魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~   作:黒井福

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第280話:賢者の仮面

 颯人達が密かにいろうとクリスの保護を名目に温泉旅館に向かっている頃、そうとは知らぬグレムリンは彼らの予想通り次の狙いをクリスに定め仕掛けるタイミングを伺っていた。日中から時折ファントムやグールを嗾けて街を襲わせクリスを炙りだそうとしていたが、迎撃に出てくるのは輝彦かサンジェルマン達の3人、場合によってはアリスだけといった具合で肝心のクリスは勿論颯人達の姿すらない事に疑問を抱いた。

 

「ん~? 連中、クリスちゃんを何処に隠して……」

 

 流石にこの頃になると、グレムリンも自分の次の狙いがクリスである事に感付かれた事に気付いていた。そして颯人達はグレムリンからクリスを守る為に密かに動いているのだと理解し、思うようにいかない現状に不満そうに顔を顰め唸り声を上げる。

 

 このまま関係ない所を襲撃しても埒が明かない。本気でクリスを隠そうと言うのであれば、きっと何があってもクリスを表に出すような事はしないだろうと考えたグレムリンはここで思わぬ手段に出た。

 

「出てこないんだったら……出ざるを得ない状況を作ってやればいいんだよ♪」

 

 そう考えたグレムリンは、あろう事かクリスと透が過ごしているマンションに向かうとそこに向けヘルハウンドファントムを嗾け襲撃させた。ヘルハウンドファントムが2人が過ごしているマンションの一室に攻撃を仕掛けると、時間が時間だった事もありマンションは忽ち蜂の巣をつついたようなパニックとなって人々が慌てて逃げ出してくる。

 

 グレムリンは逃げ出す人々を注意深く観察し、その中に大きめのコートとフードで顔を隠している不自然な2人組の姿を見つけた。2人組は他の困惑した様子の住民と違い明確な目的をもって一目散に逃げていく。その姿にあれが目的の2人組だと察したグレムリンは、現場をそのままヘルハウンドファントムに任せて自分は逃げていく2人組を追いかけていく。恐らくマンションには輝彦か、それともサンジェルマンか誰かしらがファントムの始末に向かうだろうがそれは囮だ。ファントムなんて作ろうと思えば幾らでも作れる。

 

 上手い事建物の屋根や物陰を伝って逃げる2人組を追跡するグレムリン。マンションから十分に離れ、更に周囲に邪魔になりそうな人影が無くなったのを見た彼は満を持して顔を隠した2人の前に姿を現した。

 

「ばぁっ!」

「「ッ!?」」

 

 突如目の前に飛び降りてきたグレムリンの姿に、逃げていた2人組は驚いた様子で足を止めた。その際透と思しき背の高い方が背の低い方を背中に守る様に立ち塞がったのを見て、グレムリンはさてどう料理してやろうかと内心で舌なめずりをしながら近付いていく。

 

「クリスちゃん、見~つけ…………ん?」

 

 自分の前に立つ2人の姿を見て、グレムリンは違和感に気付いた。何かが可笑しい。次第に表情を険しくしていったグレムリンは、何かに気付いた様子で咄嗟に魔法の矢を2人に向け放つ。

 

「くっ!」

〈アロー、ナーウ〉

 

 放たれた魔法の矢は2人が顔を隠す為に目深に被っていたフードを吹き飛ばした。その下からは見紛う事無き見慣れた2人の顔が姿を現したのだが、問題はその下であった。

 

 フードと一緒に千切れたコート。その下に隠されていたのは、透にしてはやたらと細くそれでいて存在は主張する胸元と、クリスにしてはやたらと慎ましい胸元であった。それを見てグレムリンはこの2人が誰なのかに気付いた。

 

「お前ら……!」

 

「へっ! 今更気付いても遅いぜッ!」

「ヴァネッサッ!」

「は~い♪」

 

