での一時を楽しんだ。

 

 響は未来や切歌達と共に温泉街に出て甘味などを食べ歩いた。あまりに食べるものだから、未来や調は響と切歌に夕飯が入らなくなると途中で止める必要に駆られる。

 

 夜になれば待ちに待った夕飯の時間。温泉宿特有の豪勢な和食の数々に、普段は料理を作る側のガルドやセレナもこの時ばかりは食べる事に夢中になった。流石政府管轄の旅館と言う事で、料理もどれも一級品であり舌鼓を打つ。

 

 そして夕飯が終われば各々自由行動。再び温泉に入って月夜を肴に愉しむ者も居れば、響達元気が有り余った者達は部屋で枕投げをして遊んでいた。一方、大人たちはと言うとこの時くらいは少し羽目を外すかと買ってきた酒で軽く酒盛りに興じたりした。

 

 久方振りに思いっきり羽を伸ばせる穏やかな時間。じっくり堪能し、夜も更けてきた頃には誰もが布団に包まれて静かに眠っていた。…………颯人を除いて。

 

「ふぅ~~……」

 

 全員が寝静まった頃、颯人は1人浴衣の上に半纏を羽織った姿で宿を出て静かになった街をぶらりと歩いていた。この時間になると他の観光客も宿に戻るのか、店は閉まり出歩く人間は彼以外見当たらない。最低限の街灯と月明り以外光源の無い道を歩きながら、颯人が白い息を吐き出しながら夜空を見上げていると背後から奏が声を掛けてきた。

 

「な~に1人で黄昏てんだ?」

「どわぁっ! 何だよ、お前も起きてきたのか奏?」

「偶々ね、颯人が出歩くのが見えたから後をついて来た。どうした? 何か考え事か?」

「ま、ちょっとな」

 

 言いながら颯人は近くの自販機で温かいお茶を2人分買い、奏に片方手渡しながら近くのベンチに座った。寒空にお茶の温度が嬉しく、奏は受け取ったお茶を喉に流し込み温かい吐息を吐き出した。

 

「ふはぁ~……楽しかったな」

「だな」

「また皆で、こうしてワイワイやりたいもんだ。忙しくてなかなか出来ないけどな」

 

 それは歌手としての活動もそうだが、何よりも戦いがあるからでもあった。世が平和にならなければ、肩から力を抜きたくても抜く事が出来ない。こうして皆で純粋に楽しめるのも、次は何時になる事か。

 

「出来るさ。だがその為には、やらなきゃならない事がある」

「そうだな」

「あぁ、そうさ」

 

 暗にグレムリンとの決着の事を告げる颯人に、奏も束の間表情を引き締める。

 

 そこで不意に颯人のスマホから着信音が鳴り響いた。颯人は突然の着信に、しかし驚く事は無く待ってましたと言わんばかりにスマホを取り出し通話に出た。

 

「もしもし……あぁ……あぁ、分かった」

 

 スマホ越しの相手と2、3やり取りをした颯人は、残ったお茶を飲み干すと空になった容器をゴミ箱へと投げ入れ立ち上がる。その表情は引き締まった戦士のそれとなっていた。

 

「そんじゃ、その為にも一頑張りしますかね」

 

 恐らくは、仕掛けた罠にグレムリンが嵌ったのだろう。そして颯人は、そうなったら自分が決着をつけるべく輝彦達に連絡を寄こすよう言い含めていたのだ。

 

〈ドレスアップ、プリーズ〉

 

 魔法で手早く何時もの服装に着替えた颯人は、指輪を入れ替え現場に魔法で向かおうとする。だがそこで奏が彼の腕を引いて引き留めた。

 

「待った颯人ッ!」

「ん?」

「アタシも行く。アタシだって、あの野郎には腸煮えくりかえってんだ。いいだろ?」

 

 一瞬迷う颯人だったが、ここで嫌だと言ったらガルドか透を叩き起こして全員でやって来かねない。それは流石にマズいので、仕方なく颯人は奏も魔法で着替えさせてから共に向かう事にした。

 

「しょうがねえな」

〈ドレスアップ、プリーズ〉

「俺から離れるんじゃねえぞ、奏」

「分かってる」

〈テレポート、プリーズ〉

 

 寄り添い合った2人が、光に包まれたかと思うと次の瞬間姿を消した。

 

 先程まで2人が居た場所を、まるで最初から誰も居なかったかのように冷たい風が静かに通り過ぎるのであった。




と言う訳で第279話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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