魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~ 作:黒井福
今年もどうかよろしくお願いします!
夜の街に、グレムリンの狂った笑い声が響き渡る。颯人はそれを冷静に見つめつつ、颯人はウィザーソードガンの銃口を1㎜たりともズラす事はしなかった。輝彦により身動きが取れない様にと取り押さえられている相手に対して、過剰とも言える警戒度であったがそれも致し方ないだろう。これでも正直、まだ足りないのではと思う位だからだ。
ワイズマンの正体がグレムリンである。颯人のその発言に対し、グレムリンは否定せず高笑いする事で答えた。それこそが何よりの証拠であり、颯人の言う事が何一つ間違っていないのだと言う事を物語っていた。
だがどれだけ状況がそれを証明していようと、認めたくない事と言うものはある。特に苦労してワイズマンを倒せたと思っていた奏からすれば、その相手がまだ生きていてしかも今目の前で楽しそうに高笑いしているなど信じたい話ではない。
その気持ちはこの場の誰もが抱いている事であろうが、何よりも顕著なのはこれまでずっとワイズマンと戦ってきた輝彦に他ならなかった。彼は今の今まで、理由は分からないがファントムへと堕ち悪の魔法使いとなってしまった父であり師でもある者と戦ってきたと思っていたのだ。
ファントムへと堕ちた時点で、人間性は失い討つ以外に道は無くなる。それをするのは弟子であり息子でもある自分の役目だと思って今まで戦ってきた。全ては血縁を自らの手で断ち切る為に。
その前提が全てひっくり返る事になるのだ。出来る事ならば信じたくはない。輝彦は震える声で颯人に事実を問い掛ける。それは問い掛けると言うより、信じ難い現実を否定したいが故の逃避からくる行動であった。
「は、颯人? 本当か? 本当にこの男が、ワイズマンだと?」
「この笑いが全部物語ってる。そうだろうとは思ってたが」
「何時から? この男は何時からワイズマンだったの?」
輝彦程ではないが、ワイズマン――本名を明星
「それは本人に聞くのが一番早いんだろうけど……俺の予想だと、アダムが裏切られる前後じゃねえかな?」
どうなんだと颯人が問えば、グレムリンは嗤いながら答えた。
「ん? あぁ、そうだね、そのくらいだよ僕が入れ替わったのは」
「一応聞くが……どうやって?」
「お人好しはやり易いよねぇ? ちょっと無害を装ってやれば、簡単に隙だらけになる。その隙に付け込んで魔力を暴走させてやれば簡単に始末出来たよ♪」
つまりグレムリンは、幼少時代に無力な子供を装って明弘に近付き、そして隙を突く形で明弘の魔力を暴走させて人間として始末したのである。そして残った魔法使いの鎧を自身で纏い、ワイズマンを名乗って暴君として君臨したのである。
つまり輝彦の父、颯人の祖父はなるべくして堕ちたのではなく、たった1人の悪意により堕とされたのである。それを理解した瞬間、輝彦は思考を怒りで支配され勢いのままにグレムリンの首を圧し折ろうと締め上げた。
「貴、様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「輝彦、駄目よッ!?」
「義父さん待ってッ!?」
輝彦がグレムリンを殺してしまう。そう思った瞬間サンジェルマンと奏が止めようとした瞬間、颯人は確かに見た。グレムリンの口元が厭らしく笑みの形に歪んだ瞬間を……
それを見た瞬間颯人は咄嗟に周囲を警戒し、そして頭上から飛び掛かって来る
「クソッ!」
「あっ!?」
颯人が頭上に向けて発砲した事で他の者達も漸く奇襲してきた存在に気付いた。輝彦も同様にそちらに意識を向けた瞬間、グレムリンは待ってましたと言わんばかりに拘束から抜け出し置き土産と言わんばかりに輝彦を蹴り飛ばしてサンジェルマンに押し付けるようにぶつけた。
「あははっ!」
「ぐぅっ!?」
「うあっ!?」
解放され立ち上がったグレムリンに、颯人は輝彦達の心配もそこそこに発砲を優先させた。だが父への心配よりも優先させた攻撃は、突如乱入してきた存在により防がれてしまう。攻撃が失敗に終わった事に舌打ちする颯人であったが、奏達はその乱入者の姿に再び驚愕し目を見開いた。
「なっ!? こ、コイツはッ!?」
乱入してきたのは誰あろう、カーバンクルファントムであった。太陽に叩き落してやった筈のファントムが再び目の前に現れた事に、奏は最初太陽から脱出して戻ってきたのかと身構えた。
「まさかコイツ、太陽から抜け出してきたのかッ!」
「いや、違うな……」
目の前に立ちはだかるカーバンクルファントムを警戒しながら奏と共に立ち上がる颯人。油断なく周囲を警戒すれば、そこかしこから姿を現す合計3体のカーバンクルファントムに苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「チッ……まさかとは思ってたが、本当に居るとはな」