 明らかに透ではない少女の声と、クリスとは違う少女の声が響くと、ロケットの噴射音と共に無数の銃弾がグレムリンの周りに振り注いだ。弾ける銃弾と砕けるコンクリートの破片から咄嗟に顔を守るグレムリンの前に、頭上から舞い降りたのは自身の嘗ての体を遠隔操作で操るヴァネッサであった。純粋に戦闘に使う為に色々と改良された体の義体ヴァネッサ、そしてその後ろに隠れる2人の様子から、グレムリンは自分が罠に嵌められた事に気付いた。

 

「やってくれたね……」

「へへんっ! 今まで散々虚仮にしてくれたお返しだぜッ!」

「ガンスッ!」

 

 忌々し気に吐き捨てるグレムリンの前で、透とクリスが撫でる様に顔を剥がした。その下から現れたのは、最早普通の人間となったミラアルクとエルザの2人。

 

 グレムリンはクリスが姿を現さないとなると、早々に業を煮やして直接2人の住居に仕掛けてくると輝彦は予想した。そしてならばそれを逆に利用しようと、囮を用意してグレムリンを罠に嵌める事を考えたのである。

 

 当初はクリスに偽装したプレラーティを囮とする事を考えたのであるが、流石のグレムリンもクリスが1人で行動しているのを見れば幾らなんでも違和感に気付く。そこで名乗りを上げたのが今は一般人に等しい存在となっているミラアルクとエルザであった。適度に身長差のある2人であれば、少し偽装すれば簡単に逃げるクリスとそれを守る透に見える。

 当然それはリスクの高い作戦であり、最初弦十郎やアリスはこの作戦に対し難色を示した。だが当の本人達はかなりやる気であった。自分達が求めて止まなかった普通の人間としての体。それを取り戻させてくれたS.O.N.G.に対し、少しでも恩を返したいと願ったのである。

 

 2人の願いに尚も渋い顔をした弦十郎ではあったが、汚れ役だったとは言え以前は危険な事にも手を出していた事、そしていざと言う時の為に義体を操ったヴァネッサが2人を見守り危険からは守る事等を盛り込んだ事で作戦は決行する事となった。

 

 これまで散々彼らを手の平の上で弄んできた自分が、今度は嵌められたと言う事実にグレムリンは面白くなさそうに顔を歪めていると、彼を挟んでヴァネッサの反対側に輝彦とサンジェルマンが降り立った。

 

「ここまでだな。観念しろ」

「先程カリオストロとプレラーティから連絡が入った。お前がマンションに嗾けたファントムは、既に討伐されたとの事だ」

 

 立て続けに聞かされる悪いニュースに、グレムリンは今回は旗色が悪いと早々に撤退しようと転移魔法を使用しようと構えた。だがそれよりも早くにヴァネッサの隣に現れたファウストローブを纏ったアリスが、魔法の使用を抑制する旋律を吹き鳴らした事でそれも未然に防がれてしまった。

 

「うぐっ!? あ……!?」

「観念しろと言った筈だ」

 

 魔法を封じられ、更に輝彦により取り押さえられたグレムリン。傍から見れば完全に詰んだ状況に、ヴァネッサ達は安堵に胸を撫で下ろした。

 

「終わるわね、これで」

「へっ、見ろよあの悔しそうな顔。何時も私らを小馬鹿にしてたのが嘘みたいだ」

「これで後は残りのファントムを何とかすれば……」

 

 ヴァネッサ達が戦いの終わりを感じ取っていると、輝彦から連絡を受けていた颯人が奏と共に転移してきた。既に状況は終了しているも同然な中でやってきた2人に、ミラアルクは気楽な様子で手を上げてきた。

 

「よぉ、お2人さんッ! もう終わりみたいだぜ?」

「あら奏ちゃんも来たの?」

「まぁね。アイツとの決着はしっかりとこの目で見ときたいんで」

 

 奏がヴァネッサの声に答えている横で、颯人はミラアルクに対し自身の口元に人差し指を当てるだけの返答に留めた。颯人の反応にミラアルクとエルザが違和感を感じて小首を傾げていると、彼はゆっくりとグレムリンの前に立った。そして取り押さえられた彼を見下ろしながら、しかし警戒心は解かないまま話し掛ける。

 

「……随分とあっさり取り押さえられたもんだな?」

「嫌味を言いに来たのかな? 君も随分と良い性格をしてるね」

「自慢の性格さ、今更変える気はねえよ」

 

 一見すると追い詰められたグレムリンと颯人が皮肉交じりの言葉による応戦を繰り広げている様に見えるが、颯人が片時も警戒心を解いていない事がサンジェルマンには疑問に映った。

 

 そんなサンジェルマンの視線を気にすることなく、颯人は奏を傍に呼び寄せると彼女を守る様に抱き寄せた。

 

「奏、こっち来な」

「え? うん……」

 

 最早決着なんてついたも同然な状況で、何をそんなにピリピリしているのかと疑問に思いつつも奏は颯人の傍により彼の腕の中に納まった。見せつけるような颯人の姿にグレムリンは怒りを堪える様に頬をピクピクと痙攣させる。

 

「本当にいい性格をしてるね。奏ちゃんに執着してる僕に、そんな姿を見せて楽しいかい?」

「こうしないと、お前が何かしてきた時に奏を守り切れねえからな」

〈コネクト、プリーズ〉

 

 そう言いながら颯人は徐に魔法でガンモードのウィザーソードガンを取り出すと、その銃口をグレムリンに向け引き金に指を掛けた。少しでもおかしな真似をすれば撃つと言う姿勢に、流石にサンジェルマンは黙っていられなくなったのか彼に待ったを掛けた。

 

「待ちなさい颯人君ッ! 何もあなたがそこまで……」

「いや、俺がここまでする必要がある。そうしないと、コイツは何時までものらりくらりと躱し続けるからな。そうだろ?」

「え?」

「颯人、それはどういう意味だ?」

 

 含みを感じる颯人の言葉にサンジェルマンと輝彦が疑問を抱く。だが彼はそれに答える事無く、尚もグレムリンを挑発する様に見下ろし続けた。

 

「いい加減お前のチャチな演出に付き合うのもうんざりなんでな。そろそろ種明かし、させてもらうぜ」

 

 颯人がそう告げると、途端にそれまで忌々しげだったグレムリンの顔が一転して楽しそうに歪んだ。

 

「へぇ?」

「颯人? 種明かしとは何の事?」

「言葉通りの意味さ母さん。父さんにとっちゃ、ちと衝撃的かもしれねえけど」

「何だと?」

 

 まだ颯人は何も明言していない。だが雰囲気が物語っている。これから彼が口にするのは、この場の誰もが驚愕するような途轍もない内容であると言う事を。それを本当に聞いてもいいのかとすら思えてしまう空気に、ヴァネッサに守られているエルザは緊張に思わず唾を飲み込んだ。

 

 周囲からの視線と耳を一身に集めながら、颯人はそれまで閉ざされていた驚愕の事実を解き明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、ワイズマンだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 颯人が最初その言葉を告げた際、周囲に居る誰もが彼が何を言っているのか理解できなかった。だがその言葉の意味を正しく理解するにしたがって、その内容の恐ろしさに鳥肌が立つのを感じた。特に奏は、あれ程苦労して倒したと言うか地球から追い出したと思っていたワイズマンが、今こうして目の前にいると言う事実が信じられなかった。

 

「は、颯人? 何かの冗談だよな? コイツが……グレムリンが、ワイズマン? だってワイズマンはあの時、アタシと颯人で太陽に叩き込んだじゃないかッ!?」

 

 動揺を隠せない奏を宥めつつ、颯人は誰もが感じている疑問を解く為の要素を一つ一つ上げていく。

 