「な、何だこれ? 何でカーバンクルがこんなにッ!?」
「奏、細かい事は後だッ! 今はコイツ等を何とかするぞッ!」
「え? あ、あぁっ!」
「変身!」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
颯人の声に促される形で奏はガングニールを纏い、ウィザードに変身した颯人と共に身構える。サンジェルマンもスペルキャスターを構え、変身した輝彦もハーメルケインの切っ先を新たに現れたカーバンクルファントムに向けた。アリスと義体ヴァネッサは、この場で唯一戦う事の出来ないミラアルクとエルザを守る様に立ち塞がる。
グレムリンを守る様に円陣を汲むカーバンクルファントム達を見ながら、輝彦は一早くその正体と言うか真実に気付いた。
「コイツ等……まさか人工的に作り出したファントムかッ!」
「ファントムを人工的にッ!? 輝彦、そんな事が出来るの?」
「可能不可能で言えば、可能です。ファントムは言ってしまえば魔力の塊。ですのでベースとなる存在を解析すれば、後は核となる魔法石を用意出来れば……」
つまり早い話が、カーバンクルファントムは魔法と錬金術のハイブリッド技術で生み出された人造ファントムと言う事になる。それが意味しているのは、グレムリンの近くには彼に協力する錬金術師が居ると言う事。その事実に輝彦達が戦慄している間に、グレムリンは1人一足先にこの場を立ち去ろうと帽子を被り直し転移魔法の指輪を右手に嵌めた。
「残念だけど今回は僕の負けだよ。でもこの次はそうはいかないから、そのつもりでいてね」
「待てグレムリンッ!」
ここでグレムリンを逃がす訳にはいかないと颯人が数発発砲するが、不規則な軌道を描いて突き進んだ銃弾は全てカーバンクルファントムにより受け止められグレムリンには掠りもしなかった。
折角のチャンスを逃してしまうと言う事実に颯人が悔しそうに歯噛みする姿を、グレムリンは楽しむ様に笑みを浮かべながら転移魔法を発動させた。
「じゃ~ね~、奏ちゃん♪ 次に会う時を楽しみにしててね~」
「くそ、待てッ!」
SAGITTARIUS∞ARROW
颯人に続き奏がアームドギアを投擲してグレムリンを仕留めようとする。生身の人間に直撃すれば体を引き千切ってしまいかねない程の威力だが、最早奏達はグレムリンをただの人間と思う事は出来ず排除を優先して動いてしまった。
とは言え結局はこれも失敗に終わる。曲がりなりにもワイズマンとして立ちはだかったファントムの力は伊達ではなく、カーバンクルファントムの1体が正面からエネルギーの籠った槍を受け止めてしまった。その間にグレムリンは転移魔法を発動してしまい、颯人達の前から姿を消してしまった。
「チィッ!」
「仕方ねえ……先ずはコイツ等を何とかするぞッ!」
言うが早いか、颯人は手近のカーバンクルファントムに向けて飛び掛かり、体を捻って回転を交えながら蹴りをお見舞いした。アクロバティックな動きに視線を翻弄されながらも、標的となったカーバンクルファントムはその一撃を片腕を魔法石で出来た剣に変えて受け止める。
見た目にも派手で一見すると渾身の一撃にも見えたが、颯人は受け止められる事は想定内であった。そもそも今の動きの多い攻撃は、相手の視線を自分に向けさせる為の布石に過ぎない。本命はこの隙に彼の影に隠れるように動いていた奏にある。
「今だ、奏ッ!」
「応ッ!」
「!?」
颯人の掛け声に奏が応え、攻撃を受け止めたカーバンクルファントムが気付いた時にはもう遅い。接近していた奏は颯人の影から飛び出し、蹴りを受け止める為に両手を使っているカーバンクルファントムの無防備な腹に鋭い蹴りをお見舞いした。本来であればアームドギアによる一撃を叩き込みたいところではあったが、それは今別のカーバンクルファントムに掴まれている為やむを得ず蹴りでの対処となった。
その奏のアームドギアを掴んでいるカーバンクルファントムには、輝彦とサンジェルマンの2人が向かっていった。サンジェルマンの銃撃による援護を受けつつ、接近した輝彦はカーバンクルファントムの持つ奏のアームドギアをハーメルケインで叩き落した。
「ヌンッ!」
「!?」
「奏ちゃんッ!」
輝彦はカーバンクルファントムがアームドギアを落としたのを見ると、素早く拾い上げて無手となっている奏へと投げ渡した。奏は颯人が相手をしたカーバンクルファントムを蹴り飛ばした体勢から戻ると、邪魔が入る前にと回転しながら跳んできた槍を難なく受け止め構える。
「サンキュー、義父さん!」
「行くぞッ!」
「シャァッ!」
〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉
〈ブレイブ、プリーズ〉
もしこのカーバンクルファントムが、以前戦ったワイズマンとしてのそれと同等の性能を持つのであれば相応の覚悟を持って対峙しなければならない。颯人と奏は切り札を切り、インフィニティースタイルとブレイブウィザードギアとなってカーバンクルファントムと相対した。