「最初に違和感を感じたのは、今までの戦いでお前が姿を見せるタイミングだ。俺達がこれまで戦った幹部連中、メデューサにしろヒュドラにしろ、どいつもこいつも一度は必ずワイズマンと一緒に出てきた。だがお前はどうだ? 一度でもワイズマンと行動を共にした事があったか? 特に他の幹部連中が呼び出されるような決戦で、戦力が必要って時にお前が呼ばれない理由は何だ? 答えは簡単、お前自身がワイズマンだからだ」

 

 颯人の結論にグレムリンは笑みを浮かべながらも何も答えない。代わりにサンジェルマンが彼の意見に対し反証を口にした。

 

「それは、グレムリンが特別な任務を課せられていたからとかじゃないの?」

「その可能性も無くは無いがね。だが、それにしたって一度もワイズマンと行動を共にしないのは違和感が残る。それでもまだ納得できないってんなら、性格の問題もあるぜ」

「性格?」

 

 これまでの戦いで、ワイズマンが颯人達の前に立ちはだかってきた事は何度かあった。だがそれらの中で、決着が着くまで戦ってきたのは先日ワイズマンを太陽に叩き込んだ時のみ。それ以外の戦いでは自分から仕掛けてきておきながら、気分が乗らなくなると興味を失い自分勝手に姿を消した。その事に幹部が戸惑う事もあったくらいだ。

 その姿はまるで気分屋な子供の様で、刹那的な享楽主義者と言う点がワイズマンとグレムリンで酷似している。特に気分が乗らなくなってさっさと姿を消す様子などそっくりだ。

 

 だがそれ以上に、颯人がワイズマンとグレムリンに共通点を見出している部分があった。それは両者の戦い方である。

 

「シャトーや鎌倉で俺と戦ったのは間違いだったな。手の内を曝け出し過ぎだぜ」

 

 颯人は数少ないグレムリンとワイズマンの両方と戦った経験を持つ。その中でこの両者は、共に颯人との戦いでアイソレーションによるフェイントを見せてきた。確かに戦いにおいてフェイントで相手の空振りを誘発するのはよくある行為ではあるが、その為にアイソレーションを用いると言うのが颯人は引っ掛かっていた。

 

「アイソレーションってのはそう簡単に見に付く技術じゃねえ。ましてやそれを態々戦いの為に身に着けるなんて酔狂な奴はな。だがお前もワイズマンも、俺との戦いでそれを見せた。同じ組織に所属してる奴の中で、お前とワイズマンだけがその技術を戦いに活かす…………そんな偶然があるか? 俺だって手品の技術の延長でそう言う事が出来るってだけの話だぞ」

 

 これが偶然でないとすれば、考えられる可能性の中で一番高いのは両者が同一人物と言う事であった。聞けば聞くほど真実味が増す颯人の言葉に、輝彦も自身が取り押さえている者が何であるかを察し始める。

 

 そして、颯人の推理を聞いたグレムリンは…………

 

 

 

 

「くっ…………あっははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」

 

 

 

 

 夜空に響き渡るほどの高らかで、それでいて狂ったような笑い声をあげた。それは颯人の推理が何よりも正しくて、グレムリンがそれを認めた事の証拠であった。




と言う訳で第280話でした。

衝撃の事実、ワイズマン=グレムリンでした。これまで長く続けてきたこの物語の中で、グレムリンがワイズマンと一緒に居るシーンはただの一度も無い事に気付かれたでしょうか?その答えがこれです。実は連載当初から登場していたワイズマンはずっとグレムリンが成りすましていて、だからワイズマンとグレムリンが一緒に映るシーンが無かったんです。ワイズマンがいきなりやる気をなくして帰っていくのも、実は正体は刹那的享楽主義者であるグレムリンであると言う事を暗に表現していた訳です。

ワイズマンの正体がグレムリンだとするとそれはそれで色々と疑問が残る事になりますが、残りの答え合わせは次回以降と言う事で。

その肝心の次回ですが、気になる所ではありますでしょうが次回は本編ではなく特別編。クリス誕生日記念の話にしようと思いますのでご了承ください。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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