とは言え、このカーバンクルファントムを相手にするには些か過剰戦力であった。以前対峙したカーバンクルファントムが厄介だったのはグレムリンにより操られる……と言うか中身がグレムリンだったからであって、そうでないカーバンクルファントムは思考パターンがハッキリ言って単調でお粗末に過ぎた。
確かに相手の魔力を吸収する能力は事対魔法使い戦では脅威となるかもしれない。だが行動が単調であれば、幾らでも攻略のしようはあった。
〈インフィニティー!〉
インフィニティースタイル特有の超高速移動。如何に相手の魔力を吸収する能力があろうとも、その姿を捉える事が出来なければ意味はない。素早い動きの颯人を捉える事が出来ず、カーバンクルファントムは次々と切り付けられ傷だらけとなっていく。
そこに追い打ちをかけるのが奏だった。ブレイブウィザードギアとなった彼女は魔法も使うが、その力の根源にあるのはやはりフォニックゲイン。そしてフォニックゲインに対してはカーバンクルファントムの魔力吸収能力も意味を成さず、多少軽減する事は出来ても完全に威力を殺し切る事は出来なかった。
「おりゃぁぁぁぁぁっ!」
炎を纏った槍の刺突に、カーバンクルファントムが大きく吹き飛ばされる。地面に叩き付けられたカーバンクルファントムに、2人は追い打ちをかけるべくトドメの一撃を放った。
〈〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉〉
「「ハァァァァァァァァァァァァッ!!」」
2人で同時に放たれる必殺のダブルキック。カーバンクルファントムは咄嗟に魔力吸収で切り抜けようとしたが、生憎と奏のフォニックゲインが邪魔をして魔力の吸収が阻害される。それ以前に奏が傍に居る事で颯人の魔力にブーストが掛かり、吸収しても後から後から溢れてくる有様であった。
2人の連携により傷付いた体で受け止めきれる量ではなく、カーバンクルファントムはあえなく爆発四散するのであった。
一方、輝彦とサンジェルマンも別のカーバンクルファントムを抑え付けていた。こちらはどちらも歴戦を潜り抜けてきた事もあり、魔力の吸収と言う厄介な攻撃を潜り抜ける事が出来る手段でもって対抗し相手に隙を見せない戦いで圧倒する。
「ふっ!」
「そこだっ!」
輝彦が切りつけ、サンジェルマンが撃ち抜く。その巧みな連係プレーに、カーバンクルファントムは終始圧倒されていた。
何より厄介だったのは、輝彦が持つハーメルケインだ。これは魔力に頼る事無く凄まじい切れ味を誇っている為、魔力の吸収と言う手段で相手を弱体化させるカーバンクルファントムの能力が意味を成さない。扱う輝彦の技術も相まって全身を隈なく切り裂かれたカーバンクルファントムは、トドメに放たれた輝彦の刺突で胸部を貫かれ、続けて放たれた駄目押しのサンジェルマンの砲撃により木端微塵に吹き飛ぶ事となった。
残る1体はアリスとヴァネッサが相手をした個体だったが、こちらは思いの外あっさりと勝負がついた。と言うのも、ある意味でファントムの天敵とも言える相手の魔力を制御するハーメルンの笛のファウストローブを纏うアリスと、魔力に頼らない戦いをするヴァネッサが相手となったのである。結果がどうなったのかは容易に想像が出来るだろう。
「ヴァネッサさん、私が奴の動きを抑えますからッ!」
「了解ッ!」
アリスが笛を鳴らせば、その音色によりカーバンクルファントムは魔力の制御が出来なくなり動きを抑制される。そこに戦闘用に特化させた改良を施した義体ヴァネッサの変形した足により放たれた一撃を喰らい粉砕された。
こうして、クリスを狙ったグレムリンの行動は然して大きな被害も無く防ぐ事が出来た。クリスと透が滞在するマンションは被害を受けたかもしれないが、この事態を想定して輝彦達の手により2人の部屋の家財一式は安全な場所に移されている。つまり実質被害は無いに等しい。
とは言え、グレムリンを取り逃してしまった事は大きいとは言えないが痛手ではあった。今後、グレムリンは更に容赦なくクリスか若しくは奏を狙って動くであろう。
そう思うと決して楽観する事は出来ず、颯人は更に気を引き締めるのであった。
と言う訳で第281話でした。
新年最初の内容なグレムリンが何時から輝彦の父と入れ替わっていたのかが主な内容でした。AXZ編でアダムが騙されたような描写をしてましたが、実はあの頃に入れ替わっていたんですね。最初にアダムに友好的に接したのは明弘の方で、後にアダムを騙してサバトを行った方がグレムリンだった訳です。
そしてカーバンクルファントムは本作でも人造ファントムでした。ただ再生怪人+量産型と言う事もあって、ワイズマンだった頃に比べると脅威度は大幅に下がります。厄介である事には変わりありませんけども。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。